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第百六十六章 乱数調整するゲーム

 王都リヒテルの外れ。

 王立図書館のほど近くに、欧風の街の中にあるとは思えない、和風のたたずまいを見せる一角がある。


 赤い柱を組み合わせた独特の門と、左右に侍る獅子を模した石像。

 朽ちかけた石段に、地面に敷き詰められた玉砂利。

 そしてその奥で微笑むのは、白と赤の混淆する神秘的な民族衣装をまとう黒髪の少女。

 ……ぶっちゃけ、まんま神社である。


 この国の宗教観的に神社はどうだろう、とは思うが、そんな場所に毎日通い続ける一人の青年がいた。

 彼の目当てはその神社がやっている不思議な力を持つおみくじだ。

 いや、おみくじを渡してくれる巫女さんに惹かれていたというのも少々否定出来ないところではあったが、一応名目上の彼の目的は、そのおみくじということになっていた。


 彼がその日も石段を登っていくと、いつもの見慣れた神社がその姿を現わした。

 ほんの少しだけ高さが違うだけなのに、この空間は常に清澄な空気に覆われているように彼には思えた。

 いや、この神社の一帯には微弱ながらHPとMPの回復効果があるので、その感覚もあながち的外れとは言えないのかもしれない。


「あ、おはようございます!」


 そんなことをぼんやりと考えていると、境内を掃き掃除していた黒髪の少女が彼に気付き、声をかけてくる。

 正直なところ、どんなに時間が経っても境内にゴミやほこりが積もることはないので掃除に意味はないのだが、そういう問題ではない。

 自分に向けられた、清浄さすら感じられる明るい笑顔に、彼の頬も自然と緩んだ。


 彼にはかつて、結婚を誓い合った女性がいた。

 彼女とはある事件のせいで別れることになってしまったが、この朗らかな巫女の少女は、どことなく別れた女性の面影を感じさせるのだ。


「今日も、おみくじですか?」


 続けて尋ねてくる少女に、彼は少し緊張した顔でうなずいて、エレメントの詰まったクリスタルを取り出した。


「はい。いいのをお願いします」

「ふふ、どうでしょう。それは、神様がお決めになることですから」


 彼の言葉にいたずらっぽく笑う、巫女の少女。

 それがあらかじめインプットされた会話パターンの一つであると知りつつも、彼は自分の心臓が高鳴るのを抑えられなかった。


「それでは、お引きください」


 彼のそんな心の内を知ってか知らずか、巫女の少女は屈託ない顔で、おみくじ用の番号札の詰まった四角い筒を彼に差し出した。

 彼は迷いなくそれを受け取る。


 彼がこの神社に日参するのは、半分くらいは巫女さんの笑顔が目当てだとしても、もう半分は純粋におみくじの効果に期待しているからだ。

 おみくじの効果、と言っても大したことはない。

 一番効果が高い大吉を引いた場合でも、それから24時間、モンスターの落とすエレメントの獲得量に20パーセントのボーナスがつく程度。

 吉なら10パーセントだし、凶や大凶が出てしまった場合は逆に、エレメント獲得量に凶なら10パーセント、大凶なら20パーセントのマイナス補正を受ける。


 なら損をするか得をするかは本当に運試しなのか、というと、実はそうでもない。

 このおみくじは100Eで何度でも引くことが出来て、新しい効果が出ると前の効果は上書きされる。

 つまり運悪く凶を引いてしまったとしても、それから何度か引き直して吉が出れば、吉の効果だけが適用されるのだ。


 100Eなんて今の彼にとっては大きな負担ではなく、くじの確率も良心的。

 吉、大吉、凶や大凶のほかに、お馴染みの中吉や小吉や末吉、大凶末大吉や大凶末大大凶といった変わり種や、あとは為吉に桃源凶に中古とかいった駄洒落っぽいものまで出てくるが、基本的に20回、2000Eも使えばほとんど確実に大吉を引き当てられるようになっている。

 つまりここのおみくじは、ここにやってきてくじを引く手間と時間さえ惜しまなければ、絶対に損をしない、ちょっとお得なイベントなのだ。


 むしろ、おみくじの不思議な効果は神社の魔力、つまりお金でもあるエレメントを消費して作り出しているという話を聞いて、こんな良心的な値段で経営は大丈夫なのかと心配になったほどだ。

 ちなみにそれを直接問いかけてみると、


「確かにおみくじは、売れば売るほど赤字になっちゃうんです……。

 あ、でも、大丈夫です! 実はここだけの話なんですけど、おみくじでお客さんを引っ張ってきて、ほかでちゃんと儲けてますから!

