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第九話 模擬戦・下

「いい加減にやられなさいよ!」


 そう言われてやられる奴はいない。


 試合開始から二分。

 なんとか逃げることに成功している。


 このまま逃げ切れば、引き分けだ。

 ただし、その場合は再試合を申し込まれる可能性が大だ。


 それは避けたい。


 美郷は全力の一撃を俺に叩き込むことに拘っているのか、威力の高い砲撃にばかり使ってくる。

 連射重視に切り替えれば、速攻で終わるだろうに、ご苦労なことだ。


 ただ、そろそろそこら辺は妥協してくる頃合いだろう。


 威力重視の一撃を俺にヒットさせれば、さぞや気分も晴れるだろうが、それに拘って引き分けでは意味がない。

 貴族としての意識が強いならば、自分が売った喧嘩で引き分けなんて、屈辱以外の何物でもないだろうしな。


 広い訓練場の中心に美郷がおり、俺はその周りをグルグルと回っている。

 すでに余波で二度食らっているから、あと一度で俺の負けだ。


 余波だけでもがっつり削られているし、できれば向こうが攻撃する前に終わりたい。

 だけど、そういうわけにはいかないだろう。


「このっ!!」

『あと二秒で発射だ。斜めに切り込め』


 ステータスで劣り、アルスと融合しているわけでもないのに、俺が避け続けているのは、こうしてアルスがアドバイスをくれるからだ。

 だが、それにも限界がある。


 俺の横を攻撃が通っていく。

 近いな。


『修正してきている。次は当てられるぞ?』

「いや、これで大丈夫だ」


 なんとか避けた美郷の攻撃が床に着弾し、大きな煙が巻き起こった。

 周囲には魔力障壁が張ってあっても、訓練場の床はそうではない。


 魔力に強い材質で作られているから壊れることはないはずなのだけど、美郷の攻撃はその常識を壊してくる。


 先ほど避けた攻撃が、床を大きく破壊した。

 すでにその前に何度か着弾していて、脆くなっていたのだろう。


 土煙が巻き起こり、俺の視界を覆う。

 そして、それは周りからも俺の姿が見えなくなったということだ。


【アルス、融合ユナイト


 瞬時にアルスが俺とユナイトして、俺の姿も変わる。

 そして、待ってましたとばかりにアルスがテンションを上げた。


『ようやく出番か!!』

「十秒くらいだぞ?」

『五秒で十分だ! 吾輩たちにハンデを与えるような小娘にお仕置きをするのはな!』

「煙からは出れないぞ?」

『一歩も動く必要はない!』


 そう言ってアルスの思考に誘導されて、俺の体が訓練用の剣を抜く。

 そして、それを逆手に持って、思いっきり引く。


 投擲の態勢だ。


 だが、ただ単に投擲した程度じゃ美郷も避けるだろう。

 そのために一つの仕掛けが必要になる。


 アルスは剣術、体術においてどのような達人をも凌駕する技を持つ。

 だが、会得しているのは接近戦だけではない。


 銃も投擲技術もしっかりと会得している。


 そして魔法も。


「轟く雷鳴。煌く閃光。剣に宿すは一筋の雷光。≪サンダー・ボルト≫」


 アルスが自分の持っている魔法の中から、最も適した魔法を選択。

 そしてその魔法を俺が詠唱する。


 俺個人に魔法を使う素質も技能もない。

 そもそも大多数の地球人には、魔法に必要な術式を空間に転写する力がないからだ。


 しかし、アルスと融合することでその能力が俺にも備わる。

 元々の魔力量が少ないため、そこまで多用はできないが、相手の不意を衝くにはピッタリだ。


 雷を纏った訓練用の剣を俺は投擲する。

 その投擲も当然、達人クラスの技で、だ。


 そこまでに掛かったのは数秒。

 同時に煙が晴れてきたため、アルスとの融合を解除する。


 煙を裂いて、剣が美郷へと向かう。

 雷を迸らせ、真っすぐに。


 通常では考えられない速度で。


「くっ!」


 美郷はすぐに気づいて、迎撃を試みる。

 躱せないとすぐに判断したあたり、実戦慣れしている。

 レーヴェにいたときによほどいい訓練を受けたのか、それともすでに実戦を経験しているのか。


 どちらにせよ、最善の行動を選択した。

 クラウ・ソラスの砲撃を、剣に向かって撃ったのだ。


