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路地裏のお菓子強盗

お菓子専門店ボスキン・ガルティーチェから出てきた私の両手には大きな紙袋かひとつあった。

本当はもっと欲しかったがひとりで持てるのは一袋が限界なので、厳選に厳選をかさねカゴひとつ分のお菓子の購入をなくなく諦めた。

次回来るときは荷物持ちにツバサかディフィニアを連れてこよう。

お菓子がいっぱい詰まった紙袋を胸の前で落とさないように抱える。紙袋から飛び出したお菓子で若干前が見えないし、足元なんてまったく見えてないが問題ないだろう。

現在滞在している、ここ城塞都市バロゼラスはハールゼン王国と帝国との国境沿いあり、貿易の中継点として栄えており人々が頻繁に行きかっている。

ボスキン・ガルティーチェが面している大通りはしっかりと舗装されているので油断しなければ躓くこともないだろう

ちなみに城塞都市バロゼラスは有事の際の拠点としての機能も備え、多くの王国軍が駐在している。

国境の要塞が墜ちたらここが最前線になるため、人が暮らす都市の周りは背の高い城壁が囲む。また都市に入るためには厳重な検査が行われ、毎日検査待ちの行商人や旅人たちの行列が出来ている。

貿易の要所だけあって大通りから路地裏のお店まで古今東西の品が並ぶ。つまりどういうことかというと、古今東西まだ見ぬお菓子が集まるのだ。素晴らしい。なんて素敵な街だろうか。

しかし大通りから外れたお店には一人で行くなとツバサに厳命されている。

食べたことのない珍しい一品を探したい欲求を抑え、大定番のボスキン・ガルティーチェお菓子店へと繰り出したのだ。

ボスキン・ガルティーチェに不満など全くないが、路地裏にひっそりとたたずむカフェとかを開拓していくのもいいよね。その店特有のオリジナルの料理とか食べてみたい。

人気のないところに行ってはいけないとか、お菓子くれるからって言われても知らない人について行っては行けないとか。こちらに来てツバサはやたら口うるさくなった。

たしかに誘拐されそうになったことはたびたびあったのでツバサの言う通りしてあげているが街中でそうそう事件に巻き込まれたりしないよ。

今朝のディフィニアの置手紙といい、みんな私のことを子ども扱いしないでほしい。たしかに見た目は子供だけど、見た目と中身は必ずしも同じとは限らないんだから。


「ふむ。ここは一体どこでしょうか」


いつの間にか人っ子一人いない路地にいた。私の視界を奪うお菓子満載の紙袋のせいでちょっと道をまちがえてしまったのかな。


「そこのキミ。大通りにはどうやって戻ればいいのでしょう」


わたしの前方を横切る黒猫に尋ねてみるが、返ってきのはにゃあと短い鳴き声でした。

そのねこは私の足に尻尾をゆらゆら揺らしすり寄ってきた。紙袋を傍らに置き、しゃがんで黒猫をひとしきり撫でまわす。

逃げ出すことなく静かに撫でられている。ずいぶんと人懐っこい猫で毛並みもいいのでもしかしたら飼い猫なんだろうか。


「どうしました。もしかしておなか空いているんですか」


傍らに置いた紙袋の匂いをしきりに嗅いでいる。

紙袋から先ほど購入したビスケットを取り出し、砕いてあげてみると黒猫は食べ始めた。


「ふふ、もっと食べますか」


食べ終えた黒猫は前足をあげておかわりを催促しているようだった。もう一枚袋から出そうとしたら黒猫は走り去ってしまった。


「お嬢ちゃん。それ、俺らにも食べさせてくれねー?」


ねこが逃げた方向の反対側から強面の男が現れた。

頬に傷跡が残るスキンヘッドとモヒカン頭の三下っぽいふたりの男がそれぞれ凶器を持ち現れた。

モヒカンは俺たちにも食べさせてくれって言っていた。つまりこの男たちはお菓子好きの方たちですね。

成長した男性は渋い好みに変わると聞いたことがある。たしかハードボイルドだっけ。外ではかっこよく見せるためにブラックコーヒーを頼んじゃうけれど、家では砂糖もミルクもたっぷり入れる系のひと。

だれも見てはいないのに見栄をはってお菓子を買うことができず、こうして私の買ったお菓子が目当てで声をかけてきたのだろう。

だがこのお菓子は渡してなるものか。ましてやお菓子強盗などする奴なんかに渡すものか!必ず死守してみせる!


