第百四十一章外伝二 絆の力
「……これ、で」
レイラがそう口にすると同時に仕掛けが動き、ゴゴゴという地鳴りが響いて、地下への階段が姿を現わした。
一見意味のなさそうな数個の岩を、ルールに従って所定の位置に置くのが起動の条件らしい。
これじゃ、知識がないヤツは入口を見つけることすらできないだろう。
階段の奥をのぞき込むと、その暗闇から冷たい空気が昇ってきた。
続いて、明らかに天然の洞窟とは違う、青銅色をした鈍い色の壁面が目に飛び込んでくる。
どうやらこれが、今回の俺たちの潜る遺跡、シックディ遺跡らしい。
「じゃ、あらためて護衛、よろしく頼むよ!」
その階段に一番に足をかけながら、白馬の王子様が歯をキラッとさせて、俺たちに声をかけた。
作戦が第二段階に移行するのは予定よりもずっと早かったのだが、それ以外は予定通りに進んでいる。
アイツはあの後すぐにレイラと遺跡探索をする約束を取りつけ、ついでに俺たちを護衛として探索に同行させることを了承させた。
たぶん探索の間に女性メンバーと言葉を交わしたらアイツが刺されるので、本当は同行メンバーは男中心で構成するはずだったのだが、その一角であるサザーンが逃げ出したため、護衛は俺、ミツキ、リンゴというメンツになった。
ちなみになぜマキだけついてこないかというと、
「……え? わたしはぜんっぜん、大丈夫だよー。
だってほら、いくら幼なじみって言ってもそーまとは何十回かしか一緒に出かけたことないし、わたしだって自分がかわいいとかうぬぼれてないし……あ、手がすべっちゃったー」
などと言いながら地面にメイスを叩きつける謎の威嚇行動を取り始め、ぜんっぜん大丈夫そうではないので留守番ということになったのだ。
心配していたレイラの反応だが、女メンバーを見るとちょっとだけ眉をひそめたものの、やっぱり俺の姿を見ても大した反応は示さなかった。
もしかすると、もうアイツに夢中になっているせいで、ほかの男が目に入らない状態になっているのかもしれない。
まあ俺はそれよりも、たった五人でレベル130相当のダンジョンを探索することにちょっとした懸念を持っていたのだが、それも全くの杞憂だった。
「レイラ、俺の後ろに!」
「は、はい!」
突如現れた紫色のオーガたちの前に、騎士服をはためかせながらアイツが飛び出していく。
出現したオーガは全部で三体。
三対一の状況で、敵の只中に飛び込んでいくなんて正気の沙汰じゃない。
しかし、アイツはためらわない。
一度も速度を緩めずに三体の敵に駆け寄ると、
「よっと!」
気負いのない動作で、先頭のオーガの足を切りつける。
いや、気負いがないというのはよく言いすぎか。
それは英雄の剣筋とは思えないほど適当さのにじみ出る一撃で、型も何もあったものじゃない。
俺から見てもお世辞にも鮮やかとは言えなかった。
ただ、その乱雑さゆえか、とにかく速い。
敵が臨戦態勢に入った時には、アイツはもう二匹目のオーガを切りつけていた。
「ガァアアアア!!」
残った一匹のオーガがおたけびと共に手にしたこん棒を振り下ろす。
それをアイツは、まるであらかじめ軌道が読めているかのように避けた。
アイツが身を引いたギリギリのラインをなぞるように、たっぷり一拍ほど遅れてこん棒が通りすぎる。
外れたとはいえ、見ているこちらが肝を冷やすような、力強い一撃だった。
しかし大ぶりな一撃は、同時に大きな隙を生む。
当然アイツは、体勢を崩したオーガに渾身の一撃を喰らわせ……たりはしない。
ごく無造作に、いかにも位置がちょうどいいから切りました、と言わんばかりの動作で、目の前にあるこん棒を握ったオーガの手を軽く切りつける。
それはもちろん、見た目にはどうあっても致命傷にはなりえないような攻撃。
だが、その一撃を喰らったオーガはやがて動きを止め、光の粒子となって消えていった。
「グラの使い回し多いなぁ……」
よく分からない独り言をつぶやきながら、緊張感のない様子でもどってくるアイツを見て、俺は今日、何度目になるか分からない生唾を飲み込んでいた。
――強い、圧倒的に。
基礎能力が高いのは言うまでもないが、それだけではない。
