表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

第二十八話 断罪者の刃


 垂直に落下した椅子は、ある程度落下すると、コースを変えた。


 そんな中、アルスが吹き飛ばされまいと、俺の髪の毛にしがみつくため、痛い。

 肉球でどうやって掴んでいるのか謎だが、それは不思議生物だからと納得しておこう。


 ただ、それを責めることはできない。


「馬鹿者!? 吾輩にはシートベルトがないのだぞ!?」

「悪かった! 今度からは気を付ける!」


 中々のスピードが出ているため、大きな声で謝罪する。


 アルスのことをすっかり忘れていた。

 せめてコルディスの中に戻すべきだったな。


 ジェットコースターとは言わないが、それに近い移動を終えてついた先は格納庫だ。


 本来なら搭乗している魔導師や魔法師の装備や、ゴーレムなんか置かれている場所だが、この格納庫には〝ある物〟しかない。


 広い格納庫の中央部。

 それはポツンと立っていた。


 黒い甲冑だ。

 西洋の騎士を思わせる形状のそれは、左手に盾、腰に剣を装備している。


 ただ西洋の甲冑に比べると尖った形状であり、また材質も鉄ではない。

 見た目の印象は騎士型のゴーレムというべきか。訓練用や軍用に比べると、かなりスタイリッシュだが。


 背部には通常の甲冑には存在しないブースターも備わっており、ただの甲冑ではないことは一目瞭然だ。


 甲冑の名は〝コルプス〟。

 俺の三つ目のギアにして切り札。


 黒騎士と呼ばれる所以であり、無双の力を引き出す最後のパーツだ。


「さてと、あともう少しかな?」


 言いながら俺はコルプスに近寄る。


 コルディス、アルス、コルプスはそれぞれ心、技、体を司る。

 コルディスは適合者の心を見定め、アルスは技を授ける。

 そしてコルプスは最強の体を適合者に与える。


 能力は〝増幅〟。

 これによって、アルミュールの性能が飛躍的に増幅するため、アルスの技も最大限に生かすことができる。


 その上り幅は五段階アップ。

 俺のステータスがほとんどSになるほどだ。


 そんな強力な甲冑であるコルプスだが、弱点もある。

 まず、コルディスとアルスが揃った状態じゃなきゃ、装着できないということだ。


 正確にはコルディスの融合能力があれば装着できるのだけど、俺だけじゃ上手く動かせない。

 そのため、アルスも揃わなければいけない。


 どうしてコルディスの融合能力が必要かといえば、単純にコルプスには兜から足先まで、どの場所にも隙間がない。

 つまりバラバラではなく、繋がっているのだ。


 入るにしても、出るにしても、コルディスの融合能力が鍵となるわけだ。


 このコルプスの増幅能力はアルミュールだけでなく、固有駆動にも及ぶ。

 紫目の悪魔パープルアイズ・デーモンは魔力を吸収する固有駆動だが、アルスとの融合時では周囲の魔力を吸い取ることしかできない。

 魔導師、魔法師やゴーレムの魔力を吸い取ることは無理なのだ。


 どれも内部にある魔力のため、吸い取るには力が足りないというわけだ。

 しかし、コルプスを装着している場合はその限りじゃない。


 魔法だろうが、ゴーレムの魔力だろうが吸い取ることができる。

 それこそ問答無用で。


「では、行くぞ! 晃!」


 時間だ。

 アルスの声に従い、俺は深く息を吸い込む。


 そして大きく融合を唱えた。


【アルス、コルプス、複合融合ダブル・ユナイト


 まずアルスが俺の中に入ってくる。

 アルミュールが展開され、俺の容姿がアルスに影響されて変わる。


 その変化が終わると、今度はコルプスが光りはじめ、次の瞬間、俺はコルプスの中にいた。


 コルプスの自動調整機能のため、サイズはピッタリ。

 指先まで感覚は明確だ。


『融合完了だ。いつでも行けるぞ!』

「まぁ、待て。合図があったら出るから」


 ノリノリのアルスをそう抑えつつ、静かにブリッジからの合図を待つ。


 そして一分ほど過ぎたとき。


『サー・レイヴン。ゲートを抜けました。いつでもどうぞ』


 リネットから通信が入る。

 同時に格納庫の後ろ。

 後部ハッチが開かれた。


「了解しました。上空からの監視を頼みます」

『お任せください』

「では、サー・レイヴン、出ます!」


 軽く格納庫の床を蹴り、後部ハッチに向かって飛ぶ。

 ちょうど上昇し始めていたのか、街がどんどん遠ざかっている。


