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真っ白な愛を君に  作者: mia
本編
7/14

第6話 越えられない関係

文化祭でも保健の先生に…(以下略)

ごめんなさい!


 11月も終わり。紅葉していた葉で埋め尽くされていた木々は枝のみの寂しい景色となった。高校最後の体育祭、文化祭が終わってしまった3年生は大学に向けて勉強するのみだ。

 「未亜未亜!」

 「ん?」

 教室移動の途中、蓮実が窓の外に何かを見つけたようだ。

 「陰険眼鏡が…」

 「小埜先生がどうしたの」

 ひょいっと窓から外を見下ろした未亜は、校門の所に立つ小埜を見つけた。


 何してるんだろ


 ふと、小埜に隠れて見えていなかった人物が現れた。遠目からでも綺麗な女性だと分かった。色素の薄い髪を無造作に風に流したその女性は小埜に向かって何かを話しているようだ。小埜が首を横に振ると女性は怒ったように封筒を突きつけ、しばらく話して去って行った。見えなくなるまでその背中を見送っていた小埜は、やがて封筒を手に学校に戻ってくる。

 2階にいる未亜たちは気づかれないように歩き出した。

 「あの女の人、あいつの彼女なのかもしれないわね」

 「彼女…」

 「何か喧嘩してたみたいだけど、何を渡されてたのかしら。もしや浮気現場の証拠写真…!?」

 弱点を掴んだ、と勝利の笑みを浮かべる蓮実の隣で未亜は考え込んでいた。


 恋人いないってタコ先に嘘ついたのかな


 病院で偶然耳にしてしまった小埜のプライベート。あれは本当ではないのだろうか。

 何だかよく分からなくなって、未亜はこっそりと息をついた。



 今週は保健室に一度も行かなかった。そして今日は金曜日。6限目の授業は英語だ。


 「じゃあ、次の文を――神城君、訳して」


 意識が飛んでいる神城を目ざとく見つけた阿久津があてる。

 「神城くん。起きて。あてられてるよ」

 後ろの席の未亜が背中をとんとんと叩くと、神城がびくりと体を揺らす。

 「…あ、何?」

 振り返って尋ねてくる神城に、未亜はため息をつく。

 「違う。前見て」

 「え?…あ、やべ。すいません」

 壇上に立つ阿久津を見た神城は頭を下げた。

 「別に構わないわ。英語がとても優秀だったお姉さんを持っているくらいだから、寝ててもこれくらいすぐに訳せるわよね?」

 阿久津は神城の英語力がかなり低いことは知っている。知っている上で圧を掛けているのだ。黒い微笑みを向ける阿久津と、黒板に並ぶ英文に耐えられなくなったのか

 「…すいません勘弁して下さい」

 降参した神城をクラスの皆はやれやれと笑って返す。阿久津も呆れたように笑い、後ろの未亜に目を向けた。

 「もういいわ。桐原さん、お願いできるかしら」

 「はい」

 「ありがとう。神城君からもお礼を言いなさい」

 「…さんきゅ」

 「どういたしまして。〈駅でジョンを待っていたその女性は――〉」

 未亜は立ち上がり、あてられた文の訳を答えた。

 「Perfect.いいわよ。今までの所で質問がある人は?」

 未亜が席についたのと同時に離れた席にいる蓮実と目の前の神城が手をあげた。

 「…坂本さんと神城君、何かしら?」

 阿久津は二人の答えをもう知っているかのように顔を引きつらせた。


 「「全部分かりません」」


 綺麗に揃った声に、教室中が爆笑の渦に巻き込まれる。

 「お前らやべえよ!」

 「毎回毎回、逆に尊敬するよ」

 クラスメイトからのからかい混じりの励ましを受けた二人は悔しそうに


 「うるさいわね!あたしは英語を理解するのが遅いだけよ!早弁は上手く出来るんだからね!」

 「うるさいな!俺は英語を見たり聞いたりしてると眠くなるだけだ!他はまだ寝ないからな!」


 同時に言い始めて同時に言い終わる。

 「お前ら何を…」

 芹河が顔に手をあててため息をつく。

 「…二人とも、突っ込むべき箇所が多すぎて何も言えないんだけど」

 「え、何を」

 「え、何が」

 「……桐原さん、私も全く同意見だわ」

 阿久津の呟きの後に、再びクラスは爆笑に取り囲まれた。



 「何でこんなことに…」

 「それはこっちの台詞。神城くんの所為で祥子先生に監視役頼まれちゃったじゃない」

 あの授業の後、神城と蓮実は阿久津に呼び出されて課題を手渡された。蓮実は自宅でやってくると約束し、さっさと帰ってしまった。一方神城に至っては、途中で寝てしまったり忘れたりするのを考慮した阿久津が学校で済ませることを命じた。ちょうどそこを通りかかった未亜に白羽の矢が射られてしまい、神城が課題を終わらせるのをアシストするよう頼まれたのだ。