 だから全然……あ、こ、これ、ほかの人には絶対に内緒ですからね!」


 そして、その時の焦った様子の巫女さんの姿に魅了され、彼はこの神社の常連になったのだ。




「――じゃあ、引きますね」


 日参しているだけあって彼も手慣れたもの。

 一通り筒を振ってシャカシャカという快音を響かせた後、えいとばかりに強く手を振って、容器から番号の書かれた木の棒を飛び出させる。


「あれ……?」


 いつものおみくじに、いつもの動作。

 だが、そこで出てきたいつもとは違う番号に、彼は眉をひそめた。


「……六百六十六?」


 確か、おみくじの数字は二桁までしかなかったはずだ。

 彼は少しだけ首をかしげるが、その前に巫女の少女が動いた。


「666番は、こちらになります」


 そう言って、いつものように優しく手渡しされたおみくじ。

 嫌な予感を覚えながらも、彼はその紙をゆっくりと開いて、中を見た。



六六六 運勢:最凶


待ち人:来ない上に着拒される。

失せ物:探してる途中に他の物もなくす。

賭け事:勝てたら奇蹟。

願望:びっくりするほど叶わない。

旅行:つつがなく空の上に旅立てる。

健康:ちょっとした段差ですぐ死ぬ。

病気:ちょっとしたバブルローションですぐ死ぬ。

学問:励めば励むほど忘れる。

恋愛:身の程を知れ。

縁談:素晴らしい祝福を受けられるので是非するべき。



「…………」


 その内容のあまりのひどさに、彼は絶句した。

 今まで数十日もここに通っていたが、彼はこんなにひどい結果に遭ったことがなかった。

 エレメント獲得量はどうなったかと、彼があわてて自分のステータス画面を確認すると、状態変化の項目に『最凶運(エレメント獲得量-80%・クジ運最悪)』が加わっている。


「ほんとに、最悪だ……」


 彼は思わずつぶやいた。

 だが、このおみくじのいいところは、引き直しが出来るところ。

 彼は迷わず100Eを巫女さんに渡すと、おみくじを引き直した。


 ……しかし。


「え? ……六百、六十、六?」


 引き直したはずの棒に書かれていた数字も、また先ほどと同じだった。


「も、もう一回!」


 悪夢のような偶然。

 だがまだ引き直せば大丈夫。

 今度こそ普通のが出るはずだと、彼はまた番号札の入った筒に手を伸ばす。

 しかし、何度やっても、


「ま、た、六百六十六……」


 最凶のおみくじしか出ない。

 十数回引いたところで、ハッとした。


「まさか、さっきの説明にあった『クジ運最悪』っていうのは……」


 最初に見た時は、最凶なんてクジを引いてしまったことを揶揄している、意味のない項目かと思った。

 だがあれが、これからのおみくじの引きを悪くするものだとしたら……。


「あ、あの……」


 彼が絶望感に苛まれた時、救いの手は差し伸べられた。

 気遣わしげな表情をした巫女の少女が、彼の手をそっと握って、彼を元気づけるように言ったのだ。


「また明日! また明日、引き直しに来ませんか?」

「……ああ、そうか」


 動揺して、大切なことを忘れていた。

 おみくじの効果は24時間で切れる。

 今、むきになってくじを引き直さなくても、一日我慢すれば最凶状態は終わり、エレメント獲得量もおみくじの引きももどるのだ。


 彼は一瞬、そんな面倒なことをせずにリセットしようかな、とも思ったが、リセットしただけでおみくじの結果が変わらないのは検証済みだ。

 いつかどうせ最凶を引かなければならないなら、早く済ませた方がいい。


「ありがとう。じゃあ、また明日のこの時間に来るよ」

「はいっ! お待ちしてます!」


 危うく無駄な金と時間を使うところだった。

 彼は天真爛漫に笑う巫女の少女にあらためて深い感謝の念を抱きながら、神社をあとにしたのだった。




 そして翌日。

 神社に向かう石段を意気揚々と登る、彼の姿があった。


 前日、最凶を引いた日の冒険は、意外にも順調に進んだ。

 やはりモンスターから得られるお金がいつもよりも格段に少なかったが、それも一日だけの我慢だと思えば耐えられる。

 二つのクエストをクリアした彼は、きちんとセーブを済ませて宿屋に泊まり、昨日おみくじを引いた時刻になったのを見計らって神社を訪れた。


「あ、おはようございます! 今日も、おみくじですか?」


 元気のいい彼女の声を聞いて、


「はい。いいのをお願いします」


 彼もいつもの言葉を返す。

 そして、


「ふふ、どうでしょう。それは、本人の運もかかわることですから」


 彼女の言葉にちょっとした違和感を覚えながらも、とりあえずとおみくじを引いて、


「……え?」


 そこに書かれた「六百六十六」の文字に、固まった。


(どういう、ことだ……?)


