第二百十五章 必殺技
更新遅れてすみません!
予想以上に間が空いてしまったので、分かりやすい前回までのあらすじを置いておきます!
【これまでのあらすじ】
前人未到の空飛ぶ都市〈天空都市〉を次の目的地と定めたソーマたちは、地上で崩落した天空都市の一部を発見。そこに遺された機械人形の力によって、天空都市へと転移することに成功する。
思いがけぬ事故により三人での探索を強いられる彼らだったが、古代人の防衛機構も魔王すら打ち破った英雄たちの敵ではなかった。
しかし、破竹の勢いで進撃する彼らの前に、天空都市の守護者〈バルニスV〉が立ち塞がる!
恐るべきバルニスVの力によってスキルのほとんどを封じられたソーマは、たちまち劣勢に追い込まれてしまう。
しかしそんな彼の窮地に駆けつけたのは、かつて邪神との死闘で死亡したと思われていたくまだった!
くまの助力によってからくも天空都市から脱出したソーマたちだったが、仲間たちとの再会に安堵するのも束の間、天空都市より飛来したバルニスVに追いつかれ、再び絶体絶命の危機に陥ってしまう。
そんな中、身を挺して仲間を守ろうとするミツキの覚悟に心打たれたソーマは、今の自分には扱えないと封印していた禁断の秘技「真・刹那五月雨斬」の封印を解くことを決意する。
仲間の制止を振り切り、決死の覚悟でバルニスVとの一騎打ちに臨んだソーマは、見事に「真・刹那五月雨斬」を使いこなし、遂に強敵、バルニスVを撃破するのであった!
※猫耳猫は熱血少年漫画風王道作品です!
――真・刹那五月雨斬。
それはゲーム時代の猫耳猫で俺が辿り着いた究極の攻撃方法だ。
一瞬のうちに数百の斬撃を見舞うというトンデモ技だが、なぜそんなことが出来るか説明するには、まず攻撃スキルのキャンセルタイミングについて理解が必要だ。
キャンセルというのは「スキルの発動中に次のスキルを使うことで、発動中のスキルを強制的に終了させ、即座に次のスキルに移るテクニック」だ。
ただ、キャンセルポイントと呼ばれるタイミングでしかスキルのキャンセルは出来ず、それがスキルのどの辺にあるのかと言えば、例えばスラッシュなど、一般的な攻撃スキルでは大体こんな感じになる。
1.攻撃前モーション(振りかぶり・構えなど)
ショートキャンセルポイント
2.攻撃モーション・エフェクト(命中判定あり)
3.(命中した場合)ダメージ計算・ダメージ発生
ロングキャンセルポイント
4.攻撃後モーション(納刀・残心など)
5.スキル終了・スキル硬直
キャンセルをするとその時点でそのスキルは終了するので、例えばスラッシュでショートキャンセルをすると1の攻撃前モーション、つまり剣を振りかぶる動作をするだけで斬撃モーションもダメージも発生せずに次のスキルに移行する。
一方、ロングキャンセルをすると3まではスキルが機能するので、斬撃モーションと敵に当たった場合にはダメージ判定とダメージを与える処理までは入るが、4と5に当たる残りのモーションやスキル使用後の硬直を省略して次のスキルに移れる、ということだ。
さて、それが一般的なスキルの話なのだが、乱れ桜については猫耳猫スタッフの「数百回もの斬撃に一個ずつ当たり判定つけるのめんどくさい!」という手抜き精神により、「斬撃のエフェクトが発生する直前に数百発分の斬撃の命中判定とダメージ計算」をしてしまい、スキルが終了した時点で「事前に計算したダメージが一気に発生」するというおかしな仕様になっている。
1.攻撃前モーション(構え)
ショートキャンセルポイント
2.命中判定・ダメージ計算
3.攻撃モーション・エフェクト(約18秒の斬撃)
ロングキャンセルポイント
4.攻撃後モーション(納刀)
5.スキル終了・ダメージ発生・スキル硬直
ポイントとしては、命中判定は2でまとめてやってしまっているので、3の剣をびゅんびゅん振っているモーションや斬撃は攻撃が命中するかとは全く関係ないこと。
なので、2が発生した時に近くにいなかった敵は、いくら斬られているように見えても一発も攻撃が当たっていない、という理不尽な状況が起こったりする。
