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第百九十七章 運命

わーっはっはっはっはっはっは!

まさかの連続更新継続!

しかもここ最近で一番の文章量!!


誰もが安牌だろうと思うところでサボり、ああこりゃあもう駄目だなと思ったところですかさず本気を出す!

これが猫耳猫の流儀だ!!

いやっほーう!

 一刻も早く未実装地域に行って新しいモンスター探しをしたいという気持ちはあったが、それよりも先にこなさなければいけないことがある。


 まずは事情説明。

 昼過ぎに屋敷にやってきた真希が「えーっ! 最終話見ないのー!?」と騒いだが、何とか説得。

 それからサザーン以外の全員に、あらためて俺が元の世界にもどるために『合成禁術デスフラッシュ』という強制ログアウトバグを使おうとしていることや、それにはレイライベントで手に入れたバブルチェインの魔法のほかに、サザーンイベントでしか入手出来ないスターダストフレアが必要なことなどを説明した。


 スターダストフレアは言わずと知れた超高範囲高威力の殲滅魔法。

 そしてバブルチェインの魔法で出てくる泡には、発動後に魔法攻撃が当たると泡のグラフィックが増殖する、というよく分からない特性がある。

 この二つを同時に使うと視界内は泡と爆発で阿鼻叫喚の模様になり、強すぎる刺激に対してVRマシンの安全装置が動く、という仕組みだ。


 いや、まあ正確に言えばスターダストフレアとバブルチェインなら確実にデスフラッシュが起きるというだけで、どちらかの代わりにエフェクトの激しい魔法を二つほど重ねれば強制ログアウトは起きる、という話は聞いたことがある。

 ただ、確実とは言えない上に、それらの魔法も入手が困難ではあるので、今回はスタンダードにその二つで行くことを考えている。


「それを使えば、本当に貴方達は元の世界に戻れるのですか?」


 ズバリ訊いてきたミツキの言葉は鋭い。


「それは、分からない」


 この世界を作った意志が、デスフラッシュの強制ログアウトをゲーム内の現象として捉えたかどうか。

 そしてゲーム内の現象と捉えたなら、それをこの世界でどうやって再現したか、というのが焦点になってくる。


 VRマシンまで含んだこのバグは、もしかするとゲーム外の要素と判断されて、この世界には存在していない可能性も高い。

 もし存在していたとしても、強制ログアウト=死と判断していれば、使った瞬間に死んでしまう可能性だって否定出来ない。

 あるいは……。


「その瞬間に、この世界が消えてなくなる、という可能性はないのですか?」


 ミツキが鋭い指摘をする。

 俺も、それを一番気にしていた。


「可能性がゼロとは言えない。ただ、おそらくそんなことにはならない、と思う」


 ゲームを強制終了した場合と違い、VRマシンの安全装置で強制ログアウトした場合、それまでの操作はある程度保存される。

 俺は実際に試したことはないが、次に起動した時に「前回中断した操作を続ける」を選べば、ゲーム画面に復帰出来る……らしい。

 その場合魔法エフェクトはどうなるかとか、再開時に何も不具合はないのかという心配はあるが、強制ログアウト→世界即時消滅、という危険はそんなには大きくないはずだ。


「でもプレイヤーがゲームを再開しないとゲームが止まってるのも確かだから、そこを再現されると『俺がもどってこないとこの世界の時間が動かない』なんて可能性もあるが……」