アイツの戦い方は、人間味が感じられなくなるほどに、実用性が突き詰められているのだ。
アイツの太刀筋を見て分かった。
アイツには、攻撃を綺麗に当てるとか、出来るだけ勢いをつけて当てるとか、剣士が普通に思うことを全く考慮していない。
確かに攻撃なんて当たりさえすればダメージは与えられるし、そのダメージが大きければ敵を倒せる。
十分な攻撃力があるなら何も相手の身体の真ん中に攻撃せずとも、指先や足先を切るだけで事足りるのだ。
だが、それは理屈だ。
実際に戦う時は余裕がある時ほどつい胴体や顔を狙ってしまうものだし、そこまでする必要がなくても最後まで剣を振り抜いてしまったりする。
どれだけの実戦を重ねれば、アイツのような境地に至れるのか、俺には想像もつかない。
しかも、アイツが言うにはさっきの魔物は今日初めて見た相手。
それなのにもう何十回も戦ってきたように、相手の攻撃を読み切って、的確に反撃をしていた。
(これが、『本物』か……)
俺も、ずっと一人で引きこもって戦いを続け、剣に関しては英雄の名にふさわしいくらいの実力をすでに身につけていると、勝手に考えていた。
しかし俺の修行なんて、所詮はお遊びに過ぎなかったらしい。
狭い世界で完結していた自分の自惚れを、今はっきりと思い知らされた。
(だけどそれは、俺がもっともっと強くなれるってことだ!!)
意気消沈している暇はない。
これをチャンスと捉えて、せめてこの探索をしている間に、アイツから一つでも技術を盗む。
「ロイク、守ってくれてありがとう!」
「その分レイラには謎解きをしてもらってるんだから、お互い様だ」
「じゃ、じゃあ私たち、凄くいいコンビだね!」
俺は前をいちゃつきながら歩く二人をにらみながら、そう固く決意した。
……だが、残念ながら俺の出番はいつまで経ってもやってこなかった。
前から来る魔物はアイツが出てくるそばから斬り捨ててしまうし、後ろから出た魔物については、俺は発見することすら出来なかった。
隣を歩くミツキがたびたび消えたかと思うと、
「失礼。オーガが二体ついてきていましたので、斬ってきました」
数秒でもどってきて、しれっと報告してくるのだ。
こっちはこっちで規格外すぎる。
時々現われる遺跡の仕掛けは複雑そうだったが、全てレイラが解いてしまい、探索面でも俺は何もやることがなく……。
「ここが、シックディ遺跡の、最深部。王の間……」
あっという間に遺跡の探索は最終局面へと移行してしまったのだった。
「王の間、か……」
そこは、ほかとは比べものにならないほどに大きな部屋だった。
部屋の外周を守るように青銅色の十数個の太い柱が立っていて、それに見守られるように、部屋の中心部は小山のように盛り上がっている。
「すごい、な」
注目するべきは、その建材の色だ。
鈍い青銅色の遺跡の中で、そこだけが黄金に光り輝いている。
そしてその金色の山の頂点、部屋の中心には、一面に宝石で飾られた、大きな宝箱が置かれているのが見えた。
確かにここまで豪華なら、『王の間』などと呼ばれていても不思議ではない。
光る黄金の山を見ながら、俺はうなずいた。
俺でもこんなに感動しているのだから、ずっとこの場所を探していたらしいレイラはさぞ感激しているだろう。
そう思って彼女の方を見やると、レイラは予想とは対照的に、浮かない顔をしていた。
「いよいよだな」
それは俺の気のせいではなかったようで、うれしそうなアイツの言葉に、なおさら彼女はうつむいてしまう。
(そうか。遺跡探索が終わったら、アイツは帰るって話してたから……)
そしてそれが意味するのは、今まで生涯を懸けていた遺跡に対する興味よりも、アイツに対する執着の方が上回っているということでもある。
俺がそこに思い至った時、アイツに向けて、レイラがぽつりと訊いた。
「……ロイクの故郷って、そんなに遠い所にあるの?」
突然の質問にアイツも戸惑ったようだが、やがて遠い目をしながら言った。
「……ああ。俺の故郷は、遠くに。
ずっとずっと、遠く。
簡単には辿りつけない場所に、あるんだ」
……って、おい!
勝手に話を盛るんじゃない!!
いきなり、「ずっとずっと、遠く」とか適当言ってんじゃねえ!
