表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

美しき骸

作者: hakujo

あるところに大層美しい兄妹がおりました。


麗しい容姿、立派なお屋敷、素晴らしい使用人に囲まれた美しい生活。


しかし、彼らには親と呼べる存在はおりませんでした。


だけれども二人は決して寂しさなど感じたことはありません。


お互いが最愛で唯一だから。


しかしこの兄、妹に対して少々、いえかなり歪な感情を持っておりました。


歪みに歪み、回りに回った運命の末路は一体どこへ辿り着くのでしょう。






---------------------------------------------------



沙夜(サヤ)、おいで。」

「はい、透夜(トウヤ)お兄様。」


今宵もお兄様はわたくしをご自分の寝室へ招き入れてくださいます。

広すぎる空間にあるのは大きな天涯付きの寝台と一脚の椅子だけ。


アラベスク模様の大きなペルシャ絨毯の中心に置かれた椅子は、カーテンが全開れにされた窓に向いている。

アンティークなこの椅子がわたくしの、わたくしだけの特等席。

たっぷりとクッションの効いた座面は、背もたれと同様のビリジアンのベロア地が貼られている。


そこにお兄様にエスコートされるまま腰を下ろす。

月光がわたくしの顔を青白く光らせていることでしょう。


いつも通り上質なシルクのシャツと黒のパンツ姿のお兄様は、わたくしの背後に立ちつむじにやさしくキスを落としてくださいます。

その感触だけでわたくしは全身が粟立ってしまうのです。

続いてお兄様はわたくしの長い艶やかな漆黒の髪に指を通すのです。

その際、冷たい指先がうなじを掠め、思わず身じろぎしてしまいます。

それに気付いているのかいないのか、お兄様は通す指を更に深くします。

何度も、丁寧に丁寧にわたくしの髪に手櫛を通すのです。

お兄様の唇がわたくしの髪に触れている。お兄様の息遣いをこんなに近くに感じる。

ふふ、お兄様ったら息が荒げてきてますわよ?わたくしに欲情してくださっているのですね・・・。


「ああ、本当に美しい・・・。この美しい髪を大事にするんだよ。私の可愛い可愛い沙夜、愛しているよ・・・。」

「わたくしもです。愛しています、お兄様。」


お兄様はわたくしを心から愛してくださっています。それはもう髪の毛一本に至るまでも。


わたくしを愛でながら愛を紡ぎ合う。

一つの動作も一字の言葉も違えず、毎日同じことを繰り返す。

それがお兄様とわたくしの日々。






目を覚ますと自室のベッドに寝ていた。

毎夜お兄様の寝室に出向くが、いつも睡魔に負けてしまい気付けば自分のベッドで朝を迎えるのが常である。

(また寝てしまったわ。眠気に負けてしまうなんてまるで子供ね。今夜こそ、今夜こそきっと・・・。)

愛し合う男女がそうであるように、自分たちが身体を重ねたいと思うのも当然のことである。そしてそれは近いうちに必ず叶うはず・・・。


「お早う御座います、沙夜お嬢様。」


ベッドの傍らには侍女の汐里(シオリ)がカーディガンを持ち立っている。


「おはよう、汐里。」


汐里は数年前からわたくし付きの侍女として仕えている。

恐らく20代前半だとは思うが、きっちりとまとめられた栗毛や化粧っ気のない顔から色恋とは無縁な印象を受ける。

基はいいのにもったいない。

ベッドから抜け出しカーディガンを受け取って羽織ると汐里に問われる。


「お嬢様、本日のお召し物は如何致しましょう?」


「確か今日はお兄様がお休みの日よね?近くの森まで散歩に行きたいから動きやすいものがいいわ。」


そう告げると朝食を摂るために部屋を出た。






「お兄様!早くこちらにいらして!とてもきれいな花が咲いているの!」

「沙夜、花は逃げないからそんなに慌てなくて大丈夫だよ。」

「だって久しぶりにお兄様とゆっくり過ごせるのが嬉しくて。」


そういうとお兄様がやさしい笑顔を向けてくれた。

二年前に亡くなった御父様の後を継いで、会社の経営をしているお兄様はとても忙しい。こんな風に二人で過ごすことなどいつぶりだろう。

とその時、足元の段差に気付かずバランスを崩してよろけた。

間一髪で転ぶことはなかったが、近くの雑木にぶつかってしまった。


「痛っ!!」


痛みを感じた左頬に指を当てると若干ではあったが血が付いた。どうやら木の枝でかすったらしい。


「沙夜っ!!」


珍しく大きな声でお兄様がわたくしを呼ぶ。

ああ、心配させてしまったわ。


「大丈夫ですわ、お兄様。少しかすっただけです。」


そう言ってもお兄様の表情は固い。

顔に傷を付けてしまったのだから驚かれるのも当然かもしれない。

ふとお兄様がわたくしの瞳とは違う場所に視線を送っていることに気付く。

視線の先をたどると、わたくしがぶつかった木であった。

そこには漆黒の絹糸のような髪の毛が数本絡みついていた。

先ほどの衝突時に絡まり抜けてしまったようだ。


次の瞬間、パンっという破裂音とともに右頬に衝撃を感じた。

(えっ・・・?)

