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第十八話 後始末

 


 驚愕と困惑。


 その二つがない交ぜになった表情を綺佳と美郷は浮かべている。


 そんな二人に対して、俺は曖昧な笑みを浮かべて近寄る。


「平気か?」


 俺の言葉に二人は一応、頷く。

 だが、目ではそんなことよりも説明しろと訴えてくる。


 そりゃあ、そうだろう。

 けど、説明も難しい。

 どうしたもんかな。


 そう考えていると、俺の頭の上にいたアルスが口を開く。


「どうやら、ゴーレムはすべて沈黙したようだぞ」

「そうか。じゃあ、操者も撤退したかな。見つけられると思うか?」

「無理だろうな。逃走経路くらい確保してるはずだ」


 そうアルスに言われてしまえば、無理なのだと理解できてしまう。


 小さくため息を吐くと、綺佳と美郷が目を点にしていることに気付く。


「猫が……」

「喋った!?」


 ああ、アルスが喋ったことに驚いているのか。

 まぁ、猫は普通喋らないしな。


「あー……こいつはアルス。俺の二つ目のギアだ」

「……ギア?」

「二つ目!? ギアを二つも持っているなんて、聞いたことないわよ!?」


 綺佳は外見的には猫と大差ないアルスを見て、ギアであることに驚き、美郷はギアが二つ持っていることに驚く。


 こうなるからアルスにはコルディスの中にいて欲しかったんだ。


「どう説明したもんかなぁ」


 そう呟いたとき、こちらに向かって一人の教師が走ってきた。

 俺のクラスで、ギアについての授業を担当している白崎だ。


「君たち! 無事かい!?」

「ええ、まぁ。なんとか。天海と東峰が頑張ってくれたので」

「はっ?」


 俺の言葉に美郷が露骨に顔を顰める。

 嫌味とでも思われたんだろう。


 だが、話を合わせてもらわないと困る。


 白崎は俺のことを知らないのだ。

 ここで白崎に説明するのは面倒だ。


 教師にはさっさと操者を探してもらわないと困るし。


「ああ、天海さんと東峰さんがやったのか。流石だね。教師でもここまではできないよ」


 辺りに散らばるゴーレムの残骸を見ながら、白崎は感心したように言った。

 まぁ、相当腕の立つ教師じゃなきゃ、できないだろうな。


 俺は視線を綺佳に向けた。

 俺の視線の意味を察したのか、綺佳が慌てて答える。


「え、ええ。その……緊急時だったので、ゴーレムは破壊して止めるしかありませんでした。申し訳ありません」

「いや、仕方ないよ。君たちの安全のほうが大切だ。他の場所のゴーレムも動きを止めたし、君たちは……その中等部の子たちを保健室に運んでくれるかな? ここは僕が受け持とう」