「…それなら、こうつごう」


 おずおずと切り出した俺の言葉は、やけに自信にあふれたリンゴの言葉にさえぎられた。


「いや、好都合、って」

「…だって、ソーマはぜったいもどってくる、から」


 むしろ俺を待つ必要がなくて楽だ、とリンゴは言い切った。

 一片の疑いもこもっていない言葉の前に、俺は黙り込むしかない。


 しかし確かに、向こうの世界で何年過ごしてもこっちにもどった時に時間が進んでいないなら、ある意味で気楽に世界移動の手段を探せる。

 と、そこまで考えた時、昔読んだSFの結末が脳裏をよぎって、俺はブンブンと頭を振った。

 いやいや、まさかあんなことにはならないだろうから気にする必要はないだろうが、あまりのんびりしすぎていると……。


「……しかし、使った瞬間に命を落とす可能性はまだ残っている訳ですね。

 ここまで来て、あまり反対もしたくありませんが」


 そこで、俺の脇道にそれた思考をミツキが修正する。

 しかしその言葉とは裏腹に、ミツキの頭の上の本体さんはぴこぴこと揺れ、反対を表明しているように見えた。


「ソーマさん……」


 こちらを見るイーナやリンゴも心配そうな雰囲気を漂わせている。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。その『ですふらっしゅ』っていうのは、まずわたしが試してみるから。

