第二百十一章 裏口
更新予定を守ってると皆さんを不安にさせてしまうようなので、あえて破ってみました!
つれーなー、本当は昨日のうちに更新できたのになー、かーっ、つれーなー!
「薄々と予想はしていましたが、やはり褒め損でしたね」
「…ん。そんなこと、ない」
塔から離れ、天空都市の残骸の方に歩いていると、背後から仲間たちの声が耳に入ってくる。
ちらりと後ろを振り返ると、どこか疲れたような顔をしたミツキが、リンゴに話しかけていた。
「…バグわざはつかわない、って、いった。いっぽ、ぜんしん」
「それは、なんというか。果てしのない道のりですね」
ミツキの言葉に、リンゴはいつかのように、力強くその小さな拳を握りしめる。
「…せんりのみちも、いっぽ、から!」
「ああ、あれはそういう意味だったのですか。中々に深い、というか、もはや悲壮ですね」
感心したような、呆れたような声を返すミツキに、リンゴはこてんと首をかしげた。
「……いえ。分からなければ、良いのです」
「…ん。すこしずつ、がんばる、よ?」
「ですが、あまり時間をかけていては、彼が元の世界に……ぁ」
以前のことを思い出して「しまった」と思ったのか、ミツキは猫耳をハッと跳ねさせ、気まずそうに口をつぐんだ。
しかし、リンゴの様子に変化はなかった。
「…しんぱい、ない」
何の迷いもない顔で、そう言い放つ。
「リンゴ、さん……?」
猫耳をぴんとさせるほど驚くミツキを、リンゴは楽しげに見上げ、次の瞬間、
「…やく、そく。してくれた、から」
透き通った視線が、一瞬だけ俺の姿を捉えた……ような気がした。
なんとなくじっとしていられなくなった俺は、みんなに先行する形で遺跡に取りついた。
「ええっと、たぶんこの辺に……」
ショートカットを起動させるスイッチは天空都市にあるものの、中に入るだけなら天空都市に行かなくても問題ない。
砂に埋もれて半分ほど埋まってしまっているものの、自動ドアと思われる部分を何とか発見すると、その近くを調べていく。
「……これか」
そこにあったのは、お馴染みの色を失った光のスイッチ。
半分砂に埋もれてほとんど見えなくなったそのスイッチに、光魔法を浴びせる。
すると、すぐさま仕掛けが反応し、隣にあった扉が開いた。
「よしっ!」
思わずガッツポーズを取るが、ここからが本番だ。
「まず、これを渡しておく」
ようやく集まってきた仲間たちに、一個ずつ、魔法のジェムを渡した。
「なんですか、これ?」
首をひねるイーナに、説明をする。
「これはフェザーフォールの上位魔法、エンジェルフォールのジェムだ」
なんか名前的に堕天しちゃってるけど大丈夫なのか、と思ってしまうが、猫耳猫スタッフのネーミングセンス以外は大丈夫だ。
フェザーフォールが一定時間落下速度と落下ダメージを軽減する魔法なら、エンジェルフォールは落下速度はそのままに、落下ダメージを完全に無効化する魔法だ。
その分入手難易度は高いが、道具屋でまとめ買いしたものの中に入っていた。
「この後、みんなには天空都市のショートカット、直通で一気に天空都市の深部に移動出来る装置を使ってもらうつもりなんだ。
ただ、そのためには事前にこのジェムを使ってもらう必要がある」
「あ、なるほど! もし何かあって落ちちゃったら大変ですもんね!」
俺の話を聞いて、イーナが納得したようにうなずいた。
うんまあ、そんな風に思うのが普通だろう。
俺もそう思いたかった。
しかし……。
「いや、違うんだ。ここのショートカットの別名は『天国への扉』に『天上への階』。
それは単に、天空都市に、空の上に向かうから名づけられた名前じゃない」
「それって、もしかして……」
何か嫌なことに勘づいてしまった、というような真希の言葉に、俺は不本意ながらうなずいた。
「ああ。ここのショートカットは、降りる時はもちろん、昇る時ですら対策をしないと必ず死んでしまう、本当の意味での『天国への階段』なんだ」
天空都市はほかの猫耳猫のダンジョン同様、初見殺しの罠がいくつもある。
凶悪というよりはいやらしいモンスターたちもそうだし、あの恐ろしいまでの性能を誇るボスロボットもそうだ。
だが、天空都市における何よりのトラップは、あの脱出装置。
いや、脱出装置に限らず、プレイヤーにとっては一番の味方であるはずのあのシャボン玉で移動する装置こそが、天空都市最大の罠だったのだ。
「さっき話した時に、途中で自分のHPが思ってたよりも多く減ってたって言っただろ。
あれは連戦で疲れてHPの把握が出来てなかったのかと思ってたけど、違ったんだ」
天空都市の各所にある、シャボン玉式移動装置。