それがお兄様にぶたれたためだと頭が理解するまで数秒要した。


「なんてことをしたんだ!髪を大事にしろといつもあれほど言っているだろうが!!」


突然の怒号に肩がびくりと上がる。

お兄様は見たこともないほど顔を蒼白にし、目を吊り上げ、握られたこぶしは震えている。

その様相の恐ろしさに思わず後ずさると、お兄様はハッとして俯いてしまった。


「ああ・・・ごめんよ、沙夜。驚かせてしまったね。でも私は君のことがとても大事なんだ・・・。」


「ええ・・・。わかっておりますわ、お兄様。わたしの方こそはしゃいでしまってごめんなさい。」


動揺を隠しながらそう言うとやさしく髪を撫でていつものように微笑んでくれた。

その後「もう戻ろう」という言葉に従い、わたくしたちは無言で屋敷までの道を歩いた。

数歩先にある背中を見つめながら先ほどの出来事を反芻する。

(どうしてお兄様はあんなに怒ってしまわれたのかしら・・・。心配してくださるのはわかるけど、なにもぶたなくても。それにあの言葉・・・。わたくしを案じているというより、髪を傷つけたことに激昂してらしたようだわ。頬の傷にはまったく触れて下さらなかったし。まさかね・・・、傷はきっと気付かなかっただけよね。)