 彼はあわてて時間を確認した。

 間違いない。

 前回おみくじを引いてからもう24時間経っている。


「も、もう一度!」


 半ば無駄だと悟ってはいても、彼の手は筒へと伸びる。

 しかし結果は、無惨。


 それはさながら、昨日の悪夢の再現だった。

 何度引いても、何度繰り返しても、その筒は六百六十六の棒しか吐き出さない。


(おかしい。二回目以降は最凶運の効果だとして、今朝の一回目で最凶が出たのはどうしてだ?

 今朝の時点では、24時間経って、もう最凶運の効果消えて……いや、まさか!?)


 彼が自分のステータスを調べると、そこにはまだ、『最凶運』の三文字があった。

 しかも、よくよく見れば、時間で切れる効果には必ず書いてあるはずの、効果が切れるまでの残り時間が書かれていない。

 その表示がないということは……。


 ――もしかしてこれ、永続効果なのか?!


 完全な油断だった。

 ほかのおみくじの効果が24時間だから、最凶みくじの効果も24時間で切れるだろうという先入観があったのだ。

 また、意図したものではないだろうが、巫女の少女が言った、「また明日引きに来て」という言葉も、その先入観を補強してしまった。


(どうする? どうすればいい?)


 昨日の、まだセーブをしていない段階なら、対処も出来た。

 さっさとリセットして、二度とおみくじを引かなければそれで解決だった。

 だが、彼はもう前日の夜にセーブをしてしまった。

 もう最凶のおみくじを引いた事実を、なかったことには出来ない。


 一体どうすればいいのか、何も思いつかない。

 これからずっと、エレメント獲得量マイナス8割という最悪な効果を受けたまま冒険を続けなければいけないのか。

 だとしたら……。


「――あの」


 だが、絶望する彼に、救いの手はふたたび差し伸べられた。

 彼が顔をあげると、あの巫女の少女が、彼に向かって優しく手を差し出していた。


「不運も、厄の一つです。よろしければ、お祓いをして差し上げましょうか?」


 そう言って首をかしげる彼女の顔が、彼にはその瞬間、本当に神様のように見えた。


(やはり、神は俺を見捨てていなかった!)


