第百八十七章 亀裂
本当はクリスマスには更新するつもりだったが、膝に矢を受けてしまってな
あとは大体ポケ○ンムーバーのせい
堂々の寄生宣言をしたサザーンだったが、俺に寄生するつもりは今のところそんなにないらしい。
そんなにないと言うところが実に正直だが、少なくとも邪神大戦の記録を最後まで見た後はスターダストフレアの習得には協力してくれると改めて約束してくれた。
それは嬉しいと思うし、サザーンには感謝してもいいと思う。
ただ、そのせいなのかなんなのか、一つの問題が発生していた。
その問題とは――
「知っているか、ソーマ!
伝承によると勇者アレクスは未来の妻である月光姫に今のリヒテルの場所にあった街、サールナで遭遇するそうなんだ。
戯曲にもなっている歴史的な場面なんだが、果たして第二話でその場面が描かれるかどうか。
もしそれを見ることが出来たら僕らは歴史の目撃者に……」
――サザーンがやたらうざい、ということだ。
いや、サザーンがうざいのは今に始まったことではないのだが、今日はいつもに輪をかけてうざい。
完全に好きな映画を見た後に興奮して話をしまくる人状態で、おまけに原作知識、いや、邪神大戦の調べ物で予備知識があるせいか、さらっとネタバレまでかましてくる。
「こら、聞いてるのか、ソーマ!」
あと近い。
やったら近い。
食事の時も普段は俺の対面か斜め前辺りの場所に座ることが多かったはずのサザーンが、今回は間髪入れずに俺の隣に陣取り、さらに椅子をずずずと移動させて顔を寄せてきた。
可愛い女の子ならともかく、こんな胡散臭い仮面の男に近付かれても嬉しくないというか、鬱陶しいことこの上ない。
「む? 何だソーマ。ハンバーグがまだたくさん残ってるじゃないか。
き、嫌いなんだったら僕がもらってやっても……」
「好物だよ。好きだから最後まで残してるんだ」
「こ、好物か。む、むぐぐぐ……」
おまけに、それ以外のことでも今までにないほどに気安く話しかけてくるようになった。
いや、気安いというか馴れ馴れしいのは昔からなのだが、その性質がちょっと変わったと言うべきか。
今もサザーンは仮面を不気味にゆらゆらと揺らし懊悩を表現して、
「え、ええいっ! 持っていけ泥棒!」
俺の皿の上に、五ミリ四方ほどにカットされた肉片をぽとりと落とした。
「……へ?」
俺がぽかんとしていると、サザーンは苦渋のにじむ声で言った。
「好物なのだろう? 貴様にはこれからもやってもらわねばならないことがあるからな。
慈悲と博愛の権化と呼ばれたこのサザーン様が特別に貴様に恵んでやる。
二度とない機会だ。精々味わって食べるがいい」
「……あ、ありが、とう?」
恵んでやると言われても、このどうやって切ったのか分からないほどの小さな一欠片では味わうも何もないもんだが。
いや、食い意地の張っているサザーンとしては、この食べカスみたいな大きさの物でも他人に食べ物を分けるというのは凄いことなのかもしれない。
「一噛みごとに僕に感謝して食べるんだぞ」
などと言うサザーンを適当にスルーしながら、俺は苦労してハンバーグの欠片にフォークを刺し、口に運んだ。
大きさが大きさなのでぶっちゃけ噛む余地なんてほとんどないが、まあ一応ハンバーグの味がした……気がした。
俺がごくりと肉の欠片をのみ込むと、唐突に視界に仮面が飛び込んでくる。
「ど、どうだ? うまいか?」
「え? ……あ、ああ。たぶん」
俺が答えるとサザーンは「当然だ!」みたいにうなずくが、お前が作った訳じゃないからな、これ。
思わず渋面を作っていると、そんな俺たちにミツキが声をかけてきた。
「どうやら二人共、随分と打ち解けたようですね」
「ばっ、バカ! そ、そんなことないぞ!
