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第百十八章 それぞれの道

 『孤高の王』とも称されるこの世界のラスボス、『終末呼ぶ魔王』は、この国の至る所から魔力を引き出し、自らの力を増大させている。

 ゆえに、魔王との直接対決を前に各地を回って魔王の力の源を叩き、その力を削いでおかなければならない、というのがこのゲームの公式設定だ。


 その魔王の力を削る工程というのがつまりはストーリークエストであり、魔王の弱体化、そしてその先にある魔王討伐を目的としてメインストーリーは進行していた。


 その弱体化の項目は多岐に亘り、単純なHPや攻撃力の低下だけでなく、自己再生能力の封印、耐性の弱化、必殺技を使用不可能にするなど多種多様な物があった。

 クエスト分岐によって変化する項目もあり、例えば『人数×10発のホーミング弾を飛ばすワイドショット』か、『固定で30発のホーミング弾を飛ばすスプレッドショット』のどちらを使用不可能にするか、などの二択を迫るようなクエストもある。


 このように、どうやって弱体化を進めていくかはプレイスタイルやパーティ編成によって変わるが、ただ、間違いなくこれだけは言い切れる。


 ――弱体化されていない魔王は、いや、弱体化がされていたとしても、魔王は強い。



 俺はたいまつシショーを有効活用するために低レベルクリアを目指し、レベル183で魔王を倒したことがある。

 しかし裏を返せばそれは、ゲーム時代の俺でさえ、魔王を倒すのに自分のレベルを183まで上げる必要があったということだ。


 しかもその時は、俺は通常のプレイよりも多くの時間をかけ、魔王を出来る限り弱体化させた。

 ごく一部のレベルアップにつながりそうなクエスト以外の全ての弱体化クエストをこなし、数々のバグ技を駆使して、当時考えうる万全の態勢で魔王に挑んだのだ。

 そこまでやってなお、仲間に犠牲を出さずに魔王を撃破出来るまでには、数十回ものチャレンジを必要とした。


 そもそもこのゲームは全編ドS仕様。

 普通にプレイしていると、適正レベルのボスに『負けてもあきらめずに血を吐くほど何度もチャレンジしても、やっぱりギリギリ勝てない』くらいの絶妙なバランスに調整されている。