 地獄に仏を見たかのように、彼は差し出された彼女のやわらかい手を、すがりつくほどの勢いで握った。

 深く深く、頭を下げる。


「お願い、します!」


 すると彼女は、「もしこの世界に天使がいるならば、きっとこんな顔で笑うのだろう」というような、曇り一つない笑顔でこう言ったのだ。



「ありがとうございますっ! お祓い一回、100万Eになります!!」



 ――その瞬間、彼の天使は、悪魔へと変貌を遂げたのだった。





「……と、いうことがあってだなぁ」


 神社に向かう間に俺がそんな話をすると、横を歩いていたミツキが猫耳を不愉快そうにたわめ、真希も難しい顔をした。

 ちなみに今の同行者はこの二人、ミツキと真希だ。


 レイラとセーリエさんはスフィンクスの見張りに残り、サザーンは行方不明。

 リンゴとイーナはついてこようとしたのだが、図書館を出る時になって、「にゅ、にゅうかんりょう……」と謎のメッセージを残してイーナが脱落。

 リンゴはここに来る途中、道で倒れていたおばあちゃんを介抱するという、少年漫画の主人公的な理由で脱落してしまった。


 そうして残った貴重な同行者の内の一人、ミツキが、憤懣やる方ないとばかりに猫耳を怒らせて口を開いた。


「それは完全に、悪徳商法ではないですか。

 それで、貴方……いえ、その彼はどうしたのですか?」

「そりゃあ当時の俺……の知り合いのそいつも、すぐに100万Eなんて用意出来なかった……らしい。

 何週間もかけてクエストの報酬とアイテムの売却でなんとか金を作って、100万Eでお祓いをしてもらった……そうだぞ」


 今となったら分かる。

 最初に少し儲けさせておいて、相手が信用したところでがっぽりと金を騙し取る。

 詐欺の常套手段だ。


 あれは最初から、格安で効果の高いおみくじという餌で釣って、最凶運からのお祓いというコンボで金をむしり取る、最低の策略だったのだ。

 『猫耳猫』に得をするだけのイベントなんて転がっているはずなかったのに、とんだ失態を演じたものだ。


 俺が自らの若さゆえの過ちを悔いていると、ミツキの後ろから真希が顔を出した。


「ねぇ、それよりさー。わたしはそーまが結婚の約束をした女っていうのが気になるんだけど!」

「なっ……!?」


 いきなりの言葉に、俺は思わず返答に詰まった。


「だ、だから、俺じゃなくて俺の知り合いの話だって言ってるだろ」

「ウソだー。だってそーま、向こうの世界に知り合いいないじゃん」

「俺はどんだけぼっちキャラなんだよ。知り合いくらいはちゃんといるって」


 友達って言ったらバレると思ってわざわざ知り合いと言ったのに、なんて奴だ。

 俺が憤慨していると、ミツキがとりなすように言葉をはさんだ。


「それはそれとして、その話がリドルクエストとどう絡んでくるのですか?」


 無理矢理な話題転換だが、訊いていることはもっともだ。

 俺はさらに迫ってこようとする真希を片手で適当にあやしながら、ミツキに答える。


「ああ。あのお祓い100万E宣言は俺……じゃなかった、彼以外にもたくさんの犠牲者を出した痛ましい事件だった。

 だけど、転んでもただでは起きないのが『猫耳猫』プレイヤー。

 俺た……彼らは、その利用法を思いついたんだ」


 あの最凶みくじは最凶の名に恥じない破壊力を持っている。

 だが、そうは言ってもおみくじで最凶が引かれるのはごくごく低確率。

 具体的には、おみくじ乱数が最小の時にのみ、筒から666番の棒が、すなわち最凶みくじが現われることになる。


「だけど、一度最凶運状態になれば、どうやっても必ず最凶しか出てこなくなる。

 ……これは、どうしてだと思う?」

「それは、おみくじの内容はおみくじ乱数で決まるので……あ、まさか」


 あくまで無表情に、だが猫耳を器用に震わせて戦慄を表現するミツキに、俺ははっきりとうなずいた。


「たぶん、今ミツキが想像した通りだ。

 奴らは最凶みくじが引かれた瞬間、おみくじ乱数を調整して、全ての乱数が最小値になるように仕掛けをしてたんだよ!」


 これが『猫耳猫』が「乱数調整できる(・・・)ゲーム」ではなく、「乱数調整する(・・)ゲーム」と呼ばれる所以だ。


 乱数調整が可能なゲームは数あれど、こんな最悪の乱数調整が存在するゲームは『猫耳猫』くらいだろう。

 別に解析した訳ではないので、実際に乱数が変更されたのか、それとも参照先を変えたか何かしただけなのかは、本当のところは分からない。

 ただ、ゲームをやっている者にとってはどちらだろうと大差はない。

 この状態でおみくじ乱数が使われているイベントをこなした場合、大敗が約束されているという事実は変わらない。


 この調整が入ったおかげで、最凶みくじを引き当てたプレイヤーはカジノなどのギャンブル系のゲームで金を稼ぐことも困難になり、100万Eの返済がさらに難しくなるのだが、だからこそ出来ることもある。

 リドルクエスト、『智を知るモノ』。

 このクエストだけは、乱数が最小値でも困らない。

 いや、それどころか、乱数が固定されることで、難易度が一気に下がるのだ。


「おみくじ乱数が最小値の時、『智を知るモノ』では必ず次の問題番号のリドルが出題される。

 つまり、出てくる問題が固定されるってことなんだ!」


 最凶運状態では、リドルの番号は一ずつしか進まない。

 1番の問題をクリアしたら次は2番の問題が、それをクリアしたら3番の問題が、確実に出てくる。

 それを踏まえた新しい攻略法が、これだ。



サザーンでも出来る『智を知るモノ』簡単攻略法2


1.クエストを始める前におみくじで最凶を引く

2.問題番号1~50までのリドルが順番に出てくるので、wikiを見ながら解く

3.クリア!



 果たして手順3を書く必要があったかどうかは置いておいて、とにかく簡単だ。

 マジでサザーンにも出来るレベル。


 ただ、俺が確実に正解出来るのは、問題番号1~50の問題だけ。

 本来この攻略法を使うためには、『智を知るモノ』を始めるに、最凶みくじを引いておかなくてはならないのだ。

 だからこそ、今まであんなに苦戦していたのだが、


「最後に出てきたあの問題。あれを俺は覚えてる。

 あれは問題番号6番、『智を知るモノ』攻略法2で一番初めにぶつかる、誤答問題なんだ」


 それも、問題番号1~50までのどれかを見つければ話は別だ。

 そこから50問目までは、確実に正解することが出来る。


 それを聞いた真希が指を折って数えながら、問いかける。


「え、えっと、残りの問題数が20問で、見つけたのが6問目だから……あと43問は分かるんだよね?