これだけでも相当おかしなスキルだと言えよう。
……ところで、なのだが。
キャンセルポイント、つまりキャンセル入力の受付時間の傾向として、スキルのエフェクトが長いスキルほど長くなるように作られている。
その中でもちろん乱れ桜はデフォ速度で約20秒という圧倒的な時間の長さを誇るため、キャンセルポイントも俺の知る限りで一番長い。
キャンセルポイントが長い、ということは、あまり厳密にタイミングを計らずに次のスキルを発動させてもうまくスキルキャンセルが出来るということで、猫耳猫プレイヤーにも乱れ桜は非常にキャンセルしやすいスキルと知られているし、俺も賛成だ。
実際、速度三倍になった時のキャンセルの練習にも乱れ桜のロングキャンセルを使用したし、ただキャンセルするだけなら乱れ桜のキャンセルは一番難易度が低いとすら思う。
そしてここからが本題なのだが、乱れ桜はキャンセルの受付時間が長いせいか、「受付時間が始まってすぐにショートキャンセルを行った場合」と「受付時間いっぱいまで待ってからショートキャンセルを行った場合」で、一部の結果が変わってしまう。
ではキャンセルの受付時間ギリギリでショートキャンセルをするとどうなるか、その場合の流れを示すとこんな感じになる。
1.攻撃前モーション(構え)
2.命中判定・ダメージ計算
ショートキャンセルポイント
3.攻撃モーション・エフェクト(約18秒の斬撃)
ロングキャンセルポイント
4.攻撃後モーション(納刀)
5.スキル終了・ダメージ発生・スキル硬直
うん、その、ショートキャンセルポイントが、絶対にはみ出しちゃいけないところにはみ出しちゃってるというか、なんというか。
想像するに、キャンセルシステムは後付けでくっつけたか別立てで作ったかしたせいなんだろうが、ほんとひどい。
これで何が変わるか、というと、乱れ桜でダメージが発生する条件が、「ダメージ計算した後に正規手段でスキルを終了する」ことなので、2の「命中判定・ダメージ計算」の後であればショートキャンセルをした場合でも当然ダメージは発生する。
だから、入力受付時間ギリギリまで待ってからショートキャンセルをすると、「まだ一回も剣を振ってないのに数百発の斬撃のダメージが発生する」というトンデモ現象が起こってしまうのだ。
これを技として捉えた場合、その攻撃速度は超スピードだとかそんなチャチなものじゃあ断じてない。
敵としては「あ、こいつ武器構えた! そろそろ斬ってくるのかな?」と思った次の瞬間、別に斬られてもないのに数百発の斬撃ダメージをくらう訳だから、まるで何をされたのか分からないだろう。
というか、俺も偶然「真・刹那五月雨斬」を成功させた時は本当にびっくりした。
その時は乱れ桜のショートキャンセルで熟練度上げをしていたのだが、目の前を元気にぴょんぴょん飛び跳ねてたはぐれノライムが何の脈絡もなく突然バラバラになるんだから、そりゃあ驚くなという方が無理だ。
「……という仕組みだから、ミツキに斬撃が見えなくても全くおかしくないんだ!
いや、むしろ見えてたら目か脳の異常を疑うところだよ!」
ミツキにとっては、自分に見えないような斬撃があったとしたらショックだろう。
俺は気を遣ってミツキを力づけるようにそう言ったのだが、ミツキは片手で額を押さえ、力を失ったようによろめいた。
「だ、大丈夫か?!」
俺が慌てて声をかけると、ミツキはすぐに持ち直した。
だが、顔色はまだ悪いし、何より猫耳が「もうダメー!」と言いたげにぱたんと倒れていた。
しかし、ミツキは気丈に言葉を返してみせる。
「え、ええ。大丈夫、です。話を聞いていて、少し……頭が痛くなっただけですから」
「ああ、そうか。悪い、ちょっと難しかったかな」
ミツキはその戦闘狂ぶり、戦闘時の突進ぶりから脳筋戦士と思われがちだが、機転も利くし頭もまわる。
それでも異世界の、特にゲームだとかプログラムだとか、そういうあまりに異質な話となるとついてこれないのかもしれない。
ほかの人はどうだろう、と視線を巡らすと、まずリンゴはいつも通りに無表情。
……いや、あれ、うーん?
