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バレなければ問題ない!

「で、ですね。そのゼオさんのパーティーの話なんですが」

「ふん。どうせ美少女を囲ってるハーレムとかそんなとこだろう。聴かんでもわかる」

「たしかに今から話そうとしてる女の子は美少女でしたけど」

「……」


なんでそんなに不機嫌なんですか? 返事もしなくなったし。


「なんとその女の子は耳が長くてとんがっていたんです」


耳がのくだりで、そっぽを向いたツバサにほんの少し反応がみられた。返事はないが話はしっかり聞いているようだ。

ふむふむ。きっとツバサはいま心情的にわたしの話に興味はあるが、イケメンのハーレム要員には興味はねえよ、という感じか。


「ちなみになんですがゼオさんのパーティーには幼馴染の女性の方がいまして、お互い悪い雰囲気ではなかったです。むしろラブ?」


ゼオはともかく、恋愛経験などないわたしから見てもテレシアはゼオのこと好きだと分かったぞ。


「で、その子はエルフだったのか?」

「こちらでの事情とかもありそうでしたので直接本人にエルフどうかは確認しませんでしたが、ディフィニアに聞いたところエルフとのことです」

「まじか! エルフとかいんのか! やっぱりファンタジー世界って最高だな」


メインヒロイン=幼馴染とツバサのなかで補完されたのだろう、エルフの話に食いついてきた。

物語ではエルフが差別されていたりといったものを読んだことがあるので、折角のエルフとの出会いを険悪なものにしたくなかったのでルルには直接聞かなかった。そもそもこちらでもエルフって種族が通じるかも分からなかったし。ディフィニアに聞いたら呼称もエルフだし、差別的なものもなかった。


「耳は温かくて柔らかかったですよ」

「おまっ! 触ったのか?」

「ええ。美少女エルフのお耳のファーストタッチはわたしが頂きました」

「くそぅ! 先越された!」


なぜか悔しがっているツバサだが、美少女と美少女の触れ合いだから許されるのであって、ツバサがしたら強制わいせつできっと牢屋行きだよ。


「ツバサは最近なにか面白い出来事とかないんですか?」

「面白いはなしなー。特にないかな。いや、そういえばアキが行きたがってたゴブリンの巣の討伐依頼に同行してきたぞ」

「ええ! ずるい! なんで誘ってくれなかったんですか!?」

「だってあの依頼ビギナーランクのアキじゃ参加できなかったし」

「いつの話をしているのですか。わたしはもうノーマルランクです! ほら見てください!」


取り出したギルド証を見せるとツバサにひったくられてしまった。


「ウソだろ! 本当にノーマルのギルド証じゃないか。俺でも何か月もかかったのに何で?」

「ディフィニアが作ってくれました」

「偽造じゃねーかよ!」

「大丈夫です。ディフィニアが作ったものなので、ちょっとやそっとではバレないはずです。ツバサもどうですか?」

「……。いやダメだろ! それに偽造がバレたらギルド追放されるぞ」


むぅ。それは嫌だけどツバサがノーマルランクになるまでの期間を考えれば、わたしがそこにたどり着くまで年単位かかりそうなんだけど。だってほらわたしの本業は治癒魔法だし。英気を養うためにお菓子を食べてお昼寝もしないといけないから毎日冒険するわけにはいかないんだよね。

それに初めての冒険者になった記念に採集依頼は受けたけれど、ちまちました依頼は興味ないんだよね。


「まあまあ。わたしの話はひとまず置いといて、先ほどのゴブリンの巣の討伐依頼の続きをお願いします」

「いやいやいや! ひとまず置いとけるような話じゃないいだろ!」

「いいですかツバサ。すべてはディフィニアが勝手にやった事です。わたしは悪い魔女に唆された無知で幼い美少女です。世間がどちらを味方するなど火を見るよりも明らかでしょう」

「いやー、そうなのかな?」

「そうなんです。ささ、続きをどうぞ」


わたしは悪くない悪いのはディフィニア。それで解決だ。

わたしはただツバサの冒険の話を聞きたいだけなのに、本当にディフィニアはいてもいなくても迷惑をかける。いや本当に困った魔女だ。

どうなっても知らないからな。と前置きをしてからツバサは話を始めた。


「あれは爆符を使って日頃の鬱憤を……、呪術の自主練をしている時だった。グルマンさんに声をかけられたんだ」


呪術でなにしてんのよ。言い換えてたけど日頃鬱憤って言ったよね。ツバサってばストレス溜まってんのね。

あとグルマンさんって誰?