誰がこいつなんかと……!」
一体どういう見方をすれば、そんな結論に至るのか。
あとサザーン、その否定の仕方は逆効果だからやめろ。
「ふふ。本当に仲良くなったようですね。
昨日の魔法探しの成果ですか?」
「だ、だから違うって言ってるだろ!」
無駄にあわてふためくサザーンに、ミツキはほほえましいものでも見るようにへにゃりと猫耳を緩ませていたが、不意に何かを思いついたように寝かせていた猫耳をぴこんと跳ねさせた。
「そういえば、昨日二人が探していた魔法とは、もしかして――」
「――ソーマ!!」
ミツキの言葉を、突然リンゴがさえぎった。
「ど、どうしたんだ、リンゴ」
リンゴにしてはめずらしい大きめの声に、全員の注目が集まる。
みんなの視線に、リンゴは居心地悪そうに少し視線をさまよわせると、
「…ハンバーグ、あげる」
俺に向かって、皿に残っていたハンバーグを差し出したのだった。
リンゴの一件でなんとなく場の空気がリセットされたが、俺は腑に落ちない物を感じて首をひねっていた。
(どうもなんか、今朝はみんなの様子がおかしいんだよなぁ)
ミツキとくまは比較的いつも通りだが、それ以外の面々はどこかぎこちないように見える。
サザーンは言うにおよばず、リンゴも様子がおかしいし、イーナもなぜだか思いつめているように見える。
それに一番様子がおかしいのは……。
「ん、んぐっ!」
考え事をしながら食べていたら、のどに詰まらせてしまった。
あわてて胸をドンドンと叩いていると、横合いから水の入ったコップが差し出された。
ありがたく受け取って、飲み込む。
「助かったよ、サザーン」
いくら高レベルでも食べ物をのどに詰まらせると苦しいらしい。
コップを差し出してくれたサザーンに礼を言うと、サザーンは誇らしげに胸をそびやかせた。
「ふん。まあ、僕は貴様の相棒だからな。
不出来な相棒を助けるのも僕の役目だ」
いつ相棒になったのか知らないが、助かったのは確かだ。
俺は苦笑いを浮かべてもう一度礼を言おうとして、
――カタカタカタカタカタ!
サザーンとは逆の方向から聞こえた異様な音に、反射的にそちらを振り向いた。
(う、わぁ……)
目に飛び込んできた光景に、見なきゃよかったと心の底から後悔する。
「――マソーマソーマソーマソーマソーマ」
サザーンの反対側の隣にはレイラが座っていたのだが、俺とサザーンが接近してからというもの、彼女の様子がおかしい。
前かがみになって長い髪を前に垂らしながら何かぶつぶつとつぶやいている。
――カタカタカタカタカタ!
一体この音はなんなのだろうと思って目を凝らすと、レイラが逆手で握ったナイフと皿がぶつかって音を立てている。
わざとナイフをぶつけている訳ではなく、ぶれて見えるくらいに高速で貧乏ゆすりを繰り返しているので、そのせいだろう。
「――ソーマソーマソーマソーマソーマソー」
――カタカタカタカタカタ!
ささやき声とナイフの音の二重奏が食卓に響く。
はっきり言って、怖い。
館の奴らに負けず劣らずな怖さなだけでなく、いつデスブリンガーが飛んでくるか分からない辺り二重に恐ろしい。
「れ、レイラ?」
今までは気付かないフリをしていたのだが、流石に限界だろう。
おそるおそる声をかけた。
「何っ? ソーマ!」
するとレイラは一瞬前までの態度が嘘みたいな輝かんばかりの笑顔で弾んだ声を返してきた。
……逆に怖い。
「え、ええとな。食事、あんまり進んでないみたいじゃないか。
せっかく頑張って作ったおいしい料理なんだから、冷めないうちに……」
「お、おいしい?! 私の料理、おいしい?」
「あ、ああ。すっごくおいしい、ぞ」
食事がおいしいのは本当だ。
俺がひきつった顔で答えると、レイラは輝いていた顔をさらに太陽のようにきらめかせると、弾かれるように席を立った。
「分かった! じゃ、じゃあ今から追加で二十品くらい……」
「いや、いい! いいから食べよう! な!?」
立ち上がるレイラを何とかなだめすかして座らせる。
こんな調子で俺は何とかレイラの機嫌をもどすことに成功し、無事に食事を終えることが出来たのだった。
それからはサザーンにまとわりつかれながらも、自分のスキルの確認をしたり、イーナにスキルの指南をしたりで夜までを過ごした。
スキルコンボの練習はゲーム時代からの日課のようなものだし、三倍速になってからいまだに使えないメインスキルコンボもある。
それなりに有意義な時間だったと思うのだが、大変だったのは日が暮れてからだった。
邪神大戦の映像が見れる石板は、二十四時間で再視聴が可能になる。
つまり、今日の夜には昨日の続きが見られるようになるということで、
「ソーマ! こんなところにいたのか!」
石板目当てに当然のようにサザーンが寄ってくる。
それは、まあいい。
鬱陶しいがそれだけなら我慢出来る、のだが……。
「ふふふ、僕は準備万端だぞ!
