ひとりでピクニック!
バロゼラスを囲む城壁を抜け、途中までは整地された街道を歩いてきたがオプソニル山脈の手前の樹海まで来ると獣道が続いていた。
依頼に取り掛かる前に、休憩がてら宿屋で作ってもらったお弁当を食べる。本計画のため昨夜に前もってノルンちゃんにお弁当を頼んでおいたのだ。今日もとっても美味しかったです。ごちそうさまでした。
さて。休憩もとりましたし冒険者としてのおしごとをしましょうか。きっといつものわたしならばヘバっていそうだけど、今日のわたしはやる気がみなぎっておりいつもとは違うのだよ。
今回の依頼のターゲットを求め樹海の中を進む。
「ありました」
茂みからのぞいた先にある、フサフサの茶色の毛が生えた丸いフォルムがひょっこりとふたつ覗いていた。
あちらが今回の依頼のターゲット。
「これがミルミタダケですね」
オレンジ色の傘に茶色の毛が生えているのが特徴のミルミタダケ。
干して水分が抜けたミルミタダケを粉末にすることで医薬品として使える。
依頼では20本とあるが、わたしの調合用にもいくつか取って帰ろう。
実は最近錬金術にハマっているんだ。監禁中とってもヒマで退屈していた時にディフィニアが怪しげな薬を作るのをお手伝いしていたら、思いのほか楽しくて熱中してしまった。
昨日使った爆薬もその時に作ったものだったりする。まちがえた小瓶に詰めた爆発魔法。
かつて偉人は言いました。高度に発達した錬金術は魔法と区別がつかない。そうあれは魔法と言っても過言ではありません。つまりわたしは魔法使いなのだ!
さて、さすが手つかずの自然が多い樹海、あちらこちら薬草やら植物が生えている。全部取り放題、全部無料という環境は素晴らしいな!
でも残念ながら名前のわからないものも多くあり勉強不足を痛感してしまった。次回来る時までにいっぱい勉強しておかなければ。いまスルーしたおぞましい色のしたキノコはもしかしたら貴重な素材だったのかもしれない。道端に生えている雑草だと見逃していては一流の錬金術師もとい魔法使いにはなれないからな。
けれども分かるものもある。たとえばこのライネ草はすり潰し傷口に塗り込めば止血効果がある。たとえばこちらの木になるギシャの実。煮詰めた灰汁を使い整腸剤が作れる。白い花弁が美しいペータルブリークは球根がしびれ薬の素材になったりする。
本で見たことがあるものが目も前にあり、書かれた通りの特徴で、似た植物との見分け方がこうして実際に見て触れてみて分かる。用意された素材を使うだけじゃなく、素材から集めてってのも楽しいな。早く宿に帰って採取した素材を使って調合してみたい。
ああ、でも残念なことがある。わたしのお子さまボディではたくさんは持って帰れない。なので厳選する必要があることだ。
そしてなにより今からが本日のメインイベントはこれからなのだから、大荷物を持っての行動は避けたい。
いままでわたしが採取依頼に甘んじていたのは表向きのすがた。真の目的は魔物の討伐なのだから!
あのオッサンは私を討伐任務にはいかせてはくれない。理由はわたしの見た目が幼いから。子供はダメ。なんてお役所仕事、だからあの年齢で受付業務なんだ、きっともう出世コースから外れてるのだろう。今度会ったらやさしくしてあげよう。
あの時わたしは冒険者ギルドで考えた。一生懸命考えた。そして思いついたのだ。
依頼受けなくても魔物倒しに行けばいいじゃないか。
でもそれだと趣がないので、ミルミタダケの採取の依頼を受けた。
樹海まで来なくても近場でミルミタダケは採れるが、まだ子供なわたしはそのことを知らない。さて、どこでミルミタダケはとれるのだろうか。幼いわたしは考えました。さっき話していた樹海にならばミミルダケあるのではないか。そんな考えに至ってしまったのだ。こうして私はひとりでここまでやってきてしまったのだ。
と、いう設定。
こうして無事に依頼を受けれたわたしは、わざわざ離れた樹海までミルミタダケを採り来て無事に依頼達成をしたのだ。そして次のシーンは依頼を達成し、意気揚々帰る道すがら少女は不運にも魔物に襲われてしまうという悲劇が起きる。
「旅の序盤といえばスライム、もしくはゴブリンなどが相応しいのですが。いったいどこにいるのでしょうか?」
序盤といえばスライムかゴブリンだよね! でも序盤からボスとか出てくる展開もわたしは大好き。まあ、そういったのは大抵負けイベントなんだろうけど。わたしならチュートリアルでボスを余裕で倒してしまうであろうが、そんなことをしてしまうと物語がそこで終わってしまう。それではおもしろくないので今回は序盤の魔物で知られるような弱い魔物を探している。
「いました。あれはゴブリンですね」
きた!ついにやってきました。魔物とのファーストコンタクト。この世界にきて何度も遭遇してきたがあれはノーカン。わたしは今ここで初めて魔物と遭遇しました。何を戯言を言っていると黒髪のへっぽこ呪術師が言ってきそうだが、一切の異論は認めません。
茂みからのぞいた先に緑色の肌をしたゴブリンが3体彷徨っている。
体長は一メートルほどだろうか、それぞれ襤褸をまとっている。手には棍棒と錆びた剣を持ったのが二体と素手が一体。ゴブリン語?なのだろうか低い鳴き声をあげ、あたりを見まわしながら進んでいく。こちらにはまだ気付いていないようだ。
理想でいえばあちらがわたしを見つけて襲ってきてほしかった。ゴブリンが戦いを挑んできた!みたいな場面が良かったんだけれど。
ゴブリン相手に文句を言っていても仕方ない。代わりにこちらから不意打ちで仕掛けようと背後に回り、短剣を抜き茂みから踏み出した。
パキッ!
しかし不運にも落ちていた枝を踏んでしまった。静かな樹海に枝の折れた音がはっきりと大きく響き渡る。
音に気付き振り向いたゴブリンは、わたしを視界にとらえると奇声をあげこちらに走り出してきた。バタバタと走り出したゴブリンの足はそれほど速くないかった。先頭はさびた剣を持ったゴブリンだ。その剣を振り上げ叩きつけるようにわたしに振り降ろす。
赤い血しぶきがあがる。
「ギギャァ!」
先頭だったゴブリンは剣で切り裂かれ悲鳴をあげる。
後方のゴブリンも弱そうな小さな獲物相手だと油断し醜い笑みを浮かべていたが、先を行くゴブリンが簡単にやられた驚いたのだろう、その動きが鈍ったゴブリンも二体とも同時に切り伏せられた。
短剣を構えたままわたしは、倒れ伏せるゴブリンを呆然と見下ろした。
ゴブリンが絶命したのを確認し、わたしの獲物を横取りした男が振り向いた。
「大丈夫? 怪我はない?」
その男はイケメンだった。年齢は二十代くらいだろうか、長剣に付いたゴブリンの血を払い、振り向きざまにこちらを安心させるようなあまい微笑みを浮かべていた。
突然の出来事にわたしはまだ理解が追い付かず言葉を失った。