「おい、やめろ。怯えちまってるじゃねえか。可愛いそうに。お嬢さん、お兄さんが慰めてあげよう」

「アニキ、アニキ、お兄さんって年じゃなすっよ。オジサンっす。オジサン」

「うるせえ。俺はオジサンじゃない、まだお兄さんだ。さあ、ここは危ないからオジサンたちが安全な場所まで案内してあげよう」

「こちらはあげません。どうしてもというなら、このビスケットでしたら差し上げます。でもそれ以上はダメです」


同じお菓子好きの情けないで、わたしはビスケットの入った袋を置いて後ずさる。

でもこっちはダメです。お菓子のはいった紙袋は奪われないように抱きしめ、スキンヘッドをにらみつけて言った。

するとスキンヘッドはキョトンとした顔を見せ笑い始めた。


「がはは。俺らが欲しいのはビスケットじゃなくて、お嬢ちゃん自身なんだけどなあ」

「オイラお腹すいたんでビスケットがほしいっす」

「うるせえ!あとで嬢ちゃん売っぱらった金で買ってやるから。ほら、お嬢ちゃん捕まえんぞ」


オジサンたちはゆっくりとこちらに歩みを進めてくる。

あれ。もしかしてこの人たちお菓子が欲しい物取りじゃなくて、わたしの誘拐目的だったりする?


「怖がって声も出せないのか。大丈夫、抵抗しなきゃやさしくしてやる」


ということはこのお菓子が目的ではなかった?

