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第二百八章 パーフェクト・ドリーム

あれ、おかしいな?

「もうほとんど書きあがってるし12時余裕すぎるな。まえがきに書くネタなくなっちゃったなー」

って色々と勝利宣言考えてたちょっと前の自分はどこ行っちゃったのか

「こわ、かった! 怖かった、んだ……!」


 俺の胸に飛び込んできたサザーンは、まるで俺だけが唯一のよすがであるかのように、俺にすがりつく。

 ……いや、まるで、ではないのかもしれない。


「アレックズたちも、リンゴも、ミツキも、みんな、みんな死んじゃって……。

 僕が、僕が何とかしないと、って。だけど……!」


 サザーンの左腕にはまっている環魂の腕輪は、俺が巻き戻し前の世界から持ってきたもの。

 つまり、あの腕輪には前の世界のサザーンの記憶が、邪神の欠片に仲間たちを殺され、最後には決死の覚悟で邪神の足留めをした記憶が詰まっているはずだ。


「だけど、本当は怖かったんだ!

 一人で残るなんて嫌だって、こんなの出来るはずないって。

 でも、でも、お前だけは、ソーマだけは行かせなきゃって……」


 今なら、分かる。

 サザーンはあの邪神の欠片を止めるために、自分の中の邪神の欠片を解き放ったのだろう。


 所詮浅い記憶を漁っただけの俺には、どういう仕掛けがあったのか分からない。

 封印の巫女の力なのか、あるいは邪神の欠片の習性なのか。

 しかし結果として、王都の欠片にあった一番大きな欠片と、サザーンの右腕に封じられた邪神の欠片はぶつかり合い、足留めは成った。


「最後まで、がんばろうと、思ったんだ。

 敵わなくても、少しでも長く、あいつを釘付けにしてやるって。

 でも、あいつが僕を見て笑って、なにかが、飛んできて……」


 ただ、その結末も、俺は知っている。

 儀式魔法を発動した後、俺の目の前で消えていった一回り小さい邪神の欠片は、サザーンのものだろう。

 サザーンの封じていた邪神の欠片は負け、そして、サザーンは……。


「足が、熱くなって、動けなくなって、なにも、分からなくなって……!

 痛くて、こわ、くて、どうしようも、なくて!

