表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/42

第一話 欠陥品(リジェクター)



 現在の暦は西暦2067年4月15日。

 木曜日。


「人類は新たな一歩を踏み出している。異世界との交流だ」


 教室の前で講義をする教師、白崎がそんなことを言う。

 それをウトウトと聞きながら、俺は窓の外を見る。


 憎たらしいほど青い空が広がっていた。


 ここは翡翠学園。


 ゲートの出現で色々と様変わりした八王子市、現在では光芒市と呼ばれる市にある。

 ゲートから出てくる飛空艇と呼ばれるレーヴェの航空機用の空港やら、政府要人を迎える施設やら、ゲートの研究機関やら。


 いろいろと建てまくり、壊しまくった結果、昔の面影はどこにもない。

 それを悲しいとは思わない。

 なにせ、ここの街に暮らすのは初めてなのだから。


 俺は無事、翡翠学園高等部に入学した。

 入学する以外に手がなかったとも言えるが。


 しかし、寮暮らしのため、家もあるし、食事も出る。


 門限さえ守れば外出もできるし、中学時代の友人たちとも気軽に連絡は取れる。

 ゲートが近いため、アティスラント王国とのやりとりもスムーズだ。


 騎士であることを気付かれてはいけないということで、目立つ行為は避けるように、というお達しがあるが、別に普通にしていれば気付かれることはない。


 ただ、望んできたわけでもないため、授業に身が入らない。

 やる気が出ないのだ。

 特にギアやら魔法やら、普通の高校ではやらない専門科目は駄目だ。


 興味が湧かない。

 加えて、これが致命的なのだけど。


 中等部からしっかりと勉強してきた奴らに合わせた授業内容のため、授業についていけない。


 教師が何を言っているのか、理解できないというのは、授業を恐ろしくつまらなくさせる上に、俺の眠気を誘う。


 何とか、眠気を噛み殺しつつ、俺は教師の白崎に視線を戻す。

 白崎の授業はそれでも分かりやすいほうだ。


 アティスラント王国出身の教師ではないが、若いながらもこの学園で教鞭をとるだけはある。

 優しげな風貌で、生徒からも人気の高い教師の一人だ。

 教え方も分かりやすいし、本人も魔導師としてかなりの腕を持っているらしい。


 そして、今はギアに関する基本的な講義中。

 これを聞き逃せば、俺は自分でいろいろと調べる羽目になるだろう。


 だからと、気合を入れて集中する。


 白崎は一つ咳払いをすると、説明を始めた。


 始まりは2017年。


 ロシアの東部に異世界と通じるゲートが開いた。もちろん、最初は異世界に通じているとは誰も思わなかったが。


 そこから出てきたのは、問答無用で攻撃を仕掛けてくる二足歩行のロボットたちだった。


 ロボットとは言っても、地球のロボットとは似て非なるものだ。彼らはロシア軍の攻撃を寄せ付けず、ゲート周辺を制圧した。


 近代兵器が通じない謎のロボットたちに全世界が戦慄したが、そのロボットたちを破る者たちがいた。


 ロシア東部が制圧されてから一か月後。

 ロボットたちの一部は日本に向けて移動を開始した。


 しかし、その移動の途中で、彼らは撃破された。

 人間の手によって。


 ただし、地球人ではない。

 ロボットと同じ世界で暮らす異世界人によって、だ。


 彼らは日本の八王子市に開かれたゲートを通ってやってきた使者だった。

 送ったのはゲートの向こう側、レーヴェと呼ばれる世界に存在するアティスラント王国。


 彼らはロボット、レーヴェでの名称を借りれば〝ゴーレム〟を送った国、レムリア帝国と争っている国だった。


 レムリア帝国の主力兵器であるゴーレムは、魔力と呼ばれるエネルギーを宿した鉱物、ラピスを動力源としていると言う。

 そして、アティスラント王国が使う武器も、そのラピスを動力源としていた。


 早い話、どちらの国も、そのラピスを発掘する新たなフロンティアとして地球へやってきたのだ。


 ただし、アティスラント王国は使者を出し、レムリア帝国から守るかわりに、ラピスを提供してもらうという、交渉をしてきた。

 レムリア帝国は有無を言わさぬ侵略。


 どちらがマシかは言うまでもない。

 アティスラント王国と直接交渉することになった日本政府は、すぐに提案を飲み、アティスラント王国に自国の防衛を依頼した。


 それ以来、アティスラント王国と日本の同盟は保たれている。