 まあそれで世界が滅んじゃうなら、順番関係なくもうどうしようもないけどねー」


 そこで軽い調子で割り込んできたのは真希。

 しかし、彼女が口にしたのは、俺も考えていなかったことだった。


「いや、何言ってるんだよ。こういうバグを真っ先に試すのは……」

「むー。ダメだよ。……わたしがいるからそーまが帰るんでしょ。

 だったら一番危ないところくらい、せめてわたしにやらせてよ」

「真希……」


 強い意志のこもった目で見据えられて、俺は言葉を失う。

 このままでは押し切られてしまいそうだと思った俺は、とりあえずこの件は保留にすることにする。


「……それは、また後で話そう。今はスターダストフレアの確保が優先だ」

「分かった。でも、わたしはゆずらないからね!」


 真希の力強い言葉を最後に、話は今日の予定に移行した。




 全員でスターダストフレアを取りにいく、という提案もあったのだが、はっきり言って人数が必要なイベントではない。

 だったら今日は各々の用事をこなそうということになり、とりあえず午後はばらけて行動し、俺とサザーン、それに真希の三人でスターダストフレア入手に動くことを決めた。


 なぜ真希も一緒かというと、サザーンが魔法入手する時にプレイヤーがその場にいると、プレイヤーもスターダストフレアを習得出来る。

 あの魔法を俺たちが使う機会があるかという疑問はあるが、このイベントでしか覚える方法のない魔法だ。

 プレイヤー属性を持つ俺と真希は一応覚えておこうという結論になったのだ。


「それじゃ、わたしはラムリックに行きますね。

 あの、ミツキさん、転移石本当にありがとうございます!」


 まず、イーナはミツキから転移石を三つもらってラムリックへ。

 恩人でもあり、仲間でもあるヒーラー、ティエルに会いに行くそうだ。

 向こうで夜まで過ごし、そしてもしティエルが望めば転移石で一緒に王都までもどってくると言っていた。


 イーナは知らないが、ティエルは俺が猫耳猫のゲームで唯一結婚しようと思ったキャラクターだ。

 正直思い入れはあるが、この世界のティエルとはほとんど面識がない。

 もし会うことになっても変な態度を取ってしまわないように気を付けようと、今から戒めている。


「それでは私達も」

「い、行ってくるね。私、ソーマのためにたくさん精がつく料理を覚えてくるから!」

「お、お手柔らかにな」


 レイラとミツキはヒサメ道場に。

 昔からレイラはミツキの実家の料理に興味があったようで、この機会に習いに行くのだとか。

 ……レイラが何かまた変な知識を覚えてこないことを祈るばかりだ。


 そして最後、リンゴとくまのペアは、


「…ん。わたしたちも、いく」


 なんと城に、王と王妃に会いにいくことが決まっていた。

 午後の自由行動が決まった時、真希が「だったら城に行ってお父さんたちに会ってきてよ」と言い出した。

 何でも、今日もリンゴを連れてきたらどうだとリヒト王から言われていたらしい。


 突然の提案にリンゴは迷っていたようだが、ゲームの設定を信じるならリヒト王と王妃はいい人だし、彼らはリンゴの両親だ。

 それに、俺がいなくなった時のために、リンゴの交友関係を増やしておく、というのも必要なことだろう。

 俺も迷うリンゴの背中を押し、押し切られたリンゴは城を訪ねることになったのだ。


 とはいえ、真希によってすでに向こうには話を通してあるみたいだし、リンゴの肩には心強いボディガードが鎮座している。

 これなら口下手なリンゴでも不安はない……ような、ますます不安になるような。

 とにかくかわいい子には旅をさせよの精神だ。


「じゃあ、リンゴ、気を付けてな。くま、リンゴを頼んだぞ」


 声をかけると、その言葉に応えるようにリンゴの肩の上に乗ったくまが、ニタァ、と頼もしい笑顔を見せる。

 俺が安心してサザーンたちのところにもどろうとした時、


「…ま、まって!」


 後ろから、妙にうわずったリンゴの声。

 もしかして不安なのかな、と振り向いた俺に、リンゴが飛びついてきて……。



 ――ちゅっ。



 左頬に、やわらかい感触。


「な、ぁ、え……?」


 何をされたのかは分かるのに、脳が追いつかない。

 思わず頬を押さえた俺の前で、リンゴはその名前の通りに顔を赤く染め、



「――ま、また、ね」



 聞きようによっては意味深にも取れる言葉と共に小さく手を振って、トタタタと走り去っていったのだった。




 スターダストフレアの入手はびっくりするほど順調に終わった。

 最初の頃はなぜか真希の機嫌が悪く、「まったく鼻の下を伸ばしちゃって」とかチクチクと嫌味を言われ、サザーンもなぜかご立腹なようで、「貴様は最近ふしだらだ」とか何とか、よく分からない説教を受けていたのだが、どちらも基本的には刹那に生きる人間。

 スターダストフレアの魔法が封じられている祠に着く頃にはもう不機嫌だったことも忘れ、楽しげにしていた。


 祠についてからも特に予想外なことは起こらず、試練で手に入れたメダルと、闇魔法に適性のあるサザーンによってちゃんと中に入ることが出来、スターダストフレアを編み出した魔術師のおっさんの、やったらと長い話を聞き流し終えると、三人とも無事にスターダストフレアの魔法を習得することが出来た。

 むしろ問題となったのは魔法を覚えた後だ。


「終わったねー。んー、でも、このまま帰ったらちょっと時間早い感じがするね」


 城に行ったリンゴたちも、道場に行ったレイラたちも、ラムリックに行ったイーナも、全員が帰りは夜遅くになると話していた。

 しかし、俺たちの用事はこれで終わり。

 このまままっすぐ帰ったら、おそらく屋敷に帰り着くのは一番早くなってしまうだろう。


 偶然にも、俺たちだけが用事が早く終わり、みんなよりも少し早く家にもどることになってしまうのだ。

 そう、偶然にも!