ゆっくりと近づいてくるスキンヘッドの男が近づいてくる。

であるならばこのお菓子の詰まった紙袋、重いし視界が遮られるし両手がふさがるし動きづらいので置いてしまってもいいだろうか。

いや待てよ。わたしが一人を相手にしているときに、もうひとりがお菓子を持ち逃げしようという魂胆かもしれない。

この人たちがお菓子強盗、もしくは人攫いだったにせよ、子供たちのお菓子を守るためにここでやっつけてしまった方がいい。

わたしは覚悟を決め紙袋を置き、ローブに忍ばせたものを取り出そうポケットに手を入れた。


「蛮行はそこまでだ。不届き者たちよ、その子から離れろ」


わたしがポケットから手を抜くよりも、スキンヘッドの男の手が私に触れる寸前、新たな人物の登場で動きが止まる。

声をあげた青年は足を大きく広げこちらをビシッと指さしている。あれは決めポーズかなのだろうか。

私とスキンヘッドはいぶかしげに青年に視線を向ける。

 三者が沈黙する中。カリカリッとビスケットをかじる音だけがこだましていた。モヒカンが地面に置いていたビスケットを拾って食べていたのだ。


「そこの男たち、その子から離れろ」


なぜ二回言った。


「おいおい。おぼっちゃんよお、俺たちの仕事の邪魔をすんじゃねえよ。痛い目見る前にさっさと消えな」


スキンヘッドの男が片手に腰に下げた武器の柄に手をかけ、ガンを飛ばし青年の目の前まで歩いて行く。モヒカン男は両手にもったビスケットをかじってる。

「私が見ていた限りこれから行われるであろう行為に正義があるとはおもえない。まだ続けようというのであれば、私は君たちを断罪しなければならない」

強く凛とした遠くまで響く声でそう宣言する。そして青年は腰にさげた剣に手をかけた。


「何が断罪しなければならないだ、格好つけてんじゃねえよ」

「ぼはあっ」


先程までの凛とした姿で構えていた青年は、剣を引き抜く前にスキンヘッドの男に腹部を殴られ奇声をあげて地面に転がった。

あっさり殴られ地面に転がる青年を、殴ったスキンヘッド本人も驚きを隠せない様子だ。

あれだけ雰囲気だして割って入ったのだ、わたしを助けれるくらいには腕に自信があるのだろうとこの場にいる誰もが思っていたことだろう。

ところがどうだろう無様に地面に這いつくばっているではないか。


「ちょ、ちょっと待とう。暴力からは決して何も生まれない。まずはテーブルについて落ち着いて一から話し合おうじゃないか」


腹を押さえ、痛みをこらえる青年からはそんな言葉が返ってきた。

我に返ったスキンヘッドは。青年を袋叩きにした。


「さーて。変な邪魔が入ったが嬢ちゃんを頂くといこうじゃないか」


あの青年は一体なんだったのだろう。私を助けると期待だけさせておいて状況は数分前と変わらなっかた。ちょっとありがちな物語じみた展開を期待した私の気持ちをどうしてくれる。

結局、攫われる時間が少しだけ伸びただけ業況はなんら変わらなかったら。


「蛮行はそこまでです。不届き者たちよ、その子から離れなさい」


ほんの少し前に聞いたセリフとともに女性の声が路地に響いた。

私の前に茶髪の女の子が立っていた。さらにその前、私に掴みかかろうとしていた男の腕をつかみ取っていた。

ふいに起こった出来事にまだ思考が追いついていないスキンヘッド男に少女が動く。

スキンヘッド男の掴んだ腕をひねり上げ足を払う。たまらず転倒したスキンヘッドの顔面を、茶髪の少女の細足からは想像できない威力をもった足が踏み抜く。

うわぁ。絶対にあれは痛い。というか大丈夫?いまの死んでない?

また続けざまに蹴りを放つと、こちらに構わずいまだビスケットをかじっていたモヒカン男がおもしろいように飛んでいく。

舞い上がった砂埃に茶髪の女の子はおもむろに手を向ける。すると路地に風が吹き砂埃が消え去る。


「アニキ気をつけください。あの女は魔法使いだ」


蹴り飛ばされたモヒカンの男は受け身をとり着地すると、そう警告を口にした。

しかしその声に反応する声はなかった。


「ありゃアニキそんなところで寝てどうしたんすか?」


大事そうに抱えた袋からビスケットを取り出しかじり始めた。

わたしを庇い立つ女の子は突然ビスケットをかじりはじめたモヒカン男に戸惑いを隠せないようだ。

モヒカン男は手に持ったビスケットを食べ終え、おかわりを求め袋に手を伸ばす。

ビスケットを取り出して食べると思っていたわたしたちだったが、モヒカン頭が袋から取り出したのは鈍く光るナイフだった。


「っ!」


不意に投げられたナイフは少女の茶髪を数本切り裂いた。

さらに続けざまに二本のナイフが投げられるが、それを空中で風を纏った足がモヒカン頭に蹴り返す。

モヒカン頭はもどってきたナイフを掴み取るが、蹴り返すとともに走り出していた少女の鋭い蹴りが繰り出される。それまでの大事に片手に抱えていたビスケットの袋を放り投げると、その空いた腕でガードした。

ああ!わたしのビスケットのが!

蹴りの衝撃で後退したモヒカン頭は両手にナイフを持ち替え振りかぶり襲い掛かる。その攻撃を茶髪の少女は徒手で受け流しかわす。

ふたりは組み合い攻防を繰り返す。モヒカン頭は両手から再びナイフを投げる。それを茶髪の少女はかわすが、投げられた二本のナイフは空中で交差し、そのうちの一本のナイフの軌道をかえ襲い掛かる。

「くぅっ」

その曲芸じみた攻撃を少女は身体を逸らし回避してみせた。

しかし代償として体勢を崩してしまうが、その倒れてしまうかと思った少女の身体を風が押し上げる。

その間にモヒカン頭は落下してきたビスケットの袋をキャッチしてみせると。少女に向かい襲い掛かる。

体勢を立て直した茶髪の少女に、ビスケットの袋に突っ込んだ手を引き抜く。

少女は回避が間に合わないと判断したのか、飛んでくるナイフから身を守るために腕を盾にする。

そしてモヒカン頭はビスケットの袋から再びナイフを取り出し投げるかと思いきや、袋から出てきた手にナイフはなく、その代わり粉々に砕かれたビスケットが茶髪の少女を襲う。


