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第二百七章 不吉な予感

※ちょっと真面目な告知

感想欄で「サザーンと風呂に入ったのは巻き戻り前の世界では?」という指摘を頂いたため、前話の展開を一部変更しました

また別件ですが、伏線を使う者としてはあるまじきことに、邪神の欠片の「触手を破壊すると武器が損耗する」という不知火破壊のために設定した特殊能力『腐食の呪い』のことを完全に忘れていたことに気付き、今さら辻褄を合わせるのもややこしいので第百七話の『腐食の呪い』に関する記述を削除しました

申し訳ありませんでした




130時

うん、流石に若干のアウト感が……

「ぐずっ。僕はやめてって言ったのに、『本当の男を教えてやる』ってソーマが無理矢理……」

「はーい、よしよし。怖かったねー。……そーまぁ!」


 部屋の端で体育座り状態から少しだけ回復したサザーンが真希に泣きつくと、真希がすごい顔でこっちをにらみつけてくる。


「い、いや、ちょっと俺の話も聞いてくれって!」


 確かに俺はサザーンにちょっとした、ほんのささやかな保健体育の授業を行ったが、それはもうほぼ完全に善意からで悪意なんてほとんどなかった。

 あったとしてもほんの少し、ブルドーザー一つまみ分程度。

 それ以外は猫耳猫のイベント担当と同じくらい純粋な善意でやっていたのだ。


 だが、俺がその辺りのことを主張する時間は与えられなかった。


「何やら異変を感じて来てみれば、案の定ですか」

「……ソーマ」


 騒ぐ真希の声を聞きつけたのか、あるいは虫の知らせでもあったのか、調べ物をしていた仲間たちまで続々ともどってきたのだ。

 そしてもちろん、そこからが大変だった。


「…へんたいせくはらおとこ?」


 パッと見ておおまかな状況を理解したらしいリンゴが懐かしのフレーズを持ち出して俺を精神攻撃してくるし、


「あまり良い状況のようには思えませんが、もしかすると情状酌量の余地があるかもしれません。

 どうでしょうか。ここでもう一度、私相手に実演してみるというのは」


 いつもは抑えに回ってくれるミツキが、やたら俺の猫耳を凝視しながら変なことを言い出すし、


 ――ポスン。


 くまが俺のお腹の辺りをクッション性抜群の手で殴りつけて、「これでチャラにしてやんよ」と言わんばかりの男前な笑みを見せてくるし、


「いくら気付いていなかったとはいえ、人が本を読んでいるすぐ隣で卑猥な行為に及ぶとは……。

 なるほど、これが英雄の度量というものですか。……あり、ですね」


 いつのまにか一冊本を読み終えたセーリエさんが復活していて、しれっと糾弾に加わってくるし、


「待ってくれって! そ、その……あれ、そういえばイーナは?」

「ああ、彼女ならここに来る途中見かけましたが、一生懸命に調べ物をしているようでしたよ」


 特に耳がいい訳でも勘がいい訳でもないイーナはまた一人だけ置いてけぼりになっているしで、散々だった。




 話の内容が内容だけに、サザーンの許可もなく俺が勝手に話をする訳にもいかない。

 ようやく多少回復してきたサザーン監修の下、俺は弁明を始めたのだが、話が肝心のジョージとかスノパオンとかお風呂の箇所におよぶとサザーンが「うみみやゅっ!」と叫んで襲いかかってきて中断するし、なかなかに時間がかかった。


 一応プライベートな内容は避けるようにしたが、今後のため、ということもあって、サザーンが封印の一族の巫女であり、実は女の子であることもぶちまけた。

 流石にこれには驚くだろう、と思っていたのだが、みんなの反応は思ったより悪かった。


 確かに封印の一族のくだりでは少なからず驚いてくれたらしいのだが、何しろメンバーがミツキ(無表情)リンゴ(無表情)セーリエさん(割と無表情)真希(知ってた)だ。

 ほとんどリアクションはなかったし、サザーンが女の子だったという部分に至っては、


「わたしはそうかなーって思ってたよ。はっきりそう思ったのは映像記録を見た時だけど」


 真希があっさりと言い放ち、


「私も薄々とは。触れられたくなさそうでしたので、知らぬ振りをしていましたが」


 ミツキがさらっと告白し、


「…ん。よかんは、あった」


 リンゴも何やらかっこいい言葉であとに続き、


「ええ。もちろん、もちろん、です。私も当然その程度のことは見抜いていました」


 最後にセーリエさんが眼鏡と声をカチャカチャ震わせて、雄弁に真実を語ってくれた。


(そういえば、レイラも俺とサザーンが一緒に風呂に入ったって言った時、変な反応してたような……)