「じゃあせっかくだから、このまま沼地でも見にいかないか」


 だから俺は冷静に、いかにも今思いつきましたー、というノリで提案をする。


「それって、そーまがただ新しい敵と戦いたいだけじゃ……」

「僕もこのメンバーで未知の敵と戦うのは反対だな。

 戦闘はもっと圧倒的有利な状況で蹂躙する方が好みだ」


 やはり真希は難色を示した。

 サザーンもあまり乗り気ではないようだ。


 だが、ここで引き下がる訳にはいかない。

 リンゴとかミツキとかが一緒にいると、あんまり危ないこととかさせてくれなさそうだし、今がチャンスなのだ。


「い、いやでもほら。じ、時間もったいないし、な。

 ほ、ほら! サザーンだってスターダストフレアの魔法試し撃ちしてみたいだろ?」

「それは、確かに……」


 サザーンがうなずいたのを見て、俺は内心にやりとする。


 これで二対一。

 多数決ならこちらが有利だ。

 これでどうだ、とばかりに真希を見たが、なぜか真希はにんまりと笑顔を見せていた。


「はー。でもそんなの心配しなくていいから。

 こんなこともあろうかと思ってすごいの持ってきたんだ」

「すごいの?」

「うん。……じゃーん!」


 真希が効果音と共に取り出したのは、見覚えのありすぎる石板だった。


「なっ、それ!」


 間違いなく、邪神大戦の映像記録の石板だ。

 俺が預かると言っていた石板だが、もし世界を渡る時にアイテムがなくなってしまうと困るから、という理由で屋敷に置いておくことにしていた。

 それをなぜ真希が持っているのか。


「あのね。わたし、思うんだ。

 サザーンちゃんはそーまが絶対にもどってくるって信じて、最終話を見ないままにしてるんだよね」

「まあ、そうだが。……でもサザーンちゃんって呼ぶな」


 不機嫌そうなサザーンの言葉を聞いているのか聞いていないのか、うんうんとうなずくと、こんなことをのたまった。



「――どうせもどってくるって信じてるなら、今見ても同じじゃん!!」



 開いた口が塞がらない、とはこのことだ。


「い、いや、それは、でも、なぁ……」


 サザーンも困った様子でもごもごと反論の言葉をつぶやいている。


 それはまあ、わざわざこっちの世界にやり残しを作らなくても、どっち道もどってくるなら関係ない、という考え方も分かる。

 でもそこは様式美というか、サザーンのめずらしい美しい決断、みたいなもんを尊重するべき場面ではないのか。


「ね、だからこっそり見ちゃおうよ。

 気になるでしょ、サザーンちゃんも」

「う。それは、気にならないと言えばウソになるが……」


 意外にも真希の言葉はサザーンの心を揺り動かしたようだ。

 しかも間が悪いことに、昨日映像を見た時間が早かったせいか、石板の文字はすでに光を取り戻している。


「だ、駄目だぞ。どうしても見るならせめてみんなのいる場所で、だ」

「えー! そーまのケチー!」

「ケチとかじゃない。いいからこっちに渡せ。

 間違えて最終話押しちゃったりしたら大変だろ」


 俺がそう言って石板に手を伸ばすが、真希は取り合わない。

 むしろ俺から遠ざけるように石板を高くかかげて……。


「むー。そーまは心配性だよ。そんな偶然、起こるわけ……あっ!」


 その時、真希の手から石板がずるりと滑った。

 それはまるで奇跡のように、まさにドンピシャの位置に石板がずれ、真希の指が石板の最終話である「第十五話」の文字に触れる。


「あーもう、言わんこっちゃない」


 俺が頭を抱え、事故とはいえ、勝手に一人で最終話を見てしまった真希に何を言ってやろうかと考えた、その時。



 ――カタン、と石板が地面に落ちた。




「ま、き……?」


 取り落とした石版にも気付かずに立ち尽くす従妹の様子は、明らかにおかしかった。

 さっきまで嬉しそうに笑っていた唇には血の気がなく、小さく震えている。

 楽しげに輝いていた目は呆然と見開かれ、焦点があっていない。


 こんなに怯えている真希を、俺は今まで見たことがなかった。


「どう、しよう、そーま。たいへん、かも、しれない」


 もしかして、石板の最終話が悲惨な話だったのか、と思った。

 だが、それだけで真希がここまでの動揺を見せるだろうか。

 これではまるで、過去の出来事ではない、現実の脅威に怯えているような……。


「いいから、落ち着け。何を見たんだ?」


 俺が自分の動揺を押さえつけて尋ねると、真希は震える声で話し出した。


「アレクスたちは、邪神を倒せなかった。

 だから、その身体を、本体と、四つの欠片に分けて封印した、って」

「……それで?」


 邪神が五つに分けられて封印されたのは、ゲームでも語られていた知識だ。

 それだけなら、別に驚くには値しない。

 しかし、真希は「ちがうの」と激しく首を振る。


「小さな二つの欠片はラムリックの地下と、生贄の祭壇に。

 二番目に大きい欠片は、南の孤島に。

 そして、一番大きくて、普通の方法だと封印が出来なかった欠片は、特別な方法で封じることにした」

「特別な、方法?」

「心臓部だけになった欠片に、聖なる力を常に当て続けることで動きを封じることにしたの!」


 自己再生と同じだけの威力の攻撃を継続的に当てれば、身動きは取れなくなる。

 でも、大きい邪神の欠片を攻撃し続けられるような力なんて……。

 そこまで考えて、俺はある一つの可能性に気付いてしまった。


「ま、さか……」

「勇者アレクスは一番大きな欠片の上に魔法陣と、それから魔法陣に力を供給するための街を作った!