「ほーれ」

「きゃっ!」


細かく砕かれたビスケットは少女のガードした腕の間をかい潜り顔を襲い視力を一時的に奪う。

モヒカン頭はそのまま少女に追撃することなく、わたしの方へ走り出しナイフを投げてくる。

そのナイフの軌道はわたしが飛び上がらなければ当たらない高さでなげられていた。

見た目と違ってやさしいね。

きっとわたしが見た目通りの少女だったならば竦んで動けない。もしパニックになって動いたとしても当たらないように投げたのかもしれない。


「あぶない!」


スキンヘッドの男の腹パンのダメージから回復したのか、無様にうずくまっていた青年が起き上がり、とっさに剣を抜きナイフを叩き落とした。

キンッ。金属がぶつかる音がなる。剣にはじかれたナイフがわたしの足元に飛んできて地面突き刺さった。

あっぶなー。

彼はわたしを守ったつもりなのだろうが、モヒカン頭がせっかく当たらないように投げてくれたのに、彼がはじいたせいでむしろ危険性がました。

しかし。モヒカン頭にどんな考えがあるのかは知らないが、先ほどのお菓子を粗末に扱ったことは見過ごせない。ましてやこのわたしのお菓子を奪っておきながら、それを食べるではなく目つぶしに使うなど万死に値する。


「お菓子を粗末に扱ってはいけませーん!」


わたしは目の前の地面に刺さったナイフを掴み取り、モヒカン頭に投げ返す。

わたしの声に反応して視線を向けた先で、ナイフを振りかぶるわたしの姿にひどく驚いた顔で見つめていた。

モヒカン頭は反撃があるとは思わなかったのだろう、反応が遅れその手からビスケットの袋を攫って行った。


「アニキ逃げるっすよ!あの女の子たち、マジやべぇ怖いっす。悪魔っすよ!」

倒れているスキンヘッドの男を担ぎ上げると、そのまま逃げて行く。。

「待て!」


青年もふたりの後を追いかけて走り出す。

追っていった彼は大丈夫かな?さっきの姿を思い返すと、追いついても返り討ちに合う未来しか思い浮かばないのだけれど。


「お怪我はありませんでしたか」


その声に振り返ると、先ほどのビスケットの目つぶしの影響だろう、涙目のを茶髪の少女が歩み寄ってきた。


「申し訳ありません。あの男たちを取り逃がしてしまいました」

「いえ、こちらこそ危ないところを助けていただきありがとうございます。なんてお礼を言っていいか」


彼女に一礼しお礼をつげる。


「お礼などいりません。か弱い少女が襲われているのを見て見ぬふりなどできません。助けるのは当然です」


こちらの世界での私の容姿はたしかに幼いが、他人から見るとか弱い少女と表現されるのか。失敬な。

そういう彼女は十代半ばを過ぎたあたりだろうか、こちらでは16歳でもう成人だというので彼女からみたらわたしは子供に当たるのか。


「ここは危ないですから教会まで私が案内しましょう」


彼女はそう言うと、わたしの手を取り大通りへの道を戻る。


「あの、追いかけていった男の方は大丈夫なんでしょうか?」

「アレス様のことですか?あの人は身体が丈夫ですので心配しないでもよろしいかと」


うーん。身体が丈夫って言われても、先ほど一発でノックアウトされていた姿を見ているからな。でも知り合いっぽい彼女が言うならそうなのかもしれない。


「ここまで来たらもう大丈夫でしょう」


裏路地の静けさとは打って変わって大通りは人も多くにぎやかだった。大通りまで戻ると先を行く彼女も緊張を解くように息をつく。


「そうだね。ひとまずここまで来れば、そうそう手を出してくる輩はいないだろうからね」

「あら、アレス様こんなところで賊はどうなされたので」

「人ごみに紛れられて逃げられたよ」


路地へ続く道の出口の壁にもたれかかりアレスと呼ばれた青年が、わたしたちを待っていた。

たしかに、この多くの人が行きかう通りで見失っては難しいかもしれない。

ともかく、善意をも助けてくれたふたりにお礼をしといたほうがいいだろうか。べつにあんなチンピラわたし一人でもどうにでもなったけど一応ね!