 溜め無しの速射。

 やっぱりやろうと思えばできたのか。

 どんだけオーバーキルを狙っていたのやら。


 だが、それが命取りだ。

 溜め無しの速射は確かに早い。

 だが、俺の剣を止めるには威力不足だ。


 剣は砲撃を抜けるはず。


 そう思ったとき。


『むっ!? いかん!』

「なっ!?」


 砲撃を切り裂いて進む剣が、一気に崩壊を開始した。

 どうやら剣の方が耐えきれなかったようだ。


『しまったぁぁぁ!?』

「勘弁してくれ……」


 唯一の攻撃手段を失った。

 時間ももう少ししかない。


 そんなとき、美郷が咄嗟に放った一撃が俺に向かってきた。

 着弾まで余裕はある。

 避けられるだろう。


 だが、ここで避けたら引き分けだ。再試合を申し込んでくるのは目に見えている。

 幸い、咄嗟のせいか威力はない。

 当たっても問題はないということだ。


『避けろ!』

「いや、当たったほうが都合がいい」


 そう言って俺はあえてその場にとどまった。

 そして綺麗に赤い光線が俺に直撃した。


 衝撃で吹き飛び、ゴロゴロと後ろへ転がっていく。


「そこまで! 勝者、東峰!」


 松岡の声で模擬戦が終了した。

 同時に会場が湧く。


 まぁ、最後の攻防を美郷が制したように見えたのだろう。


 間違ってはいないけれど。


 最後のはこちらのミスだ。

 訓練用の剣だって、それなりの強度があるはずだけど。

 アルスの魔法がちょっと強力過ぎたかな。


『ぐぬぬ! おのれ! 晃! お主、わざと食らったな!?』

「まぁ、都合が良かったんだよ。悪かったとは思ってる」


 そうアルスをなだめつつ、アルミュールを解除する。


 フルチャージの一撃じゃなかったから、アルミュールが破られることはなかったから結果オーライと言えば結果オーライだろう。


 美郷は俺に攻撃を加えて勝ったわけだし、俺も病院送りにはされなかった。

 俊も美郷のギアが見れて満足だろうし、綺佳も最後の一撃で満足するだろう。


 ただ。


「……」


 問題なのは美郷がまったく満足していない点だろう。

 仏頂面でこっちを睨んでいる。


 どうやら、あの様子じゃわざと食らったのがバレたようだ


「最後の攻撃……わざとね?」

「さぁ? どうかな。無我夢中だったし」

「あたしを誤魔化せると思ってるの!? こんなの無効よ! もう一回、勝負しなさい!」

「なんだよ、お前の勝ちなんだからいいだろ? それと悪かったな。エンフィールド家を馬鹿にする気はなかったんだ」


 何に怒っていたかはわかったため、そのことを謝罪する。

 そして近くにいた松岡に視線を送る。

 フォローしてくれって意味だったんだけど、肩を竦められて終わった。

 使えない教師だ。


 だが、美郷は俺の謝罪だけじゃ満足できないらしい。

 不満そうな顔で俺を見ている。

 納得いかないって顔だな。


 まったく。

 負けず嫌いだな。


「屈辱よ! わざと負けるなんて! どこまで馬鹿にすればいいの!?」

「わざと負けたわけじゃない。勝ちに行ったけど及ばなかっただけだ。俺にできる最高の攻撃だったんだけどな。流石は東峰ってところか」

「馬鹿にしてるわね?」

「褒めてるのさ」


 言いながら、俺は美郷の横を通り過ぎる。

 これ以上喋っても仕方ないからだ。


 だが。


「待ちなさいよ!」

「嫌だ。ってかついてくんな」

「もう一回勝負しなさい!」

「お前の勝ちだっただろう? 何が気に入らないんだ?」

「内容よ!」


 美郷が目をつり上げて叫ぶ。

 たしかに褒められた内容ではないだろうが、勝ちは勝ちだろうに。


「じゃあ、どうやったら納得するんだ?」

「あたしが気持ちよく攻撃を決めて、勝ったらよ!」

「はぁ……」

「ため息を吐くな!」


 聞いた俺が馬鹿だった。

 俺は無視して、歩く速度を速めた。


 どうせこいつは納得しないのだから、相手をするだけ無駄だ。

 

 くそっ。

 綺佳に引き続き、面倒な相手を作ってしまったな。


 そんなことを思いつつ、俺は訓練場を後にした。


 



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