 じゃ、じゃあ、今そーまが最凶みくじを引けば……」

「ああ! 絶対に、最後まで正解し続けられる!!」


 俺は真希に力強く言葉を返しながら境内に飛び込み、そして、


「すみません、おみくじを、たくさん! とにかく、最凶が出るまで!!」


 かつてお世話(・・・)になった巫女にそう叫んだのだった。




「悪い、遅くなった!」

「ソーマ!!」


 俺が図書館の一番奥に駆け込むと、顔中を笑顔にしたレイラが飛びついてきた。

 その違う意味で既視感のある行動に嫌な記憶を呼び起こされながらも、何とかその身体を受け止める。


「悪い、思ったより時間がかかった」


 俺が謝ると、腕の中でレイラがううん、と首を振った。


 ……あれから、神社ではいくらおみくじを引いてもなかなか最凶が出ず、やきもきさせられたが、


「ねぇ巫女さぁん。本当にこれ、最凶入ってるんですかぁ?

 困ったことに、最近はよくあるんですよねぇー。

 ガチャとかで、ウルトラレアの何々が入ってます、とか言ってるのに実はその売り場には一個もなかったとか。

 そういうのぶっちゃけ、詐欺だと思うんですけど、このおみくじはどうなんですかねー。

 これ、この中に棒が何本入ってるか分かんないですけど、でも絶対棒の数の何倍ももう引いてますよねー。

 これで一度も出てこないとか、確率的にちょっとおかしいんじゃないですかねー。

 もしかして何か細工とかしてるんじゃないですよねー。

 ねぇ、そこんとこどうなんですかねー、ねぇ、巫女さぁん?」


 と、ちょっとだけ昔の意趣返しを込めて軽いクレームをつけ始めた頃にやっと出た。

 それを確認すると、俺たちは半べその巫女を残して図書館まで駆けもどり、


「時間が惜しい! 俺は裏手から回るから、二人はそのまま――」


 と言いかけたところでミツキに首根っこをつかまれたため、普通に入館料を払って正面口から図書館に入った。


 レイラたちには随分と不安な思いをさせてしまったようだが、おかげで準備はばっちりだ。

 俺はそっとレイラの身体を引き離すと、スフィンクスの前に立った。


「心配、かけたな。だけどもう大丈夫だ。後は俺に、任せてくれ」

「ソーマ……。う、うん!」

「では、あとはお任せします」


 レイラからは信頼の、セーリエからは期待の眼差しを受けて、俺は入力フォームに手をかける。

 画面に表示されているのは、平行四辺形ABCD上を全力疾走するたかしくんと、それを原チャで追走する花子さんのランデブーポイントを計算する、一見ごくごくオーソドックスな計算問題。

 だが、これが見た目通りの計算問題などではないと、俺には分かっている。


「答えは……『はなこさん』、だ!!


 叫びと共に、「はなこさん」の五文字を入力。

 後ろから、


「ええー!」


 という真希の声が聞こえるが、気にしない。


 どうしてスタッフが場所を尋ねる問題の答えに人名を入れてしまったのかは知らない。

 日記にも一言も書いてなかったのに、どんなエスパーぶりを発揮してこの答えが発見されたのか、それも知らない。

 しかしそれでも、これが正しい答えだと俺は知っている。


 ピンポーンという快音が響く。

 これで残りの問題は、ぴったり20問。


 ここから出てくる問題番号7~27までの間で、誤答問題はたったの四つ。

 しかもその答えを、俺は全て記憶している。


 だから俺の手は止まらない。

 止まる要素がない。


 浮かび上がる31問目。

 ここからの三問、問題番号7~9までは、誤答ではない通常の問題。


 確かに見た覚えのある、問題番号7番のリドル。

 こんな物に時間を取られる必然もない。


 俺は間髪入れずに入力フォームへと手を伸ばして……。


「……あ、れ?」


 その動きが、画面に触れる直前で止まった。

 そしてそれきり、指は前に進んではくれなかった。


「な、なにか、あった……の?」


 すっかり固まってしまった俺に、レイラがおそるおそる問いかける。

 俺はゆっくりと振り向くと、厳かにその質問に答えた。



「ああ、その……普通に答え、忘れちゃったっぽい」



記憶力の限界!!

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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
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