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プロローグ


[2022.12.18すべて加執修正し再投稿]

寝台に横たわる少年は苦しそうに呻いていた。その傍らに立つ少女がいる。少年の汗ばんだ額に少女は手をかざす。

その手からは淡いひかりが輝き、薄暗い部屋を照らした。


「もう大丈夫です。これでお子さんの病は治りました」


部屋を照らす光が収まり、少女がそう言い振り返ると、固唾を呑み見守っていた少年の両親は寝台に駆け寄った。

母親は少年の手を取って泣き崩れ、父親がその肩を支える。その目もまた涙を浮かべ少年を見ている。

長い闘病生活を終えた少年とその家族の幸せそうな様子を、少女は微笑みを浮かべ確認する。声を押しころし穏やかに眠る少年を見つめ、幸せを噛み締めるかのように頬を撫でる両親の邪魔をせぬよう少女は静かに立ち去る。

軋む扉をゆっくりと開け部屋の外に出る。目立つ修道服を隠すため着ていたローブのフードを目深く被り直した。


「お待ちください。なんとお礼申したらいいか。あの子が病に倒れ、町の医者にも手の施しよう

がないと言われて、都市部の大きな教会に行こうにも息子の体力が持たないから断念していたました。正直もう息子のことは諦めていました」


家族の前では弱音を吐かず、強がり気丈に振る舞っていた父親も、とうとう目から涙を流した。


「そんな折にあなた様が現れた。死を待つばかりだった息子の命を救ってくれた。ありがとうご

ざいます。本当にありがとうございました」


振り返った少女に深く深く頭を下げる。少年の父親からあふれた涙が地面を濡らす。


「あたまを上げてください。私は大したことなどしていません。旅の途中たまたまこの町に訪れただけ、そこに救える命があるのなら救うのが当たり前です」

「あなたは我々家族の命の恩人です。僅かながらですがこちらをお持ちください」

「いいえ、結構です。そのお金でお子さんに栄養のある食事を食べさせてあげてください。病は治りましたが、数日中は安静にしてくださいね」


そう言い残し振り返ることなく、少女は夜の闇の中に消えていった。




「おつかれさま、アキちゃん。治療の方は順調だったかな」


滞在している宿に戻ると大きなとんがり帽子で顔を覆い、ソファでうたた寝していた少女が私を出迎えた。


「順調も何も魔法を使って、ただ手をかざしただけではないですか。私はあれが治療なんて言っていいのか前々から疑問です」

「アキちゃんのは特別なんじゃよ。さっきの子の病は教皇や聖女クラスでないと治せないような代物だ」

「その方たちのどれくらいすごいのかよく分かりませんが、あの男の子の患っていた病すごさは分かりました。両親やほかの住人は大丈夫なのでしょうか」

「幸い伝染するような病ではない」


ソファから気だるげに立ちあがった少女はディフィニアという。この世界では魔法を極めたものに与えられる魔女の称号を持っているらしい。見た目は少女の姿で、だぼついた黒いローブに、大きなとんがり帽子がチャーミングポイントの背の低い魔女である。

見た目と年齢は一致しない。年齢はもう数えていないそうだ。

ディフィニアはとんがり帽子を近くの椅子の背に掛けると、嫌らしい笑みを浮かべ近づいてきた。


「ほれほれ、いつまでフードを被っておる。もう周りの目はない、脱いでも大丈夫じゃぞ」

そういうと私のフードを無遠慮に取り払う。取り払われたフードからは美しい金髪がふわりとこぼれた。前髪からのぞく真紅の瞳はディフィニアをにらみつける。

「別に周りの目が気になるから被っていたわけではありません」

「知っておるよ。しかし四六時中フードを被っていてはこの綺麗な髪が傷んでしまう」

「髪がどうなろうと私の勝手です。大体この髪は長すぎやしませんか」


太ももあたりまで伸びた髪をひとつまみし呟く。先ほどまで着ていたローブはディフィニアが颯爽と取り去ってしまった。

ディフィニアはローブを手早く畳み終えると、アキを化粧台の前まえの椅子に座らせられる。アキの乱れた髪を櫛で丁寧に梳きだした。


「アキちゃんはこんなにも綺麗な女の子なのに、着飾りもしないなんてもったいないではないか」

「あなたは人を着飾らせる前に、自分の身なりを整えてはいかがですか」

「これが我々魔女の正装なんじゃよ」


ディフィニアの着る野暮ったい黒いローブを鏡越しに見やり呟く。されるがまま髪を梳かれる私はため息を小さくついた。

鏡に映る自分を見る。さらさらで綺麗な金髪、人の心を魅了する、吸い込まれるような真紅の瞳。少々幼いが、誰しもが認める整った容姿をしている。

不満たっぷりな雰囲気を隠しもしないで静かに座っているのは抵抗してもムダだと思い知っっているからだ。最初ころは力いっぱい暴れて抵抗した。しかし私とあまり変わらない体格なのにどこにそんな力があるのか、いつも力ずくで抑えられる。うまく逃れた時には魔法を使い拘束され、こうやって化粧したり髪を弄ってくる。