徒歩で簡単に辿りつける、単なる山奥だろうが!
「そ、そう……」
望んでいた解答ではなかったのだろう。
レイラはうつむかせた顔を、さらに下に向かせてしまった。
だがレイラだって、ここで折れるような女じゃない。
すぐに顔を上げて、もう一度訊く。
「じゃ、じゃあ……私がこれからもあなたについていきたいと言ったら、め、迷惑?」
「それは……」
流石の王子様もそこで一度言いよどみ、
「――ぉ」
そこで、俺と目が合った。
アイツの顔が、悪戯っぽくにやりと歪む。
同時にぞわぞわっと、俺の背中を嫌な予感が駆け上がった。
おい、やめろよ!?
調子に乗るのもいい加減にしろ?
俺は必死にそんな意図を込めた視線を送る。
しかし、アイツのにやにや笑いは止まらない。
まさか、どうせ他人事だと思ってろくでもないことを言おうとしてるんじゃないだろうな?!
そんなことしたら許さねえぞ、絶対!!
「……そう、だなぁ」
俺の意図が通じているのかいないのか、そこでわざとらしいタメを作って、アイツは言った。
「――俺の言うことには絶対服従、どんな時も俺を最優先にして、絶対に俺を傷付けないって言うなら、別にいいぜ」
いやオマエ、どこのオレ様だよ。
とは思ったが、同時にホッと息もついていた。
この無理難題は事実上の拒否だ。
流石のアイツも、ここで安請け合いするつもりはなかったらしい。
俺は胸を撫で下ろしかけたが……。
「――分かった!! い、一生懸命頑張るね!」
お、おい!
なんかレイラが、「断られなくてよかった~」みたいなさわやかな笑顔でうなずいてるんだけど!!
ヤツの顔を見ると、そっちも目に見えて分かるほどに引きつっていた。
「そ、それより、今は王の間だろ!」
すぐに無理矢理に話を逸らしやがった。
この辺りは流石というか、手慣れているというか。
「……そう、だよね。あとでゆっくり、だよね」
レイラも、自分なりの解釈を加えて話に乗っかった。
俺、何だかこいつらが怖い。
しかし経緯はともかく、とうとう遺跡探索もクライマックスだ。
「私達は、ここで待っていましょう」
というミツキの助言に従って、部屋の入口から二人が金の階段を上がっていくのを見守る。
「父さんの研究が確かなら、ここにかつて邪神に滅ぼされた旧文明の記録が……」
レイラの声に喜びと興奮の色が混ざる。
いよいよ父と子、長年の苦労が報われるのだ。
レイラの顔にも笑顔が浮かび……。
「――危ない!」
突如、そんな叫びが聞こえた直後だった。
――黄金の山が、爆ぜた。
轟音と共にかつて山を構成していた金色が空に舞い上がり、天井に激突して腹に響くほどの打撃音を鳴らす。
その破片がこっちまで飛んできて、俺は反射的に顔をかばった。
突然の事態にパニックになりかける中、
「――ソーマ!!!」
リンゴの、今まで一度も聞いたことのない鋭い悲鳴が鼓膜を貫いた。
(そうだ! アイツらは……)
幸い、こっちに目立った被害はない。
俺は顔をかばっていた手をどけて、粉塵の舞う部屋の中、必死に二人の姿を探す。
だが、部屋の中央部は内側から完全に吹き飛んでいて、そこには動く物はおろか、立っている物すら一つもなかった。
「そんな……」
俺が思わず絶句すると、隣にミツキが立つ。
「いえ、二人共無傷のようですよ」
「え?」
ミツキが指さす方、部屋の右側の壁際を見ると、確かにそこにはレイラを抱えたアイツがいて、こっちに手を振っていた。
「…よかった」
ほっと胸を撫で下ろすリンゴや俺たちの許に、ショッキングな体験にいまだに目を丸くしているレイラを抱え、アイツがこちらに歩いてきた。
「初見殺しだな。少しひやっとしたよ」
何でも、コイツは山が弾ける一瞬前、罠に気付いてレイラを抱えて横に跳んでいたらしい。
どうして罠を発見できたのか尋ねてみると、
「横を向いた時、小さな処理お……世界の歪みが見えた気がしたんだ」
とのこと。
詳しい説明を聞くと、「現行の環境では理論上ありえないとも言われているのだが、巨大な仕掛けやモンスターが近くで動いている時に視点を移した場合、世界にごくごく小さなズレや遅れが生まれることがある」とかなんとか。
達人さんの言うことは一味違いすぎる。
「あからさまに罠がありそうな感じだったし、警戒していてよかったよ。
それより、ほら、本当のお宝が出てきたぞ」
言われて、俺は部屋の中心部、かつて黄金の山があった場所に目を向けた。