 ひとりは、ひとりはいや、だから、たすけて、たすけてほしいって――」

「サザーン!」


 震える声で告白を続けるサザーンを、俺は衝動的に引き寄せていた。


「……ぁ」


 呆然とした声。

 無抵抗な軽い身体を、痛ましく感じる。

 だから……。


「……ごめん」


 言葉は、自然と口からこぼれ落ちた。


「ソー、マ?」


 心を前の世界に置いてきたまま、ぼんやりと俺を呼ぶその身体を、もう一度強く抱き寄せる。

 そして、言った。


 今まで言えなかった言葉を。

 いなくなってしまった仲間たちに、かけたくても、かけられなかった言葉を、口にする。


「助けてやれなくて、ごめん。

 ……よく、頑張ったな」


 俺が、そう口にした瞬間だった。



「う、ぁ……。うぅ、あぁぁあああああああ!」



 サザーンは、泣いた。

 まるで幼い子供のように、声をあげて。


 そんなサザーンの小さな背中をそっと支えながら、俺はもう一度万感の想いを込め、ささやいた。


「ありがとう、サザーン。……おかえり」





「……落ち着いたか?」


 俺が声をかけると、サザーンは恥ずかしげに目を伏せ、小さく「うん」とうなずいた。

 まあ、そんな風に顔を背けなくても仮面でどうせ表情は分からないのだが、それは言いっこなしだろう。


「は、恥ずかしいところを、見せて、その……」

「はは、そんなの今さらだろ」

「だから、そういうことを……ああ、もう!」


 サザーンは苛立ったようにして唇を尖らせ、俺と目を合わせないままで、早口で言った。


「ただ、一応、世話にもなった訳だから、その……あ、ありがとう」


 そのあまりにもサザーンらしい言葉を聞いて、俺は小さく噴き出した。

 それを聞いて「何だよ、その反応は!」と口を尖らせるが、その様子を見て安心した。


「もう、大丈夫そうだな。それじゃ、今日はもう遅いから……」

「ま、待った!」


 切り出そうとしたところで、サザーンが声をあげた。

 そして、


「今日は、ここで一緒に寝たら、ダメ……か?」


 口にされた思いがけない提案に、戸惑ってしまう。


 少しだけ考えたが、首を振る。

 不安な気持ちは分からないでもないが、それはよくないだろう。


「あー。前にも言っただろ? 自覚はないかもしれないが、お前だって女の子なんだし……」

「あ、あのさ!」


 しかし、俺の言葉は、ふたたび必死な様子のサザーンにさえぎられた。


「これは、言わなきゃフェアじゃないと思うから、言うけど。

 ちょ、ちょっとだけだけど、見たんだ。

 世界を巻き戻す前の、ソーマの、最後の想いも」


 ああ、と思い出す。

 確かに巻き戻しの直前、俺は腕輪を拾って、鞄の中に入れた。

 その時に、少しだけ俺の記憶が、想いが、腕輪に焼きついていたのか。


「それで、僕のことも大事に思ってくれてるって分かって、う、嬉しかった、し。

 だ、だから、その……し、信頼、してるから」


 はにかんだようにそう言われれば、おう、と答えるしかない。


 こういうのとそういうのは別というか、むしろだからこそ、という部分もあると思うのだが、この純粋な笑顔を前にそんなことを口にするのはそれこそ無粋というものだろう。


 うん、俺が気をしっかりと持てばいいだけのことだし。

 仕方ない、これは、仕方がないんだ。


「……今日、だけだからな」


 観念した俺がそう言うと、サザーンはもう一度、「うんっ!」と弾んだ声でうなずいたのだった。




「あ、あのさ。話、聞かせてよ」

「話?」


 じゃ、邪魔するぞ、とわざと横柄そうな、けれど緊張しているのを隠せない様子のサザーンがベッドに入ってきて。

 しばらく続いた奇妙な緊張感を破ったのは、そんなサザーンの言葉だった。


「うん。ソーマはこことは別の世界にいたんだろ。

 僕はあんまりソーマのこと、知らないから。

 だからその話が、聞きたい」

「俺の世界の話、か……」


 そこで、俺はちょっと詰まってしまった。


 日本によくある異世界に転移するストーリーなんかでは、転移してきた主人公は、たとえ高校生くらいの年齢でも、自分の知っている現代の知識を使ってファンタジー世界の改革をする。

 そのあまりの破壊力に、「現代知識チート」なんて言葉が生まれるほどだ。


 しかし考えてみれば、俺は大学生の身でありながらゲームばっかりの生活を送ってきたおかげで、普通の高校生が当然知っているべき知識すらほとんど持っていない。

 黒色火薬の配合方法も、古武術の術理も、味噌や醤油の作り方も、過去の戦争で使われた兵法も、刀の鍛造工程も、堆肥の正しい作成法すら分からない。

 現代知識チートにはほど遠い、実に貧弱な知識しか持ち合わせていないのだ。


「だ、ダメ、か? だったら別に……」


 俺が黙っていると、それを拒否と受け取ったのか、サザーンが寂しそうにそんなことを言い出す。

 俺はあわてて否定した。


「いや、悪い! 駄目って訳じゃないんだ。

 ただ、俺が出来る話なんてそんな面白いもんじゃないぞ。

 あんまり役に立たない、どうでもいいことだけしか……」


 だが、サザーンはそれを聞いても楽しそうに笑うだけだった。


「それで、いいんだよ。……それが、いいんだ」


 それがいい、という言葉の意味はよく分からなかったが、それで腹は決まった。

 何も考えずに、勢いに任せて口を開く。


「ええと、じゃあ、まず何を話そうか。

 ……そうだな。前にも言ったと思うけど、俺の世界には魔物もいないし、魔法もないんだ。

 その代わり、科学技術が発展していて……」



 それから、サザーンには俺の知る限りの日本の、現代についての話をした。


 ゲームの時から自分の話を一方的にすることの方が多いサザーンが積極的に聞き役に回るのは新鮮で、俺の口もなめらかに動いた。

 自分の中にこんなにたくさんの話題が眠っていたのか、と驚くほどだ。


 意外にも、サザーンが食いついたのは飛行機だの自動車だの、あるいはミサイルだの核兵器だのといった露骨な「科学技術」ではなく、それよりはもっと他愛のない、生活に密着したものが多かった。