 白崎は俺たちの後ろ、用具室の方を見ながら苦笑する。

 見れば、そこには中等部の制服を着た男子生徒と女子生徒がいた。


 ただ、どう見ても気絶している。

 ゴーレムに囲まれたのがショックだったのだろうか。


「わかりました。では、お願いします」


 綺佳がそう言ってその場をまとめる。

 ただ、その後にジト目で睨まれた。


 それに対して、肩を竦めつつ、俺はこの後の〝後始末〟を覚悟した。



◇◇◇



 その後、学園はてんやわんやだった。

 幸い、けが人は出なかったものの、気絶した生徒は保健室に運ばれ、生徒も一部を除いて全員下校。

 寮生も寮から出ること禁じられた。


 そのうえでゴーレム暴走の原因究明という建前のもと、学園中を教師たちが捜索した。


 しかし、操者の形跡すら掴めず、今は中等部と高等部の教師による全体職員会議が開かれている。


 一方、俺と綺佳、そして美郷は生徒指導室で待機を命じられていた。

 松岡の判断だ。


「さて、説明してくれるのよね?」


 絶対に逃がさないという意思の表れなのか、綺佳が俺の制服の袖を掴む。

 そんなことしなくても、この状況じゃ逃げられないんだけどなぁ。


 俺の真向かいには美郷が座っていた。

 腕組みをし、険しい表情で俺を睨んでいる。


 こちらも、さぁ聞かせてもらおうか、と言わんばかりだ。


「いやぁ、一言じゃ説明しづらいんだが……」

「じゃあ、時間使っていいから、説明しなさいよ。幸い、時間はたっぷりあるし」

「そうね。時間はたっぷりあるから」


 二人が何だか怖い笑みを浮かべる。

 よほど、俺が力を隠していたことが頭にきているんだろう。


 はぁ、まいったな。

 けど、しょうがないか。


「俺のギアの説明から入るか……。このコルディスはオリジン・ギアで能力は〝融合〟。さっき出したアルスもオリジン・ギアで、能力は〝学習〟二つは同時運用が前提で作られたギアだ」

「オリジン・ギアを二つ!?」

「同時運用!?」


 二人の反応は予想の範囲内だ。

 なにせ、このタイプのギアはアティスラント王国の歴史でも数例しか確認されておらず、現存しているのはアルスとコルディスだけだ。


 

 つまり超レアなギアというわけだ。


 それゆえ、情報公開にも慎重を期する必要がある。


「このギアに適合したせいで、俺はこの学園に入れられた。アティスラント王国によってな。手元に置いておきたかったんだろうな。教師の中でも数人しか知らないことだ。迂闊に喋るなよ?」


 嘘と真実を織り交ぜった話を口にする。

 あらかじめ考えられていた話だ。


 所有しているギアが貴重という話をすれば、興味はギアに向く。

 それだけ俺の正体からは遠のくわけだ。


 隠したいのは騎士としての身分であって、それ以外は二の次というわけだ。


 けれど、だからといってポンポン、アルスと融合していては注目を集めすぎる。

 だから、多用はできないし、あんまり人目があるところで使うわけにもいかない。


 今回は二人の前だから見せたけど、できればこの二人にだって見せたくなかった。

 

 まぁ、そんなこと考えても仕方ないか。

 もう見せてしまったのだから。


「アティスラント王国がわざわざ!?」

「国が、それもアティスラントが動くなんて……どんだけ貴重なのよ」

「さぁな。俺が知っているのはそれだけだ。言われているのは、あまり人の目を集めるなってことと、滅多なこと以外じゃ融合するなってことだけだ。まぁ、それも釘を刺された程度だけど」


 実際、融合するなとは言われていない。

 目立つなと言われただけだ。


 まぁ、融合すれば外見すら変わるから、嫌でも目立つわけで、目立たないようにするなら、融合はしないほうがいいわけだけど。


「コルディスが融合の能力を持っていて、その力を使ってアルスと融合するのよね? そしてアルスの能力は学習。それがあの戦闘力に繋がるの?」


 綺佳がそう突っ込んでくる。

 やっぱり、そこらへんも説明しないと納得してくれないか。


 俺じゃ誤魔化すのも無理だよなぁ。


「はぁ……アルスの能力は学習。そのまんま、アルスは学習するのさ。剣術、体術、魔法、およそ考え得るかぎりの技能、技術をアルスは長い時間で学習し、蓄積してきた。そして融合すると、その技能、技術は俺にも使えるようになる」

