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面倒事からは箒で逃げるべし!

あけおめです!

治癒魔法で回復した『不適合者』であった男の身体をディフィニアは触診したり魔法やらで調べていた。その間わたしはというとぼーと突っ立って二人を眺めていた。わたしの仕事は治すまでで、治した後は専門外なのです。何してるのだろう。

というか疲れたしもう帰りたいな。


「彼の容体はいかがでしたか。ディフィニア?」


調べ終えたのかディフィニアは立ち上がるとこちらへ歩いてきたので声をかけてかけたのだが、わたしの呼びかけに答えず素通りし部屋の扉の前で止まった。


「ラ、イ、ズぅうううー!やりおったぞぉ!『不適合者』は完全に元通りじゃ。うちのアキちゃんが治したぞ!」


ディフィニアは扉を蹴破ると外で待っていたライズ大司教の首根っこを掴み部屋の中に連れて入ると、横たわる『不適合者』であった男の前までぶん投げられライズ大司教は顔面から着地した。


「どうじゃ見よ!しっかり治っておるであろう!」


倒れるライズ大司教の頭をディフィニアがむんずと掴むと、『不適合者』であった男の左腕に顔を近づける。


「わははは!どうせ途中音をあげると思っておったのだろうが残念じゃったな!こんなものわしとアキちゃんが力を合わせれば楽勝じゃったわ!」


ライズ大司教の返事など求めていないのか、はたまた手に持ったライズ大司教が気絶しているのに気づいていないのか。ディフィニアはテンションが上がって興奮しているようで矢継ぎ早に喋る。

おそらくライズ大司教ぶん投げられ着地した辺りからもう意識なかったと思う。それに気付いていないディフィニアは笑いながらずっと話しかけている。

この魔女は見た目からは非力そうに見えるが、めちゃくちゃ力強いからな。宿でディフィニアによくセクハラされ抗えないので、密かに筋トレして逃げれるように鍛えていたんだけどもう辞めよう。この身体で成人男性を片手で投れるやつ相手に素の力で敵う気しない。


「ライズ大司教さまは気を失っておられるようですよ」

「なに!おいライズ起きよ!」

「ストップストップ!それ以上やると死んでしまいそうです!」


バチッと音が鳴りライズ大司教を掴んだ手から雷撃が連続で迸る。

雷撃を浴びたライズ大司教は目を見開き起きるが、続く雷撃でまた意識を飛ばしてを繰り返していた。

わたしの静止で雷撃から解放されたライズ大司教は、白目をむきぴくぴく動いていて正直気持ち悪かった。


「さっさと起きぬか!」

「ぐおぉ!」


治癒魔法を使うと症状は収まったものの起きる気配はなく、しびれを切らしたディフィニアに脇腹を蹴りつけることによりライズ大司教は覚醒した。


「ディフィニア殿ならばと思い頼みましたが、まさか本当に治してしまうとは驚きました」


意識が戻ってディフィニアにことの経緯の説明を受け終わり、少しやつれた顔のライズ大司教はそう口にした。


「わしとアキちゃんが居れば不可能な事などないわ」


『不適合者』であった男の元通りの人の姿に驚きの表情を浮かべライズ大司教は見つめる。

その姿にディフィニアは満足そうにふんぞり返っていた。

治ったのならこの地下施設にいる意味はないので続きは応接室に戻ってから話そうとなった。

少しかわいそうだが『不適合者』であった男はそのまま放置された。戻る途中にここを警備していた入り口の騎士に回収を頼んだので問題はないだろう。

体力の限界であったわたしは、なんとか応接室まで辿り着くとディフィニア達の激論などそっちのけでソファに泥の様に沈んでいた。

いやー。甘味が疲れた身体に沁みる。体力の回復には甘いものが一番。ということで『不適合者』を治したご褒美にもらったマフィンを食べる。

マフィンを食べるため口を開ける。するとディフィニアがひと口大に切り分けたマフィンをわたしの口に運んでくる。内容などを一切耳に入っていないけどおそらく真面目な話をしている二人を眺め、わたしが口を開けるとすかさずディフィニアが笑顔を浮かべてあーんとマフィンを運び、また真面目な顔で話に戻る。その変わり身がおもしろかったので何度も話を折ってやった。