 あのリヒテルの魔法陣は、大聖堂の光は、邪神の欠片を封じるための仕掛けだったんだよ!」


 荒唐無稽とも言えるような真希の叫び。

 だが、それを否定する理屈を俺は持たない。


 そうだ。

 あの街を丸ごと使った魔法陣を作るには、街を作る人間が協力していなければならない。

 教会が自分の権威を増すために作った仕掛けにしては、大掛かりすぎる。


「待て、待てよ。それが本当なら、どうなる?」


 魔術師ギルドは我欲のために短時間とはいえ邪神を封じるための魔法陣を動かしてしまった。

 そして、連動するように起こった大聖堂の異臭騒ぎと訪れた者の体調不良。

 それが精神的な問題なんかではなくて、大聖堂に封じられていた邪神の放つ瘴気の影響だったとしたら……。



 ――もしかして、大聖堂の封印は、もう解けようとしている、んじゃないか?



「どう、しよう。お父さんが悩んでたのは、このことだったんだ」


 つぶやく真希の言葉はおそらく正しい。

 普通であれば民に不利益しかもたらさないはずの魔法陣を、リヒト王は即座に修復させた。

 それはきっと、王にはリヒテルの大聖堂に封じられた邪神の欠片の真実が伝わっているからで……。


「こ、ここで話している場合か! と、とにかく、リヒテルにもどった方がいいんじゃないか?」

「そう、そうだな。真希、転移石は?」


 サザーンの言葉に我に返った。

 考えるのはいつでも出来る。

 今するべきなのは行動することだ。


「あ、あるよ。じゃあまずお父さんに話を聞いてくるね!」


 そう言って、素早く鞄から転移石を取り出した真希だったが、


「あ、あれ? 転移、できない……」


 うまく表情が作れず、泣き笑いみたいな顔で、こっちを見る。


「貸してくれ!」


 念のために俺が試すが、なぜかリヒテルへの転移はうまくいかない。

 ここは、転移不可能な場所じゃない。

 だとしたら、問題が起こっているのは……。


「……走るぞ。サザーンは俺が運んでいく」

「えっ? ちょ、ちょっと待て、き、貴様は……」

「いいから、急ぐんだ!」


 俺は抵抗するサザーンを横抱きに抱え、真希がついてくるのも確認せずに走り出す。


 怯える真希に何か安心させるような言葉をかけてやりたいと思った。

 しかし、そんな想いとは裏腹に、言葉が出ない。

 嫌な予感しか、しなかった。




 日が落ち、次第に暗くなっていく道を、しかし俺たちは全速力で駆け抜けた。

 ほぼ休みなしにリヒテルの近くまでもどってきて、そこで俺たちが見たのは……。


「何だ、これ……」


 一面に霧に包まれた王都だった。


 こんなの、ゲームでも見たことがない。

 一体何が起こればこんな状況になり得るのか。


「……随分と、早かったですね」


 背後から、聞き慣れた声。


「ミツキ! よかった!」


 いつも通りに毅然とした猫耳少女の姿に、俺は息をついた。

 胸につかえた重い予感が、少しだけやわらぐ。


「何が、あったんだ?」


 ミツキがここに駆けつけてくれたのは、探索者の指輪で俺たちが近くまでもどってきたのを察知してくれたのだろう。

 道場にいたなら、リヒテルの状況も把握しているはずだ。

 息せき切って尋ねた俺に、



「――邪神の欠片が蘇り、リヒテルの街が壊滅しました」



 あまりにあっさりと、ミツキはそう答えた。


「壊滅、って……」

「言葉通りです。霧の中には転移も通信も出来ませんが、探索者の指輪で位置を確認する事は出来ました。

 王都には数百人の人間がいたはずですが、まとまって避難する癖がついていたのがアダになったようです。

 それに、邪神の欠片には近くにいる人間の位置を正確に察知する手段が存在しているようにも思えます」


 淡々と、何の感情も交えずに、ミツキは話す。

