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第十四話 避難誘導

「ちょっと! 説明しなさいよ!」


 二人を図書館から無理やり連れだすと、美郷がそう抗議の声をあげた。

 当たり前か。


 けど、時間がもったいない。


「第三グラウンドでゴーレムが暴走したらしい。俺の友達が中等部の子たちを避難させてる。手伝いに行くから、一緒に来てくれ」

「なっ!? 暴走!?」

「どういうこと?」


 美郷と綺佳がそれぞれ顔つきを真剣なものに変える。

 中々どうして、流石の対応力だ。


 学生とは思えない。

 エリシアならまず間違いなく、すぐさまスカウトするだろうな。


「理由は知らない。けど、時間が惜しい。手伝うか?」

「手伝うに決まってるでしょ!」

「もちろん。けど、先生たちへの報告が先じゃない?」

「もう報告されてる。もしも、報告されてないなら、そっちのほうが一大事だ」


 ここは翡翠学園。

 その教師たちの半数はアティスラントが派遣している。


 彼らが実習とはいえ、ゴーレムを動かす場にいないとは考えづらい。

 そして現場にいたならば、校舎にいる教師たちに連絡を送るはずだ。


「問題なのは暴走しているゴーレムの数だ。別々の場所で暴走してたら、相当面倒だ」

「だから、まずは避難ってことね! じゃあ、行くわよ!」


 納得してくれたのか、美郷が走り出す。

 それを見て、綺佳と俺も走り出した。



◇◇◇



 外に出ると、ちょうど松岡とばったり遭遇した。


「状況は把握してるな?」

「一応」

「なら、ギアの使用を許可するから中等部の奴らを避難させろ。俺は校舎の防衛だし、ほかの教師陣も外部からの侵入者に備えるから、あんまり期待するな」

「中等部の子たちを助けにいかないんですかっ!?」


 松岡の言葉に美郷が食い下がる。

 気持ちはわかる。

 だが。


「いざとなればギアを使えばいい。訓練用のゴーレムなら殺される心配はほとんどない」

「殺される……?」

「アティスラント王国の貴族としての意識があるなら、切り替えろ。これはレムリア帝国からの攻撃の可能性がある。俺たちはその阻止に動く。避難誘導と護衛はお前たちがやれ。わかったなら、行け」

