わたしもドラゴン退治に行きたいです!
わたしが名乗ったことにより、ゼオたちも自己紹介をしてくれた。
話題は案の定というか、アキちゃんはどうしてこの樹海に居るのかになった。そこはあらかじめ用意していた言い訳で乗り切った。
しかし帰りの話になり、わたしは一人でも戻れるといったのだがテレシアさんはわたしをバロゼラスまで送り届けると言い、それに対して反対意見を訴える人はいなかったため全員でバロゼラスへ帰っている。
「そう。アキちゃんはミルミタダケの採集依頼を受けて樹海までいってしまったのね」
彼女はテレシア・ロロッテ。このパーティーのまとめ役で魔法使いだそうだ。
帰る途中の樹海でもう一度ゴブリンと遭遇する機会があった。さっそく到来したチャンスに喜々と短剣を手に走り出そうとしたわたしが一歩を踏みだす間もなく、テレシアがゴブリンを消し炭にしてしまった。
「すいません。ミルミタダケの生息地が分からなくて、樹海なら生えていると思ってここまで来てしまいました。浅はかな行動でした。反省しています」
さらっと噓をつくのはわたし。自他共に認める美少女です。
「ミルミタダケでしたらもっと近場に生えているですよ。ルルがとっておきの場所を教えてあげるであります。今度いっしょに遊びに行きましょう」
「はい。ぜひお願いします」
わたしと手をつないで隣を歩くのはルーシア・ルメージ・ミュールベル。みんなからはルルと呼んでいるらしい。弓と矢筒を背負っている。
金髪の間からはとんがった耳が覗く、おそらくエルフ。
「冒険者としての活動は今日で二回目だったんだろ? まあ仕方ない。次回から依頼を受ける時はしっかり情報収集を怠るな。そんでもって今日は帰ったら親にでもしっかり怒られな」
わたしの頭をくしゃくしゃと荒っぽく撫でるのはウォリック・シンク。このパーティーでは一番年上でみんなの兄貴分らしい。
痛いところをついてくる。帰ったら口うるさい奴が待っているんだよな。
当初の予定ではわたし一人でも魔物なんて敵ではないんだと、ツバサに言ってその場を収めようと思っていた。
「大丈夫だよ。アキちゃんが素直に謝れば許してくれるよ。僕たちからも親御さんに言ってあげるからさ。テレシアも昔はやんちゃでね、よくおばさんに怒られてたけどきちんと謝れば最後は許してくれてたよ」
このパーティーのリーダーで名前はゼオ・クリークス。腰に下げた長剣でゴブリンを両断した剣技は見事でした。さわやか系イケメン。そして美人なテレシアさんとは幼馴染らしいです。
そしてこれからわたしがツバサに怒られる理由を作った張本人。あなたと出会うのがあと数秒遅ければわたしはツバサを黙らせたかもしれないのに。
「もうゼオ! またその話!? やめてよもう昔の話でしょ!」
「また始まりましたよ。イチャイチャするならよそ行ってくださいです」
「式には呼べよ。ただ酒たらふく飲む予定なんだから」
「もお! 二人ともからかわないでちょうだい!」
このパーティーに出会ったときはみんなバラバラで、あまり上手くいっていないのかなって思ってたけれど、こうして行動を共にしてみたら皆とても親しみやすい人たちで仲のいいパーティーだな。
ただ何故か任務中には協調性がないそうで出発前にテレシアさんがぼやいていた。
「ところでゼオさん達は、どういった依頼を受けて樹海にいたのですか? あ、お話しできない依頼内容でしたらいいのですが」
「ううん、大丈夫だよ。アキちゃんはオプソニル山脈って知ってる?」
「樹海を進んだ先に見える、あちらの山のことですよね」
私の指さした先、どこまでも広がる深緑の樹海を超えた先の山脈。
「そう、あれがオプソニル山脈。そして山脈を越えたら帝国領だ。王国から帝国に行くにはオプソニル山脈を越えていくのが最短距離だ。けれど誰もその選択肢をとらない」
「オプソニル山脈が魔境だからですね」
「そう。よく知っているね」
魔境。なんか魔物がたくさんいて人類がいけないところ、だったと思う。
知ったかぶりしてみたけど、正直よく知らないんですよね。こちらの世界を学ぶためにとディフィニアが持ってきた絵本で少し読んだだけだったりする。ある日、魔境のドラゴンがお姫さまを攫い、それを勇者さまが助けるって物語。
「何十キロと続く樹海は奥に進めば進むほど、攻略の難易度はあがる。正確に言うならば山脈に近づくほど魔物が多く、そして強くなるんだけど」
わたしたちが先ほどいた所は樹海でも浅瀬と呼ばれる場所らしい。
ゼオの説明では、世界中の数多の冒険者いれども樹海の先のオプソニル山脈を超えて帝国領まで辿り着けるのは、ほんの一握りしかいないらしい。
「けれど最近になって比較的樹海の浅いところでドラゴンを目撃したって情報があって、その調査がいま僕らの請け負っている任務なんだ」
「ドラゴンですか!?」
ドラゴン! それは生態系の頂点で空飛ぶトカゲ! 素晴らしい!倒したい!