 全自動の洗濯乾燥機や電子レンジ。

 通販や冷凍食品、あとはカップラーメン。


 何だか興味の範囲が食事方面に偏ってるのはご愛嬌、だろうか。

 それから……。


「日本ではしばらく戦争は起きてないし、それなりに豊かで平和な国だと思うけど、社会問題とか、平和だからこそ起きる問題もあってさ」

「社会問題?」

「ええと、なんていえばいいかなー。例えば……」


 これも意外にも、と言ってしまうと失礼なのか。

 サザーンは高齢化社会とか格差社会とか、ニートとか未婚者の増加とか、そういう社会問題にも興味を示した。

 それから、その流れでちょっとだけ、ゲーム廃人やボトラーなんてものの話もした。

 ……いや、もちろん俺はそこまで行ってないぞ。


 そうして、俺たちは一つのベッドに横になって、何時間も他愛のないおしゃべりを続けて、


「だから、ダウンロード販売の難点は……サザーン?」

「……ん、ぅ」


 返事がないのを不審に思ってふと横を見ると、我らが封印の巫女様は、いつの間にか安らかな寝息を立てていた。

 この幸せそうに緩んだ口元を見る限り、もう大丈夫そうだ。


「おやすみ、サザーン」


 だから俺も小さくつぶやいて、目を閉じて、すぐに眠りの淵に落ちていった。




「……ん」


 突然感じた熱に、俺の意識は呼び覚まされた。


 ぼんやりと、何かが目の前にいる気配は感じる。

 ただ考えるのが億劫で、そのまま眠りの世界にもどっていこうとした時、



「――おはよう、ソーマ」



 何度も聞いたような、でも一度も聞いたことのないような、そんな不思議な声に、俺の意識はまどろみから引き上げられる。

 俺はゆっくりと目を見開き、


「……え?」


 すぐ前に見えた光景に、そのまま目を見張った。


「ミティ、ア?」


 慣れ親しんだ、けれど一度しか見たことのない少女の顔。

 仮面を外した彼女の顔に、俺が呆然とつぶやくと、


「うん。おはよう、ソーマ」


 彼女はもう一度、楽しそうにあいさつをした。

 だが、俺としてはそれどころではない。

 まどろんでいた意識は一気に覚醒した。


「どうして? 仮面は?」


 焦った俺の様子を笑いながら、彼女は左腕を突き出した。


「この『環魂の腕輪』は魂と記憶を封じるものだから、邪神の封印の補助にも使えるんだ。

 それが二つあるんだったら、ちょっとくらい放具を、仮面を外したって大丈夫だよ」

「そう、か」


 そういえば、サザーンも前に、この腕輪がもう一つあれば、なんてことを口にしていたことがあった気がする。

 あれは、そういうことだったのか。


「えっと、だけどサザ……ミティア」


 俺が言いよどむと、彼女は小さく笑った。


「サザーン、でいいよ。ソーマにミティアなんて呼ばれると、ちょっとくすぐったい」

「なら、サザーン、でいいか」


 仮面を外した彼女をサザーンと呼ぶのは何か違和感があるが、やっぱりそれでも彼女は俺にとってはミティアではなくサザーンだ。

 遠慮なくそう呼ばせてもらうことにした。


「どうしてわざわざ仮面を外したんだ? 仮面を外しても大丈夫だって証明したかっただけ、じゃないよな?」


 俺が尋ねると、サザーンは表情を引き締めた。


「大事な話が、あるから。この話は、仮面をつけていない時の、邪神に影響されていない時の自分が、するべきだと思ったんだ」

「そう、か……」


 サザーンの仮面は、封印された邪神の力を表に出して発散させるためのもの。

 つけている間は、人格に影響を受ける。

 全く別の人間になるという訳でもないだろうが、それも許容出来ないほど大事な話だということだろう。


「そ、それに……」

「ん?」


 そこで、真剣だったサザーンの顔が、少しだけ照れたように崩れる。


「ソーマが起きて一番に見る顔は、仮面じゃなくて、本当の顔にしてほしかったし、さ」


 突然妙なことを言われて、息が詰まった。

 仮面を外したその顔でそんなことを言うのはなんというか、反則だろう。


 見ると、サザーンの方も慣れない台詞を言ったという自覚があるのか、顔を真っ赤にしている。

 俺はごほんとわざとらしく咳払いをして妙な空気を追い払うと、焦って先を促した。


「そ、それで、大事な話ってなんなんだ?」

「それはね。僕……じゃなかった、わたしの……」

「そっちも、言いやすい方でいいと思うぞ」


 わざわざ言い直すサザーンに、さっきの意趣返し、という訳ではないが、そう言葉をかけてやる。

 サザーンはしばらく考え込んでいたようだが、


「そう、だね。……うん。やっぱり、仮面のせいだけじゃなくて、僕も、変わったんだね」


 少しだけ寂しそうに、でもほんの少しだけ嬉しそうに、そう言った。