なんかいつもよりも目が虚ろというか、より無表情度が高いような気がするが、まあ目の錯覚だろう。
真希もまあ、いつも通りだ。
ま、そーまだもんね、という態度で肩をすくめている。
なんかちょっとイラッとする。
そんな中、素直に俺をほめてくれたのは、さっきまで取り乱していたはずのイーナだった。
俺にキラキラした目を向け、「え、えっと、なんか頭のいい技ってことですね! すごいです、ソーマさん!」と惜しみない賞賛を贈ってくれた。
うん、やっぱりイーナはいい子だなぁ。
俺がうんうんとうなずいていると、その横にくまがくまと向かい合ってるのが見えた。
話の流れに全く関係なく、ジャンケンをして遊んで……。
いや、なんかジャンケンっぽいそぶりをしてるけどあいつらの手でチョキとかグーとか無理だよな。
俺も頭が痛くなってきたのでさらに視線をずらすと、ちょっと前までべそかいていたはずのサザーンが、何やら仮面を押さえて身悶えていた。
何か琴線に触れたのか、
「因果を捻じ曲げ、放つ前の斬撃を放つ技。くっ。さながら、『不可視の斬劇』という訳か。……あ、いや、斬幕も捨てがたいな!」
とかやっていて割と楽しそうだ。
ただ、個人的に「真・刹那五月雨斬」という名前は譲れない。
実はこの「真・刹那五月雨斬」は俺が発見したもので、「刹那五月雨斬」にあやかった「真・刹那五月雨斬」という名前も俺がつけたのだ。
というか、乱れ桜のキャンセルでそんなことが起こるなんてwikiを見てもネット検索しても出てこなかったし、俺が「真・刹那五月雨斬」を初めて見つけた時は猫耳猫のコミュニティも軒並み廃れていたので、自分で検証するしかなかった、というのが実情として正しいかもしれないが。
何でこんなすごい技が今まで見つかってなかったのか、と思わなくもないが、それも当然かもしれない。
乱れ桜は三大廃人プレイヤー条件――通称「産廃条件」にも選ばれるほど習得も使用も難しいスキルだ。
何しろ大太刀の最終スキルなんて松明シショーで熟練度上げしないととてもじゃないが覚えられない。
そして、こっちの世界では穴を掘って行ける隠しダンジョンの入口もゲームクリア後じゃないと行けない訳で、結果的に松明シショーを使って乱れ桜を覚えるには、ある程度レベルを抑えて魔王を撃破することが必須条件になる。
そして、もし乱れ桜を覚えたとしても、初期値の二倍というスタミナ消費が壁として立ち塞がる。
スタミナはレベルアップでも上がらないものなので、そう簡単に使えるものではないのだ。
そしてそして、こんな酔狂なスキルを覚え、その上でショートキャンセルで上げる人間がいたとしても、キャンセルが容易な乱れ桜でギリギリのタイミングでショートキャンセルする、という状況がすでにほとんどないだろう。
さらにトドメとして、仮にショートキャンセルを使った熟練度上げの途中に「真・刹那五月雨斬」が発動したとしても、それに気づく可能性は低い。
現実化した世界で、しかも狭い通路の中だったため、壁や天井を壊してしまったが、ゲームでは壁などのオブジェクトは全て破壊不能。
熟練度上げなんて普通は周りに誰もいない状況でやるものなので、もし「真・刹那五月雨斬」が決まっていたとしてもダメージが発生する対象がいないのだ。
気分転換に敵レベルの低いデウス平原の真ん中でスキル上げをして、しかも偶然「真・刹那五月雨斬」が発動した時に目の前にモンスターがいた俺の方がイレギュラーだろう。
ということで、「真・刹那五月雨斬」は俺のオリジナル技。
いつか掲示板かwikiに情報提供しよう、と思いつつ、自分だけの必殺技(かもしれない)、という状況に酔って先延ばしにしているうちにこの世界に飛ばされてしまったので、おそらくこれを知っているのは俺だけではないかと思う。
もし無事に元の世界に戻ることが出来たら、wikiの乱れ桜のコメント欄にでも書き込みをしよう、などとひそかな決意を固めていると、ようやく復活したらしいミツキが尋ねてきた。
「非常に納得し難い所もありますが、技の仕組みもその威力も分かりました。
しかし、ではなぜ、そんな途轍もない技を今まで使わなかったのですか?