よく見るとそこには爆発でできたにしても大きい空洞があって、そこには青銅色の宝箱が置かれていた。
宝箱の中には、レイラたち父子がずっと探していたという貴重な文書に金銀財宝、それから俺たちの目当ての魔道書もきちんと入っていた。
アイツは約束通りに魔道書だけを受け取り、レイラとはまた明日の朝に会う約束をして、一度そこで別れた。
「時間、ギリギリだったな」
根城である屋敷にもどると、魔道書を手にしたアイツがそう話しかけてきた。
「ああ。……やっとこの姿からさよならできるかと思うと、せいせいするよ」
俺が吐き捨てると、アイツは苦笑いをした。
「俺の方は、こんなイケメンになれてちょっと嬉しかったんだが」
「言ってろ!!」
俺がそう叫んだ時、ちょうどアイテムの効果時間が終わった。
「お…!」
そんな声を上げて、目の前の男の姿が変わっていく。
赤い髪、赤い目は黒く染まっていき、身体や顔の輪郭、肌まで崩れて本来の姿にもどっていく。
直接見ることはできないが、たぶん俺にも同様の変化は起こっているのだろう。
そうして、その変化が収まった時、
「――今日は助かったよ、ロイク。変装してアリバイ工作なんて面倒なことさせて、悪かったな」
俺の目の前には、黒髪黒目の『本物』の英雄、『水没王子ソーマ』が立っていたのだった。
昨日、奥義書を盾にコイツ……水没王子ソーマとかいう英雄様が俺に頼んだのは、お互いの外見の交換とアリバイ工作だった。
変身メガネというアイテムを使うと、使った相手と同じ姿になれる。
しかし、体格などは変わらないため、自分と似たような背格好の存在でないと変装がうまくいかないそうだ。
それで、コイツと年齢も体格も似ている俺に白羽の矢が立った。
女をだますという趣旨には思うところもあったが、親父の奥義書はどうしても欲しい。
それに、コイツの事情にも多少同情しなくもなかった俺は、この依頼を引き受けてしまったのだ。
だから今日一日、アイツは『ロイク』としてレイラと仲良くなり、俺は『ソーマ』の姿で『ロイク』の傍にいることで、『ソーマ』と『ロイク』が別人であると印象づけた、という訳だ。
正直、想像していたよりずっとキツイ作業だったが、
「でもまぁ、それも明日の朝で終わる」
あとは翌日、お互いが元の姿でレイラに会い、レイラが俺に『天の眼』とかいうアイテムを渡せばそれで作戦成功だ。
ソーマのヤツが言うには、『天の眼』というアイテムは一度渡すと別の人間に渡し直すことができないらしい。
だから最悪、レイラが俺に『天の眼』を渡しさえすれば、今回の作戦のことをバラしてもいいと言われた。
もちろん、できるなら最後まで隠し通してくれた方がうれしい、とも言っていたが。
今日一日、一日だけしか見ていないが、はっきり言ってあのレイラって女の愛は俺には重すぎる。
アイツには悪いが、レイラの前で『白馬の王子ロイク』を演じるのは俺には無理だろう。
ソーマへの最後の義理立てとして、レイラには何も言わずに自分の家にもどって、もし本当にレイラが家を訪ねてきたら、今回の作戦のことを打ち明けてしまおうと思う。
それを聞いて彼女がどんな反応をするかは……あまり考えたくはない。
明日が来ないでくれ、と半ば本気で願いながら、俺は眠りに落ちていった。
そして、翌日。
無慈悲にも朝はやってきて、作戦の第三段階、最後の局面が始まった。
「あ、ロイク!」
レイラとの約束の場所。
後ろから元の姿にもどったソーマが見守る中、俺は慣れない仕種で手を上げてレイラを出迎えた。
「あ、ああ。レイラ、おは……」
「ロイク!!」
段階とやらが進んだせいなのか、レイラはもう、初対面の時とは別人のような姿をしていた。
いつも伏せられていた顔にはまばゆい笑顔、目には星の輝きが宿り、彼女が走ったあとには光の軌跡が残るよう。
レイラの姿を目にした街の人たちから、感嘆のため息が漏れる。
だが、そんな彼女の目に、周りの人間の姿など映っていない。
お互いの姿がはっきり見える距離になって、レイラの動きが加速する。
もう一瞬も我慢できないと、こちらに向かって走り出すレイラ。
彼女は、そんなレイラを迎えようとぎこちなく笑顔を浮かべる俺……の横を通りすぎ――
「ロイク、会いたかった!!」
――俺の後ろのソーマに飛びついていった。
「え? ……え?」
初めて見る、混乱している様子のアイツ。
俺も何が起こったか分からず硬直する。
ただそんな中、レイラだけは満面の笑みで、
「今のロイクの格好、私と最初に会った時のだよね!
