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第百六十章 新たなる火種

「え、えっと、どういう、こと?」


 俺たちのやり取りの意味も分からず、デスブリンガーを持って立ち尽くすレイラを見て、俺はもう一度、深い息をついた。

 なぜ、俺がレイラの『うわきものに死を!!』を喰らっても生きていられるのか、そのカラクリは理屈としては非常に単純だ。


 指貫グローブと杖を同時に持っても指貫グローブしか装備していると見なされないように、この世界では、同じ手につけられる装備は一つだけと決まっている。

 だったら、レイラが『うわきものに死を!!』でデスブリンガーを手にする前に、別の武器を装備させておけばどうかと考えたのだ。


 なぜ事前につけておくのがブラックナックルかと言うと、これにも理由がある。

 剣や短剣などであれば、『うわきものに死を!!』でデスブリンガーに手を伸ばす動作の時に手を開いて落とされてしまう可能性が高いし、指貫グローブの例を見る限り、この世界では拳に直接つけるナックル系の装備は装備判定の優先度が高いようにも思える。

 それに、ずっとつけておくなら比較的生活の邪魔にならないナックルがいいだろう、という判断もあった。


 とにかく、事前にナックルをつけておくことでデスブリンガーの装備を阻み、『うわきものに死を!!』を不発にさせる、というのが今回の作戦の要点だ。


 ただし、もちろんこれがうまくいくかは『うわきものに死を!!』の仕様次第。

 これと『とこしえの石像法』のほかに有効な手立てを何も思いつかなかったため実行したが、この対策は失敗の可能性の方が高いかもしれないとすら思っていた。


 まず発動時に自動でブラックナックルが外されてしまう可能性だって充分にあったし、ブラックナックルに優先してデスブリンガーが装備される可能性もあった。

 ついでに強制即死効果が「レイラの攻撃」にではなく、「デスブリンガーの刃」に付加されるとしたら、デスブリンガーが当たった時点でやっぱり俺は死んでいたはずだ。


 当然だが、俺だってこんな不確かすぎる可能性に自分の命を預けたりはしない。

 ただ、どんな物でもすり抜けるはずのレイラの攻撃が、イーナの服を切り裂いた(・・・・・)時に『うわきものに死を!!』がうまく働いていないことに気付いて、覚悟を決めて試してみた、という訳だ。


 いつかは負わなければいけないリスクだったとはいえ、絶対に死なないという保証は何もない。

 デスブリンガーが俺の身体にぶつかった瞬間は、本当に心臓が止まるかと思った。

 いや、実際に永遠に心臓が止まっていた可能性もあると考えれば、これは決して大げさな表現ではないだろう。


 本当ならもう少し段階を踏んで色々試していくはずだったのだが、イーナの早とちりのせいでぶっつけになってしまったのは、よかったのか、悪かったのか。


「ご、ごめんなさい! ソーマさんが、そんなひどいことなんてするはずなかったのに、わたし……」


 ……まあ、本人も反省しているのでよかったことにしておこう。


「…ソーマ?!」

「何事ですか?」


 そんなことを考えている内に、折よくリンゴとミツキまで駆けつけてきた。


「ちょうどよかった。今、レイラの問題が片付いたところなんだ。実は……」


 俺はいまだに状況を飲み込めていないレイラも含め、全員に事情を説明することにした。




「つまり、彼女はもう危険ではないと考えていいのですか?」

「たぶんな」


 ミツキの言葉に、俺はあいまいにうなずいた。

 今回は『うわきものに死を!!』を無傷で防ぐことが出来たが、完全に無害かというとそうでもない。


 ブラックナックルを外したらもちろん危ないし、装備扱いではないとはいえ、デスブリンガーを突き刺しにくるのは変わらないので、当たり所が悪ければちょっと刺さるくらいはするかもしれない。