 「阿久津先生はお前のこと気に入ってんだから仕方ないだろ。馬鹿扱いされるよりか良いじゃん」

 にっと笑う神城の集中を戻そうと机の上のプリントを指で叩く。

 「口より手を動かす」

 「…お前、阿久津先生に似てきたな」

 夏に起こった騒動以来、阿久津とは気まずい関係を保っていたのだが、ある出来事をきっかけに急速に打ち解けることができた。

 「話してみると結構面白い人だよ。気が合うし」

 「あの大福とかいう猫だっけ。あいつを散歩させてる時に阿久津先生に会ったんだろ?」

 華里大学の管理員に引き取ってもらった大福。時々キャンパス内で見かけると、未亜を覚えている大福はとことこと近寄ってくる。



 ある日、図書館の周囲を大福を抱えて歩いていたところにちょうど本を借りに来ていた阿久津と出くわした。未亜の腕の中にいる大福を、いつもは厳しい表情の阿久津が目を輝かせて見ていることに気づいた未亜は大福を抱いてみるかと声を掛けた。

 『…いいの?』

 『どうぞ。人見知りしない子ですから』

 しばし躊躇していた阿久津は堪えかねたように大福に手を伸ばした。

 『可愛い!』

 まるで少女のような表情の阿久津を、未亜は目を丸くして見ていた。

 『猫、好きなんですか?』

 『ええ。実家に5匹いるの。しばらく会っていないけど』

 『5匹も!?まさに猫天国ですね!どんな猫さんですか?』

 それからキャンパス内の英国式庭園で猫談議を繰り広げ、未亜の地域猫コレクション集や阿久津先生の実家の猫の写メを肴に語り続けた。



 「俺だって猫好きなのにさ」

 「それは阿久津先生も知ってると思うよ」

 「じゃあ何で俺にだけ厳しいんだよ。あ、また間違えた」

 消しゴムを手に取る神城を眺めていた未亜は可笑しそうに言う。

 「神城くんは猫みたいだからつい可愛がりたくなっちゃうんだって。それを抑えるためにわざと反対の態度を取ってるんだよ」

 「…聞かない方が良かった」

 「でも、祥子先生が冷たくするのは神城くんのあまりの出来の悪さに苛々してるのもあると思うよ」

 「それも安心していいのかどうなのか分かんないんだけど。また間違えた」

 「さっきから間違えすぎ。…あ」

 前のドアをガラリと開けて顔を出した人物に、未亜は声を上げた。

 「ん?誰だよ」

 神城は未亜の方を向いているので、誰が来たのかを把握できていない。そして振り返ろうともしない。

 「何だお前ら。久し振りに顔を見たかと思えば、居残りさせられてたのか」

 「私は違いますもん」

 ようやく誰なのか分かった神城は英文と格闘しつつ疑問を口にする。

 「小埜先生こそどうしたのさ。ここには俺らしかいないよ」

 未亜と神城のそばにやって来た小埜は未亜の隣の席に腰掛けた。

 「小埜先生?」

 「気にするな。暇つぶしがてら人間の観察だ」

 「まだ帰らないんですか?テスト勉強週間で部活休みですよね」

 未亜の問いに小埜はすっと目を細めた。

 「別に。溜まっている仕事を家で片づける気にもなれなくてぶらぶらしてただけだ」

 「何だよそれ。俺は今すぐ帰りたいのに」

 「神城くんは課題終わらせないと帰れないんでしょ。頑張って、後少しじゃない」

 「あー最後の問題長すぎ。もう無理。ギブ」

 のけ反って天井を見上げる神城に「しょうがないな」と未亜が自分のペンケースからシャーペンを取り出した。

 「一度にまとめて訳そうとするから分からないんだよ。この文の主語はここ、動詞はここ。主語を詳しく説明しているのがこの部分って区切っていけば―」

 丸や四角、括弧で文をいくつかに分割し、その下に記号を書き足す。神城は食い入るように目で追う。

 「まずは部分ごとに訳してみて」

 「あいよ」

 姉からのお下がりの電子辞書を使って、神城は部分ごとに訳をし終える。

 「うんうん。後は意味が通るように並びかえればいいの。関係代名詞の訳し方には気をつけてね」

 「えっと…こいつは主語の前に来て、これはこっちで――」

 難しい顔をしながらも文を組み立てていく神城。未亜と小埜はその様子を見守る。

 「……できた!全部終わった!」

 神城は笑顔で立ち上がった。

 「良かったね。だいぶ掛かったけど」

 時計はもう6時を指している。

 「やべ。阿久津先生に提出してくる。家まで送るから待ってろよ」

 「え、ちょ…」


 置いてかないでよ


 猛ダッシュで行ってしまった神城に茫然としていると、小埜に見られていることに気づいた。

 「…何ですか。そんなに見ないで下さい」

 「気にするなって言っただろ」

 「気にします」

 小埜は頬杖をついたまま優しい笑みを浮かべた。

 「お前もたまにはしっかりしてるんだな」

 「どういう意味ですか、それ」

 「機嫌を悪くするなよ。褒めたんだ」

 「むむぅ…」