屋敷に帰り鏡を覗くとやはり左頬に傷ができていた。それは見逃しようのないほどはっきりと赤を刻んでいた。


その日の夜、まるで何事もなかったかのようにお兄様はわたくしを呼んでくださいました。


「沙夜、おいで。」

「はい、透夜お兄様。」


わたくしはというと昼間の出来事が気になり、少々緊張しておりました。

その反面、今日こそはお兄様と身体を重ねたいと思い、寝間着の中にはサテン地のとっておきの下着を身に付けて参りました。


「ああ、本当に美しい・・・。この美しい髪を大事にするんだよ。私の可愛い可愛い沙夜、愛しているよ・・・。」

「わたくしもです。愛しています、お兄様。」


いつもと変わらない繰り言。

そしてわたくしはいつもと同じく気付けば深い眠りに落ちていました。







「お嬢様、悩み事でも?」


そう口にするのは、数月前からわたくしの教師として屋敷にきた男、黒江(クロエ)だ。

顔は美しいがニヒルな笑い方をするため好きではない。ついでに言うと胡散臭い話し方も嫌いだ。


「悩みなどありませんわ。」


そう言って目の前の課題を続けるため、視線をノートに落とす。


「おやおや、冷たいですね。でも私はお嬢様の疑問にすべてお答えすることができますよ。なぜ毎夜お嬢様がいいところで眠ってしまわれるのか、とかね。」


「っ!?どうしてそんなことを知っているのです!?」


黒江の言葉に思わず顔を上げる。


「くくくっ。とてもいいお顔ですよ、お嬢様。そう警戒なさらないで。安心してください、私だけはあなたの味方です。」


「意味がわからないわ!まるでわたくしに敵がいるかのような物言いね!」


「だっておかしいでしょう?毎晩毎晩同じ時刻に眠気が来るなんて。」


・・・それについては一度も疑問に思わなかったわけではない。ただ、あの暗闇だし、お兄様に触れられるのが心地いいからだと自分を納得させていた。


俯いて黙っていると、黒江が核心的な言葉を発した。わたくしの嫌いなニヒルな笑みを浮かべなら。


「・・・あなたは薬を盛られているんですよ。」








「お嬢様、起きてください。」


あのあとわたくしは結局この男、黒江の言葉を信じ協力を仰いだ。

彼の話によるとわたくしの部屋に焚かれる香に催眠効果があるらしい。

今夜もいつも通りお兄様の部屋に行きそして眠りこけてしまったようだ。

そして今黒江にたたき起こされたのだ。

時計に目をやると1時を示していた。


「こんな夜中になにがあるというのです?」


目をこすりながら眠気からくる不機嫌を遠慮なく黒江にぶつける。


「まあまあ、すぐにわかりますので。参りましょうか。」


そう言って導かれたのはお兄様の寝室の前。


「何が見えても決して声を上げてはいけませんよ?」


突然耳元で囁かれ鳥肌が立った。もちろん不快で。

後ろを振り返りギッと睨むとあの嫌な笑みがあった。



小さく呼吸を整えてからお兄様の寝室の扉に耳を当てる。

中から話し声が聞こえる。


こんな時間に誰といるのだろうと疑問に思いながら扉を少し開け中を覗く。

室内は灯りがともされていないが煌々とした満月の色で照らされている。


寝台の上に人らしき影。

天蓋の影で薄暗いがどうやらそれはお兄様のようだ。

暗さに目が慣れ、その場の情景を把握し始める。

そこには白いシーツを羽織ったお兄様が膝立ちのような状態で下を向いている。

そしてその視線の先にもう一つの人影が仰向けで横たわっている。


一言二言ことばを交わしたあと、お兄様の上体がゆっくりと下降しもう一つの人影と重なった。

次の瞬間、突如お兄様の身体が揺れ始めた。

その振動によりお兄様の肩からシーツがはらりと落ちる。

わたくしの目に飛び込んだのは、あられもない肌の色。

そこには一糸纏わぬ姿で獣のようにもつれ合う男女があった。


衝撃のあまり声を無くしたわたくしは、お兄様の背中に爪を立てている女を無意識に確認した。

嬌声を上げながら振り乱す髪が月光に晒される。その色は栗色。毎日近くで見ているので間違えようがない。それは汐里のものだ。


扉から逃げるように後ずさると背中が何かにぶつかり、両肩を痛いほどの力で掴まれた。


「逃げてはいけませんよ?お嬢様。しっかりと現実を目に焼き付けるのです。」


「ああ、汐里、愛しているよ・・・。」

「ふふふ、あなたはどなたにでもそう仰るので信用なりませんわね。あんなに幼い妹君にまで仰るのですから。」

「誰にでもだなんて心外だな。沙夜・・・あれは、そうだな。わたしの欲求を満たすための戯言だよ。心から愛しているのは君だけだよ、汐里・・・。」

「まあまあ、お嬢様がお聞きになったら泣いてしまいますわよ。」

「もう無駄口はいいから黙って・・・。」


なに?なにが起こっているの?戯言って?


脳内の処理がまったく追い付かず茫然としていると溜息のような声が聞こえる。

お兄様の律動が速度を上げたようで、それに合わせ女の嬌声が響く。

既に目を覆ってしまったためその光景は視界に無いが、それにより聴覚は余計に敏感になり、聞きたくないものを拾ってしまう。

漏れ出る二つの吐息、身体のぶつかり合う音、艶めかしい水音・・・。


「透夜っ・・・さま!なかに、中にくださいませっ・・・!!」


「ああ、わかっている・・・。もう・・・くっっ・・・!」







自室に戻りぺたりと床に座り込む。


「くくくっ、いかがでしたか?」


反応しないわたくしに黒江が更に言葉を投げる。


「お嬢様、お約束の種明かしですが、あなたの部屋に睡眠薬を仕込んでいるのはあの侍女です。あなたが睡魔に負けてしまった後、透夜様のお夜伽を受けるためにね。」



ぼんやりとした頭でそれを聞き流したとき、わたくしは閃きました。



「わかったわ!お兄様はわたくしとの戯れのあと情欲の捌け口として汐里を使っているのね!本来ならわたくしがお相手するのにあの女のせいで眠ってしまうから!お兄様も男ですもの、欲情しているときに誘惑されたら誘いに乗ってしまいますわよね!先ほどの言葉も興をさまさないためのお芝居よ!それにしてもあの女、おとなしそうなふりして姑息な手を使うわ!でも気持ちはわからなくないわ!あんなに素敵なお兄様だもの!心は叶わなくても身体だけでも手にいれたいと思うのは無理ないわ!心はわたくしのものだもの!わたくしだけのものだもの!そうよ!絶対そうだわ!」