「んふふふ、睨んでいるのだろうがアキちゃんがすると可愛らしいだけじゃよ。それに私はこのローブが大変気に入っていてね、片時も脱ぎたくないのさ」

「前々から言おうと思っていたのですが、そのローブ少しくさいですよ」


してやったり。小さく笑みを浮かべる私の後ろで、櫛を化粧台に置き、少し距離をとり慌ててローブの裾を持って匂いを確認する魔女を確認する。

本当に匂う訳でわないが、このままディフィニアのペースに乗せられるのは面白くないので意趣返ししただけだ。それに彼女が同じような黒いローブをたくさん持っているのは知っている。


「長い時を生きる魔女さんでも、そういう事も気にするのですね。大丈夫ですよ、匂うというのは嘘です」

「こーらー、この私をからかうとこうじゃぞー」


からかわれていると気付いたディフィニアは、私の脇腹をくすぐり始める。


「きゃあ!ちょ、ちょっと、やめてください。いやっ、どこを触っているんですか。相変わらず力つよいですね。あっ、んんっ。や、やめなさいディフィニア!」


脇腹をくすぐっていたディフィニアの手はゆっくりと移動していき、私の服の中へ両手を侵入させてきた。下腹部と内股をいやらしい手つきで撫でてくる。


「悪い魔女を夜に敵に回すとどうなるか思い知るがいいさ」


耳元で呟かれ、身をよじる私の耳をさらにディフィニアは唇で甘噛みする。

抵抗できない私を抱き上げベッドまで誘い覆いかぶさる。


「いっただきまーす」

「いただきますじゃねーよ、淫乱魔女が」


私が貞操の危機を本気で感じた次の瞬間、覆いかぶさるディフィニアの脳天に槍の柄が振り落された。

悪い魔女はベッドから頭をおさえながら床を転がり落ちる。

叩いた槍を担ぎ直し、痛みに悶絶しているディフィニアを尻目に私は助け起こしてもらった。


「ありがとうございます。助かりましたツバサ」


ベットから立ち上がり乱された服を正し、私を魔女の毒牙から救った男を見る。

背が高く、整った顔立ちでこの世界では珍しい黒髪の青年だ。名前はツバサ。アキとは旧知の仲である。


「一応確認しておくが助けてよかったんだよな」

「ええ、もちろんです」


くぐもった奇声をあげ転がる魔女を冷たい目で見やり、当然のことを聞いてきたツバサの方も軽く睨んでおく。


「お帰りなさい。怪我はありませんでしたか」

「今日は軽く見て回っただけだから心配されるようなことはなかった」


椅子に腰かけ防具を外しながら答える青年を、念のため怪我をしていないかを確認する。


「そう言ってツバサはいつも無茶をするのですから心配なんですよ」

「アキを元の世界に戻すその時までは死なないから安心しろ」

「もう、そういうところを私は心配しているのです。私が帰るときは貴方も一緒ですからね」

「ああ、そうだな悪い。言い方が悪かった」


ツバサの言い方に厳しい口調で注意する。精一杯凄んでみせたが、そんな私の姿になにがおかしかったのか、ツバサは笑って謝罪を口にした。

自分よりも私を優先するツバサの悪いクセだ。今に始まったことではない。少々言い足りないが、ひとまずこれくらいにしておく。

テーブルに用意されていた紅茶を口にする。髪を梳いている間に飲めるようにディフィニアが用意してくれたものだ。ややあって少し冷えていたが味は絶品であった。


「無駄に長い時を生きているだけあって、いつ飲んでもとてもおいしい紅茶の入れ具合ですね。評価します」

「そうじゃろう。なにせ過去、私が苦節百余年もかけ、この世界の食事情を改善したのだからな。その茶葉も私がいちから手掛けたものじゃ」

「なるほどこの美味い紅茶が飲めるのも、ディフィニアさまのおかげってわけだな。これからは


食事の前にディフィニアに祈りをささげてから食べるようにしよう」


「そうじゃ、この世の食に関わることはすべて、このディフィニア様あってのものといっても過言ではないな。わははっ」


転げまわってローブと髪を埃で汚したディフィニアは、いつの間にか立ちあがっいて、腕を組みでふんぞり返っていた。


「まあツバサ。せっかくディフィニアさまがいれてくださった紅茶が冷えてしまっています」

「ほんとうだ。入れたてだったならば、さぞかし美味しいだろうに」

「ふふん、いいじゃろう。少しまっておれ、ふたりに最高の紅茶を飲ませてやろう」

「ディフィニアさま。私はあまいお茶請けのお菓子が欲しいです」

「ほれ、今日焼いたクッキーじゃ」


私たちはからかっているのだが、当の本人は賛称されていると勘違いし、テキパキとお湯を沸かしお茶の準備を進める。

ティーセットを準備するディフィニアは、いつの間にか埃で汚れていた服はきれいになっていた。

鼻歌まじりで用意を進めるディフィニアは、テーブルの上がお茶会といった具合に仕上がった。


「さて、では優雅なお茶会といこうか。隠された、6つの宝珠を集めくそったれ女神にもう一度各々の願いを叶えさせ、帰還の方法を聞きだす」


女神。この部屋の中にいる三人に少なからずの感情を抱かせる言葉。アキは悲しそうに顔を顰め、ツバサは顔色を変えはしないが瞳の奥に確かな強い意志を秘める。ディフィニアは獰猛な笑みを浮かべ、しかし無邪気に語る。


「そして私の復讐を叶えるための作戦会議を」


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