あれは人をシャボン玉でぷかぷか浮かせて移動するため、落下のダメージは入らない……ように思える。
だが、それこそが罠だった。
むしろあのシャボン玉に入っている間は強制的に落下中扱いになるようで、その時に移動した高低差が、そのまま着地した時のダメージになる。
「つまり、あの俺が把握してなかったダメージは、移動のダメージ。
移動装置を使うたびに、俺は知らない間に落下ダメージを受けていたんだ」
ビジュアル的に浮いているため、まさか落下ダメージを受けるはずがない、という心の隙を突くいやらしいバグである。
短距離の移動をする、あの途中の移動装置ですら、目に見えるほどの影響を受けるのだ。
塔の千階分はある距離を一気に移動する脱出装置を使えばどうなるか、なんて、もはや言うまでもない。
天空都市の攻略には、「落下対策の魔法かアイテムが絶対に必要」とされる所以である。
しかも、通常であれば夢幻蜃気楼のような、一部の「移動を伴うスキル」を使うことで蓄積した落下ダメージを無効化することは出来るのだが、シャボン玉に入っている間はスキルも使えない。
むしろ脱出装置を使うよりも飛び降りた方が安全という意味不明な事態になっている。
「だけどな! 意味不明なのは、それだけじゃない!
あれは、『上に移動する時』も落下ダメージを受けるんだよ!」
落下ダメージの計算がブラックボックスなので正確なところは分からないが、きっと「落下中に移動した高低差」を基にして割合ダメージを与えているのだろう、というのが猫耳猫プレイヤーの立てた仮説だ。
だから、天空都市への直通の移動装置を開通させたとしても、対策をしていなければ使った瞬間即死する。
落下ダメージってなんだろう、と言いたくなる訳の分からなさだ。
――天空都市の中では気づかないうちにじわじわとプレイヤーの体力を削り。
――熾烈なボスとの戦いを乗り越え、悲願の末に辿り着いた脱出装置では突然の死を提供し。
――全てが終わったと思いこませ、何の警戒もせずにショートカットを利用した者を、ふたたび落下死の運命へと誘う。
というかもう、ほんとにね。
こんなん一度でもテストプレイしてれば絶対に分かったよね?
お前ら一度も自分でこれ使ったことなかったよね?
と、ねちねちと小一時間ぐらい責め立ててやりたい。
……ただ、まあ、残念ながらモンスターは入れないものの、NPCを謀殺するのにこれ以上もってこいのものはない。
邪魔なキャラをここに連れてきて、文字通りの昇天体験をさせる、というのはよく聞く話だ。
俺は実行に移したことはないが、あぁ、こいつ今すぐ天空都市に連れていきてぇ、と思ったことは何度も……。
「え、えっと。じゃあ、その移動装置を使う直前に、これを使えばいいんですね?」
どうやら、心の中の黒い想念が表に漏れ出してしまっていたらしい。
どこかひきつった顔をしたイーナに、俺はうなずいた。
「ああ。効果時間には余裕があるから、移動する少し前に使えば問題ない。
ただ、さっきも言ったように天空都市は色々危ないし、まずは俺が一人で行って、中を制圧して脱出装置も安全性を確かめて……」
と言いかけたところで、ミツキとリンゴが口をはさむ。
「危ないのなら、尚更私も連れていった方が良いと思いますが」
「…ん。わたしも、ついてく」
――参ったな。
二人の申し出に、困惑する。
敵はかなりの強さを誇るし、強制麻痺やヘイト管理の問題上、俺が一人で行った方が絶対にいいと思うのだ。
いや、それはもちろん、俺だけの安全を思うなら人は多い方がいいのだが、流れ弾で誰かが怪我をしたり死んだりしたら寝覚めが悪いし……。
見ると、ミツキやリンゴだけではない。
真希も、サザーンも、イーナだって、一歩も引かないという目でこっちを見ている。
これは説得するのは骨が折れそうだ。
「……とりあえず、中に行ってから話し合おうか」
ちょっと腰が引けてしまった俺は、結論を先延ばしにして逃げることにした。
いざとなったら隙を見て一人だけ先に天空都市まで行ってしまうというのもありかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は天空都市の残骸に、足を踏み入れた。
幸運にも、と言うべきなのか、不運にも、と言うべきなのか。
目に見える範囲には、敵の姿はなかった。
長い間放置されて誰も入っていないはずだから、モンスターがポップしていないとは考えられない。
ここに出るモンスターは一グループだけだから、別の場所を巡回していると考えるべきだろう。
「いいか。ここからは慎重に、何があっても俺の指示に従ってくれ。