一息に吐き出すと呼吸が上がっている。

それは誰に確認しているわけでもなく、自分自身に言い聞かせるためのものだった。

しかし、それに答える声が一つ。


「くくくっ、そうですね。私もその通りだと思いますよ、お嬢様。さて、あの侍女はどうしましょうね?」


「汐里はもういらないわ!あなたの好きなようにして。」


「”好きなように”だなんて嬉しいなあ。でもねお嬢様。種明かしはまだ終わっていないんですよ?お兄様のとっておきの秘密・・・知りたいでしょう?」


黒江の瞳が妖しく光った。

その言葉に心臓へ血液が一気に集まる気がした。


「とっておきの秘密・・・?」


「ええ、そうです。最高のショーをご用意いたします。主役はお嬢様、あなたですよ。開演は明日の夜・・・。ではごゆっくりお休みください。」


その声が呪文のように脳髄に響き、瞬く間に睡魔に襲われた。






翌日目覚めると傍らにいるのは汐里ではない侍女だった。

どうやら実家に帰省したということになっているようだ。

でもそんなことはどうでもいい。

お兄様の秘密を早く知りたくて知りたくて夜が待ち遠しい。


闇が訪れた。


「沙夜、おいで。」

「はい、透夜お兄様。」


いつも通りの夜である。

違うことと言えば、わたくしが睡眠薬の影響を受けていないことと、寝間着の袖の中に手鏡を隠し持っていること。

これだけでショーは完成するらしい。


「いいですか、お嬢様。あなたはいつも通りの時刻になったら眠りに落ちたフリをするのです。そしてしばらくしたら手鏡で透夜様の様子をご覧ください。」


夕食後、わたくしの部屋を訪れた黒江はそれだけ告げるとどこかへ行ってしまった。

それのどこがショーになるのだろうか?


いつも通りお兄様が愛でて下さる。いつも通り愛を語り合う。一語一句違えずに。

掛け時計がボーンボーンと低く鳴り、0時を告げている。

わたくしはいつもこの鐘の直後眠りに落ちてしまう。

黒江に言われた通り、頭を支える首の筋肉を緩め、寝息を立て寝たふりをする。


「・・・沙夜・・・眠ったのかい?」


お兄様の低い声が耳元で囁く。

身じろぎしそうになるのを必死に抑え込む。


しばらくすると衣擦れの音がする。

(なにをしているのかしら?)

身体はそのままで不思議に思っていると、耳元に荒々しい息遣いを感じた。

それと同時に髪を弄ばれる感触。


「ああ、沙夜!はあ、ああ、なんて美しい・・・!」


(まさか!お兄様、欲情していらっしゃるのね!?)


自分を思い乱れるお兄様の姿を想像しわたくしの身体も熱を孕みはじめた。

しかし、次の言葉でその熱は急激に去って行った。


「ああ、なんて・・・なんて美しい髪なんだ。」


(え・・・?髪?)


「もう、いっそ沙夜を動かない人形にしてしまいたい・・・。はあ。そうすれば髪を傷つけることもないだろう?髪をすべて刈ってかつらにするのもいいかもしれない・・・。ああ・・・。」


独り言のように、荒い息とともに言葉が漏れ出ている。


訳がわからない。しかし、鏡を持った手はゆっくりと動き出し核心に迫ろうとする。

見てはいけないのだ。見てしまったらきっとすべてが終わる。

そう知っていながらも手は止まることなく、やがて手鏡が背後に立つお兄様の姿を映しだした。


そこには何も纏わず生まれたままの姿でわたくしの髪に顔を埋める愛する人がいた。

表情は淫らに歪み、情欲を隠すことなく溢れさせている。


震えながら、しかししっかりとその情景を把握しようと鏡の中に瞳を巡らせる。

お兄様は熱に溺れているのか、わたくしの動きにまったく気付いていない。

先ほどから規則的に

ダメだ、見てはダメだ。頭の中で警鐘がうるさいほどに鳴っている。

しかし確認しないわけにはいかない。そして、ついにその音源をわたくしの瞳が捕えた。


お兄様の下腹部、熱くなった自らの猛りをわたくしの長い髪に巻き付け、扱いている。


絶句した。


ああ。ああ、そうなのか・・・お兄様が愛しているのはわたくしの髪だったのか。髪だけだったのか・・・!