「グルマンさんはブロンズランクの冒険者で、ゴブリンの巣を攻略しようとメンバーを集めていたみたいなんだ。グルマンさんは破壊力のある魔法使いを探していたみたいで、バカスカやってた俺が目に留まったみたいなんだ」

「どうしてゴブリン退治に破壊力が必要なんでしょうか?」

「それな。俺もアキと同じ考えだったんだ。けどいざゴブリンの巣を目の前にして俺が間違っていたことに気付いた。ゴブリンの巣ってのはせいぜい十数体のゴブリンが穴倉にいるものだと思ってたんだけど、実際は百体を超えるゴブリンの村だったんだよ。堀もあるし高い石垣なんかも築いてあった」


うっわ。百体のゴブリンがいるとか、流石にそれだけ集まっていたら怖いわ。

てか依頼ではゴブリンの巣って表現しておいて、いざ目の前にしたらゴブリン村って詐欺じゃん。あとなんかすごい臭そうだな。


「この間わたしが見たゴブリンにはそんな知恵がありそうには見えませんでしたけど」


樹海で出会ったゴブリンはわたしという獲物を見つけるやいなや奇声を上げて飛び出してきた。あいつらに石を積んで石垣を作るなんて考えが出るるんだろうか。


「グルマンさんは曰くゴブリンも全部が全部頭が悪いわけじゃないんだとよ。稀に賢い個体が群れを率いることがあって、んで今回がそのケースに当てはまるわけだ。過去にはゴブリンが国を滅ぼしたこともあるらしいぞ。アキなら知ってるんじゃないか? ゴブリン王のなんとかっていう童話があって事実をもとに書かれているとか」


ああ。確かに読んだことあるな。簒奪のゴブリン王物語。

むかしむかし頭の賢いゴブリンがいました。から始まって。魔境で産まれたそのゴブリンは知恵を使い魔物から仲間を守り、また他のゴブリンに知恵を授けることで魔境を仲間と生き抜き、いつしか魔境の王と呼ばれるようになった。

そしてゴブリン王は魔境の魔物を率いて人の国をも征服してしまうといった物語。

子供に物事を教えるときに、この童話を用いて頭も悪く弱いゴブリンでも苦難を知恵でもって乗り越えることができると教えたり、ゴブリンであろうと侮るなかれと教えるそうだ。


「それでツバサはゴブリン村を囲む石垣を壊すために呼ばれたわけですね」

「ああ、その通り。俺が石垣を爆符で壊して掘りを登って攻め込む。しかしあれだけの物を作れるゴブリンが率いているんだから一筋縄では行かなかった。石垣を突破されるのは織り込み済みだったらしく、堀を登る俺たちを弓矢を持ったゴブリンが攻撃してきて負傷者もでるし、ゴブリンの村の中に入っても組織立った動きで攻撃してくるんだ。あのゴブリンがだぞ」


ツバサはこぶしを握り締め興奮気味に語る。


「半分くらい倒した辺りでゴブリンのボスが出てきたんだ。ほかの個体より一回りくらい大きくて身の丈くらいの杖を持ていてさ、そいつはなんと魔法を使ってきやがったんだ。呪文みたいなのを唱えると辺りに霧が立ち込め視界が遮られたところにまだ控えていたゴブリンの弓兵が一斉に打ち込んできやがった。負傷者も増えてきてきてジリ貧な状況にヤバいと思った俺はひらめいた。特大の呪力を込めた爆符を空に投げて爆発させ、その爆風で霧を吹き飛ばして晴らしてやったぜ。突然はれた霧と爆風で吹き飛ばされ動きの止まっていたボスゴブリンを呪槍を振って俺が倒したんだ!」

「ワー、スゴーイ」


そういえば煤けたツバサが帰ってきたことがあったけど、そういう経緯だったのか。

てかツバサ、呪術を爆符しか使ってないじゃん。呪槍使ってたっぽいけどどうせただの槍として振り回してただけなんだろうな。もう呪術師って名乗るのやめちゃえばいいのに。


「なんだよその気のない返事は」

「ゴブリンが魔法を使ったくだりは驚きましたよ。けれどツバサの拙い戦いっぷりを聞いてたらため息が出そうです。はぁ」

「出てる! もうため息出てるぞ!」

「なんで爆符しか使っていないのですか。霧を晴らすために爆風使うってバカですか? 他にもやりようがあったでしょうに。もう爆符使い名乗ったほうがいいいのでは」

「いや、俺も周りの空気に当てられてパニックになってさ、あの時はあれしか思い浮かばなかったていうか」

「話からするにツバサも他の方たちと一緒に掘りを登っていたようですが強化術式なり飛び越えるなり出来ましたよね。先に先行して弓をもったゴブリンを片付けたらよかったのではないですか。いつの時代の戦い方しているんですか」

「ごもっともです」

「ツバサ。率直に聞きますが、いま使える呪術はなにがあるのですか」

「……。爆符だけっす」


絶句だった。こいつ腑抜けすぎてないか。

おかしいなこっちで再会した直後は普通に使ってたのに何があったんだ。やっぱり魔法か? 呪術より魔法の方がいいのか? 魔力なくて使えないくせに魔法の方がいいのか!


「いやアキ。これには深い、ふかーい訳がありまして。言い訳しても?」

「だめです」

「ですよねー。紙とペンなんて取り出してどしたん?」

「わたしが考えていたよりも事態は深刻そうなので、いまから勉強といきましょう。帰るまでに最低でも強化術式は再習得しますよ」

「でもずっと居座るのは店の人に迷惑かかるんじゃないかなーって俺は思ったり?」

「大丈夫です。その分の注文はしますので、ツバサは気にせず取り組んでください」


わたしはコーヒー一杯で長時間いる割るような迷惑な客になるつもりはない。ツバサに教えている間にわたしがスイーツをいっぱい注文して食べて問題は解決だ。

よしっ! 目指すは全メニュー制覇だ!


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