あと、俺の指示があろうがなかろうが、移動装置を使うって時は、必ずさっきのジェムを事前に使っておくこと」
俺がそう言うと、みんな素直にうなずいてくれた。
先ほどのことを考えると少しだけ罪悪感を覚えなくもないが、ここの敵は危険なのだ。
こんなことで犠牲を出す訳にはいかない。
「一気に行くぞ、こっちだ」
気分はスニークミッション。
仲間たち全員を引き連れて、SFチックな通路の最深部へと向かう。
とは言っても、ここは落下した天空都市の一部だ。
ほんの十数秒で、目的の場所まで着いた。
「ふむ。件の移動装置、というのはこれでしょうか」
そこにはスイッチが入っていないため、まだ光の入っていない機械の球体が、地面に転がっていた。
素人目なんで詳しいところは分からないが、ざっと見た限りでは特に壊れている様子もない。
とりあえず、ここまでは順調だ。
「当然ですが、これを動かす仕掛けはこの付近にはないようですね」
ただ、もちろんのこと、この移動装置を動かすにはスイッチを入れなければならない。
そのスイッチはここではない、本当の天空都市の深部にある。
――さて、ここからが本番だ。
どうにかして、一人だけで天空都市に行かなくてはいかない。
ミツキが物問いたげな視線を送ってくるのを無視して、俺は口を開いた。
「もう一度だけ言うけど、今回は俺に一人で行かせてくれ」
そう口火を切ると、仲間たちの視線が険しくなった。
怯まずに、説得を続ける。
「いや、ボスもそうだけど、今回の敵は今までよりずっと強くて、おまけに厄介な特殊能力持ちが多いんだよ。
ここにも出てくるけど、あいつらは……」
と、そこまで言ったところだった。
俺のよく聞こえる耳がぴくりと動き、俺たち以外の存在の接近を感知する。
そして、その、次の瞬間……。
「ぅにゃっ!」
……敵が来るであろう通路ではなく、仲間の方から、なんかすごい変な声が、何か好物を前にした猫のような、可愛いものを目にした女の子のような、とにかくすごい声が聞こえたような。
「ミツキ? 今、何か言ったか?」
「いえ、それより、来ますよ」
なんとなく釈然としないが、ここは一つの勝負どころだ。
「……俺が行く」
武器を構えるミツキたちを制して、一歩前に出る。
「しかし……!」
「いいか。ここに出る敵は天空都市と同じで全員が特殊能力持ちだ。
光線は初動が速いから避けるのも難しいし、強制麻痺はいくら異常耐性の高いミツキだって動けなくなる可能性がある。
それに……」
「ソーマ!」
サザーンの危機感をはらんだ叫び。
見ると、十数メートル向こうの角から、ずんぐりとした形のロボットが姿を現していた。
「あいつはっ!」
最初からこいつが出てくるのは、当たりなのか外れなのか。
俺は電磁警棒を構えたロボットに向かって走り出しながら、叫んだ。
「俺が戻ってくるまでそこから動かないでくれ! すぐに天空都市に移動する!
スイッチが入っても、移動する前にジェムを使うのを忘れるな!」
乱暴に言い捨てながら、ロボットの前に躍り出る。
――やれる、よな?
自分に問いかける。
今の俺は、ゲーム時代と比べて攻撃力と速度は上がっているが、耐久力ははっきりと下がっている。
敵は雑魚モンスターとはいえ、ラストダンジョンのモンスターにも匹敵するパラメータの持ち主。
決して軽視していいような相手ではない。
長らく天空都市にも行っていないせいで、この敵の攻撃モーションもうろおぼえだ。
今の俺に、こいつと立ち回るだけの力があるか。
「シンニュウシャ、ハッケン! シンニュウシャ、ハッケン!」
だが、敵は俺が結論を出すのを待ってはくれなかった。
耳障りな声を出しながら、手にした電磁警棒を振り下ろしてくる。
「くっ!」
反射的に不知火で受けようとして、あわてて腕を引く。
三倍に強化された速度によって、かろうじて回避出来た。
――危なかった。
危うく特殊能力のことを忘れ、そのまま不知火を合わせるところだった。
追撃をしようと警棒を振りかぶるロボットを見て、すかさずバックステップ。
ほんの少しだけ距離を取る。
「……ふうっ」
いつも通りに戦っていたら駄目だ。
万が一を思うと攻撃を不知火で受ける訳にはいかないし、あまり離れすぎると遠距離攻撃を放ってくる可能性がある。
俺は回避出来るだろうが、その場合には後ろに立つ仲間の誰かに当たるかもしれない。
「なかなか、厳しいな」
死の危険がないゲーム時代であれば、この程度のハンデは苦にもしなかっただろう。
しかし、こんな小競り合いですら、いや、考える余裕のあるこういう戦いであるから余計に、死のプレッシャーが肩にのしかかる。
「それでも……」
やる!
