第二百二十五章 心の光
し、死んでる……!
こいつ、書き溜めが、もう……!
ちょっと適当なことを書いてしまったので、前話の「ユニーク武器は合成出来ない」を「ユニーク武器は合成出来ないものが多い」と修正
なおこの制限はあくまでゲーム時代の話で、今のソーマには影響はありません
「――はぁっ!!」
一刀のもとに斬り捨てられたはぐれノライムが、断末魔の悲鳴と共に光の粒子へと変わる。
「すごいな、これは」
新しい不知火、『真・不知火』は今まで以上に俺の手になじみ、デウス平原に出現するモンスターたちをいずれも一撃で葬り去った。
それに、俺の身体を薄っすらと覆う、淡い光。
これは、神剣アルティヘイトの特殊能力である恒常バフ。
フィールドの友好的キャラクターの数に従って、持ち主の能力を増強する便利効果である。
今、俺たちは仲間と一緒に行動している。
だから、ほんの数パーセント程度ではあるが、俺の能力値は上昇しているのだ。
アルティヘイトパニックが収まった後、
「……まあ、今更文句を言った所で、神剣が戻ってくる訳でもありません。
それなら、神剣を鋳潰してまで作り出した貴方の切り札の力、じっくりと見せてもらわなければ」
というミツキの鶴の一声によって、俺たちは新しい武器の慣らしと試し切りのため、デウス平原まで来ることになったのだ。
しかし、その甲斐はあった、と言うべきか。
俺は見敵必殺の精神で湧いて出るモンスターを斬っては投げ斬っては投げ、いや、別に投げてはいないが、とにかく斬りまくった。
通常攻撃だけでなく、コンボなども試したが、問題なく機能している。
ついでに試してみた限りでは、アルティヘイトの「試練を超えた者だけが扱える」という特徴も引き継いでいるようだ。
通常専用装備フラグは『形状』に宿るため、これは予想外だったのだが、アルティヘイトの場合は条件が異なるため、『特殊』に属する性質だったのかもしれない。
まあ、考え方によっては武器を取られることがないということで、これはこれで便利なので、よしとしておこう。
これなら、ミツキだって満足だろう。
そんな風に思って、
「どうだ! これが、俺の『真・不知火』の力だっ!」
と、ドヤ顔で振り返ったのだが、当のミツキは微妙な顔をしていた。
「いえ、凄い切れ味なのは分かりますが……。
その、何にでも真をつけるセンスは少し改めませんか?」
「えっ!」
面と向かって思いもかけないことを言われ、俺は言葉に詰まってしまう。
「い、いや、でも、ほら……真・不知火ってかっこよくないか?」
「言いたくはないのですが、多分、そういうのを中二……」
言いかけたミツキの言葉は、
「――だ、だめっ!」
飛び込んできた小柄な影によって中断させられた。
「リ、リンゴさん?」
それは俺たちの仲間の一人、青い髪の小柄な少女、リンゴだ。
リンゴは俺をかばうように俺と仲間たちの間に入ると、まるで殉教者のように両手を広げ、俺を守る態勢に入る。
「…ソーマは、いっしょうけんめい、がんばってる。
だから、なまえのセンスがかいめつてき、でも、せめないで」
いや、壊滅的とまで言われると、逆にショックなんだけど。
「いえ、まあ、名前の件は後で本人が悶えるだけだと思うので、別にいいのですが……。
リンゴさんは最近、何だかやたらと彼に甘くはありませんか?
先程の騒動の時も、一人だけ彼を責めていなかったようですし」
それは確かに、俺も気にはなっていた。
前は俺が何かする度に色々言ってきた気がするのだが。
「…ん。けいかくに、へんこうをくわえた……から」
「計画? あ、ああ」
そういえば、前に「ソーマ真人間化計画」がどうとか言っていたが、あれはまだ続いていたのか。
「…けいかく、を、じゅうねんスパン、から、さんじゅうねんスパン、にへんこうした。
さいしょのじゅうねんは、とことんあまやかす、ほうしん!」
言っていることの意味は分からないが、その意志は固そうだ。
「いえ、それは……。私にはグダグダのまま最後まで甘やかし続ける未来しか見えませんが……」
俺もなんとなくそんな気がするが、もちろん口には出さなかった。
ここで味方を減らすなんてとんでもない。
ミツキたちはいまだ微妙な顔をしていたが、泣く子とリンゴには勝てない。
やがて根負けしたように、やれやれと首を振った。