 そして同盟が続いているというのは、裏を返せばレムリア帝国の脅威が去っていないということだ。


 日本は世界中、それこそレーヴェを含めても有数のラピス産出地だった。

 当然、一度失敗した程度じゃレムリア帝国も諦めず、何度も侵攻を重ねてきた。


 しまいには他の国にゲートを出現させ、さらに大量の兵隊を送ってきたのだ。


 ゲートが開いたのは二つの国。

 中国とオーストラリアだ。


 それに対抗して、アティスラントも南米とアフリカにゲートを新たに開いた。


 こうして地球とレーヴェの距離は縮まり。

 同時に戦争は激化した。


 日本への攻略を続けつつ、レムリア帝国はヨーロッパとアジアに侵略の手を差し向け、それらに対して、アティスラント王国は各国を援助することで対抗した。


 しかし、近代兵器が効かないゴーレムに各国の軍は無力であり、レムリア帝国の軍勢を止めることは敵わなかった。


 そこでアティスラント王国はある決断をした。

 自国の武器の技術を地球側に伝えたのだ。


 その武器がギアだ。

 幸い、動力源となるラピスは地球にもある。

 そのため、さして苦労することなく、地球の国々はギアを生産し、投入することができた。


 そのギアを手に入れたことで、地球側の国でもレムリア帝国に対抗できるようになった。


 こうして五十年間が経った。

 未だに戦争は終わってはいない。


「さて、さわりはこの辺で、もう少しギアに踏み込んでいこうか」


 最初に軽く歴史的な部分に触れてから、今度はギアに焦点は移る。


 一人一人に割り振られたディスプレイには、ギアの説明が書かれていた。

 

「ギアの適合者となり戦う者たち、通称、魔導師は貴重な存在だ。それにはギアという武器の性質が関わってくる」


 ディスプレイの内容が切り替わる。

 今度はギアの欠点が書かれていた。


「レーヴェからもたらされたギアは、画期的な武器だったけれど、武器として致命的なまでの欠点をいくつか抱えていたんだ。とくに地球側にとってはね」


 確かに、その通りだ。

 感心しつつ、視線でディスプレイの内容を追う。


 まず、ギアは装着されているラピスと相性のいい人間にしか使えない。

 つまりは武器が人を選ぶのだ。


 もう一つは性能が安定しない。

 銃タイプのギアを用意して、ラピスをセットしたとしても、出てくる弾丸のタイプが違うわけだ。


 これじゃあ、戦術も立てづらいし、組織的運用も難しい。

 最近じゃラピスを加工したり、細工したりして、任意の性能を引き出せるようになりつつあるが、その技術を用いても百パーセント、同じギアを作り出すことはできない。


 それに加えて、ラピスにもいくつか種類があり、質のよいラピスになればなるほど加工が難しくなる。


 そんなわけでギアは誰にでも使える簡単な武器ではないわけだ。


 レーヴェの人間は魔法という超常技能を当たり前のように使えるため、ギアが使えない人間は魔法を使ってゴーレムに対抗することができる。

 そもそも、ギアの適合率という点でレーヴェ人は地球人よりはるかに高いため、あまり適合率は問題視されていない。


 しかし、地球人はそういうわけにはいかない。頼みの綱のギアは使い手を選び、魔法は使えない。

 そうなったら、ギアの使い手、魔導師を育てるしかない。


「そういうわけで、魔導師を育成するために、この翡翠学園のような魔導学園アカデミアが設立されたんだ。全国にはほかに五つの魔導学園がある。ただ、アティスラント王国が積極的に協力しているのは、この学園だけだ。理由はわかると思うけれど、この学園の近くにゲートがあるからだ」


 白崎は熱を入れて話し始める。

 その教師に負けじと、多くの生徒が精力的に授業に取り組んでいる。


 翡翠学園は日本にある魔導学園の中でも最高峰の学校なのだそうだ。

 卒業生は、多くが軍や警察に向かうが、それ以外でもギアの設計士や研究員など様々な分野で活躍する者を輩出している。


 当然、入学希望者は多数。

 ギアに適合した者の中から選抜試験すらする。


 それらを突破した者たちは高い目的意識を持ち、向上心にあふれている。


 俺という異端児を除いて。


 まだ四月だが、すでに俺は有名人だ。

 授業中に寝るし、実習でも目立たない。

 加えて、俺は魔力量も並み以下、学業成績もお世辞にもいいとは言えない。


 だから多くの者が俺をこう呼ぶ。

 欠陥品リジェクター、と。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