やってみせる!
それが、猫耳猫プレイヤーとしての、俺のプライドだ!
「テキタイコウドウヲ、カクニン。キョウセイハイジョシークエンスニ、ハイリマス」
「望むところだ! やれるもんならやってみろ!」
威勢のいい台詞を吐きながら、俺はもう一度、警棒を構えたロボットに向かって突撃した。
それから何十秒、経っただろうか。
「シンニュウシャ、ハイジョ!」
左右のアームに握られた警棒を、背中の隠し腕から伸びるライトソードを、俺は三倍の速度に物を言わせてさばき続ける。
――大丈夫、だんだん慣れてきた。
やはり三倍の速度というのは大きなアドバンテージだ。
後出しで行動しても間に合うし、それが心の余裕にもつながる。
横薙ぎを使ったら詰まるほどの狭さがネックと言えばネックだったのだが、この調子なら何とか……。
……そんな風に、気を抜いたのがいけなかった。
「あ、ええっ……!」
後ろに跳び退った時、床の小さな段差に足を取られ、バランスを崩す。
「やっば!」
まるでギャグみたいな展開だが、笑っている場合ではない。
「ソーマ!」
後ろからリンゴの声が聞こえるが、射線は俺が塞いでいる。
彼女の雷撃をもってしても、援護は不可能。
そして、無慈悲に振り下ろされる電磁警棒。
当たれば、ただでは済まない。
「こ、のぉおおお!」
無理矢理に身体を起こしながら、ステップのスキルを発動。
苦しい体勢ながら俺の身体は横に跳び、壁にぶつかって止まる。
間一髪、俺の身体を舐めるようにして電磁警棒が目の前を通り抜けていった。
「ソーマ!」
新たなる声に一瞬だけ通路の奥を見る。
そこには、俺を助けようと走ってくる、リンゴとサザーンの姿があった。
「ば、馬鹿、何を……!」
いや、ほんとリンゴはともかく、魔法使いのサザーンが前に出て一体何をするつもりなのか。
そんな風に、俺が一瞬だけ気を反らした瞬間だった。
「キョウセイハイジョシークエンス、サイシュウプロセスニ、イコウ」
背後から、最悪を告げる言葉が、今、決して聞こえてはならない声が響く。
――まずい!
そう思った時には、すでに遅かった。
「二人とも、逃げ……!」
俺の言葉が終わるより早く、
「シンニュウシャ――キョウセイ、ハイジョ!!」
臨界点を超えたそのロボットは、眩いばかりの光を放つ。
「なっ!」
「…っん!?」
その光は、俺を、そして、俺に駆け寄ろうとしたリンゴとサザーンまで呑み込んで――
「……はぁ。やっぱり、こうなったか」
――次の瞬間、俺たち三人は、巨大なモノリスの前に立っていた。
「な……え? こ、ここ、どこだ!? さっきのロボットは?」
突然見覚えのない場所に連れてこられて、混乱するサザーン。
一方のリンゴは、周りの異常よりも俺の安否が気にかかるのか、俺に駆け寄ってしきりにペタペタと身体を触っている。
「……だから、動くなって言ったのに」
こんなつもりじゃなかったんだが、仕方がない。
ため息をつく俺に、サザーンが詰め寄ってくる。
「お、おいソーマ! これは一体何が起こって……」
「あいつの特殊能力で、スタート地点に戻されたんだよ」
「は? スタート地点? それって……」
そんなの、決まっている。
なおも状況が呑み込めていない様子のサザーンに、俺は言うべき台詞を口にした。
「――ようこそ、天空都市へ」
ふりだしに進む!
ここで話しておかないとたぶん読んでくれる人もいないので一度だけ宣伝しておきますが、なろうで「ギフテッド」という作品を始めました
ちなみに猫耳猫の連載の遅れのうち、二ヶ月分くらいはこいつが元凶です!
なろうではまずウケない作風ですが、愉快なもんが出来たと思うので気が向いたら読んでやってください