「お二人とも、この度は助けていただきありがとうございます。生憎いまはお礼できるような物は持ち合わせておりません。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。後日、ご挨拶に伺わせていただきます」


お小遣いでもらったお金はすべてお菓子代に消えてしまった。もちろんこのお菓子を渡すなんてもってのほか。

とりあえず名前を聞いて後はディフィニアに投げよう。きっとディフィニアならいいようにしてくれるはず!


「失礼、『白服(ノーブル)』様。申し遅れました、私は、ここ城塞都市バロゼラスを預かります領主グレイスの息子アレス・バロゼラスです」

「バロゼラス家が侍従のウィンティアでございます」


姿勢を正しいかしこまった自己紹介をするアレスとウィンティアのふたり。

こんな小娘相手にかしこまられても反応に困るんだけれど。

そんなことよりいま、なんか領主とか聞こえた。

わたし知ってる。きっとこれは、この城塞都市に起こる事件のクエストの導入だ!

この二人の好感度を上げていけば、城塞都市の地下には古代の文明が残したダンジョンがあって魔物が地上に溢れてくるとか、謎の組織が暗躍していてそれを解決してほしいとか依頼をされるんだ!


「これはご丁寧にありがとうございます。わたしはアキと言います。お二人はなぜあのような場所に?」


きっとこの二人はある事件を追っていて、路地裏を捜査中に先ほどの組織のチンピラと遭遇し戦闘の流れだ。わたしには分かる!


「アキ様が心配されるのもわかります。我々はただ買い出し中にあの通りを通りかかり賊からお守りする形となりました」

「アレス様は無様に転がっていただけでしたけどね」

「さ、最後に助けたの俺なんだけどなぁ」

「本当に最後だけでしたけどね。格好つけて出ていった割には序盤でやられてしまっていましたが、まあ囮として役に立ったと思えば」

「いやだって、あれはしょうがないんだ空気を読まない男が不意打ちしてきたから」

「だいたいアレス様はたいして強くないんですから、私の後ろで震えて蹲っておけばいいんです」

「と、ともかく。『白服』のアキ様の護衛も見当たりませんし、このまま護衛を探すよりも教会へお連れしたほうが安全と考えますがいかがでしょうか?」

「そうですね。護衛対象を見失うようなものに任せるよりも私たちで教会にお連れした方がいいかもしれません」


なんかわたし抜きで話が進んでしまっている。

しかも深刻な勘違いされておられそうなんですが。

彼らの話で出てきた『白服』とはわたしが着ている服のことを指すのだろう。この『白服』を来ていると人からは敬われるので、きっと本来は教会で位の高いひとが着る服装なのだろう。

ディフィニアに聞いても教えてくれない。多分わたしの反応を面白がっているんだと思う。以前寄った村でわたしが全住人に拝まれたとき、いい笑顔してたもんディフィニア。

さすがに察してはいるよ。わたしが着ていいような服じゃないことくらいは。

でも、わたしには服装の選択権がないんだもん。私の持っている服は下着からすべてディフィニアが用意してくれたもので、毎日ディフィニアが用意してくれてそれを着ている。

しょうがないじゃないか、もともとファッションなんて疎いのにいきなり性別が変わってしまい、女物の服を毎日自分で選んで着るなんて難易度高すぎる!

だったら他人が選んでくれた服を着ていた方がずっといい。

いやそれはいい。何が言いたいかというと、わたしは教会となんら関係をもたない。

つまりこの『白服』はコスプレ。

この世界にコスプレなんて概念は存在しないだろうから、わたしは身分を詐称しているやべー奴な訳で、教会に連れていかれては困る。

こういった世界観の教会って言ったらむち打ちとか、磔の刑、火あぶりとか。

逃げないと!