「という事でわしをアキちゃんの素晴らしい連携があって『不適合者』を治療できたのじゃ。残念じゃが今のところ他の者では無理じゃろう」

「やはりそうですか。ですが治すことが出来るということが分かっただけでも我々には大きな前進でしょう」

「それよりも覚えておるな推薦の件」

「ええ、もちろんです。今回の結果で反対する勢力もこれで黙らせることができるでしょう」


最後ふたりは悪い顔を浮かべながら話を終えた。

推薦とか反対勢力とか、わたしが来る前になんかおっかない企ての話でもしていたのかな。まあ、わたしは関係ないのでおふたりで頑張ってください。

だいぶ体力も回復したのでソファから体を起こし自分の手でテーブルのお茶を飲む。お茶を飲むわたしを見てディフィニアが残念そうにしていた。なに飲ませたかったの。ディフィニア液体系の食べさせ方は下手だからごめん被る。とくにミルク飲ませてくるとき手が震えてて飲みにくい。あとその時の顔が気持ち悪い。


「用事は済んだことじゃし帰るとしようかのう」


やっと帰れるのか。今日は仕事もがんばったし、早く帰って寝たいな。


「では外までお見送りしましょう」


席を立つとライズ大司教が開けた扉をくぐり廊下へとでる。

しんと静まりかえった教会を歩く。まるで世界に取り残された感じがあり神秘的でなんかわくわくする。

するんだけれども、それにしたって


「静かすぎやしませんか?」

「そうですね。ここまで静かなのは私も初めてです。何かあったのでしょうか」


不思議に思い口に出してみたところライズ大司教も同じことを考えていたようだ。

ここは都市部の大きな教会なので喧騒の一つも聞こえないのはおかしい。事実ここに着いたときは人の声が届いていた。それが今は私たちの話し声しか聞こえない。


「しっ、静かに。どうやら誰か来たようじゃぞ」


足を止めた私たちの方に向かって足音が近づいてきた。どうやら足音の主は慌ただしく走ってこちらに接近しつつある。

ディフィニアはわたしを背後に庇える位置に移動し、いつの間にか取り出した杖を構える。

そして前方の廊下の曲がり角から姿を現したのは、先ほどの会った時にアンリと呼ばれていた少女であった。


「ラ、ライズ大司教様」

「アンリそんなに慌ててどうしたのだ。それにこの静けさはいったい」


わたしたちの前まで走ってきたアンリは息を切らしており、ライズ大司教の質問に上手く言葉を紡げないようだった。

息を整えるアンリにディフィニアは油断なくいまだ杖を構え警戒していた。


「はぁはぁ。ひ、人払い完了しました。教会の敷地にはもう私たち以外残っていないはずです!」


額に浮かんだ汗を袖で拭い、仕事をやり切った感をだすアンリはライズ大司教へ報告をするため走ってきたようだ。

へー。こっちの世界の人払いってなかなか大規模なんだ。と一瞬考えたのだがライズ大司教の顔を見て、わたしの考える人払いと相違ないと直感した。


「あ、アンリ。もう一度聞かせてくれるかね?年のせいか耳が遠くなってしまったようだ」

「はい!ライズ大司教様の言いつけ通り教会から人払いをしました。遅くなり申し訳ございません。これで大事なお話ができますね!大丈夫です私もすぐに教会から出ていきますから!」


そう言い残しアンリ走っていった。おそらくそのまま教会の外に向かったのだろう。

ライズ大司教はまだ思考が追い付いていないようで、走り去ったアンリに手を伸ばしたまま固まっていた。

きっとあの様子でアンリは大司教が教会から出ていくようにと皆に触れ回ったのだろう、慌てた様子に伝播され、また尾ひれがつき広まってしまい今頃外は大混乱になっていそう。うん、これ絶対に関わっちゃいけないやつだ。


「ディフィニアこちらの窓からお暇しましょうか」

「うむ、そうじゃな。ライズよ世話をかけたな。わしらは帰るから、落ち着いたころにまた寄せてもらおう。それじゃあの」


ディフィニアは箒を取り出しそれに跨り、その後ろにわたしも座り落ちないようにディフィニアにしがみつく。

気の毒なライズ大司教は呼び止めようと口をぱくぱくさせ、しかし声にならないようで窓から飛び立つわたしたちをそのまま見送った。

ディフィニアの操る箒は高度をあげ宿に向け空を飛ぶ。地上には教会から避難した人か野次馬か人だかりが見えた。たんなる人払いから大事件じゃん。ライズ大司教どう収拾をとるのだろうか。まあ、わたしは関係ないのであとはよろしくお願いします!

そういえばあの中にアレスやウィンティアもいるのだろうか。

ただの迷子から二人の勘違いで大事になるかと思ったら、ついた先でディフィニアがいてライズ大司教に難題を出されて今日はなかなか濃い一日だった。


「あ!ちょっ、ちょっと戻ってくだい!」

「おおう。いきなり大きな声を出してどうしたんじゃ」

「私のお菓子をアレスさまが持ち去ったまま!」

「菓子くらいまた買えばよかろう。それにあの群衆の中から探すのは骨が折れるぞ」

「いやー!わたしのおかしぃ~~」




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