貴方に限っては良識が邪魔した、という事もないでしょうし」
何だか言葉に少し棘がある気がするが、もっともな疑問だ。
「まず、このスキルは消費スタミナが多いから、長期戦には向かないんだ」
何度も使って熟練度を上げれば少しずつ減っていくとはいえ、初期消費スタミナ200というのはプレイヤーのスタミナ初期値の二倍だ。
俺は「憤激の種死バグ」でスタミナを二倍にしているが、それでも普通に使えば一回でスタミナが空になってしまう、ということになる。
周りに敵がたくさんいる状況で使えばうまくいけば前半分は倒せるかもしれないが、その後で後ろに残った敵にぼっこぼこにされるだろう。
「後は、武器の消耗が速いとか効果範囲が広くて巻き込みが怖いとか色々欠点もあるけど、一番はやっぱりタイミングが難しいってことだな」
スキルキャンセルだって練習しなきゃ出来るもんじゃない。
しかし、乱れ桜をキャンセルした時に「真・刹那五月雨斬」になるのはほんの一瞬。
普通のスキルキャンセルよりはるかに短いタイミングを狙うことになる。
もしキャンセルのタイミングが早ければキャンセル自体は成功するので攻撃が出ないだけで済むが、もしタイミングが遅れればキャンセル自体も失敗。
乱れ桜のくっそ長い斬撃モーションを敵の目の前で無防備に晒すことになるのだ。
はっきり言って自殺行為としか言いようがない。
と、そこまで説明したところで、後ろからポコン、と頭を叩かれた。
「…むちゃしちゃ、だめ」
リンゴだ。
無表情はいつもの無表情に戻っているので、どうやら平常状態に戻ったらしい。
「ま、まあ、速度が三倍じゃない状態のゲームでは出来てたし、今も一回だけど成功したからさ。
これからは練習して確実に出せるようにしないとな」
と、適当にごまかし、俺は逃げるように行き止まりの方に進んだ。
「あ、そーま! これ、また光ってるよ」
今までの話の流れを完全に無視し、光る移動装置を楽しそうに見せてくる真希にうなずいて、仲間たちを振り返った。
「それじゃ、予定通り、みんなで都市ツアーと行くか」
ものめずらしそうに周りを眺める仲間たちを連れ、俺は船首側、宇宙戦艦のブリッジ部分を目指した。
雑魚モンスターは機能停止しているし、唯一の脅威だったバルニスVも死んだ今、何も危険はない。
……なんて言うと強敵が出てくるフラグみたいだが、本当にブリッジに着くまで全く何もなかった。
ブリッジにつくなり俺はパネルを操作して、まず外の砲台をオフにする。
ここのブリッジでは防衛機能などのオンオフが出来るが、残念ながら出来るのはオンオフだけで、例えば雑魚モンスターや砲台を自分の味方として動かす、なんてことは出来ない。
まあ猫耳猫がプレイヤーに有利な仕様を作るために労力を使う方がおかしいので、普通と言えば普通なのだが。
「あ、あのっ! それで、ソーマさんはここで何をするんですか?
もう、目的の天馬の靴は手に入れたんですよね?」
首を傾げながら尋ねてくるイーナ。
「ああ。でも目的が天馬の靴だけだったらわざわざこんな大所帯で来ないし、第一靴を取った時点でバルニスVのところに行かずに、塔の方から飛び降りて逃げてくればいいだけだしな」
この天空都市に来た目的は二つある。
一つは天馬の靴の入手、そしてもう一つは……。
「な、なあ! ちょっと地面が揺れてないか?」
サザーンの慌てた声に、俺はにやりと笑う。
「それだけじゃないぞ。モニターを見てみろ」
俺の言葉に、その場の全員が外の景色が映ったブリッジのモニターを眺める。
「景色が、動いてる? ……まさか?」
猫耳を跳ねさせるミツキに、俺はうなずいた。
「ああ! 今、この天空都市は、俺の指令を受けて移動してるんだ!」
そう、これが、俺が天空都市に来た、もう一つの理由。
流石に宇宙に出ることは出来ないが、この天空都市はクリアすると、ゲーム後半の定番「自由に飛行する乗り物」として使えるのだ。
「よし、試運転は終わり。これならちゃんと目的地まで行けそうだな」
そして、移動速度が速く、海を超えられるこいつなら、今まで行けなかった場所にだって行ける。
「そ、ソーマ! 目的地ってどこなんだ?!」
「言ったろ、サザーン。天空都市に行った後なら、力を貸してやる、ってさ」
俺はサザーンに笑いかけると、もう一度パネルのボタンをグッと押し込んだ。
「――天空都市、発進! 目的地はサザーンの故郷『南の孤島』だ!」
これで天空都市編は終了!
ちょっと打ち切り臭がする最後ですが、大丈夫!
次回更新は……きっとすぐです!
何しろ時間があったのでもう次の話を書き始めてます!
なんともう、5 0 0 文字ちょっと書いてます!!
はい、出来るだけ早くお届けしますのでお待ちください




