魔力を視る際はご注意を!
待たせたな!1977日ぶりに投稿します!
ライズ大司教は、さあお主の実力を示して見せよと言うと部屋から出て行った。
しかも持っていた魔法具で『不適合者』の拘束を解いていきやがった。
「ライズめ、面倒ごとを押しつけおって。あとで覚えておれよ」
拘束を解かれた『不適合者』は弾みで倒れ込んだが、すぐに起き上がると一直線にわたしに向かってきた。
ふふん。小さくて見た目のか弱いわたしに狙いを定めたみたいだがあまい。ボスキン・ガルティーチェの砂糖菓子よりも甘いわ!わたしの剣の錆にしてやろうでわないか。
と思ったが、わたし武器持ってないわ。
「ディフィニア!来ましたよ!」
「分かっておる」
ディフィニアが手を『不適合者』へ向けると、わたし達の前に現れた魔法の見えない壁に『不適合者』の振り上げた異形の左腕の攻撃を阻んだ。
この『不適合者』が、いつからここにいるのか知らないが薄汚れているから素手で触るのは遠慮したかったから助かった。
流石ディフィニア。やっぱり困った時はディフィニアだ。
『不適合者』は魔法の障壁を破壊しようと殴りつけているがびくともしないようだ。
「さーて、アキちゃん。あのクソ坊主がだした難題じゃが解決できそうかい?」
「え、無理じゃないですか。だって今まで誰も治すことができなかったんですよね?」
そもそも治癒魔法でどうにかできるものなのアレって。
一心不乱に魔法の障壁を殴りつける『不適合者』の目は定まっておらず、獣のような奇声をあげている。
「ディフィニアなら治せるのではありませんか」
「研究するればいつかは治せるとは思うんじゃが、今回はアキちゃんがやらねばならんからのお」
流石ディフィニア出来ないと言わない。
「わしも実物を見るのは初めてじゃが、これは見事に絡み合っておるな。教会が投げ出すのも無理ない」
「絡み合っている?」
「うむ。見えておるであろう。魔力が雁字搦めに絡み合っておるから『眼』を持たぬ今代の聖女では難しいであろうな」
「???」
絡み合うとか何言ってるのディフィニア。ていうか聖女とかいるんだ。目を持たないって失明してるのか聖女さま。なんか物語の聖女っぽくていいね。
目が見えない聖女か。きっと慈愛に満ち溢れて、傷ついた人は放っておけなくて片っ端から治癒ってるんだろうか。それともやっぱりファンタジー聖女と言えば、聖なる力とかで魔物を薙ぎ払ったりするのかな。わたし的には目が見えなくても剣とか武器を使ってばんばん魔物を倒したりとかする聖女さまとか格好いいよね。
「まさか、アキちゃん『眼』を使っておらぬな」
「目?失礼ですね。しっかり見えていますよ」
「違うわ!『眼』じゃ。『眼』!魔法を使うとき、魔法を使われた際は『眼』で魔力を見よと教えたであろうが」
んん?あっ、あー。あったあった。思い出した。こっちの世界に来て初日にそんなこと言われたわ。
でもあれって目がチカチカするから嫌いなんだよね。だから最初の時以来使ったことないんだよね。しばらく治癒魔法使うときにディフィニアにあれやこれや言われていたことあったけど『眼』のことだったのか。適当に聞き流してたよ。最近はもう何も言ってこないからもう頭の片隅にもなかった。
「ま、まさか。お主いまの今まで『眼』を使っておらなかったのか」
「てへっ」
必殺笑ってごまかす!どうだ美少女の笑顔だぞ。この愛らしい笑顔を前にすれば誰もがわたしを許すはずだ。
「てへっ。ではないわ!」
ざんねん。許されなかった。
「では今までどうやって、あの者たちを治癒魔法で治してきたのじゃ」
「どうやってって。治癒魔法で、えいやっ!て感じですね」
「めちゃくちゃじゃ!」
治癒魔法を使ってピカーってなって、馴染んできたなって感じたらムムム、えいっ!で終わり。
「ですが『眼』がなくても皆さん治癒魔法を使っているではないですか」
「確かに使っておるが、『眼』があるとないとでは前提がまるで違うのじゃよ」
ディフィニアは頭を抱えて説明をしてくれた。
「ほれ。まず『眼』であの『不適合者』の魔力をみるがよい」
『眼』でみる、ね。
しまった。一度しか使ってないからどうやるか忘れた。とりあえずムムムっと目に集中してみる。
おお?きたきた。思い出してきたこの感じだ。
目の前が眩い光の奔流が押し寄せる。その一瞬の出来事に思わず目をとじてしまう。
恐る恐る瞼を開け見えた世界はキラキラと空間が輝いて見えた。
「まぶしい!ディフィニアまぶしいですぅ」
「わはは!まったく。わしは前に何度も説明をしたぞ」
「すいません。謝りますから、説明しているときドヤ顔でうざいなって思って聞き流していたの謝りますから!さっきライズ大司教が話してるときディフィニアと一緒で年寄りは話が長いって思っていたの謝ります。だから、もう一度教えてください!」
「え。わしのこと、そんな風に考えておったの」
笑ったり、へこんだりしてないで。早く、早く制御の仕方を教えて!このままじゃ失明しちゃう!