「それでは、どうしますか? もっと別の場所で試したいのなら、付き合いますが」
「いや、ここまでやれたら大丈夫だと思うけど、確信が持てるまで、念のためもう少し戦っておきたい。
……それに、まだ」
俺は遠くに見える岩山をちらりと見る。
それだけで、ミツキには伝わったようだ。
「期待していますよ」
と残して、素直に引いてくれた。
それから、俺は合計で四十九のモンスターを斬ると、ひとまず雑魚狩りを切り上げた。
ここまで何の問題も起きなかった。
もう真・不知火の信頼性については疑いようもないだろう。
だが、これで終わりではない。
記念すべき五十体目は……。
「――やっぱり、お前で確かめてみないとな」
デウス平原の悪夢、バグ出現モンスター「キングブッチャー」だ。
隠しポップポイントで粘り、出現したブッチャーに対して、刀を構える。
俺に、もう緊張はない。
最初にこいつと出会ったあの時から、俺は随分と強くなった。
それに、今の俺には『真・不知火』がある。
俺は間違いなく、ゲーム時代の自分よりも強くなっている。
ゲーム時代の俺のレベルは三百を超え、最終武器も、『性能』と『特殊』に隠しダンジョンの武器『ソウルイーター』を埋め込んだ、改造不知火だった。
それは、廃人猫耳猫プレイヤーにしか辿り着けない境地。
そこに俺の最強コンボ『真・刹那五月雨斬』を組み合わせれば、どんな敵にだって勝てる。
そう思えるくらいには、ゲーム時代の俺は強かったと思う。
……だが、今の俺の強さはそれをはるかに超えている。
俺の筋力は、種の効果を百倍にする種死バグと、ミツキが現在進行形で狩ってくれているブッチャーからのパワーシードで恐ろしい勢いで上昇している。
しかし悲しいかな、今までは武器の攻撃力がそれに追いついていなかった。
猫耳猫ではダメージ計算の関係上、武器だけ、キャラだけが強くてもダメージは抑えられてしまう。
つまり今までは、武器が足を引っ張って、その高い基礎能力を活かすことが出来なかった。
だが……。
「この、『真・不知火』ならっ!!」
叫びと共に、俺は基礎速度の高さを活かし、素早くブッチャーの懐に入り込むと、刀を振るう。
「なっ……?」
後ろでミツキが、息を呑む。
だが、それも当然だろう。
あの、かつて俺たちを苦しめた、キングブッチャーが。
高レベルダンジョンのボスで、物理攻撃に耐性を持つ、ゲーム屈指のタフなモンスターが。
「いち、げき……?」
スキルを使った訳でも、補助魔法をかけた訳でもない。
ただの通常攻撃で、一瞬にして、葬られてしまったのだから。
どう、と倒れ伏し、光になっていくブッチャーを見下ろしながら、俺は確信した。
――この『真・不知火』こそが、最強の武器だと。
もちろん、特殊効果や取り回しのよさなどでは、この武器を凌ぐものも存在する。
だが、今この世界にある武器で、いや、過去・現在・未来全てにおいて、攻撃力の面でこれを超えるものは見つからないだろうと、確信したのだ。
そして、それだけではない。
「……これなら、やれる」
邪神がどこまで強いのか。
そして、どこまで強くなるのか。
それは、俺にだって分からない。
だが、それに挑戦するための手札は、俺の手に揃った。
「――俺は、この武器で『最強』に挑む!」
「……邪神とは、俺が一人で戦う」
そう宣言した時、待っていた反応は、驚きと納得が半分ずつ、というところだった。
「……そう言うだろうとは、思っていました」
「…ん」
長い付き合いだ。
二人は薄々は察していたらしい。
そうやって俺の言葉を、どこか粛々と受け止めたミツキとリンゴに対して、
「ば、バカなことを言うな! 僕だって戦うぞ!」
「邪神が復活したら世界が危ないんでしょ! そーまだけに任せるなんて……」
激したのはサザーンや真希だ。
だが、こればかりは納得してもらうしかない。
「もちろん、みんなの協力が無駄だなんて言わない。
勝つだけ、なら、みんなに援護してもらった方が、勝率は上がると思う」
「だったら!」
大きな声をあげる真希を、手で制する。
「でも、俺の目的はただ邪神を倒すことだけじゃない。
全てが終わった時、仲間の誰かが欠けていたら、そんなの勝利なんて呼べない」
「あ……」
俺の静かな言葉に、真希は黙り込む。
その代わりに、口を開いたのが、イーナだった。
「じゃあ、わたしたちには、何も、できないんですか?