「それでいいんじゃないか? 今さらサザーンだった時のお前が全部嘘だったなんて言われても、俺が困る」

「……ソーマ」


 邪神の影響があったとはいえ、全く別の人格で数年間ずっと暮らしてきて、元の彼女が何も変化しないということもないだろう。

 今の彼女はきっと、昔のミティアと仮面をつけたサザーン、その中間くらいの人格だ。

 それは良いことだとか悪いことだとかではなく、そういうものなのだろう。


 サザーンは俺をもう一度マジマジと見て、ありがとう、と言った後、真剣な顔を作り直して続けた。


「僕の記憶を見たソーマには分かってると思うけど、僕の右腕にはいまだに邪神の欠片が封じられている。

 それに、この欠片を倒しても、欠片に宿った力が本体に飛んで、本体の封印が解けてしまう。

 僕の一族を本当の意味で解放するためには、この欠片だけじゃなくて、邪神を完全に倒してしまう以外、手段はないんだ」

「……ああ」

「でも、残念だけど僕一人じゃこいつを倒すことさえ出来ない。だから、ソーマの力を貸してほしい」


 そこで、サザーンは頭を下げた。



「――お願いします。僕と一緒に、邪神を倒してください」



 もちろん、答えなんて、決まっていた。


 サザーンだって、俺の仲間だ。

 それを見捨てるなんて、出来るはずがない。

 ただ、それを素直に伝えるのは少し、照れ臭かった。


「……ここから北の、はるか上空に、天空都市ってダンジョンがあるんだ」

「え?」


 突然の話題転換に戸惑うサザーンに気付かないフリをして、俺は言葉を続ける。


「邪神の欠片のコアは、高い場所にあるからさ。

 そこにある天馬の靴がないと、戦うのは難しいんだ。

 ……だから」


 目をぱちくりとさせてるサザーン。

 その顔に向かって、不器用に笑いかける。


「だから、さ。その後でよかったら、力を貸すよ」


 遠まわしな俺の言葉。

 だが、彼女は嬉しそうにうなずいて、


「ありがとう!」


 と笑ったのだった。




 これで話は終わり、と思ったのだが、まだ続きがあった。


「あの、ね。実は、もう一個だけ、言っておきたいことがあるんだ」

「言っておきたいこと?」


 俺の言葉に、サザーンは照れたようにうなずく。


「うん。僕にも目標が、夢が出来たから、それを、ソーマに聞いてほしくて」

「夢、って……」


 ここでそんな言葉が出るとは思わなかった。

 意外な展開に驚く俺に、サザーンは心の底から楽しそうに話し出した。


「今までの僕は、漠然とつらいことはやりたくないとか、邪神を倒して楽になりたいとか、そんなぼんやりとしたことだけしか考えてなかったんだ。

 でも、ソーマの話を、ソーマの世界の、平和な世界の話を聞いて、自分が目指したいものがはっきりと分かった」


 決然と、けれど同時に生き生きと話す彼女には、昨日までの彼女にはなかった強固な意志が宿っていた。


「もちろん、邪神がいなくなっても、すぐに世界が平和になる訳じゃないと思う。

 この世界とソーマの世界は色々と違うし、そううまくいかないことだって、あると思う。

 ……だけどもう、決めたんだ」


 それはたぶん、封印の担い手ではなく、この世界に生きる、一人の少女としての夢。

 キラキラと輝く瞳を惜しげもなく俺に向け、両手をいっぱいに広げて、


「僕は、ソーマと一緒に、絶対に邪神を倒す。それで、世界を平和にして、そうして、そうしたら――」


 まるであふれる気持ちをぶつけるように、漏れ出す想いを形にするように、彼女は高らかに宣言した。



「――僕は、ニートになる!!」



現代知識ニート!!





これでやっとサザーン関係の回収というか、インターミッションは終了

次回からメインストーリーに入ります

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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
― 新着の感想 ―
[一言] そういや、働きたくないとか公言してたもんな。
[一言] なんだろう、サザーンは引きこもってレスバとかしなさそうなのに 自尊心とか増幅されてないはずのミティアは厨二ネームバカにされてレスバしてそうな気がしてしまう つまりニー闘力が高い
[一言] 「普通の高校生が当然知っているべき知識すらほとんど持っていない。  黒色火薬の配合方法も、古武術の術理も、味噌や醤油の作り方も、過去の戦争で使われた兵法も、刀の鍛造工程も、堆肥の正しい作成…
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