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第十五話 激浪



【アルス、融合ユナイト


 森に入ると同時にアルスと融合する。


 服装もおなじみの黒一色へと変わる。

 もう少し違う服装にならないものだろうか。


 そうは思いつつ、薄暗い森の中ではこちらのほうが溶け込める。


 どこで手に入れたのか、忍者の技術を使って木から木へと音も飛び移って移動していく。

 森も広いが、この移動法ならさして時間はかからないだろう。


 遠巻きから綺佳と美郷の様子を窺い、何もなければ手出しはしないようにしよう。

 あとは。


「隠れるなら森の中か?」

『どうだろうな。ここは森の中とはいえ、学園の敷地内だ。いたるところに監視カメラがついている。潜むには少々、分が悪い』

「……初耳だぞ?」

『当たり前だ。言っていないからな。だが、安心しろ。そこらへんの責任者はお主のことを知っている。正体が発覚することはない』

「どうして俺の知らないことをお前が知ってるんだ?」

『エリシアに聞いた。膝の上でゴロゴロしているときにな』


 本当にこいつはギアなんだろうか。

 やってることは猫と変わらないぞ。


 というか、いつの間にそんな時間があったんだ?

 ほとんど俺と一緒に行動してるだろうに。


 だいたい。


「あのお姫様は俺にじゃなく、どうしてお前に言うんだよ……」

『信頼の問題だな。バレないとわかれば、お主は率先して吾輩を使おうとするやもしれぬし』

「お生憎さま。こんな中二臭い服装に、緊急時でもないのになりたいとは思わないよ」

『授業中になっていたではないか!?』

「あれは補習が掛かってたからだ。俺にとっては緊急事態だ」 


 そんな会話をしつつ、俺は森を駆け抜けていく。

 周囲を見渡しても、確かに人影はない。


 けど、ここ以外となるとどこに潜んでいるんだ?


『敵が学園内にいることはまず間違いない。まずは動いているゴーレムを片づけろ。あとは教師たちがしらみつぶしに探すはずだ。無尽蔵に魔力があるわけでもあるまいし、いずれはゴーレムを操るのを止めるはずだ』

「根気のいる話だな。だが、それしかなさそうだ」


 耳を澄ます。

 すると、前方で機械音が聞こえてくる。


 ゴーレム独特の音だ。


「一体か」

『気を付けろ。操者に操られている以上、核となるラピスを潰さないかぎり、動き続けるぞ』

「わかってる」


 所詮は訓練用のゴーレム。

 装甲が厚かろうと、軍用ゴーレムほどの動きはできないはず。


 木から飛び降りると、視界にゴーレムの姿が入ってくる。


「はっ! お前かよ」


 そのゴーレムは走破訓練の最後で出てきた人型のゴーレムだった。

 だが、あの時よりも速い。


 あの時は生徒の限界速度以上は出せないように設定されていたんだろうが、今は違うということか。


 俺の姿を捉えると、真っすぐ突っ込んきた。


 迎撃のために腰を落とす。

 無手である以上、攻撃は打撃になる。


 そしてそれは向こうも同じ。


「来い!」


 左右に大きく体を振って、フェイントを掛けながらさらに加速する。

 普通の人間なら下半身が持たない動きだ。


 けれど、相手はゴーレム。

 どれだけ人に似ていても、人ではない。


 地面スレスレまで顔を落とし、そこから跳ね上がるように左手を突き出してくる。


 アッパーと呼ぶには厳しすぎる角度だ。

 けれど。


「壊していいなら問題ない!」


 右手でゴーレムの左手を受け止め、残る左手の手刀で関節の弱い部分を斬り落とす。


 返す刀で胴体を狙うが、それはゴーレムの右手に止められた。

 流石にただの手刀じゃ、腕もろともとはいかないか。


 だが。


『終わりだ』


 弱点である胸が丸出しだ。

 もちろん、そこが一番、装甲の厚い部分なわけだが。


 別に力技で貫く必要はない。

 ようは内部のラピスを破壊できればいいわけだからな。


不破神行流ふわしんぎょうりゅう激浪げきろう


 不破神行流というのは、魔力を用いた武術のことだ。

 現在では日本軍の中でも正式に取り入れられている武術で、昔の中国拳法や柔術なんかを取り入れている。


 極意は魔力の運用。

 その昔、〝気〟として一部の武術家のみが使うことができた力は、魔力だったと言われている。


 それらを用いた技は、代々一子相伝で受け継がれてきた。

 しかし、その真価を発揮できるほどの使い手に恵まれてはいなかった。


 それらを蒐集し、一つの武術としたのが不破神行流だ。


 つまり、この流派は昔の奥義、極意の集合体なのだ。


 そして激浪はその一つ。

 魔力を相手に流し込み、内部破壊を意図する技だ。


 昔の技で言えば、発勁に当たる。

 