 それが、俺には信じられない。


 街には、俺や、ミツキの知り合いもたくさんいるのだ。

 毒舌だけどなぜか憎めないポイズンたん、豪快な八百屋のおばちゃんに、あのしたたかなアイテムショップの店員、それに、王様や王妃や、ゲーム時代にお世話になった冒険者たちだって、それに、それに……。


「とにかく、俺は行く。ミツキは真希たちをたの……」


 前に踏み出そうとした俺の腕を、ミツキがつかんだ。


「やめて下さい」


 感情のない目。

 無機質な言葉が、俺を引き留めようとする。


「……何のつもりだよ」


 つい、険悪な声が出た。


「中には、たくさんの知り合いが、大事な人が、いるんだ。

 今、邪神の欠片を倒せる可能性のある人間は、俺くらいしかいない。

 だから、すぐに俺が行かなきゃ……」

「分かります。ですが……」


 認める言葉。

 だが違う。

 そうじゃない。


「分かってない! 中にいるのは、知り合いだけじゃない!

 あそこには、あの中にはリンゴだっているんだ!」


 またね、と小さく手を振った姿が、城に駆けていく青い髪が、脳裏によみがえる。


「あいつは『また』って言ったんだ!

 だからまた会いに行かないと、俺が、迎えに行かないと!

 だって、そうじゃなかったら、そんなの……!」


 支離滅裂な俺の叫びに、ミツキの無表情が一瞬だけ歪む。

 だけどそれは俺が期待していた変化などではなくて、ただ押さえつけていた感情が許容量を超えたような、そんな顔で……。

 しかし結局、ミツキは崩れなかった。


「気持ちは、分かります。けれど、無駄です」

「無駄? 無駄って……」


 また、叫ぼうと思った。

 喚いて、そんなことはないと、それは嘘だと、そう言ってミツキの言葉をかき消してやろうと思った。


 なのに口は動かない。

 そんなことをしても意味がないと、ミツキが何を言おうとしているのか、本当はもう分かっているみたいに、俺は動けずに。


「壊滅した、というのは言葉通りの意味です。

 十分程前。街にいた最後の人間の反応が、消えました。

 つまり――」


 それ以上はやめろと、もうやめてくれと心の中では叫んでいるのに、舌がもつれて言葉にならない。

 だから、ミツキの唇は、ゆっくりと動いて……。




「――リンゴさんは、死にました」




 足から、力が抜けた。


「……ぁ、れ?」


 地面が近くなったのを見て初めて、自分が地面に膝をついていることに気付く。

 立たなきゃ、いけないのに。

 こんなところで休んでいる暇なんて、ないはずなのに。


 だけど、何で立たなきゃいけないんだったっけ?

 頭の中が真っ白になって、何も分からない。


 今、自分が何をしているのか。

 何をすればいいのかも、全て、全てが、分からない。


 ただ、虚ろな俺の頭の中に、低い声が響く。



『超越者ソーマ! 貴様に、予言をくれてやる!』



 いつか聞いた言葉が、頭の中を巡る。



『貴様は遠くない未来、かけがえのない大切なものを失う!』



 ぐるぐると、ぐるぐると回って。



『それが運命! 回避出来ない未来だ!』



 そして、予言は、運命は、俺に追いついた。






ここからが本番だ 、 覚悟はできたか?


次回更新は明日の予定

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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
― 新着の感想 ―
[気になる点] コレ、真希が最終話を見てしまったのがフラグになってないか?
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