「全力で『眼』に魔力を送っておるから、その様にみえるのじゃ。『眼』に送る魔力を絞れば見え方も変わるじゃろう」
魔力を絞る。魔力ってなに?絞るってなに?
わたしのばか。もっとディフィニアの話をまじめに聞いておけばよかった。もしあの頃に戻れたならいいのに。
「そんな抽象的な説明ではわかりません!魔力絞るってどうするんですか!意味わからないから、もうディフィニアがわたしの魔力を調節してください!目がもう限界ですぅ」
「そんなことできぬわ!わしが説明したのを聞いておらんかったからじゃろう。」
「ふん。わしは年寄りじゃから説明が長くなってしまうからのう。それでも聞きたい?」
さっきのことめっちゃ根に持ってるじゃん。ああやだ。わたしは絶対に、こんなひねくれた年寄りにはならないって心に決めたよ。
「あー。その顔、わしの悪口いま思い浮かべているじゃろう。もう教えるのやーめた」
最悪だ!最低だ!この性悪魔女め!もうディフィニアなんか頼らない。
絞る絞る。魔力を絞る。できる。わたしならできる。ムムム。
あ!なんとなく分かった気がする。
ディフィニアは『眼』で魔力を見ろと言っていた。ということは、この周りのきらきらした光が魔力ということ。そして、わたしの身体を循環するように巡っているのも魔力なら、この流れを制御すればいいはずだ。
まず手のひらを巡る魔力をコントロールできるか試してみる。指先にあつまれー、魔力よあつまれー。わたしと遊ぶ子この指とーまれ!ムムム!
できた!なんかよくわからんけど出来た!指先にぴかぴかが集まった。はい次が本番。目に巡る魔力をムムムん!
はい、できた!やばっわたし天才だ!
ぴっかぴかの眩しい光量マックスの真っ白な世界から、一変し普段見ている視界に漂う魔力がきらきらと控えめに瞬く世界が広がった。
「わあ。きれいですね」
「え、できたの?」
なにその本当にできちゃったのみたいな反応。
「本当に?これなーんだ」
ディフィニアはそう言って手を差し出した。その手から空中に放出された魔力が形どられていきデフォルメ調の猫が描かれた。
おお。魔力でそんな器用なこともできるのか。
「ねこ」
「あたりじゃ。ええ…。普通は習得まで、もっと何週間何か月ってかかるのに」
これはクロですね。できないことをさせて嫌がらせしていたと。ディフィニアの悪口を言った、わたしに年甲斐にもなく意地悪していたんですね。
そんな悪い魔女は懲らしめてやらないと。
えーと。観察したかぎり魔力は身体を常に循環していて、頭部のこの辺りで目へと循環する魔力が増えているのは『眼』を使用しているからか。
ディフィニアの身体を流れる魔力を指でなぞり辿る。
先程ディフィニアはこう言っていた。魔力を送りすぎていると。だったらここの魔力を多く流れるようにしてやれば。
「んっ。くすぐったいぞ。どうしたんじゃ?もしかして怒っておるのかのアキちゃん。さっきのはちょっとした冗談じゃったのだああぁあああああ!まぶしい!」
わたしみたいに魔力がまぶしく見えるようになるっと。
「何をするじゃ!いや、何をしたのじゃ!?」
「ディフィニアの『眼』に送られている魔力を多く流れるように操作しました」
「はあぁ!」
さっさとディフィニアが魔力を調節してくれればよかったのに、わざと眩しくて苦しんでいる、わたしを眺めて楽しんでいたことへのお返しだ。
熟練度の違いか、すぐに操作権はディフィニアに取り返され魔力の流れは元の状態へと戻った。
「いまのはアキちゃんが、わしの魔力を操ったというのか?」
「ええ、そうですよ」
そう言っているじゃないか。ディフィニアからの再度の問いかけに答えると、絶句といった表情で見つめられた。
「わしの指先を見よ。これの形を変えてみるんじゃ」
そう言ってディフィニアは人差し指をこちらに向けると、魔力で丸を形作った。
いきなり難題過ぎませんか。今日まで魔力なんて気にも留めていなかったのに、あれやこれやと言われても困る。
丸を形どった魔力を観察する。
ディフィニアの魔力で作られているので、魔力の丸とディフィニアの指はうっすらとだが線のように繋がっているようだ。おそらくこの線を切ってしまえば丸は消えてしまうだろう。お題は形を変えて見せろと言っていたので、それはダメだ。
さっきの『眼』の魔力を過剰に送れたのは、身体を一定で循環する魔力から目へ流れる魔力が多くなっているの見つけ、それをもっと多く送ってやるようにすればよかった。試しに同じことをしてみるが、形が一瞬揺らぎ元に戻った。
ディフィニアは少し驚いた顔をして見せたが何も言わないのでこれでは合格ではないようだ。丸を形どる魔力自体を変化させる必要がありそうだ。
でわ今度は馬鹿正直に、わたしの循環する魔力を指先に集めてみたように、念じてみよう。
ディフィニアの作る魔力の丸を睨み付け念じる。
形かわれー。丸から変化しろー。少し揺らいでいるが形が丸から変わるまではいかない。
そういえば以前みた書物の物語で主人公の修行の時に師匠がこう言っていた。たしかあれは、そう。魔法はイメージだ!
