わたしのチョコレートケーキが奪われた!
ふと窓の外を眺めたら街が夕焼けに色ずいていた。ここに来たのは昼前だったので結構な時間をここで過ごしたようだ。
以前読んだ書籍ではこういった店で友達と集まっておしゃべりしたり勉強したりと過ごす描写されていたが、こうして体験してみると悪いものではないと感じた。
頼めば美味しい食べ物飲み物がすぐに運ばれてくるし最高の環境じゃないか。欲を言えばドリンクバーなるものを体験してみたかった。好きなドリンクを選び放題飲み放題だなんてステキなシステムのマシンだったはずだ。わたしが読んだ本には色んな種類のドリンクを混ぜてのむのがマナーと書かれていた。いつかやってみたいものだ。
「アキ。そろそろ帰らないか? 店の中で強化術式試すわけにはいかないだろ」
「そうですね。もう頼んでいないメニューも残り少なくなりましたし。すいません。こちらのミルクレープを一つください」
「帰る基準そっちかよ」
「そうですよ。ツバサはやることがあっていいでしょうが、わたしは食べる以外にすることがないのですよ」
ツバサのお勉強に付き合うわたしは超ヒマなのだ。こんなことなら本でも持ってくればよかった。本来はこんな事する予定ではなかったからな、よってわたしはツバサに教えている時間以外ですることが食べることしかなかったんだ。
「アキってこっち来てからよく食べるよな。太らんの?」
「言うに事を欠いて、女性にデリカシーのないことを言いますね。わたしはいま二度目の成長期の真っ最中ですのでご心配なく。そんなこと女の子に言うと嫌われますよ」
「心配してんだよ。それに俺がこんな事言えるのはアキくらいだよ」
「そうですよね。ツバサがわたし以外との女性と交友があるとは思えませんし、まず言う機会がありませんでしたね。すいません」
「いっ、いるし! 女との交友一人や二人あるわい!」
一人や二人ですね。わかります。
まあ、わたしも人のことを言えるほど交友が広いわけではないけどね。
「つか、アキっていま自分のこと女って思ってんだな」
「どうなんでしょうね。わたしもまだ戸惑うところではありますが、とりあえず周りが女性扱いしてくるのでそちらに合わせています」
もともと性別とか気にする環境で育っていないので精神的に性別が変わったからって困ったことはあんまりなかったかな。
でもやっぱり脱いだときが実感するかな。同じ年齢くらいの時と比べても違うよね。筋肉がなくてぷにぷにだ。あとあれ、アレがない。
そういえば最初のトイレの時が一番戸惑ったかもしれん。拭くとかしらんかった。
幸いこっち来てから常にディフィニアが近くにいたから聞いたら何とかなったし。でもなんかディフィニアの視線とかが邪悪な時があるからあんまり頼りたくないんだよな。
「アキも苦労してるんだな。相談あったらのるからな」
「そんなこともありませんよ。ですがこの機会に一つ相談してみてもいいですか」
「おう。どんとこい。俺がなんでも解決してやるぜ!」
「わたしがこの身体になってから親友の態度がよそよそしいのですがどうしたらいいでしょうか?」
「………………。その親友君もまだ変化に戸惑っているんじゃないかな」
なんだよ親友君。その長い間は。
「そうなのでしょうか。親友とわたしの関係は所詮それまでだったと考えてしまうこともあるのですが」
「そんなことない! アキと俺の関係が変わるなんてことは絶対にない!」
「本当ですか? では教えてください。女神さまがって話は聞きましたが、それ以外によそよそしい理由はなんですか?」
「そ、それはアキがかっ、ぃ――から」
「え? なんですか。すいません声が小さくて聞こえませんでした」
「だから! いまのアキが可愛くて戸惑ってんだよ! こちとらお前の想像通り女子と友達どころか授業以外で女子と話すことすらない男子学生だったんだよ! それが可愛い女の子に様変わりした親友と突然暮らすことになったんだぞ。そりゃあよそよそしくもなるさ! そういう事だよ! 分かったか!」
あー。なるほどなるほど。
ツバサはわたしが女の子になったのはもちろんのこと、可愛すぎて困惑していると。
知っていますよ。男の人は可愛い女の子にカッコイイところを見せたい優しくしたいと思うと同時に、気恥ずかしくて冷たい態度をとったり、喋りかけられると照れて素っ気ない態度をしまうんだよね。
しかし、これらの表現が物語で使われるときっていうのは。
「つまりツバサはわたしに惚れてしまったのですね?」
「ちげーよ!」
おかしい間違ったか。
ツバサから借りた本の多くにはそんな風に描写されていたはずなんだけど。まあ物語はご都合主義で成り立っているからリアルの感情とはやはり違うか。
「仲直りしましょう」
「仲直りぃ。そもそも仲たがいして訳じゃだろ。またへんな勘違いしてないか?」
「ツバサはわたしが美少女過ぎてドギマギしてしまっているのでしょう?」
「ドギマギって……。いやまあ、そうだけど」
「でわ簡単です。仲良くなるにはお互いを知ることです。ツバサが教えてくれたことではありませんか」
「あ。やっぱりイヤな予感がする。おいアキそれ以上しゃべるな」
「一緒にお風呂に入りましょう!」
「ムリ! むしろ症状が悪化するから!」
「なぜです? お互いを知るためには、すべて脱ぎ去って裸で語り合うのが一番だと教えてくれたのはツバサではありませんか」
「そうだけど! いまは前提条件が違うから! それに俺は嫌がる相手に無理強いは良くないと思うんだ」
「わたしはイヤではありませんよ? あの時は正直言ってイヤでしたが、イヤがるわたしをツバサは無理やり服をひん剝いてきたじゃないですか」
「ちょっと黙ろうか。それ以上しゃべると俺が社会的に死ぬぞ」
わたしが発言してからなにやら周りがざわつき始めたけどそんな事はどうだっていい。
わたしたちが親しくもなかったころに、ストーカーが如くしつこく付き纏ってきたツバサが言った言葉じゃないですか。あの時一緒に温泉に浸かり語り合ったのが仲良くなる切っ掛けだったとわたしは思っていたんだけどな。
「よし一考しようじゃないか。でもいまは帰るぞ! いま! すぐ! 帰るぞ!」
「あ。待ってください。まだ食べていないメニューが」
「まだ食べんかよ!」
「わたしはまだこの店一番人気のチョコレートケーキを食べていません。そしてこれを食べれば全メニュー制覇です!」
そう、まだわたしはこの店で一番人気チョコレートケーキをまだ頼んでいないんだ。
ここに来てから周りに座るお客さんたちも美味しい美味しいと食べていたチョコレートケーキはさぞ美味しいことなんだろう。わたしは最後に注文した美味しいチョコレートケーキを食べて幸せな気分で店を後すると決めていたのだ。
「大変申し訳ございません。先ほどテイクアウトで購入されたホールで最後でして、本日はチョコレートケーキは売り切れとなりました」
んな!
本当だ、ない。ないぞ! さっきまではショーケース内にあったはずのチョコレートケーキが消えてなくなっている。
ぬかった。絶対に食べ逃さないようにショーケースを見張っていたはずなのにツバサと話している隙に買われてしまっているではないか。
「店員さん。会計お願いします! 追いますよツバサ!」
「追ってどうするんだよ」
追ってどうする?
そんなこと決まっている。わたしのチョコレートケーキを取り戻すんだ! 最悪一切れだけでもいいから言い値で譲ってもらうんだ!
だってわたしは決めたんだよ! 今日この店メニューを全制覇するって!
今度からサブタイトルつける事にしました。




