しゃば?の空気はおいしいです!
「悪いがわしは今日、別行動をとらしてもらうからのう」
そう言い残しディフィニアはツヤツヤ顔でそそくさと部屋を出ていった。朝からちょくちょく帽子の角度を気にしてたのは出掛けるからだったのか。
わたしは返事する気力すらなく、ベッドに突っ伏してディフィニアに返事代わりにひらひらと手を振った。
着替え中は締め出されていたツバサをノルンちゃんが呼びに行きディフィニアと入れ違いで部屋へと戻って来た。
「やっと終わったのか。大丈夫か」
「ええ、大丈夫です。さあ、切り替えていきましょう。嫌なことは忘れて楽しい記憶で上書きします。わたしの冒険はこれからなのです!」
何十という服を脱いでは着てを繰り返し、わたしの意思は無視して約二時間もの間ずっとディフィニアたちの着せ替え人形と化していた。途中ドレスやメイド服とか着せられたときはどこに向かっているのかと心配になったが、最終的に丈の長いジャケットに短めのスカートの下にはレギンスにブーツを履き、ちゃんと冒険者っぽい仕上がりになった。
ベッドから立ち上がり自分の姿を確認すると、いまから冒険しに行くと思うと失われていた気力が湧いてきた。
すでにディフィニアの『アキちゃん脱出不可能結界』が解除されていてわたしは久しぶりに部屋の外に出て自由の身となった。
「アキお姉ちゃん。これ持っていってくださいー」
「これは?」
宿の一階の出入り口に通じる食堂まで下りるとノルンちゃんが待っていて包みを手渡してきた。
「お弁当だよー。お昼にツバサお兄ちゃんとたべてくださいねー」
「わあ。ありがとうございます」
お弁当を受け取り、忙しい中急拵えしてくれたであろうお弁当の作り主である厨房で他の宿泊客の料理の下拵えをしているノルンちゃんお父さんにもお礼を告げる。腕まくりした袖から覗く筋肉質な手がサムズアップを返してきた。
宿からでると久しぶりに直に浴びる日差しに目を細めた。軒先は人で賑わっていた。
「やっぱり外の空気はいいですね」
「そうか、街の中の空気がいいとは思はないけど」
「そう思えるツバサは幸せですね。ツバサも一度監禁されてみたらどうですか、そうしたらわたしの気持ちが分かることでしょう」
「人聞きの悪いことをいうな。それにあれはアキが悪いだろ。心配する身にもなってくれ」
「だからって監禁はやりすぎですよ」
「監禁を連呼するのはやめろ。周囲の目が痛い」
晴れて自由の身となったわたしはとてもいい気分です。幸せのお裾分けで荷台を引く元気のない馬を撫でて治癒魔法を使った。たちまち元気になった馬は御者の制止も聞かず猛スピードで走り去っていきました。
「ふふ、元気なのはいいことです」
「限度ってもんがあるけどな。いつもよりだいぶ遅くなってるから急ぐぞ」
「ええ、行きましょう」
わたしの行動に呆れた顔で言い、そそくさ先を行くツバサを小走りに追いかける。
それにしても女性はなぜスカートなんてものを穿くのか。走っているとひらひらと揺れ動くスカートをみて疑問に思った。
こちらにきて男から女の身体になってもう何度もディフィニアに着せられてきているがいまだに慣れない。当然だが今までスカートなど穿いてこなかったものだから扱い方が分からない。
座るときは足を閉じるとか、階段を上がるときは後ろを気にかけるとか、座るとき皴にならないよう気を付けろだとか、ディフィニアに何度も注意を受けてきたがついつい忘れてしまうことが多々ある
わたしも下着を見せびらかしたいわけではないので気を付けよう。でも今日は激しき動いてもスカートの下には履いているから大丈夫だ。
ツバサは親友が隣でスカートを穿いて歩いている事についてなんて思っているのだろうか。そういえばこれまで聞いたことはなかった。
「ツバサ。どうですこの服似合っていますか?」
ツバサを追い越して行く手を阻む。
さあ、スカートを履いてかわいいポーズを決める元男の親友の姿に戸惑うがいい。
「ん?ああ、似合ってる。可愛いと思うぞ」
はあっ!
恥ずかしげもなく平然と真顔で返すツバサに、思わずこちらが恥ずかしくなって顔真っ赤にして背けてしまったではないか。このままではわたしの初々しい反応見せてしまったと勘違いされてしまう。
いやいや。それよりなんで平然と可愛いとか言っちゃってんのコイツ。こんな往来で恥ずかしくないの。もっとこう、な、なにいってんだよ、とか戸惑う姿を期待していたのに、可愛いと思うぞ、じゃないよ。バカなの。
「あ、ははは。ありがとございます。それにしても今日はいつにもまして暑いですね」
「そうか?今日は涼しいくらいだけど」
ぱたぱたと手で顔を扇ぐわたしのとなりを歩く男は、どこぞの物語の鈍い主人公かなにかか。わたしは決して攻略可能ヒロインではないぞ。他所をあたってくれディフィニアとかディフィニアとか。
「ずっと監禁されていたので運動不足なのかもしれませんね」
「いい加減監禁言うのやめてくんない。言っておくがあのへんてこな結界はディフィニアが最近アキちゃん成分が足りないとか言って勝手に張ったやつだから、俺は一切関わっていないからな」
はっ、なにその新情報。あんの魔女そんなくだらん理由でわたしを閉じ込めてたの?
「ツバサ戻りますよ。ディフィニアをギッタンギッタンにしてやります。手伝ってください」
「そう言っていつも返り討ちにあってるだけどな。そもそもアイツがどこ行ったか知らないだろ」
「確かにそうですけど!たまには仕返ししたいじゃないですか!」
「だったら口きかなきゃいいじゃねぇの?その方がアイツに効きそう」
「なるほど採用します!今夜からそれでいきましょう!」
自分で言うのもあれですがディフィニアはわたし大好きで激甘なのでこれは効くはずだ。謝ってくるまで絶対に口きいてやんないからな。わたしがどれだけ苦しい思いをしたか思い知るがいい。
「では先を急ぎましょう。未知なる冒険がわたしを呼んでいます」
ツバサの手を取り冒険者ギルドまでの道を走る。伝説の冒険者アキの物語はいまから始まるのだ。