万が一にも途中で眠くならないように今日はたっぷり昼寝をしたし、さっきもポーションとMPポーションと眠気覚ましをがぶ飲みして……」
「あっ! ソーマ!」
サザーンが俺に話しかけると、なぜか測ったようなタイミングでレイラまで飛び込んでくるのだ。
そうして、あからさまにムッとした態度を見せるサザーンに、レイラは物怖じせずに話しかけてくる。
「あれ? 二人で何してるの?」
「な、何でもない! 僕はもう行くぞ!」
どうやらサザーンは石板のことを他の人間には秘密にしたいらしく、どこかに歩き去ってしまう。
そんなことを何度か繰り返して……。
「こうなったら風呂だ! 風呂場で合流するぞ!
あそこだったらいくらあの女でも妨害出来ないはずだ!」
思いあまったサザーンがおかしなことを言いだした。
あと、気持ち悪いから風呂場で会おうと言った時に赤くなるのはやめろ。
仮面で顔は見えなくても、首筋まで赤くなれば普通に分かるから。
「なぁ。そもそも俺にさわってれば見られるんだったら、他の人と一緒でも大丈夫だろ?
特に秘密にする必要はないんじゃないか?」
「だ、ダメだ! それだと落ち着いて見れないだろ!」
何やら譲れないこだわりがあるらしい。
頑なに二人きりにこだわるサザーンに押し切られ、今度は連れだって脱衣所に向かったのだが……。
「あ! ソーマここにいたんだ! 偶然、だねっ!」
そこにも当然のようにレイラがやってきた。
すぐにサザーンがくってかかる。
「ぐ、偶然な訳があるか! そもそもここに何の用があるんだ!」
「え? ここに洗い場があるから、洗濯をしようと思って」
言われてみると、確かに脱衣所の端の方にそんなスペースがある。
あそこは洗濯のための場所だったのか。
ゲーム時代は服が汚れたりなんてしなかったから、気付かなかった。
ちなみにだが、ゲームの要素を受け継いでいるのか、この世界で服が汚れることはあまりない。
泥をかぶったりすれば別だが、少しくらい長く着ていても問題ないし、洗濯自体、とにかく水でばしゃーっとやれば汚れは落ちるし、乾かすのもそこら辺に一、二時間ほど部屋干ししていれば問題なしというお手軽さだ。
実に楽ではある。
「ぐ、ぐぐぅ……」
バシャバシャと洗濯を始めたレイラを前に、サザーンは唸り声をあげた。
流石のサザーンも、レイラがいる前で俺と一緒に風呂に入りにいく勇気はないようだった。
俺はあきらめて石板のことを話すようにサザーンを説得しようと思ったのだが、それより一瞬早く、サザーンが俺の手を取った。
「行くぞ!」
そうしてそのまま、俺の手を引いて歩き出してしまう。
「お、おい。どこに行くんだ?」
俺が訊いても答えない。
サザーンは無言のままずんずんと歩き、俺をある部屋の前に連れてきた。
「ここって……」
この広大な館の全ての部屋を把握している訳ではないが、その部屋には見覚えがありすぎた。
俺は思わず言葉に詰まる。
――泥棒ホイホイ。
サザーンが俺を連れてきたのは、昔、俺とリンゴが閉じ込められたトラップ部屋だった。
分割
やっと天啓の改稿が終わったと思ったら猫耳猫四巻の締切が……
でもとりあえず明日と明後日は更新する予定
あ、もう一月ほど前になりますが、猫耳猫三巻、無事に出たらしいです