せっかくファンタジーな世界にいるのだから、その姿を一目見てみたい。そして討伐したい! 討伐したらドラゴンスレイヤーとか言った称号的なのもらえるんだろうか。
「お! アキもドラゴンに興味がある年頃か? 俺たちと一緒に見に行くか? いざ、あいつ等を目の前にしたらスゲェ迫力なんだぞ。鋭い牙がズラッと並んだ口から発せられる咆哮なんか聞いてみろ。俺なんか以前見かけたときなんて身が竦んじまったぜ」
ガオー、とウォリックがドラゴンを真似て、わたしの頭に襲い掛かってきて髪をくしゃくしゃにしてきた。
うおー! ウォリック達はドラゴン見たことあるんだ! いいなーいいなーうらやましいなー!
「コラ! アキちゃんを怖がらせない。そんな危険な調査に女の子が行きたがる訳がないでしょ」
「いいんですか! 約束ですよウォリックさん! 絶対! 絶対ですからね!」
「あ、興味あるんだ」
乱された髪を手櫛でテレシアが治しながらウォリックを注意するが、食い気味で返事するわたしに驚いたようだった。
男も女も関係ない。ドラゴンはロマンだ。
見たい。戦いたい。そして倒してドラゴンの素材を持って帰りたい。ドラゴンは爪や牙、骨に血液、捨てるところなんてない、その身体すべてが素材になる。なんて魅力的なんだトカゲくん。
そしてなにより倒したい!
「ルルはアキちゃんを守るために後方で待機しているでありまーす」
「サボる気満々じゃねーか」
「せめて援護はしてほしいかな。でも危なくなったらアキさんを連れて逃げてね」
あれ? あれれ? この雰囲気はまさか本当に連れて行ってくれる流れですか?
ああ、女神さま。今日ゼオさんに巡り合ったのはこのためだったのですね! ありがとう女神さま! ありがとうゼオさん! あとロリコンって思ってごめんなさい。
「待って! なんで連れていく流れになってるのよ。そんな危険な場所にアキちゃんを連れていけるわけないでしょう!」
しかし、ここでパーティーの常識人枠のテレシアさんが立ちはだかる。
しかし、こんなまたとないチャンスを逃してなるものか。
「テレシアさん。わたしドラゴン見てみたいです。連れて行ってくれませんか?」
必殺。幼さ全開でいまにも零れ落ちそうな涙を目に溜めた上目遣い。
「うっ」
「おねがい。テレシアおねえちゃん」
テレシアさんの服の裾を指先でつまんで、置いていかないでアピールも追加する。
「ううぅぅぅ……。だ、ダメよ! やっぱり危ないから連れていけないわ」
ざーんねん。わたしの必殺技は、あともう少しのところまで追い詰めるもテレシアの鉄の意志を前に敗れてしまったようだ。
「ごめんね。悪い大人たちが唆すから期待させちゃったのよね。アキちゃんがもう少し大きくなって思いが変わらなかったら、その時は一緒に行きましょう」
「ありがとうございます。それと無理を言ってすいませんでした」
作戦失敗。
失意の中のわたしは、されるがままテレシアさんに頭をなでられあやされていた。
悪い大人たちはテレシアから向けられる鋭い視線から逃れ、離れたところで今夜の晩ご飯の話題で盛り上がっていた。
「もし見つけて倒せたらルルがアキちゃんにお土産にウロコを届けてあげるです」
「ルルさん! ありがとうございます。あと小さいのでいいので牙もお願いします。それと肝とかもお願いしたいです。血液も少量でいいので。ええっと。あと……」
「おおう。盛りだくさんですね。できる限りアキちゃんのご要望に応えれるように、ルルがんばるでありますよ」
若干ルルさんに引かれてしまったような気はするが、ドラゴンの素材が手に入るなら些細な問題だ。別れるまでに、ほしいものリストを作って渡しとかないと。
