ふわふわ?ちがいます、ふわっふわです!
「ほわぁぁぁ! 見てくださいツバサ! ほらこれ! ふわっふわでぷるんぷるんすよ!」
わたしが注文したパンケーキを揺らしながらツバサに見せる。
フォークで突くとぷるんと揺れるふわふわのパンケーキ。傍らにたっぷり盛られたクリームと色鮮やかなフルーツがお皿に添えられている。
ツバサに連れられやってきたのはおしゃれな喫茶店だった。
このまえ薬草の採集依頼の帰り道に話していた最近オープンしたという喫茶店。あの時は話を逸らすためのウソだと思っていたけど本当に存在したんだな。
「わかったわかった。こぼす前にやめとけって、ふわふわなのは十分伝わったから」
「違います。よく見てくださいこれはふわっふわです!」
「わーかったから! 周りから見られてるから静かにしろって! なんでアキは甘いものを前にするとバカになるんだ」
バカとは失礼な。甘いものの前には人類はみな等しく童心に帰るんだ。
「前世では甘味なんてほとんど口にしませんでしたから、その反動かもしれませんね?」
前世での食事は栄養はしっかり考えられていたのだろうけど味はイマイチだった。イマイチと感じたのも最近の話だけど。世の中には美味しいものが溢れていると知ったときは衝撃だった。
その中でも甘味は最高だ。いや最高なんて言葉では言い表しきれないな。極上? 至高? 言葉で表現するのもおこがましい。とにかく甘味とはこの世でもっと尊い食べ物なんだ!
「食べ物をすぐには食さず映像を撮影する方々がおられると聞いたときは驚きましたが、このような素晴らしい食べ物を前にするとその気持ちがわかります」
このぷるんぷるんと揺れるパンケーキを是非とも映像に残しておきたい。きっとこれを眺めながら寝たらお菓子の夢が見れそうだ。
「あー。いたなそういう奴らも。俺はそういうのに興味なかったからすぐに食べてたな」
「ツバサ。そういった共有する友達いなさそうですもんね」
「いるわ! ただ俺の周りは興味ない奴らばかりだったんだ」
「いたんですね。よくわたしの所に顔を出していたので友達がいなかったのかと」
「あの頃は呪術の方が知りたかったから」
「あの頃は。ですか」
ああ。出会った頃は足繫くわたしの所に通って呪術の教えてくれって言っていたのに、今となっては興味を失ってしまった。ツバサは呪術よりも魔法の方がいいのか。わたしはもう呪術はお腹いっぱいなので魔法のがいいけど。まあ、治癒魔法以外使えんのだけどね。
「あー、いやー、ははは。そんなにスイーツの動画に興味あったなら悪いことをしたな。俺も動画撮ってアキに見せてやればよかったなー。ははは」
「やめてください。そんなことされたら嫉妬でツバサを呪い殺していたかもしれません」
「……。よかった。むかしの俺は正しかった。現物のお菓子持参でよかった。グッジョブ」
でも、あの頃見せられていても食べ物の価値がわたしには分からなかったから呪い殺しはしなかったかな。
呪術の教えを乞うツバサがよく持ってきた賄賂はお菓子と書籍。娯楽というものを知らなかったすぐにのめりこんだ。
ツバサがいないときは一気に書籍を読んで理解できない言葉などは書き留め、ツバサが来てから一緒にお菓子を食べながら教えてもらう。それが終わればツバサに呪術を教えてあげる。
ああ。そういえば今頃あの書籍の続きが出るころではないだろうか、とても気になるが残念ながら文字通り住む世界が違うのでもう手にする術がない。けれどいまわたし自身がファンタジーの登場人物のような状態なので毎日が新鮮でめっちゃ楽しい。そのうち帰れるかもしれないし、それまで楽しみを取っていると思えばいいか。
「あ。ツバサ聴いてください。このまえ主人公みたいな人に会ったんですよ!」
「ほほう、言ってみろ。このツバサ、大抵のことでは驚かんぞ」
「まず剣の腕前がなかなかでした」
「ふむ。まあよくあるタイプだな」
「そして予知能力があり」
「チートじゃん!」
「まだ制御ができてないらしのですが危機的な状況では発動するらしく、その予知によって数多くの人々を救ってきた」
「そいつ絶対に主人公だわ!」
「あとすごいイケメンだった」
「はいクソォ! どうせさっき言ってた救った人々ってのも女性で、しかも美女美少女限定ってオチなんだろ! ケッ! これだからイケメンは」
「さすがツバサです。イケメンというワードだけでそこまで見抜くとは。限定とは言っていませんでしたが大体はツバサの予想通りみたいです」
どうしたん。前から思ってたけどツバサってすごい目の敵にするじゃんイケメンのこと。イケメンに誰か殺されたりしたの?
「ハッ! ま、まさかアキもそいつに助けられた。なんてことはないよな……?」
「ご名答です。何を隠そうわたしもその中の一人となってしまいました」
「アキッ!大丈夫かッ!? 気は確かか? 生活の中で何気なくそのイケメンのことを思い浮かべたり、息苦しく感じたりとか、胸がドキドキしたりとか、そういった症状はないか!?」
対面のテーブルから身を乗り出したツバサは、わたしの肩を掴むと激しく揺さぶってきた。なんなのその思春期の初恋みたいな表現方法。
それよりも今わたしは揺さぶられているせいで胸がムカムカしています。いましがた食べたパンケーキがお皿の上に戻りたいと言っている。
「そんなヘンテコな症状は出ていません。わたしはゼオさんに恋愛感情なんてこれっぽっちも感じません。ですから離してください」
「本当だな? いま言った症状が現れたらすぐに俺に報告しろ。でないと手遅れになるぞ。あとゼオって言うんだなそいつは。覚えとくぜ」
手遅れってなに?
仮にその症状がわたしに出たとしてツバサはどうするつもりなのだろうか。襲撃か? いまのツバサではゼオには敵わないからやめといた方がいいと思うけど。これを言ったらもっとヒートアップしそうだから言わないけど。