「わかりました。ほら、行くぞ」


 混乱している美郷の腕を掴んで、俺は走り出した。

 ここで時間を食うのは無駄だ。


 教師たちの対応も間違ってない。

 美郷の言い分も間違ってない。


 ただ、人手が足りないだけだ。

 それなら人手として動くのは一番だ。


「ちょ、ちょっと! 離してよ! 一人で走れるから!」

「そうか。じゃあ、急げ。アルミュールを展開すれば、お前と天海ならすぐだろ?」

「あんたに言われなくてもわかってるわよ!」


 そう叫び、美郷が前を見据える。

 そのまま待機状態のクラウソラスを取り出し、起動させる。


 それと同時にアルミュールが展開される。

 相変わらず派手な赤い軍装が、美郷を包み込む。


 その後ろで、綺佳もギアを構えた。

 よくよく考えれば、綺佳がギアを出したところを初めて見た。


 だが、俊から綺佳のギアのことは教えてもらっている。


【カラドボルグ、起動】


 細身の剣が綺佳の手に現れる。

 金色の刀身に、同じく金色の柄。


 雷を操るオリジン・ギア、カラドボルグ。


 綺佳の技量と相まって、攻守に絶大な威力を発揮するギアらしいが、特筆すべきかスピードらしい。

 カラドボルグよりも威力に優れるギアはあっても、カラドボルグよりも速さに勝るギアは、学園内にはないそうだ。


 ゆえに最速。

 綺佳自身もかなりスピードを誇るうえに、カラドボルグで強化されるため、目にも止まらぬどころか、目にも映らない戦いをするらしい。


 そんな綺佳もアルミュールを展開させる。


 白と青を基調とした服だ。

 白のロングジャケットに青のスカート。

 美郷の服装ほどではないが、間違いなくジャージよりは派手だ。


 ただ、その服装は綺佳に恐ろしく似合っていた。

 流石のセンスというべきか。


「先に行くね」


 俺が綺佳の服に目を奪われている間に、綺佳は準備を整えて、一瞬でいなくなった。

 そんな綺佳に少し遅れて、美郷も移動を開始する。


 俺もアルミュールを展開するが、そもそもステータスに差がありすぎて追いつけない。


 移動速度に関係する敏捷のステータス。

 噂じゃ綺佳はそれがAを越えているらしい。


 もうそのくらいのステータスになると、移動速度はもう完全に人間やめている。


 それについていくことができる美郷の敏捷ステータスもそれなりのものだろう。

 少なくとも、今の俺よりは数段上なのは間違いない。


『吾輩と融合しないのか?』

「戦闘になったらな」

『まだ恰好のことを気にしてるのか? 目立つという意味じゃ、あの二人だって似たような恰好だっただろうに』

「気にしてないといえば、嘘になるけど、今は二の次に考えてる。それとあの二人はセンスがいい。お前の黒一色と一緒にするな」

『吾輩が纏う鎧は黒。それ以外の色など不要だ』


 白猫の癖に、アルスは黒を好む。

 だけど、自分の毛並みには異常に自信を持っている。

 正直、よくわからない奴だ。


 まぁ、古代の魔法文明が作り出したギアを理解しようとするだけ無駄か。


「しかし、レムリアの操者が潜入できるもんかな? 外部からの干渉の可能性は?」

『そんな遠距離から強制介入できる実力があるなら、自前のゴーレムを突撃させてきているはずだ。十中八九、操者は学園内にいる』

「じゃあ、そいつを探さなきゃか」


 訓練用のゴーレムは学園内にごまんとある。

 一体ずつ倒しても、また新たなゴーレムを操られたらキリがない。


 もちろん、教師たちが捜索しているだろうが、見つけるのが早いに越したことはない。


「おっと、その前に避難誘導か」


 目の前に見えてきた中等部の子たちを見て、俺は気持ちを切り替える。

 がむしゃらに探すには、この学園は広すぎる。


 アルスと融合すれば、広範囲の探知魔法も使えるだろうけど、そんな魔法を使ったら、すぐに魔力切れになる。


「そのまま慌てずに進んで!」


 本校舎を指さしつつ、中等部の子たちを誘導する。

 これが先頭グループだとするなら、避難にはまだ時間がかかるな。


『気を付けろ。もしもレムリアの操者が学園内に潜入しているなら、手引きした者がいる』

「手引き?」

『ここの警備はそこまで甘くない。外部から力ずくならともかく、気付かれずに潜入するには協力者が必要だ』


 協力者。

 簡単にそういうが、ここは翡翠学園だ。


 教師も生徒も選抜された者しかいない。

 ここの教師になれば、勝ち組なのは間違いないし、生徒も卒業すればエリートコースだ。


 わざわざ日本やアティスラントを裏切るというのはデメリットのほうが大きい気がするけど。


『とりあえず気を付けろ。特に教師だ。内部に招き入れたなら、生徒よりも教師の可能性が高い』

「そりゃあそうだろうけど……」


 俺は続々と列になって、進んでくる中等部の生徒を見る。

 その中には避難誘導をしている教師の姿も見える。


 だが、圧倒的に生徒の数が多い。

 教師が隠れてしまうほどだ。


「この状況でどう気を付けろっていうんだ?」

『目を光らせるだけでいい』

「無茶言うな」


 この中で怪しい動きがあったとしても、絶対に気付けない自信がある。

 むしろ、どこかに行っても気付けないだろう。


 そもそも、教師が何人いるかも把握できてないのだ。

 教師に目を光らせるなんて無茶だ。


 そう考えていたとき、見知った顔が近寄ってきた。


「晃!」

「俊か。ここで何してる?」

「何してるって……逃げてきたんだけど?」

「早いな! もうちょっと奥で頑張れよ!」

「マジで暴走したゴーレム怖いんだって! もうオレ、冷や汗だらだらだよ?」


 茶化した感じの喋り方だが、たしかに表情に余裕はない。

 それだけ暴走したゴーレムの迫力がすごかったということか。


『もしかしたら、こちらの予想以上に敵の操者は実力者なのかもしれんな。自動型を操作型レベルで操れるなら、訓練用のゴーレムでもそれなりに厄介だぞ?』


 いつまでも避難誘導というわけにもいかないってことか。

 俺は俊の肩を掴み、その目を真っすぐ見る。


「俊」

「な、なんだよ?」

「ここは任せた」

「え?」


 本校舎に避難できると思っていた俊の表情が固まる。

 そんな俊の返事をまたず、俺は走り出した。


「お、おい!?」

「誘導し終えたら、本校舎に入っていいぞ!」

「お前はどうするんだよ!?」

「天海と東峰のバックアップに入る!」

「お前が!? 無茶だって!」

「平気だから心配すんな! それより、中等部の子たちを任せたぞ!」


 そう言って、俺は全速力で第三グラウンドへ向かった。


 綺佳と美郷は多分、第三グラウンド近くにいるはず。

 すでにゴーレムと交戦しているかもしれない。


 訓練用のゴーレムに武器はない。

 ただ、耐久力は尋常じゃない。腕を振り回すだけで相当な威力が出るし、馬力もある。


 手こずって、数で押しつぶされれば、あの二人でもヤバいかもしれないな。

 もちろん、二人は学園内でも有数の使い手だ。

 アルミュールの性能も俺なんかの比じゃない。


 万が一すらないかもしれないが、敵がもしもA級操者なら、何か仕掛けてくるかもしれない。


「アルス。ショートカットで森を抜ける。入ったら融合だ」

『心得た!』











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