 意図した物ではないだろうが、良くも悪くもバグ前提、バグ技必須のゲームバランスなのである。

 ラスボスである魔王がそれ以上の鬼畜さを備えて待ち構えていることは、もはや言うまでもないだろう。


 もちろん、ゲームクリア当時の俺と今の俺がそのまま同じという訳ではない。

 魔王撃破の後に覚えたテクニックなどもあるし、ゲームでは今のようにたいまつシショーを活用することは出来なかった。

 しかしそれを差し引いたところで、魔王を十日で倒すことの困難は計り知れない物だと分かってもらえるだろう。



 せめて、魔王に出来る限りの弱体化を施さなければ勝機はない。

 俺は効率化のためパーティをいくつかに分け、別れて行動することを決めた。


 まず、ミツキと真希には知っている限りの攻略情報を伝え、ゲームの攻略を進めてもらう。

 ミツキは戦闘力と機動力が高く、一人でどんな場所にでも行ける。

 むしろ、単独で行動する時に最大のパフォーマンスを発揮すると言ってもいい。


 一方、真希は本人の戦闘能力だけでなく、騎士団を動かすことが出来るというのが大きい。

 王女が騎士団を動かせるなんてのは現実基準で考えれば首をひねるところだが、


「なんか分からないけど、頼んだらやってくれるよー」


 ということなので、頼りにしておく。

 なんにせよ、数と権力というのはとかく便利だ。

 この二人がどれだけやってくれるかによって、魔王の弱体化の度合いが変わるだろう。


 ゲーム通りであれば、サザーンは生意気にも転移魔法が使える。

 転移魔法と言っても自分にしか効果がないタイプなのでパーティで行動するには向かないが、町と町の間を移動するのに一番有利なのは確かだ。

 少し不安だが、サザーンには各町での情報収集や物資の購入、それから各地の魔物侵攻度を抑える役に回ってもらうことにした。


 7743レポートには、『魔王の呪い』が発動した状態での延命措置の情報も載っていた。

 例えば『魔王の呪い』後激増する魔物侵攻度だが、これはわざと粘菌を増殖させ、それを全消し法によって殲滅することで下げることが出来る。

 対症療法にしか過ぎないし、一歩間違えれば事故を産む方法ではあるが、この前の一件でイエロースライムへの対策は結構広がっている。

 真希を通じてイエロースライムの対処法についてはアナウンスしていく予定だし、ある程度のリスクは呑んで実行することにした。


 その役目にサザーンが適任かというと疑問が残るが、じゃあサザーンを何に使うかと訊かれると、正直何をやらせても不安しか残らない。

 クエストとかをやらせるのは本当に怖いので、とりあえずそれ以外の役目を振っておいた、みたいなところが真相だ。


 一応サザーンがサボったり失敗したりしないように、お目付け役にくまをつけておいた。

 それを通達した時の、嬉しさのあまり震えながら涙まで浮かべていたあのサザーンの様子からすれば、きっと頑張って役目を果たしてくれるものと考えている。

 くまなら鞄の中に入れば一緒に転移も出来るし、なかなかいいコンビではないだろうか。



 この後の連絡方法などの打ち合わせをしてから、それぞれがそれぞれの場所に向かって出発していった。


 まずはサザーンが涙目のまま、


「ぼ、僕を引き留めるなら今だぞ!

 貴様がどうしてもと言うなら、この優秀な僕が特別にお前の傍についていてやっても……ひっ!

 わ、分かった、分かったから!