 今は屋敷で留守番をしている彼女に確かめる術はないが、あの男女のことに関しては野性的とも言える勘を持つ彼女のことだ。

 様々な反応を鑑みても、サザーンが女だと気付いていたと考えるのが自然かもしれない。


 となると今のところ、付き合いの浅いセーリエさんと、今ここにいないイーナ以外は全員が勘付いていたということになる。

 これにはむしろこちらが驚かされてしまった。



 実は、サザーン女性説自体は猫耳猫のゲームでも昔から根強く語られていたことではある。

 しかし、イベント上では基本的に男性として扱われているのと、女性専用装備を渡しても身につけないこと、それから主に「こんな奴が女の子な訳ない」という心情的な問題から俺は否定派だったが、一部の人間が声高に主張をしていたのは知っていた。


 もちろん検証好きの猫耳猫プレイヤーのことだ。

 いくつもサザーン女説を否定、あるいは肯定するべく実験がなされたのだが、絶対に脱がない仮面とマントのせいもあって決定的な証拠が見つからず、こんなに個性が強いキャラであるのに結婚イベントが発見されないことともあいまって、百年論争と言われるほどの大激論を呼んでいた。


(しかしまあ、おそらく結婚イベントについては未実装だったんだろうな)


 サザーンの故郷であり、絶対にイベントに盛り込まれそうな南の孤島はゲーム未実装だし、サザーンと深く関われば二つ目の邪神の欠片や邪神本体との対決は避けて通れないと思うが、それもまた未実装。

 この状態でサザーンと結婚に至るだけのイベントが用意出来ているとも思えない。


 ただ、発売前の宣伝では「最強の敵!? 開発中の最終ボスの姿を極秘大公開!」という煽りで邪神らしきモンスターのシルエットが公開されているし、サザーン自体が割と力の入ったキャラだ。

 開発段階ではサザーンと邪神関連のイベントが実装される予定だった可能性は十分にある。


 それに、猫耳猫は開発当時、すでに続編の開発が半ば確定していた、というまことしやかな噂もある。

 まあ色々と大コケしたためその話は白紙になったらしいが、開発当時なら別だろう。

 続編を作って邪神本体ともども再登場させるつもりだったか、あるいは、ありえないことだとは思いたいが、バグフィックスとささやかな新要素を詰め込んでフルプライスで売り出す、いわゆる完全版商ほ……。


「もう、そーま、何ぼーっとしてるの!」


 バン、とテーブルを叩いた真希に先を促され、ハッと我に返る。

 危うくゲーム業界の闇に心を囚われるところだった。


 第一、彼らが猫耳猫plusだとかゴールデンだとかFだとかGだとかインターナショナルだとかディレクターズカットだとかリターンズだとかリチャージだとかダークなんちゃらだとか、そんなものを売り出そうとしていた証拠なんて一切ない。

 それに、作り直しによって本当に良作になったケースだってあるのだ。


 思わず非難の言葉を口にしてしまいそうだったが、もう少し様子を見よう。

 俺の予感だけでみんなを混乱させたくない。


「そーま! いいから話の続き!」


 などと、そうやってたびたび脱線しながらも何とか一通り話し終え、


「……だから、俺はしかたなーく、その本を見せることにしたって訳だ」


 それで誤解は解けた、はずなのだが、


「特に情状酌量の余地はありませんでしたね」

「…まにんげんになろうって、いったのに」

 ――ポスン、ポスン。

「司書の立場から言わせてもらいますが、いきなりあの本を読ませるなんて信じがたい暴挙です!

 最初はソフトなもので興味を引き、そこから徐々に過激な方向にシフトさせて少しずつ調教して……」

「あ、皆さんここに集まってたんですね! こっちは収穫なしで……あれ?」


 なぜだかみんなの態度はあまり変わらず、俺はたっぷりとお小言を頂戴したのだった。




 そうして長い説教が終わった後、


「イーナ、聞いてくれ! サザーンは実は女の子だったんだ!」

「え、ええっ!」

「しかも、その正体は代々邪神を封じてきた一族の巫女!」

「え、ええええっ!」

「なんと最後の邪神の欠片は、サザーンの右手に封じられていたんだ!」

「え、えええええええええっ!!」


 まるで心洗われるようなイーナの素直なリアクションを思う存分堪能し、心機一転調べ物は続けたものの、結果は空振り。


 以前にセーリエさんの言っていたネイティアという人の日記も邪神とは関係ない別人のもので、結局その日はそれからはほとんど何の進展もなく、俺たちは無為な時間を過ごして屋敷まで帰ってきてしまった。