 それに、みんなが心配しそうなので言わないが、デスブリンガーに強制即死がついていないとしても、今度はブラックナックルに強制即死がついている可能性は結構高い。


 今回の一件を見る限り、俺の身体にブラックナックルが当たるような状況はほとんどないと見ていいとは思うが、即死の危険がなくなった訳ではないのだ。


「多分、とはつまり、いまだに危険があるという事でしょうか?」


 ミツキの猫耳が威嚇するように鋭くとがる。

 俺はさりげなくミツキから目を逸らした。


「いや、ブラックナックルさえ外さなければ大丈夫だと思う。

 ただ、問題はそれをずっとつけていられるかってことなんだが……」


 レイラに目を向けると、予想外にやる気のある視線が返ってきた。


「だ、大丈夫。これは、絶対外さない。……たとえ、私の命に代えても!」

「あ、ああ。死なない程度に頼むよ」


 今までも薄々気付いてはいたのだが、何だかちょっと、発言が重い。

 ただ、レイラはゲーム通りなら外せないデスブリンガーを外し、その場所にブラックナックルを装備している。

 指輪を三個以上装備したりするのと同じ、これは明らかにゲームの強制力に逆らう行為だろう。

 無理をしているのは確かな訳で、実際に命にかかわるほどのこともあるのかもしれない。


「でも、もし本当につらいんだったら、たまに外して休憩を入れるなりなんなりして……」

「ううん。それは、本当に大丈夫」


 俺が心配してそう尋ねると、レイラは気丈に答えた。


「最初の内はたまに頭をかきむしりたくなるくらい違和感があったけど、慣れてきたから問題ないよ。

 きっと、この調子なら明日くらいにはもう何も気にせずにつけていられると思う」

「…ほんとう?」


 そのレイラの言葉に、なぜかリンゴが食いつく。

 レイラも不思議そうな顔をしながら、うなずいた。

 頭をかきむしりたくなるくらいつらいというのは置いておいて、少なくとも今の様子を見る限り、どうやら無理をしている感じはない。


「あ、でも、ナックル系武器なら何でもいいんだったら、もうちょっとかわいい物に変えた方がいいんじゃないですか?」


 さらにイーナがそんな提案をするが、


「う、ううん。私、これが、いい。だって、これはソーマがプレゼントしてくれた物だから……」


 レイラは首を振ると、真っ黒なナックルを抱きしめる。

 いや、贈り物を喜んでくれるのは嬉しいが、見るからに凶悪な真っ黒いナックルを抱きしめるっていうのは、女性としてどうなんだろうと思わなくもない。


「あ、そういえば、前にソーマがくれた花束も、大切にとってあるんだ。

 毎日水の代わりにポーションをあげてるから、もらった時より元気になってる」

「そ、そうなんだ……」


 花束というのは、白馬の王子作戦の時にレイラに差し出したアレだろうか。

 あんな物をずっと大事にとってあるレイラも怖いが、この世界のポーションの万能さも結構恐ろしい。


「……とにかく、これで一件落着。彼女はこの家で家事を担当してもらう、という事でいいのですね?」


 黙って俺たちの会話の流れをうかがっていたミツキが、俺の方を見てそう確認を求めてきた。

 その性急な話の持っていき方に俺は違和感を覚えたが、言っていることは間違いない。


「ああ。それで問題ない」


 俺が迷わずにうなずくと、レイラの顔がパッと明るくなる。

 そんなレイラが何かを言う前に、ミツキがふたたび口を開き、


「――では、とりあえずご飯にするとしましょうか!」


 いつもよりうきうきした口調で、そう提案したのだった。




 その鶴の一声で、早速レイラと、俺のもともとのパーティメンバーの中で、もっとも料理のうまいメンバー、つまりくまが厨房に立つ。 


 ミツキが耳をピコピコさせながら待っていると、二人はすぐに食事を作り終えて持ってきた。

 その出来は、やはり見事の一言。

 レイラがいる限り、我が家の食卓と猫耳ちゃんの機嫌は安泰なようだ。


 そして、食事の香りに誘われたように、


「ただーいまー! もぉ、お父さんの小言が長くて遅くなっちゃったよー」

「ふっ、待たせたな! 貴様らに、闇の天才魔術師サザーン様の帰還を盛大に祝う許可を……あ、ず、ずるいぞ!

 僕も食べるからな!! すぐ手を洗ってくるから待ってろよ!」


 真希とサザーンが家にやってくる。

 というか、二人共もう完全にここが我が家と言わんばかりの台詞を吐いて、当たり前のように食事のテーブルについた。

 いや、サザーンはともかく、真希は俺と同じ世界から来たのだから、逆にこっちの家族に馴染みすぎだろ、という意見もあるが。


 ともあれ、なんだかんだでこれで全員集合だ。

 全員が席につくと、くまもちゃんとやってきて俺の頭によじ登った。


 みんなが食事をする中、負けじと俺の頭の上の定位置にしがみついて、たまに俺の髪の毛をはみはみしている。

 ちょっとこそばゆいが、また食事をしてお腹ぽっこりくまさんになっても困るので、されるに任せておく。


「それで、これからどうするつもりですか?