ソーマさんが戦ってるのを、何もせずに見ているしか……」
苦しそうな、イーナの声。
だが、実は、それを待っていた。
「……いや、そんなことはない。
直接邪神と戦うのは、確かに俺一人だ。
でも、俺は独りじゃない」
謎かけめいた言葉に、その場にいる全員が、頭に疑問符を浮かべる。
それを見て俺は唇を釣り上げると、こう言った。
「――みんなに、頼みたいことがあるんだ」
――邪神との戦いは、十日後と決まった。
色々な準備もあるし、俺にも邪神戦に向けて訓練をしておきたいこともあるため、猶予期間を設けたのだ。
一度、邪神が封印されている西の沼の様子も見てきた。
封印の専門家であるサザーンによると、予断を許さない状況ではあるが、少なくとも十日の間に復活することはないだろう。
と、太鼓判を押された。
宝具の力によって過去の巫女の記憶を受け継いだサザーンは、邪神の封印を任意で解除することも出来るらしい。
くれぐれも封印を解いたらすぐ下がるように、と俺が言うと、涙目でにらまれた。
逆の立場だったら、俺だってつらいだろう。
いつものやかましさを忘れたように、ただ無言で駆け去っていく後ろ姿に、少しだけ、胸が痛んだ。
そして……。
邪神戦の「準備」のために人と話をしたり、コンボの練習をしたり、種を早食いしたり、リンゴに甘やかされているうちに、十日の準備期間は矢のように過ぎ……。
いよいよ、運命の日が……。
世界の命運が決まる日が、やってきた。
まさに、一世一代の大勝負。
世界を天秤にかけた、一生に一度のワガママだ。
俺は邪神が眠る沼を前に、ぼーっと前ばかりを眺めていた。
それは、前方に眠る邪神が怖かったから……ではない。
むしろ、逆。
俺には、後ろを振り返ることこそが、怖かったからだ。
……邪神と戦うにあたり、俺が最後に考えた「策」は、アルティヘイトの特殊能力を、最大限に生かすこと。
アルティヘイトはフィールド上の友好的なキャラクターの数だけ装備者の力を底上げしてくれる。
だから、邪神と戦う沼地に、街の人たちを連れてくる。
これが仲間たちに頼んだ「準備」の全容だった。
……だが。
俺は、英雄なんて呼ばれてはいるものの、それっぽいことなんて、何もしていない。
あまり自覚はないが、仲間たちには自分勝手だと言われ続けている。
今回の邪神の復活だって、言ってみれば俺のせいではあるし、邪神と戦いたいというのも、俺のワガママだ。
いくらうまく行けば邪神を倒せるからといって、こんな俺の頼みに、果たして何人の人が動いてくれるのか。
犠牲者を出さないように、細心の注意は払うつもりだが、それでも危険はもちろんある。
そう思うと、後ろを振り向いたら仲間たち以外誰もいないなんてことも……。
「あたっ!」
不意にこつん、と頭を叩かれ、俺は思わず変な声をあげた。
「……はー。まったく、そーまはいつまでたっても情けないんだから」
真希だった。
いつもと変わらない、呆れたような顔で、不甲斐ない俺を見上げていた。
真希はしばらく俺をじっと見ていたが、ふっと表情を和らげると、
「心配しなくてもさ。街の人たちにだって、そーまの気持ち、通じてると思うよ」
「えっ?」
そんなことを言って、
「心配ならさ。ほら、ちょっとその剣、抜いてみなよ」
俺の手を取って、無理矢理武器を握らせようとする。
「わっ! な、なんだよ、こら……」
なんとなく流されるままに、俺は武器を鞘から抜いてしまった。
その、瞬間……。
「あ……光、が」
背中から白い光が飛んできて、俺に飛び込んでくる。
それも、一つや二つじゃない。
数十、いや、それ以上の光が、俺に降り注いでいた。
「……ほら」
煮え切らない俺を、真希が無理矢理に振り向かせる。
すると……。
――わぁああああああああああ!!
歓声が、あがる。
そこに見えたのは、並び立つ、人、人、人。
フィールドの端から端までを埋め尽くすほどの人が、そこに待っていた。
「……これ、は」
呆然と、俺がつぶやくと、それを聞きつけた真希が、自慢げに胸をそらす。
「……ぜんぶで千人だってさ。大変だったんだよ。みんな自分も行きたい行きたいって言って。
でも、万一があったらダメだからねー。ちゃんと来る人は選別したよ」
「は、はは……」
アルティヘイトの特殊能力は、友好的なキャラ一人につき、一パーセントの基本能力上昇効果を装備者に与えるというもの。
……つまり、千人という人数は、バフの上限値である9.9倍の能力アップステートを俺に与える条件を、優に満たすのだ。
「ほんと、何でこの世界の奴らは、いい奴ばっかで……」
両手を広げて、今なお俺の身体に飛び込む、光たちを眺める。
この光の一つ一つが、自分への激励なのだ。
そう思えば、ステータス以上の力が、身体の奥から湧き出すような心地がした。
「……ありがとう、みんな」
自然と、感謝の言葉が漏れた。
初めは、自分のためだけの戦いだった。
でも、そんな俺を認めてくれる仲間が、応援してくれる人たちが、いる。
「――だったら、これで燃えなきゃ、嘘だよなぁ!」
俺はもう振り返らない。
でもそれは、怖いからじゃ、ない。
――倒すべき敵に、向き合うためだ!
……そして。
最後に俺は、この奇跡を生み出してくれた己が武器に、語りかける。
「やるぞ、アルティヘイト! この光は、俺たちだけが生み出しているものじゃない!」
この光は、人の心の光。
邪神から世界を守りたいと願う、人の想いの結晶なんだ。
たくさんの人々の想いを背負い、俺は邪神の眠る沼に向かって足を踏み出した。
遂に……。
俺の、俺たちの、最後の戦いが、始まる!
ご愛読ありがとうございました!
ウスバー先生の次回更新は今日の23時を予定しています!!
実は決戦前に仲間とのいい感じな感動エピソードとかあの人が駆けつけて、みたいな話を入れようと思ってましたが思いつかなくてやめました
そちらは完全版となる書籍でお楽しみください(嘘)




