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目覚めと共にノルンちゃん

目を覚まし部屋を見回す。誰もいない。

昨日はディフィニアに夜遅くまで付き合っていたので、すこし寝坊したみたいだ。

ツバサは朝早くから冒険者ギルドに行っている。魔物の討伐とか楽しそうなので羨ましいです。

めずらしくディフィニアもいなかった。いつもだったら私が起きたら、本を読んでくつろいでいるディフィニアがおはようと言ってくれるのだが。

まだ眠っていたい気持ちもあるがベッドから起き上がった。

背伸びをした私は、部屋のテーブルの上に置手紙をみつける。

『おはよう、アキちゃん。私は野暮用があってね、ちょっと出かけてくるよ。ツバサはいつも通りじゃ。私が帰るのは夕方になると思います。出歩いてもいいが身だしなみを整えて、髪にくしを通してからにしなさい。あと迷子にはならないように。宿の主人にはアキちゃんが起きる時間を伝えておいたから、この手紙を読み終ったくらいに使いをよこすじゃろうから早く着替えたほうがいいぞ』

この母親が書き残したような内容には突っ込まないでおこう。でも一言だけ。迷子になんてなりません!

ディフィニアも出かけていることは分かった。ということは、今日はお仕事ないのかな。帰って来てからの可能性もあるけど。

なにをして過ごそうかな。やらないといけに事はとくになし。本でも読もうかな。

まあ、時間はあるしゴロゴロしてから考えよっと。

起き上がったばかりのベッドへ倒れこむと、ふわりと髪がベッドに広がる。


「むう。邪魔ですね」


私の腰あたりまである髪が邪魔です。これでは碌にゴロゴロできない。髪を括ってもらおうにもディフィニアは不在。

いや、髪留めあれば自分でだってできるよ。ただ髪留めの場所がわからないのでしないだけ。起き上がるのもめんどくさいし。

お昼ごはんまで、このままで過ごそう。


「アキお姉ちゃーん!起きてますか?ご飯できましたよー」


部屋の扉の向こう側から少女の声が叩く音ともに聞こえた。

この声は、いま泊まっている宿屋の娘さんノルンちゃんだ。

そういえば、さっきの手紙に書いてあったな。手紙を読み終わったころに使い来ると。

ノルンちゃんには悪いが居留守をつかわせてもらおう。私はしばらくはベッドから動きたくないのだ。


「アキお姉ちゃんまだ寝ているんですか?ええっとディフィニアお姉さんからのメモだと。『もし起こしに行って返事がなくても、アキちゃんは起きているはずじゃよ。まあ本当に寝ている場合もあるから、その時は部屋に入って起こしてあげてね』だって。アキお姉ちゃん入りますね」

「おはようございますノルンちゃん!いま起きたところです。準備するので先に食堂で待っていてくれませんか」

「え、でもディフィニアお姉さんのメモだと『先に食堂に行ってと返事があった場合は、そのまま二度寝してしまうから要注意。確実に起こしてあげるように』って書いてあるよ」


なにそのメモ。もはや予言書なんじゃないかな。


「あれ?返事がない。もしかして寝ちゃったー。だめだよ、アキお姉ちゃん起きて!あーさーだーよー」


ちがうのノルンちゃん。寝ちゃったんじゃなくて、ディフィニアの予言めいたメモに絶句してしまっていただけだから。


「とーう」

「うっ」


扉が勢いよく開け放たれ小さな少女が入ってきた。

勢いそのままにベッドの上に寝転がる私へとダイブしてきた。


「おはようー、アキお姉ちゃん」

「はい、おはようございます。朝から元気ですねルンちゃん」


私は彼女が着地した腹部の痛みをこらえて笑顔で応える。


「あはは、もうすぐお昼だよー」

「そのようですね。すこし寝坊してしまいました。危ないのでベッドで寝ている人に飛び込むのはダメですよ」


いくら八歳児といえど腹部へ飛びつかれるととても痛い。しかも今の私は彼女とさほど変わらない少女なのだ。日頃から鍛えているツバサと違い、とってもか弱いのです。

私の上で足を笑顔でぱたつかせる少女は、いま泊まっている宿の主人の娘さんのノルンだ。幼いながらに宿の寝具等の洗濯とベッドメーキング担当だそうだ。


「あ、そうだ。ノルンねー、アキお姉ちゃんの朝じゃないし?お昼ごはんにはまだ早いし。そういうのなんて言うんだっけ、んーとブラ、ブラン…。そうブラジャー持ってきたよー」