 軍用ゴーレムでは大量の魔力を流し込まなければ、内部破壊を引き起こせないが、訓練用のゴーレムならそこまでの魔力はいらない。


 そもそも、こういった技への対策は施されていないからだ。


 魔力を流し込むと、一瞬、ゴーレムが震える。

 そしてすぐに青いモノアイが輝きを失った。


「しかし、厄介だな」

『ああ、意外に動きが滑らかだ。これではあの娘たちは苦戦しているかもしれんな』

「一体や二体程度ならどうにかできそうだけど……」


 複数体を操りつつ、あそこまで精密な動きができるのであれば、高度な連携も可能だろう。

 綺佳も美郷も優秀な魔導師だ。それは間違いない。


 素の実力だけなら今すぐにでも実戦で通じるレベルだ。

 だが、実戦では素の実力が出せるとは限らない。


 とくに多対一はそれが顕著となる。

 実力を発揮できず、数に押されている可能性はなくはない。


「先行させたのは失敗だったか?」

『あの二人を先行させなければ、今頃、中等部の生徒が襲われていた。あの二人を助けるのと、中等部の生徒を多数助けるのなら、前者のほうが楽だ。判断は間違ってない。もちろん、初めからお主が全て片づけるという手がなかったわけではないが』

「そんなことをしたら、エリシアに怒られるじゃ済まないだろうな。この騒動を一人で収めるなて、目立つどころの騒ぎじゃない」


 しかもレムリアが関係しているとなれば、ここで目立てば目立つほどマークされて、俺の情報が洩れる可能性がある。


 一番は何事もなく終わること。

 俺自身は何もすることなく。


 たとえ動いたとしても、学生の範疇で収まる程度。


 体術のスペシャリスト程度と誤認させる必要がある。


 もちろん、操者を捉えられれば文句はないけれど。


「A級操者、もしくはそれに匹敵する使い手がそうやすやすと捕まるわけもないか」

『当たり前だ。補佐する部隊も市内に入り込んでいると見るべきだろう。おそらく今回の騒ぎは小手調べ。もしくは本格的な作戦への布石だろう』

「布石ねぇ。天才アルスはどう見る?」

『吾輩は確かに多くの知識を有するが、軍師の真似事はできん』


 確かにそういうタイプのギアじゃない。

 アルスの真価は戦闘によって発揮されるし、それを目的に作られている。


 だが、予想くらいはできるだろう。

 アルスの能力は学習。そしてアルスには長い時の中で戦ってきた経験がある。


 あえて言わないのは確証がないからか。

 それとも理由があるからか。


 とにかく、まだアルスも判断しかねている状況か。

 情報が必要だな。


「なら、急ぐか。この目で状況を確認するしか手はないみたいだしな」

『そうしろ。吾輩ももう少し情報が欲しい。敵の狙いがあまりにも不透明だからな』


 確かに、と俺は走り出しながら、アルスの考えに同意した。

 

 アルスの言う通り、布石や小手調べにしてもやり方がおかしい。

 小手調べというなら、もう少し生徒や教師がいるところで暴れさせたほうがいい。

 そうすればこちらの手の内もよくわかるし、注意するべき生徒や教師もよくわかる。


 布石にするならば、ここで暴れさせては警備を厳重にさせるだけだ。

 襲撃があったということで、学園の警備を厚くさせることが目的で、目標が学園でない可能性もある。


 だが、そんな陽動のためにA級操者を使うだろうか。

 A級操者はレムリアでもそんなに数は多くないエリートだ。


 日本に密入国させるのだって一苦労だろう。

 そんな希少な手札を使って、何を考えているのやら。


「相変わらずレムリア帝国の手は読めないな」

『考えるだけ無駄だからやめておけ。A級に匹敵する操者を密入国させている以上、大掛かりな作戦なのは間違いない。これもその一環。これから先、意表を突かれるのは覚悟しておけ』

「嫌な覚悟だな。意表を突かれないようにできないのか?」

『備えあれば憂いなし。意表を突かれる可能性も考慮にいれておけば、敵の罠に完全に嵌らずに済む。たとえ、周りが騙されても、吾輩たちが騙されなければどうとでもなるのだ。ならば、何が来ようと一歩引いた目線で見ていればいい』


 つまり、今まで通り、事が起こってから対応するってわけか。

 それで解決できるならそれに越したことはないけれど。


 一瞬の遅れが何かを左右することもある。


 できればそうなって欲しくはない。

 そうさせないための、俺たちなのだから。




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