うん! 私、そっちの方があなたに合ってると思うな!!」
彼女はそんなソーマに対して、一気呵成にまくしたて、そして、
「あ、そうだ! これ、私の家の家宝で、『天の眼』って言うの!
凄く大事な物だけど、ううん、凄く大事な物だから、あなたにあげる!
これを私だと思って、ずっと、末永く、永遠に、未来永劫、あなたの傍に置いてあげてね!!」
トドメとばかりにキラキラと光る宝石を押しつけたのだった。
「……はは、はははは」
特等席からそれを見て、俺は二つのことを思った。
まず一つは、人間やっぱり悪いことはできないなということ。
そして、もう一つは――
――タラシ野郎め、ざまぁみろ!!!!!
……以上が、俺の体験した、たった二日足らずの、信じられないような大冒険だ。
どうやらレイラにはソーマの変装は最初から見破られていた、というか、そもそも彼女はあの変装をファッション程度にしか思っていなかったらしい。
当然、作戦は大失敗。
俺は晴れてお役御免になった。
作戦は失敗したが、ソーマのヤツは律儀にも俺に奥義書を渡してくれた。
それどころか、奥義書だけじゃ流石に悪いから何か追加で報酬を渡す、としきりに言ってくれたりもした。
もちろん断ったが、自分が落ち込んでいる時にそんな気遣いを見せる辺り、アイツも意外といいヤツなのかもしれない。
「うーん」
こうして無事に家にたどり着いてから振り返ってみると、あの時アイツの不幸を見て大笑いしたのはちょっと悪かったような気もしてくる。
アイツのおかげで一段上の武の頂きも見えた気がするし、結局ずっと欲しかった奥義書も手に入った訳だし……。
「そうだ! 奥義書!!」
俺はバネ仕掛けのように飛び起きると、鞄の中に大切にしまっていた巻物、俺の親父が残した奥義書を取り出した。
「へへ、見てるか、親父。俺は、ここまで来たぞ!」
今までの苦労はこのためにあったのだ。
俺はワクワクしながらもらった巻物を開いた。
……それは、こんな文章から始まっていた。
『 ロイクへ。
残念ながら、ここにはお前が求めているであろう、分かりやすい戦闘の技術、戦いの奥義など記されていない。
だが、親として、一人の戦士として、それ以上に大切な物をお前に遺そうと思う』
「親父……」
懐かしい言い回しに、思わず胸が詰まる。
これは、確かに親父が書いた物だ。
そして、戦いの技術以外に大事な物があるということも、アイツを見てきた今の俺には素直に受け入れられた。
認めるのは少し癪だが、手本としても、反面教師としても、ソーマのヤツは俺に色々なことを教えてくれた。
あの二日間が、俺を少しだけ成長させたのだ。
俺は、親父からの教えを一言一句漏らさず受け止めようと、姿勢を正して続きを読む。
『昔から武術の才にあふれ、私の技を身につけようと一心に修練を重ねてきたお前は、私の誇りだ。
しかし、何をするにも独りだったお前では、真の強者となることは出来ない。
だから私は、この洞窟に、この一人では絶対に突破出来ない洞窟に、この奥義書を残したのだ。
そう、つまりこの奥義書を取るために一緒に洞窟に入った仲間との【絆の力】、それこそが本当の奥義――』
「うがぁああああああああああああ!!!」
そこで俺は耐え切れず、奥義書を地面に叩き付けた。
アイツ、アイツは……。
――アイツはやっぱり、最低最悪のクソヤローだ!!!
ダブルノックアウト!!