「ブランチです」


そんなもの持ってこられても困ります。それにまだ私には必要ないですし。


「そう、ブランチー」


ノルンちゃんは部屋の外から待機させていたワゴンを運んできた。ワゴンに乗った料理を部屋のテーブルに並べはじめた。

食事はハムと野菜を挟んだサンドイッチとスープだった。

このサンドイッチつまんで食べるような大きさじゃないので、用意されたナイフを使って食べやすい大きさに切り分ける。

成人男性くらいであればかぶりついて食べるんだろうけど、私には大きすぎて口に入らないのだ。

配膳をおえると帰っていくと思っていたんだけど、私のとなりでニコニコと笑みを浮かべ立っている。


「お仕事にもどらなくてもいいのですか?」

「いまのノルンのお仕事はねー。アキお姉ちゃんのお世話だからいいんだよ」


お世話じゃなくて給仕と言ってほしい。


「はーい、アキお姉ちゃん。あーん」

「はむっ」


ノルンちゃんは切り分けたサンドイッチをフォークでさし、私の口元に運んで食べさせてくれた。

うん、おいしい。濃い味付けのハムとさっぱり味のソースが絶妙にマッチしている。男の料理って豪快な感じだけれど、味付けはしっかりと考えられている。

私が食べ終えると二口目が運ばれてきた。次にスプーンですくわれたスープがやってくる。


「アキお姉ちゃんこっち向いてー、お口にソースがついてるよー」

「んー」


口の端に付いたサンドイッチのソースをナプキンで拭ってくれる。


「キレイになりました。さー。残さずしっかり食べよーねー」

「あーん」

私は口をあけるとサンドイッチが運ばれ、水分が欲しいというタイミングでスープがやってきた。


「はーい。残さずに全部食べれたねー。いい子いい子」


はっ、何が起こった。

ノルンちゃんに頭をなでられ、私はふと我に返った。

ちょっと多いかなと思っていた料理はノルンちゃんの絶妙なテクニック?によってすべて平らげてしまっていた。

再度ナプキンで口元を綺麗にしてもらうと、ノルンちゃんは何食わぬ顔で食べ終えた食器を片付けはじめている。

現況に追い付いていない私は、その光景をただ眺めていた。

食器を戻し終えたワゴンを扉の前に運び、帰ってきたノルンちゃんの手には白い修道服があった。


「つぎはお着替えしましょうねー。ばんざーい」

「ばんざーい」


ネグリジェを脱がされ修道服に着替えさせられてしまった。

そして着替え終わると化粧台のイスに座らされると、寝起きの乱れた髪を整えてもらっている。

あれ?いまの状況ってなんか可笑しいよね。なのに、こうしてノルンちゃんにお世話されるのが自然としっくりくるのだ。

このままではいけない。抗わなければ。


「ノルンのお母さんがね。小さい時にいつもノルンにこうしてくれてたんだよー」


なるほど。いままでお母さんの真似をしていたのか。

でも、それをお母さんがしてくれていたのって小さい頃の話だよね。いまの私だいぶ幼い見た目だっていうのは分かってるけどノルンちゃんよりは年長さんだよ。だよね?


「やさしいお母さんでなんですね。そういえばお母様はこのお宿では働いていないんですか」

「ノルンのお母さんはねー、遠いところに働きに行っちゃたんだって」


遠いところに働きにいったか。

言葉の通りに受け取っていいものか。たしかに、ここに宿泊してからノルンちゃんとそのお父さんしか見ていない。


「そう、なんですね。もしどこかでお会いしたらノルンちゃんはお父さんのお手伝いを頑張っていましたと伝えていきますね」

「うん。よろしくねー」

「でも、まずは私がノルンちゃんを誉めてあげます」

「えへへー。ありがとうー」


髪を梳いてくれている彼女に振り向き、その頭をなでると年相応の笑顔をうかべた。


「ノルンちゃんと一緒にいると、ノルンちゃんみたいな妹が欲しくなります」

「ノルンもねー、アキお姉ちゃんみたいな妹がほしいなって思うよー」


ん?私が妹なんですか?

もしかして私ってさっきからずっと妹あつかいされていたんですか。

そのあとノルンちゃんのお膝上で歯を磨いてもらい。洗濯物を回収してワゴンを押し部屋からでていった。

おそるべし八歳児だった。



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