「わたしは『白服』なんて者ではありません。教会とも関係ありません」

「隠さなくてもいいですよ。僕たちは君に危害を加えるつもりはないと誓う。何があったかは聞きません。まずは安全な教会へ行きましょう」

「これでもアレス様はそこそこの地位とまあまあ学がある方なので、大司教に直接取り次げます」


その教会がわたしにとって安全ではないんだよ。

わたしが着ているローブのせいでなにやらおふたりは勘違いをされているようだが、わたしはただ本当に路地裏で迷子なっただけだ。


「本当に私はそのような大層な者ではないのです」

「わかりました。たしかに見ず知らずの私たちに話せるようなことではないですね。ですが私たち二人でアキ様を教会まで案内させていただきます」

「あ、いえアレスさま?」

「さあ行きましょうアキ様。周りの警戒を頼むぞウィンティア」

「了解しました」


ただの迷子を盛大に勘違いされたまま、わたしたちは路地裏を後にした。


「あ、あの!アレスさま、ウィンティアさん。ここまでで大丈夫です。あとはわたし一人で戻れますから」


このままでは教会に連れて行かれてしまう。どうかはやく開放してください。

いきなり『白服』の少女がやってきたら怪しいだけじゃないか。私が仮に本当の『白服』であったとしても疑われるに違いない。こんな小娘その場で拘束され、詐称の罪で処刑されたりしないだろうか。

てか何でみんな疑ったりしないのだろうか、こちらでは十歳そこそこの少女がお偉いさんってのはあるあるなんだろうか。

さすがファンタジー。こちらに来て何度目になるだろうかカルチャーショックだ。

これまでも何度か教会に立ち寄ったこともあったけど、全部ディフィニアがあれこれやって私はただ立っているだけだった。

仮になんとか騙せても教会の勝手なんてこれぽっちも知らないから、そのうちぼろが出てばれてしまう。


「駄目です。アキ様はまだ狙われているかもしれない。教会まで行けばよほどのことがない限り手を出しては来ないはずです」

「アレス様は頼りないかもしれないですが、何があっても私がアキ様を守り切りますから安心してください」


そういうとウィンティアが手を握ってくる。

子ども扱いされている。この見た目だから仕方ないが、やはり釈然としないな。

何を言っても意味がなさそうだ。

こうなったら教会に着いた瞬間に別れ、そのあとすぐに逃走しよう。いまは想定される逃走のシミュレーションをしておくことにしよう。


「アキ様は聖国の出身なのですか」

「いいえ違います」

「詮索するのは失礼だと思うのですが、アキ様はそんなお若いのに『白服』を務めているのかをやはり気になってしまって。聖国の名家の出なのかと思いまして」


あれ、もしかして疑われてる。何か話を逸らさないと。


「アレスさまもウィンティアさんも敬語ではなく、もっと普通に話してくださって構いませんよ」

「あ、ほんと?。じゃあ遠慮なくそうさせてもらおうかな。幾つになっても畏まった喋りは気がまいってしまうんだ。アキちゃんも僕たち相手に敬語で話さなくてもいいよ」

「いえ、私は普段からこのような言葉遣いでして」

「はー、僕と違って立派だね」

「本当ですね。アレス様もアキ様を見習って普段から言葉遣いを含めいろいろと考えてくだされば私は楽なんですが。あといきなり女性に対して馴れ馴れしいと思います。はあ、わたしアキ様にお仕えしたかったです」

「おいおい、ウィンティアそれはどういうことだ」

「言葉その通り受け取ってもらって構いません。アレス様はもっと気を遣うべきです。世の中言いたくても言えないことがあるんです」


彼らは主と従者の関係というよりも兄妹のように見える。

わたしは兄弟たちとは碌な会話もしていなかったなと思い返し、思わず笑ってしまった。


「ふふっ」


当の本人たちは不思議そうに私を見つめる。

しまった。突然笑い出し変な奴と思われてしまったか。


「ははは、アキちゃんもそういう年相応に笑えるんだ」

「だからその言い方が失礼なんです。すいません、不甲斐無いアレス様がとんだ失礼を」

「いえ、おふたりはとても仲がよろしいのですね」


その言葉にふたりは、アレスは嬉しそうにウィンティアは嫌そうに顔を見合わせた。


「よーし!では教会へ急ごうか」



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