 頬を膨らませている未亜を見つめる瞳が、ふと悲しげに揺れた。

 「…先生、何かあったの?」

 「何でもない。…何でもないんだ」

 小埜はそのまま黙り込んでしまう。


 私、先生のこと何も分かってないんだ


 踏み込めない領域が歯がゆくて、未亜はただ何も書かれてない黒板を眺める小埜の横顔を見ていることしかできない。

 「…先生の誕生日っていつですか」

 「急になんだよ」

 「いえ、何座なのかなあって思って」

 「…1月10日」

 黒板から視線を下ろした小埜が呟いた。

 「じゃあ、みずがめ座ですね。そっか、冬生まれだから名前が―」


 雪生なんですね


 そう言いかけた未亜は不意に口を噤む。いや、噤むというより塞がれたのだ。小埜は無機質な瞳をして、未亜の口に手のひらをあてていた。


 「呼ぶな」


 どうして?あの女の人は、呼んでたじゃない。遠くからでも聞こえた


 『――さいよ。いいわね、雪生!』


 どうして私は呼んじゃいけないの?先生、あの人は誰なの?

 私の知らない先生がどこかにいる。そんな当たり前のことを、今だけは信じたくない


 聞こえてきた騒々しい足音に、神城が戻ってきたのだと悟った小埜が手を離す。

 「桐原。阿久津先生にOKもらった。やっと帰れるよ」

 後ろのドアから入ってきた神城は自分の席にある鞄を持つ。

 「…神城くん。筆記用具持って帰らないの」

 引き出しの中に放られたままのペンケースを指さすと

 「今日はもう勉強したくない。俺にしては頑張ったもん」

 だからいいだろ、と神城は未亜の机の上に何かを置いた。

 「何よこのチラシ…こ、これは!」

 「ミイラパンダのクリスマス限定ケーキだってさ。阿久津先生が、桐原に渡しとけって。あ、これも」

 ポケットに入れていた物を取り出した神城から渡されたものを受け取った未亜は表情を輝かせる。

 「ミイラパンダのヘアゴム!阿久津先生当たったんだ!」

 雑誌の懸賞コーナーでミイラパンダグッズの特集をしていたのをたまたま見つけた阿久津は、親切にも未亜に知らせてくれ、更に一緒にハガキを出してくれたのだ。未亜はブランケットを希望したのだが、人気があるため当たりそうにない。賞品のヘアゴムは、赤いゴムにフェルト製のミイラパンダの頭がつけられていた。

 「ショートの私はつけられないからあげる、ってさ。今日のお礼なんじゃない」

 「良い人だなあ、祥子先生は…」

 ちょうど下ろしていた髪を手ぐしでまとめて、横に1つでまとめて結う。

 「じゃーん。どうどう?」

 「うん。似合ってる似合ってる」

 「へへへ」

 「余計餓鬼に見える」

 喜びに水を差す小埜。

 「…ちょっと顔貸してもらえます?」

 笑みを張り付かせて拳を握る未亜。神城が笑いながらも鞄の紐を肩にかけて、小さな頭を叩く。

 「帰ろ。だいぶ遅くなったからおばさんが心配してるだろ」

 「メール送っておいたもん。神城くんの勉強に付き合って“Un chat noir”のデザートおごって貰うから遅くなるって」

 「…お前」

 顔を引きつらせた神城を、未亜は満足げに見上げる。

 「何をおごってもらおうかなぁ。あ、琳さんに頼んでオリジナルケーキ作ってもらおうか」

 「やめろ!あの人、お前が可愛いからって等身大のパンダケーキ作ろうとしたんだぞ!?蘭さんがさすがに止めたけど!」

 「ぶぅ。食べたかったのに。じゃあ、シフォンケーキにする」

 「…分かった、分かったよ。でも頼むから琳さんと一緒になって暴れんなよ?他の客に迷惑かけると月島さんに悪い――」

 「月島!?」

 二人の視線が小埜に集中した。何か嫌なことを思い出したのか、苦虫を噛み潰した表情をしている。

 「月島さんを知ってるんですか?結構有名ですもんね」

 「姉ちゃんとよくトラブル起こしてたもんな。華里七不思議の6つはあの3人が原因だし」

 小埜は長いため息をついて立ち上がった。

 「…お前ら、早く学校から出ろ。閉められるぞ」

 校内放送がちょうど流れ始めた。

 〈完全下校の時間です。生徒の皆さんは速やかに下校して下さい――〉

 「行こう、桐原」

 「うん。…さよなら、小埜先生」

 「ああ」

 慌しく教室を出ていった二人を見送った小埜は、ふと未亜の机の上に目を落とす。

 「あの間抜け」

 拾い上げたのは限定ケーキのチラシ。今週末で予約が締め切りとなっている。


 逃したらきっと泣くな、あいつ


 「…面倒臭い」


 そう言いながらも、チラシを持った小埜は保健室へと向かっていったのだった。



 謎な人がたくさんいます。彼らのお話もあるのですが、それはまたの機会にしたいと思っています。

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