お兄様はいつも愛おしそうにわたくしに触れて下さる。わたしくしの髪だけに。

わたくしの頬に、手に、唇に、触れて下さったことは・・・一度もない。

ましてや瞳が交わったことすらない。


「ああ、あぁっ・・・!」


一際大きな嬌声が響いた。

その瞬間、ガタっと椅子を立つ。


静かに後ろを振り返ると、お兄様が尻もちをついたような状態で寝転がっている。

表情は驚愕に満ちている。声も出ないほど衝撃を受けたらしい。

露わになった萎えた茎を隠そうともしない。

床には吐精のあとがはっきりとある。


「知っていたわ・・・。知っていたのよ。お兄様がわたくし自身を見て下さっていないことくらい。」


そう言った声は自分でも驚くほど冷たかった。


そうよ、わたくしは知っていた。

知っていながら愚かな妹を演じていたのは、お兄様を本当に愛していたから。


床のお兄様を見下ろす。月明かりの青を受けたその姿はなんとも滑稽で・・・愛おしい。


「黒江、いるんでしょ、出てきなさい。」


「くくくっ、はいお嬢様、いかがいたしました?」


「お兄様を動けなくして。」


「!?くくくくくっ、承知しました。」





わたくしの特等席だった椅子には今、お兄様が座っている。


さきほどのまま何も纏わない姿で。

ああ、一つだけ身に付けておりましたわ。猿ぐつわだけ。

両の手足は黒江により椅子に縛りつけられている。

まるで傀儡のよう。とても可愛いわお兄様。


「お兄様、わたくしお兄様に愛され愛でられることがとても好きでした。だけれどもわたくし気付いてしまったの。愛でられるよりも愛でる方が性に合ってると。」


そう言って寝間着の裾をつまみ、向かい合うようにお兄様の膝に乗る。

下着は先ほど脱ぎ去った。


お兄様は目を血走らせ、頭を必死に振り乱し、なにかを唸っていらっしゃる。

でも、おしゃべりはさせてあげない。だって最近のお兄様は楽しくないことばかり仰るんですもの。

大丈夫、お話しできなくてもわたくしは寂しくないわ。ここにお兄様がいてくれるだけで幸せだもの。


「あ、そうそう。お兄様の玩具だった女はお人形さんにしておきましたの。だってもういらないでしょう?捨ててしまってもよかったのですけど、着飾ったら案外綺麗に出来上がりましたわ。褒めてくださいませ?」


そうしてお兄様の両頬をやさしく手で挟み、顔を寝台の方へ向けさせる。

そこには真紅のドレスを身に纏った汐里。

肌は青白く、呼吸音などするわけがない。だって人形になったんですもの。

まあ、お兄様ったら涙がでるほど喜んでくださっているわ。


慈愛に満ちた笑みを浮かべ、髪でお兄様の胸元を撫でる。

お兄様の身体が大きく跳ねて、萎えていたはずの茎が一気に天に向かう。


「ふふっ、お兄様ったらこんなに変態でいらしたなんて知らなかったわ。でもわたくしはそんなお兄様も愛しているわ。」


そう言って髪で頬をくすぐると、茎ははち切れそうに主張する。


「ねえ、お兄様?これからはわたくしがたっぷりとお兄様を愛でて差し上げますわ。」


次の瞬間、わたくしはお兄様の猛りに腰を埋めた。

身体を二つに裂くような痛みと共に充足感が湧く。


「ああ・・・お兄様っ!この瞬間を待ちわびていましたのっ!」


お兄様の苦悶しながらも恍惚とした表情が堪らない。

堪らなくなりお兄様の首に長い長い髪を巻く。

動くことができないお兄様の代わりにわたくしは自身の欲望のままにのたまう。

お兄様の絶頂が近いことを察し声を掛ける。


「さあ、お兄様。イってよろしいのよ?」


それを合図にしたかのようにお兄様の身体が大きく痙攣する。

その震えをしっかりと体内に受け止めながら、お兄様の首に掛けた髪を力いっぱい絞め上げる。

お兄様の白磁のような肌に漆黒が食い込み美しい。

みるみるその肌が赤黒いうっ血色へと変化していく。

その色をもっと見たくて渾身の力を込め絞め上げる。

するとお兄様の全身が壊れたカラクリ人形のように強く震える。その強い刺激により私も果てた。


「ああっ!お兄様お兄様・・・っ!!!!」


悦楽から覚めたころ、お兄様の心臓は脈を打っていなかった。








「くくくくくっ。齢12の少女がここまでするとは。人間とはどこまでも恐ろしい生き物だな。」


男が屋敷の一つの窓を見上げながら呟く。

全身を黒に包んだその男が屋敷に背を向けて歩きだしたと同時に、先ほど見上げていた窓から真っ赤な炎が吹き出した。





欲にまみれ欲に溺れた愚かな者たち。

一度狂った歯車は戻すどころか、坂道を転がる林檎のように奈落へと落ちるのみ・・・。


フェチ男シリーズ、第三弾『髪フェチ』でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] フェチ、禁忌、狂愛の極みこの物語に見ました! 最後は破滅ですが、どこか耽美な泥沼もいいですね。
2013/12/13 20:09 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