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泥棒がでました!

お店を出るともう日が沈みかけていた。薄暗くなった通りにはまだ多くの人が行きかっており人探しするには苦労しそうだった。


「ツバサ。ターゲットの特徴は覚えましたか」

「茶髪で給仕服を着た若い女性だろ?」


わたしのチョコレートケーキをホール丸ごと奪って行った不届き者の特徴は喫茶店の店員さんから聞き出した。

念のためツバサが覚えているか確認するも、やはり重要なことを忘れているようだった。


「チョコレートケーキの入った青い箱を持った。を忘れています」

「あー、うん。そうだったね」

「なんですかその気のない返事は、本当にわかっているのですか? ツバサの目だけが頼りなんですよ」

「はいはい。仰せのままにお姫様」


人混みに流されないようにツバサの服の裾を掴み、盾にして進む。

わたしも探してはいるが周囲を歩く人を確認できるくらいで遠くまでは見通せない。ターゲットを探そうにもこれだけ人通りが多ければ、わたしの身長では人探しなど不可能なのだ。

この世界にきて最大の難関に挑もうというのに、文字通りわたしの目となる相棒を伺うがツバサの顔にはこれっぽちもやる気が感じられなかった。


「おっ」

「見つけましたか!?」

「これ食べていかね?」


ツバサが声を上げ立ち止まる。その視線の先に目を向けるとタレの滴る串肉を売る店があった。

ターゲットを探すのに必死で気付いていなかったが通りには飲食店や屋台の呼び込みをする声が響いており、夕食の時間も近づいており通りは美味しそうな食べ物の匂いが漂っていた。


「却下です。もお! 真面目に探してください!」


確かにおいしそうであったが、チョコレートケーキを見つけた後でいいだろ。串肉は後で戻ってきても売っているだろうけどわたしのチョコレートケーキは違う。早く見つけないと食べられてしまうのだ。

そうなってしまえばわたしの全メニュー制覇の夢が途絶えてしまうんだぞ。一大事なんだぞ。なんでツバサにはその重大さが分からないんだ!

ちなみにわたしは先程いやというほどお菓子を食べたから並大抵の誘惑には負けないぞ。


「……」

「おっと。どうした? 急に止まって」


わたしは並大抵の誘惑にはまけないぞ……。


「おい。まさかアキお前?」


飴細工をご存じだろうか。

熱し柔らかくなった飴を棒先に付けて、飴が冷めて固まるわずかな時間で手や鋏などを用いて様々な形作る職人芸。食用としてだけでなく、精巧な飴細工は観賞用にも作られるという。

そして飴細工の醍醐味と言えばその形作られる過程だとわたしは思う。


「いらっしゃい! お勧めはこちらの飴細工だよ。値は張るがお客さんの注文してくれた通りの飴細工を作ることもできるぞ」


店主が指さす先にはデフォルメされた動物の飴細工が手ごろな値段で売られていた。少々お高めではあるが他にも精巧に作られた飴細工も並んでいる。そしてその中にひときは目を引く飴細工があった。


「こちらのドラゴンの飴細工を、いまここで作ってください!」

「こいつの値段プラス実演販売の料金がかかるが、嬢ちゃんお代は大丈夫かい?」

「大丈夫です。どうぞ受け取ってください」

「毎度あり! 少し時間がかかるが最後までお付き合いしてくれよ。さあさあ皆の者!本日最大の見世物が始まるぞ! 見て行ってくれや!」


ひときわ大きい店主の掛け声に通りを歩く人々は立ち止まり、たちまち飴細工を見学する人だかりを作った。

まず大きく咢を開いた顔が作られ、鱗が並ぶ胴体から大胆に切り取られた飴は翼を形づくり、尻尾が出来上がると仕上げで細部が調整される。そして


「完成だ! 今までで一番の仕上がりだ。持っていけ嬢ちゃん!」

「ふあぁぁ。ありがとうございます! 大事に食べます!」

「おう! そいつも食べられるのが本望だろう味わってやんな。さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい! 他に注文はねぇか!」


店主は包装を被せたあと飴細工を手渡してきた。それを受け取にお礼を告げる。

出来上がったドラゴンの飴細工はずっしり重く、わたしの顔と同じくらいの大きさがある。棒を持って持ち上げるのは困難なので飴細工本体を慎重に持っている。

すごい。いまにも動き出しそうな猛々しいドラゴンの飴細工だ。鋏を用いて体を覆う鱗一枚一枚が丁寧に仕上げられている。


「いやいやいや。おかしいだろ! なんですぐに買えた串焼きはダメで、時間かかる実演飴細工はオッケーなんだよ!」


はっ! そうだった。いまわたし達はチョコレートケーキを探しているんだった。

いまのでなかなかの時間を無駄にしてしまった。ターゲットの女性もこの通りで同じくらいの時間を買い物に費やしてくれていることを願いたい。


「どうすんだよ。そんなデカい荷物増やして」

「どうしましょう? とりあえずツバサが持ってくれませんか?」

「いやだよ。自分で持てよ」


わたしの注文で人だかりができ盛り上がっている飴細工店の人混みを抜け出して捜索再開する。

このドラゴンの飴細工とても気に入っているんだけど、普通サイズの飴細工であれば棒をもって持て歩けばいいのだけれどいかんせん重いし持ちにくい。精巧に作られたがため全身を覆う鱗が持つ手に刺さってちょっと痛いし。

捜索面でも飴細工を両手で持って歩かないといけないのでツバサの服を掴んでいた手を離さないといけなくなり、ツバサを追いかける動作が加わり捜索の精度が墜ちた。

まったくこんな危険物を持たせて歩かせるなんて、ツバサはもっとわたしを大事にすべきだ。

そうだ。肩車なんてどうだろうか。捜索の目が増えるし、わたしが歩かなくて楽になるし一石二鳥? あー、でも今日ロングのワンピースだし肩車には向いてないか。残念だけどあきらめよう。

喫茶店の店員さんから聞いたターゲットが出て行った方向にただ進んでいるだけなので状況は芳しくない。

土地勘もなく手がかりも少ないこの状況で捜索は流石にこれ以上は無理かと諦め、ツバサに声をかけようとしたタイミングで前方が慌ただしい雰囲気になっていることに気が付いた。


「どうしたのでしょうか?」

「さあな。急に騒がしくなってきた」


だんだんと騒ぎがこちらに近づいてきて怒声が時折聞こえ、次第に聞き取れるようになってきた。


「泥棒が出たみたいだな」


ツバサも騒ぎの内容を聞き取ったようだ。

聞こえてくる内容は泥棒が出没したという声で、しかもこの泥棒の犯行は今日だけではなく何度も繰り返されているようだ。今日こそ捕まえてやると追って側は意気込んでいる。


「そっちに行ったぞー!」


その声が聞こえた次の瞬間頭上から人が降りてきた。


「ツバサ!」

「わかってる!」


その飛んできた泥棒はモヒカンヘアーをしており、顔は仮面で隠していた。

そしてわたしたちの目をひときは引いたのが泥棒が抱えたたくさんの盗品と思わしき品々の中にチョコレートケーキの青い箱があったことだ。


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