 そのまま落下に身を任せ、後部ハッチを抜ける。

 上昇するクロウが離れていくのを感じつつ、飛行のために翼を展開する。


「魔力翼、展開」


 後部のブースターの横が微かに変形し、そのまま黒い魔力によって形作られた翼が展開された。


 その翼を使い、俺は空を羽ばたく。

 いつもならその感覚を楽しむところだが、あいにく状況は切迫している。


「作戦開始だ。行くぞ、アルス!」

『心得た!』




◇◇◇




 数分後には俺は翡翠学園の上空にいた。


 翡翠学園の周囲にはレムリアの軍用ゴーレムと警察が交戦している。

 といっても、市街地に出ないように食い止めているだけで、ダメージらしいダメージは与えられていない。


 警察じゃ火力不足なのだ。


 けれど、もう少し頑張ってもらうとしよう。


「やるか」

『覚悟しろ。相当な魔力量だ。いつもより苦しいぞ?』

「やる気を削ぐようなことを言うなよ……」

『覚悟は必要だ。お主の魔力許容量が十だとするなら、今から吸収するのは五百くらいある』


 どっと疲れがやってくる。

 最悪だ。


 今回はお腹が一杯では済まないかもしれない。


 まぁ、学園全体を覆う魔力障壁を弱体化させるわけだし、それくらいは覚悟しなきゃか。


「やろう。嫌だけど」

『吾輩は斬ったほうが楽だと思うぞ?』

「被害も損害も出さないと約束した。手段が選べるなら手段を選ぶさ」

『お主の友人が危険でもか?』

「酷いことを言う奴だ。俺が心配してないとでも?」


 あの二人のことだ。

 どうせ無茶をするに決まっている。


 してないといいけれど、しているだろうな、という確信がある。

 下手に実力があるせいか、結構、二人は無謀だ。


 まず逃げることより戦うだろう。

 とくに美郷は逃げることを恥だと思っている節すらある。


『心配しているのか? 付きまとわれてうんざりしているのでは?』

「うんざりだ。二人とも付きまとうし、面倒だし。けど、貴重な友人だ。今はそう思ってる。だから……早く助けるぞ」


 言ってから、すぐに後悔が沸き起こる。

 けれど、それをねじ伏せて、左目に意識を集中させて、そこに宿る悪魔を起動させた。


【固有駆動、紫目の悪魔】


 瞬間。

 瞳が翡翠学園の魔力障壁をロックする。


 すると、一気に魔力が俺に流れ込んでくる。


 戦闘中、いつも魔力が少ないことを嘆くけれど、これを経験すると魔力なんていらない、っていう謙虚な気持ちになる。

 それほど辛い。


 こっちはもう限界を超えているのに、魔力の吸収は止まらない。


『魔力障壁が三枚になった』


 まだ三枚かよ。

 こっちは今にも吐きそうだ。


 脳が沸騰しているようだし、視界がくらむ。

 この後、戦闘しなきゃと思うと気が遠くなりそうだ。


『二枚になった。もう少しだ!』


 アルスの励ましが逆に辛い。

 もう少しってどれくらいだよ。


 今すぐにでも魔力の吸収をやめて、魔力を放出したい。

 けれど、自分で決めたことを投げ出すわけにはいかない。


 そんな情けないことはできない。


 自分は騎士なのだと言い聞かせる。

 そう誓ったのだ。


 あの日。

 あの時。

 彼女を護った時から。


『一枚になった! 放出するぞ!』


 アルスの合図と共に魔法の詠唱が流れ込んでくる。

 それを抵抗せずに詠みあげる。


「輝く剣よ。断罪者の剣よ。罪深き者たちに光の裁きを与えん≪ブレイド・ジャッジメント≫」


 俺の真上に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 その魔法陣から無数の剣が出現する。


 剣は光を帯びて、眼下の敵に狙いをつける。


 俺が右手を振り下ろすと、その剣たちは一気に加速してゴーレムたちに襲い掛かった。

 その数は百を優に超える。


 加えて、一本一本の威力もゴーレムの魔力障壁を容易く突き抜けるほどだ。


 無数の剣に貫かれ、周囲のゴーレムたちは沈黙する。

 それに合わせて、俺は降下体勢に入る。


 目標は翡翠学園。

 そこにいるだろう、A級操者と専用のゴーレムが俺の獲物だ。


「待ってろ……!」


 同時に救出すべき対象を思い起こす。


 自然と体に力がみなぎってくる。

 その力に後押しされて、俺は急降下を仕掛けた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