 やはり、元の世界に戻るための方策探しをしますか?」


 ミツキが猫耳をぶいぶい言わせながら凄い勢いで食事を平らげたあと、俺に尋ねた。

 その言葉が口にされた瞬間、隣の席に座っていたリンゴがきゅっと身体を固くして、それ以外のみんなもなんとなく視線をこっちに向けたのが分かった。


「そう、だな……」


 レイラの問題が片付いたことで、当面の危機は去った。

 ミツキの言うように、元の世界にもどるために動いてもいいのだが、まだ世間を騒がしそうな火種はまだ残っている。

 後顧の憂いをなくすためにも、先にそっちを潰しておく方がいいだろう。


「まずは、魔術師ギルドと戦士ギルドへの対応が先だな。

 どっちも放置しておくと国が滅びかねない」

「…ん! それがいい、とおもう。あ、あぶないのは、よくないから」


 俺がそこまで言うと、めずらしく勢いのある声で、リンゴが早速賛成に回った。

 だんだんとモラル意識などが芽生えているようで何よりだ。

 さらにそこで、こちらも一心に食事をしていた真希が、俺の言葉に顔をあげた。


「あ、なんかねー。お父さんも、魔術師ギルドってところがちょっと怪しい動きをしてるから、気をつけろって言ってたよー」


 さっきからさらっとお父さんお父さんと言っているが、現在、一応姫をやっている真希の父親ということは、要するに国王のことだ。

 王様が警戒を促してきたというのなら、これは結構な事件になりそうな予感もする。


「戦士ギルドの方は?」

「ん、んー? そっちは何も言ってなかったかな。魔術師ギルドだけだよ」


 水を向けてみたが、戦士ギルドの方は問題ないらしい。

 あるいは王がまだ情報をつかんでないだけか。


「だったらやっぱり、魔術師ギルドを抑えないといけないかぁ……」


 俺はそう口にしたが、正直に言うとちょっと気が進まない思いもある。

 戦士ギルドもそうだが、魔術師ギルドも幹部連中の頭の作りはちょっとやばい。

 特に魔術師ギルドのギルド長は魔術至上主義の急先鋒で、王都の住人全てを生贄にした大魔術を行うことを企んでいる。


 これは魔術師ギルドのギルドイベントのメインにもなっていて、普通のゲームであれば、このギルド長の野望を阻止するところだが、やはり『猫耳猫』は一味違った。


 普通にギルド長を止めるとイベントは失敗扱いでストップ。

 妨害をしかけてくるギルド内の穏健派を叩き潰し、各地を回って大量のミスリル等、魔術に必要なアイテムを集め、大規模魔術を成功させるのがギルドイベントの正道という、ずいぶんといかれた仕様になっている。


 もちろんギルド長を止めるイベントルートはちゃんと覚えているが、勝手にイベントが動き出している以上、それが本当に通用するかも怪しい。

 俺が考え込んでいると、サザーンが突然立ち上がった。


「ぼ、僕はあんな輩たちにかかわるのはごめんだぞ!」


 勇ましいことを言っているが、よく見ると小さく足が震えている。

 何かトラウマでもありそうだ。


「そういえばお前、前に魔術師ギルドの中で勧誘やってたよな?

 もしかしてあれから何かあったのか?」


 俺が尋ねると、サザーンは傲岸不遜に、しかしよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに大仰に話し始め、


「ふん、知れたことだ! あいつらはな!

 あのいけ好かない俗物どもは、事もあろうにこの超天才まじちし……」


 一番大事なところで噛んだ。


「…………」


 仲間たち全員が生温かい視線を向けると、サザーンは黙って席についた。

 一度咳払いしてから、取り繕うように発言し直す。


「……と、とにかく、僕は反対だからな。

 どうしても行くというのなら、僕抜きで行くんだな」


 言うなり、ぷいっと顔をそむけてしまった。

 まあ、サザーンがいなくても何の問題はないのだが、それで心が決まった。


「そう、だな。まあ、あんなのと直接やり合う必要もないか。

 ……みんな。俺は、食事が終わったら図書館に向かおうと思う」

「図書館、ですか?」

「ああ、目指すは王立図書館。そこに、魔術師ギルドの儀式を封じる切り札がある」


 ミツキの言葉に答えながら、俺は思い出したくない記憶をよみがえらせてしまって、表情を険しくした。


 王都の図書館の地下。

 そこには魔術師ギルドのギルドイベントの必須アイテム、魔法書『ネクラノミコン』があるが、それだけではない。

 その地下への扉を守るのは、何人ものプレイヤーをノイローゼ寸前まで追い込み、訓練された『猫耳猫』プレイヤーたちすら完全クリアを放棄した、『猫耳猫』屈指の難関クエスト。


 ――出題によってはクリアは不可能とまで言われる最悪のリドルクエスト、『智を知るモノ』なのだ!


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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
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