丸からバツに変われー。バツに変われー。むむむ!
「よしっ!どうですか、できましたよディフィニア!」
「信じられん。本当にわしの魔力自体に干渉しておる」
丸からバツの形に変化した指先の魔力を見つめてぶつくさ呟くディフィニアを尻目に、わたしは腰に手を当て誇るように報告する。治癒魔法以外では魔法初心者と言っていい、わたしがディフィニアを驚かしてやったのだドヤ顔を浮かべても許されるだろう。
「アキちゃん。よいかよく聞くんじゃぞ。言ったところで信じる者はおらんじゃろうが、他人の魔力に
干渉することは誰にも言うではないぞ」
「どうしてでしょうか?みんなやっていることではないのですか」
「魔力干渉を皆やっているじゃと冗談ではないは。千年を生きたわしが断言してやろう。そんなことができるのはアキちゃんただ一人じゃ」
真剣な顔を浮かべてディフィニアは話を続ける。
「わしでも魔力に魔力をぶつけて消し飛ばしたり、形を変える事もできるじゃろう。じゃがまず『眼』をもっているのが大前提であり、わしの様な熟練者じゃから出来るんじゃ。しかしアキちゃんのように魔力そのものに干渉はできぬ。少なくともわしが知る限り過去の誰もがそんなことはできんかった」
そっか。そもそも『眼』を持っていないと魔力が見えなかったね。それで日頃、自分のことを最強の魔法使いと呼んでいるディフィニアほどの実力がなければ似たようなことしかできない。
あくまで似たようなこと。
え、やっば。唯一無二の力とか、わたし物語の主人公みたいじゃん。もしかして始まっちゃうわたしの物語?
「おぬしまた妄想に浸っておるな。真面目な話だから真剣に聞くんじゃぞ。まずアキちゃんのその能力は『眼』を持たぬ者には気付かれんじゃろう。じゃが一部の勘のいいものは気付くかもしれん。もしその事実が広まってしまえば」
「し、しまえばどうなるのですか?」
わたしを脅かすようにわざわざ会話を区切って黙り込む。
「研究所で閉じ込められ一生を過ごす羽目になるかもしれんな」
「いやです!もうあんな生活に戻るのは!」
もうあんな生活に戻るはいやだ。必要な時だけ使って、それ以外は邪魔だからと遠ざけ閉じ込める。非日常が日常で、当たり前だと思っていたものは異常だった。
「お、おお?どうしたのじゃ?」
わたしは勝手に震えだした身体を止めようと自分で自分を抱きしめしゃがみ込んでしまう。
あの日。ツバサと出会わなければ、今もわたしは異常を日常と信じ生きているのだろうか。そうあった方が幸せだったかもしれない。でも知ってしまえば後戻りはできなかった。
「すまぬ。脅かすつもりで言ったが、そんなにアキちゃんが怯えるとは思わなんだ。注意促すためじゃったのだが少し大袈裟だったかもしれぬ」
突然しゃがみ込んで震えるわたしに対し、ディフィニアはどうしたものかとオロオロしているようであった。
「大丈夫じゃ。大丈夫。何があってもわしが絶対に守ってやるから安心せい。必ずおぬしを守る」
ディフィニアもしゃがみ込みわたしを抱きしめる。背中をやさしく叩き落ち着かせようと声をかけてくる。
しばらくの間、わたしはディフィニアの心遣いに甘えることにした。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
「いや、わしも悪かった。脅かしすぎてしまったようじゃ」
気持ちも落ち着いて立ち上がると恥ずかしさがこみ上げてきた。見なくてもわかる顔真っ赤だよわたし。幸いディフィニアもバツが悪そうに顔を背けていたので見られず済んだ。
「よし!では本題に取り掛かるとするかのう!」
気まずい雰囲気に耐えられなくなったディフィニアが叫び『不適合者』を指さす。
ああ、いましたね。途中から『不適合者』のことをすっかり忘れていました。
8月くらいから続きを書いてたんですが、読み返してみると設定とか色々気に入らないのがあったので1から加執修正しています。もし一度読んだことがある方がいれば一話から読み直してください。




