巨人の巣森(そうしん)
早朝。こわばった大地の上で白い息を吐きながら、アイルーロスを目指し進むのは、魔族の大軍隊だ。
ニアのもとへ一人の騎士が近づいていった。タタラだ。
「ニア様。これより先は、トロールの巣森。兵に注意するように一度言った方がよろしいかと」
「そうだな、全体一時止まれ!」
魔族軍は進行を止め、ニアに注目した。
「これより先は、トロールの巣森だ。それだけでなく、人間の兵士もいるかもしれん。トロールは敵を見つけると雄叫びを挙げ仲間を呼ぶ。それに連れ人間も集まるだろう。絶対に見つかるな!注意して進め!では、行くぞ!」
魔族軍はゆっくりと進行を再開した。
トロールの巣森。そこは、多くのトロールが巣くう危険な森。体長4メートルの巨体で、その力は獣人族にも匹敵するほどだ。視力聴力ともに優れてはいない。が、見つかれば雄叫びで仲間を呼び集団で襲いかかる凶暴な奴らだ。
突然、トロールの“アァー”と言う雄叫びが森を震わした。トロールの雄叫びは、まるで、頭がかち割れるのではないかと思うほど高音でよく響く声だ。
「うぅぅ…痛い。頭が割れそうだ!」
「助けてくれぇ!い、痛い」
魔族軍の一部がトロールの雄叫びに耐えきれず。また一人また一人と倒れていった。
「クソっ!馬鹿な見つかってはいない筈なのに!」
しばらくすると、雄叫びは鳴り止んだ。が、魔族軍の数名は倒れていた。
「なぜ、雄叫びが?誰かトロールの姿を見た者はいるか!」
「いえ、誰もトロールを見ておりません」
「なら、一体なぜ?」
すると、森の奥から先行部隊が現れた。隊長のクラインがニアに報告する。
「ニア様!この先、トロールを確認しました」
「貴様か!トロールに見つかったのは」
「いえ、違います。現在、トロールと猫族と思われる者が交戦しております」
「猫族だと?」
「はい。背中にはB.Cと書かれておりました」
「B.C…blackcatか」
blackcat。猫族の特殊機動部隊だ。隊長アレスを筆頭に猫の王族を守護する部隊の名だ。
「王族の護衛がなぜここに?」
それを聞いていたタタラが話に加わった。
「ニア様。 動ける兵士数名を連れ、そこへ向かいましょう。なにか情報を掴めるかもしれません」
「そうだな、クライン!トロールの数は?」
「約7匹」
「そうか、タタラ」
「なんでしょう」
「全軍はここで待機、なにか問題が生じた場合は移動し、無線で報告しろ。私はB.Cに加勢しに行く」
「まさか、一人で行かれる気ですか!なりません!危険すぎます。相手はトロール。一人では…」
「問題ない。トロールなど私一人で十分だ。兵士を連れて行けば被害が出るだけだ。クライン!お前、途中まで道案内しろ!」
「ハッ」
ニアは黒い馬に乗り先に向かったクラインを追って森の奥へと進んだ。