「……ふぅ」


 ベッドに寝転んだまま、ぼんやりと部屋の天井を眺める。


 今日、サザーンの記憶を見ることによって、一番知りたかった「最後の邪神の欠片の場所」は分かったものの、まだまだ情報が足りているとは言い難い。

 サザーンの腕輪に封じられた記憶には、初代サザーン、つまりネームレスが見た邪神の記憶は残っておらず、ただ「邪神と戦ってはならない」という警句だけが残されていた。


 腕輪には後から記憶を刻み込むことも出来るという。

 なのに邪神との戦いなどという大事なものが残っていないのは、おそらくネームレスが何かの意図を持ってあえて残さなかったのだと考えられる。


 邪神大戦の最終話、つまりネームレスが隠したことを知っているはずの真希に、あらためてその内容を尋ねたが、


「それは、そーまが自分で確かめた方がいいと思う」


 と硬い声で言うだけで答えてはくれなかった。


 ついでに、もしかするとサザーンなら腕輪の記憶にはなかった邪神の知識があるかもしれない、と詳しい話を聞こうとしたのだが……。


「ふぅぅぅ!!」


 俺が近付くと、真希の背中と仮面越しに手負いの猫みたいなうなり声をあげるばかりで、とても会話にもならなかった。

 少なくとも現状では、あの二人から話を聞くのは難しそうだ。


(猫耳猫、最強の敵、か)


 なんとなく、猫耳猫の発売前の広告記事を思い出す。

 ゲーマーの常として「最強」という言葉に、漠然とした憧れのようなものはある。

 邪神を倒して世界を平和にしたいとか、巻き戻し前の悲劇を繰り返したくないとか、そんな大義名分じみた動機の裏に、最強の存在を打ち倒して自分が最強になりたいという、子供じみた想いがあることは否定出来ない。


(ただ……)


 あの記事に載っていたシルエットは、邪神の欠片と似ているものの、邪神の欠片そのものではなかった。

 むしろ、邪神大戦映像記録で勇者アレクスやネームレスが戦ったオリジナルの邪神に近かったように思う。


 だとすると、邪神の欠片だけでなく、邪神も猫耳猫の制作陣が、あの(・・)猫耳猫の制作陣が作った、いや、作ってはいなくても、構想していたモンスターということになる。

 欠片の段階であれほどえげつなかった邪神が、完全体になればどんなとんでもない敵になっているか、想像も出来ない。

 想像もつかないが、あの傍若無人な真希を怯ませるほどの何かが、邪神の本体にはあるのかもしれない。


 本当に、邪神と戦うと決めた選択は、間違いではなかっただろうか。

 そんなことを考えながら、ごろんと寝返りを打って窓の方を向き、


「あ、ああっ!」


 そこに映った光景に、俺は自分の犯した信じがたいミスに気付いた。


(何で、思い出さなかったんだ……)


 思い出すだけの時間も、目的を果たすための時間もあったはずなのに。

 サザーンの性別や、有害図書や、イーナのいいリアクションに心を乱されて、自分の目的をすっかり見失っていた。


 そう、つまり……。



「カーテンをシャーッてする金具、買うの忘れてた!」



 またしばらくカーテンが半分外れた状態で過ごさなきゃいけないのか、と俺が自らの過ちを嘆いていると、


 ――コン、コン。


 とドアが控えめにノックされ、俺は首をかしげる。


「んー。誰だ?」


 もう夜も遅い。

 この時間に訪ねてくるとしたら可能性が高いのは真希かレイラだが、真希のノックはもっと元気がいいし、レイラのノックはもっとこう、粘着質だ。


 俺が首をかしげたまま扉を開けると、そこにいたのは予想外の人物。


「あれ、サザーン? なん……」


 しかし、その疑問を言葉にすることも出来なかった。

 突然胸に飛び込んできたサザーンの勢いに、俺はよろめいた。


「どう、したんだ?」


 あの一件以来、サザーンは俺と距離を取っていた。

 実際に夕食時までは俺が近付くだけで警戒心丸出しで逃げ回るほどだったはずだ。

 それが一体、どうしてこうなったのか。


「とにかく、みんなを集めて……」


 異常事態なのは間違いない。

 俺が仲間たちを呼びに行こうとすると、ギュッと、すがるように胸元をつかまれた。


「サ、ザーン?」


 仮面にさえぎられ、彼女の顔は見えない。

 ただ、握られたその手は小刻みに震えていた。


「……たんだ」

「え?」


 困惑する俺の胸で、彼女はささやき……。

 そこで俺はやっと、それ(・・)に気付く。



「――見たんだ、全部」



 かすれた声でつぶやいた彼女の左手首には、巻き戻し前の世界の遺産が、傷のついた『環魂の腕輪』がはめられていた。


分割!

明日!

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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだろう? まさか歴代継承者のアレでも見たのか?
[一言] 右手に封印されしモノが本当に目覚めてパーティ全滅みたいな話あったな...
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