ゼオたちに今までの冒険の話を聞きながらの帰り道では残念ながらトラブルもなかった。バロゼラスに近づくにつれ、日も暮れあたりは薄暗くなりはじめた。
「ゼオさん。お聞きしてもよろしいです?」
「ん、なんだい?」
「ゼオさんに助けていただいたときなんですが、たしか予見通りっ言っていた気がしたのですが、どういう意味なんですか?」
「ああ、それか」
少し気になっていたことがあった。ゼオがゴブリンを倒したときしゃべった言葉だ。『予見通り』。
言葉通りの意味であれば、あの場所でわたしとゴブリンと対峙することを知っていたということなんだろうか。
「アキちゃんはギフトって知ってる?」
「たしか、先天的に特殊な力をもって産まれた人のことですね」
「そう、それのこと。僕はギフトを持って産まれた。ギフトの名前は『予見』。少し先の未来を見ることができる能力なんだ」
え、なにそれすごい。さらっと教えてくれたけど、とんでもない能力なのでは。
「でも僕が知りたいタイミング未来を見れるんじゃなくて、突然このあと起きる出来事がふと頭に浮ぶって感じなんだ」
「もし好きな時に使えるようになればゼオさんは最強の冒険者になれますね」
「ははは。確かにそうだね。使いこなせるようになれば最強にもなれるかもだ」
「いやいや。本人はこう言っているが、俺はもう使いこなしていると思うぞ。だってゼオの『予見』が発動するときは大体、今日のアキみたいな女の子に危機が迫っている時だ」
「そうして危機を救われ、落としてきた女性の方は数知れず。テレ姉ぇという人がおりながら、あちらこちら各地の女性を惚れさせる最低なスキルでありますよ」
「ちょっとウォリック!? それにルルもその言い方は誤解を生むからやめてよ!」
「そうよ。そんなことないわよ。今までだって私たちのピンチを救ってくれたこともあるじゃない。たしかに他の女の子のピンチを救うほうが圧倒的に多いけれど」
テレシアはゼオをフォローしておいて自分の言った言葉にヘコんでしまった。
そこにルルとウォリックがからかい始める。
生まれ持ったスキル『予見』で女性のピンチの時に颯爽と現れ助ける。しかも顔はイケメンとか。
なるほど。この世界の主人公はゼオってわけか!
「ゼオさんゼオさん」
二人にからかわれるテレシアさんを苦笑気味に見ているゼオの手引っ張る。
「どうしたの?」
すこし悪戯心が湧いてきたので、わたしは不安げな表情を浮かべ問いかけてみる。
「わたしもゼオさんに惚れてしまうのですか?」
「ええ!? いや、誤解だけよ! さっきの話はウォリックとルルが大げさに言っているだけで『予見』にはそんな力はないからね」
年端もいかぬ少女からの純粋な質問に面白いほど慌てるゼオ。
本人は知らぬことだけれど、わたしから獲物を奪ったことはこれでチャラにしてあげよう。
今日一番の大慌て方を見せるゼオさんに、みんな笑ってしまった。
「あれ?このケガは」
ゼオの手に切り傷があるのを見つけた。
「本当だ。気づかなかった。たぶん樹海で走った時に引っかけたのかな? まあこれくらいすぐに治るから大丈夫だよ」
ゼオは何でもないように笑う。たしかに傷は浅く切っただけで瘡蓋ができて出血もすでに止まっている。
しかし樹海で走ったときってことは、ケガをしたのはわたしを助けようしたせいか。もちろんそうじゃない可能性もあるんだけど。
「あれれ? ゼオ兄ぃケガしているでありますか? もー。しょうがないですね」
理由はなんにせよ、わたしのせいでケガをさせてしまったのはいい気がしない。
わたしはゼオの手に触れると治癒魔法を使った。
下書きストック尽きたので次回から毎週投稿はできないかもしれません。
あと誤字報告くださりありがとうございます!今日気付き訂正しました!