「なっ!? そんなギア、聞いたことないわよ!? じゃあ、あんたは融合するだけで強くなれるっていうの!?」

「そういうことになるな。俺に魔法の素養はないけど、アルスと融合すれば使えるようになる。お前との模擬戦で魔法を使ったのは、そういうことだ」

「は、反則よ! そんなギアがあるなんて! もう何でもありじゃない!?」


 それが当然の反応か。

 ギアは確かに常識外の武器だが、それだって使い手次第だ。


 けれど、アルスとの融合は俺を超一流の戦士へと変貌させる。

 適合者を強化するギアは多くあるが、ある意味じゃアルスはその極致なのだろう。


 生半可の修練などアルスの前では無意味となる。

 アルスの中には様々な時代で学習した達人たちの技があるのだから。


 ただし、反則というのは間違っている。


「そう言われてもな。威力という点じゃ、お前たちのギアのほうが上だ。あくまで強くなるのは俺で、その俺の出発点は恐ろしく低い。それなりにバランスは取れてると思うけど?」

「確かに対人戦や一対一ならとても有効だけど、軍用ゴーレムや多対一だと攻撃力不足なるかも。それでも十分、ありえないギアだけど……」


 そう綺佳が呟く。

 信じられないといった表情だが、信じてもらうしかない。


 一方、美郷は納得いかないのか、仏頂面を浮かべている。


「……やっぱり」

「はぁ?」

「やっぱり手加減してたのね! 再戦よ! 再戦! そのギアを使って、もう一回勝負しなさい!」

「うわぁ……お前凄いなぁ」


 思わずそう呟いた。

 アルスの能力を知った直後に再戦を申し込むとか。

 負けず嫌いもここまでくると才能だな。


 普通なら競うことが馬鹿らしくなると思うんだが。


「あたしはエンフィールド家の血を引く者よ! ギアに頼りっぱなしの奴に負けられないわ!」

「勘弁してくれ……」


 まったくその通りだし、否定もしないが、だからといって再戦なんて面倒だ。

 それに目立っちゃ駄目なんだって。


「目立つのが駄目なら、模擬戦は控えたほうがいいかもしれないわ。東峰さんが模擬戦とするとなったら、やっぱり人が集まるもの」

「だとさ」

「うー! あんたはそれでも男かっ!? 惰弱よ!」

「なんとでも」


 美郷を受け流しつつ、俺は部屋のドアを見る。

 少し先から足音が聞こえてきたからだ。


 しばらくすると、ドアが開く。


「悪いな。三人とも。会議が長引いた」


 そんな言葉と共に松岡が入ってくる。

 その表情はいつもよりもさらにやる気に欠ける。


 仕方ないか。

 ゴーレムへの対応、学園の捜索、そこから会議だ。

 松岡じゃなくても疲れる。


「説明は済んでるか?」

「とりあえず一通りは」

「そうか。じゃあ、三人とも帰っていいぞ。天海と東峰は俺が送っていくから」


 おいおい。

 この教師は何を言っているんだ?


 何のために待たされたんだよ。


「ちょっと待ってください。用はないんですか?」

「用? ああ、一応伝えておくが、今回のことは色々と他言無用だ。特に烏丸のギアのことと、これがレムリア帝国からの攻撃の可能性。この二つは学園が混乱するからな」

「それだけ……?」

「だってお前が説明したんだろ? じゃあ、俺のやることはない。さぁ帰れ。あー、あと学園は数日休みだからな」


 そんなことをサラリと告げて、松岡は俺たちを生徒指導室からたたき出した。


 こいつ。

 本当に適当な教師だな。


 そう思ったとき、松岡が告げる。


「今日はよくやった。怪我人が出なかったのはお前たちのおかげだ。その対応力と勇気を、ほかの先生方も褒めてた。後日、表彰されるかもしれないから、心の準備だけはしておけ」


 真摯な口調で松岡は告げる。

 松岡の適当さを知っている、俺と美郷は目が点になる。

 しかし、綺佳は律儀に、ありがとうございますと頭を下げた。


「ほら、行け! とくに烏丸は早く帰れ、今すぐ帰れ!」


 照れ隠しなのか、松岡にそう急かされて、俺は彩佳と美郷に別れを告げて、寮への帰路につく。


 さて、これからどうなるかな。

 とりあえず、敵さんのおかげでできた休日を満喫するとするか。





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