みんな変わらない
魔族王都アンブロシア。ニアを先頭に約2000におよぶ兵隊が隊列を組み王都を発つ。向かう場所は猫族王都アイルーロスだ。
数日前、ニアと四騎士たちはまずどこへ進軍するべきかと思案していたときだった。王城にある人物がやってきたのだ。
「他の国また種族と互いの連絡がとれなくなってから七年。例え生き残っていたとしても恐らく人間の手に落ちているのだろう…」
次に口を開いたのはタタラだった。
「私はアイルーロスを始めに奪還するのが得策かと」
「アイルーロス、猫族のか?」
「はい、猫族は高い技術をもった種族。もし、ここで味方に付けることができればこれほど心強い支援者はいません。猫族ならゴーレムの強化もそう難しくは無いはずですから」
「確かに、…他に意見はあるか?…では、決まりだな。猫族王都アイルーロスをすぐにでも奪還するためすぐさま兵を集め近日中に出発だ!」
一同返事を返し、議会は終わった。
それから数日後、ニアは2000の兵と10機のゴーレムを連れアイルーロスに向かったのだ。
王城を出発してから3日後の夜、魔族軍は仮拠点を設置した。先行部隊が仮拠点に戻ってきた。先行部隊とは名乗っているがこの部隊はタタラ直属の部隊、奇兵隊である。黒装束の特殊装備で双短剣、奇兵隊のリーダーらしき人がニアと四騎士のいるテントへ向かった。
「先行部隊隊長クラインです。報告があります」
「入れ」
クラインはテントの中へと入っていった。
「報告いたします。この先、猫族王都アイルーロスに敵兵確認」
「王都にってことは、ニア様の読み通り。アイルーロスは人間の支配下か」
「報告を続けます。敵兵の数は不明、トロール兵を数体…確認しただけでも7体。そして敵将は鬼族と思われます」
「鬼だと?」
「はい。赤色の肌に黒き角、間違いありません。鬼族です」
「赤鬼…考えられるのは恐らく“最期の鬼”アドラドでしょう。随分と厄介な相手ですね」
「……」
「報告は以上です」
「クラインもう、下がっていい」
タタラが指示すると、クラインは瞬時にテントから出て行った。
「鬼か…、200年前の世界争奪戦争で滅んだはずの種族ですね」
「あぁ、それを考えると傲慢なのは人間も私らや他の種族も変わらないのかもな」
ニアがそう言うと、みな黙り込んでしまった。
「今日はもう遅い、明日作戦を練ろう」
「そうですね」
そうして、四騎士はそれぞれのテントへと向かった。
ニアはテントを出てしばらく歩き、大樹の上の方の枝に座って星空を眺めながらこんなことを考えた。
世界争奪戦争、全ての種族が自らの理想の為に殺し合った戦争…。世界を手に入れる為の…。その戦争で滅んだ種族が鬼族。鬼族は私らを憎んでいるのだろうな。私らが人間を憎むように……。結局、私は自分の都合のいいようにしか世界を見ていない。…これでは、世界争奪戦争の時と何一つ変わらないではないか。なら、どうすればいいというのだ…
ニアは唇を噛んだ。魔族特有の鋭い歯がニアの唇を傷つけそこから赤い液体を流させる。