 はい、すぐに行きましょう、くま様!」


 くまに連れられてドナドナ的に出発。

 それから次に真希が、


「じゃー、わたしも行くねー。

 何か用事あったら、お城の誰かに言ってくれればいいから。

 ……あんまり思い詰めたらダメだよ?」


 真希のくせに妙に心配そうな顔をして、城に帰っていった。

 そして最後はミツキだ。

 特に気負った様子もなく、ふわりと動き出す。


「それでは、私も」

「ああ、頼んだ。でも、あんまり無理はするなよ?」


 俺が言うと、ミツキは耳を「心配ないよー!」と一度うならせてから、


「そちらも、あまり無茶はなさらないように。

 ……それと」


 不意に近付いて、その両腕で俺を抱きすくめた。


「なっ、えっ!?」


 突然のことに動けなくなる俺の耳元に、ささやきかける。



「――全部終わったら、そろそろ貴方の秘密、聞かせて下さいね」



 そこまで言い切ると、始まった時と同じくらい唐突に、ミツキは離れていった。

 いきなり何をするんだと言おうと思ったが、ミツキの顔が今までに見たことがないくらいに真っ赤になっているのを認めて、俺は言葉を飲み込んだ。

 立ったり伏せたりを繰り返している猫耳を見るまでもなく、ミツキはこれ以上ないほどに照れていた。


 それでも流石はミツキ。

 顔を赤らめている以外には全くのポーカーフェイスを保ったままで、


「……それでは」


 短く言い捨てて、風のように去っていった。

 この去り際の鮮やかさ、一撃離脱の手際のよさには、やはり頭が下がる。


「さ、てと」


 知らぬ間に火照った顔の熱さをごまかすようにそうつぶやく。

 みんな出て行ってしまった。

 最後は俺の、いや、俺たちの番だ。


「……俺たちも、そろそろ行こうか」


 俺がそう言って横を見ると、


「…ん」


 最後に残った仲間、リンゴが、いつものように小さくうなずいたのだった。



 こういう状況になったのには理由がある。

 俺は一人でデウス平原に向かうつもりだったのだが、そこで予想外の物言いがついた。

 リンゴとミツキが猛反対したのだ。


 俺がデウス平原に向かうことに対してリンゴが出してきた条件が、『ミツキと一緒に行くこと』。

 そして、ミツキが出してきた条件が『リンゴと一緒に行くこと』、だった。

 二人とも、とにかく俺が一人きりで出発するのやめさせようとしているようだった。


 俺は考えた結果、リンゴを一緒に連れていくことにした。

 リンゴもミツキも、どちらも折れる様子はない。

 どちらかを連れていかねばならないとすれば、リンゴを選ぶのが妥当だと考えたからだ。


 さっきも言ったが、ミツキの探索者の指輪と機動力、それに冒険者に対する顔の広さは、俺たちの仲間の中でも一番、クエストをこなすことに向いている。

 流石にこの状況でミツキを遊ばせている訳にはいかない。


 一方、無口で世間知らずなリンゴはクエストをこなすのには向かない。

 ちょうどレベルも俺と同じくらいだし、それなら俺と一緒に来て一緒にレベル上げを行うという選択肢もなくはない。


 俺はすぐにリンゴを連れていくことに決めた。

 その決定を告げた時、リンゴはいつもの無表情でうなずいて、ミツキも、


「リンゴさんが傍にいてくれれば私も安心出来ます。

 ……妹さんなら、別の意味でも安心ですし」


 ミツキらしからぬぼそぼそとした声でも何かをつぶやいて、それが最終決定となった。


 本当は一人で行きたかったのだが、しょうがない。

 リンゴのレベル上げも出来なくもないし、それで手を打つことにしたのだ。


「…いこ?」


 そんな風に考えごとをしていると、リンゴが俺を急かした。


「ああ。……いや、ちょっとだけ、待ってくれ」


 全てのアイテムは鞄に入れられるため、この世界では出発の準備なんて時間のかかるものじゃない。

 ただ、一つだけやり残したことがあった。



 俺はリンゴをその場に待たせると、屋敷の中にもどった。

 そして、ある一つの部屋を開ける。


 ――その部屋の中心には一脚の椅子があり、そこに少女が座っている。


 しかし、椅子に腰かけた少女はぴくりとも動かない。

 俺が何もしなければ、たぶん、永遠に……。


「行ってくるよ、イーナ」


 俺は、その人形のような姿に声をかけた。

 当然、答えは何もない。

 やかましかったはずの少女のその変わり様に、少しだけ胸が痛むのを感じるが、俺はそれを胸の中に押し込めた。


「イーナのこと、頼んだ」


 しばらくはこの屋敷にももどってこれないかもしれない。

 呪いを受けたイーナに危害が加わることはないが、それでも屋敷の仕掛けたちにそう声をかけると、俺は未練を振り切って部屋を後にした。



 屋敷の入り口にもどると、別れた時と寸分変わらない姿勢でリンゴが待っていた。


「待たせたな。行こうか」


 しかし、俺がそう言って歩き出そうとしても、今度はリンゴが動かない。

 それどころか、


「ひンゴ、何でほんなことするんだ…?」


 リンゴはおもむろに俺のほっぺたをつまみ、ぎゅうっと横に引っ張った。

 痛いというよりこそばゆい程度だが、これでは動けない。

 だが、俺の抗議の言葉に対してのリンゴの反応は、


「…わらって」


 いきなりの無茶振りだった。

 しかも笑ってと言いながら、言っているリンゴはにこりともしていない。


「あのな、俺は……」

「…わらって」


 問答無用だった。

 俺は仕方なしに、ほおを引っ張られたまま、笑顔のような物を浮かべた。


「これで、いいか?」

「……ん、ぎりぎり」


 リンゴはそう言って、小さくうなずいた。

 いや、それはいいんだが……。


「じゃ、どうして、はなひてくれないんだ?」


 俺のほおは引っ張られたまま。

 俺が当然の疑問をぶつけると、リンゴはしれっと言った。


「…ぎりぎり、ふごうかくだから」

「合格じゃなかったのかよ!」


 状況も忘れ、俺は思わず大声でツッコんだ。

 すると、


「…ん、それで、いい」


 リンゴは今度こそ満足げにうなずいて、ようやく手を放してくれた。

 よく分からないが、リンゴは今日も絶好調のようだ。

 この元気には、少しあやかりたい。


 そんなことを考えた俺に、リンゴは、


「…ソーマ、あせらないで」


 水中都市でも言った言葉を、もう一度繰り返した。

 ただ、今回はそれでは終わらない。


「…わたしたちが、いる」


 真剣な表情で俺を真正面から見つめ、


「わたしたちは……。わたし、は……」


 どうしても伝えなくてはならないことを、俺に伝えようとするように、



「…ソーマのためなら、なんでもする、から」



 切々と、俺にそう訴えかけた。


「リン、ゴ……」


 その言葉は、今までのどんな時より、リンゴからの強い好意を感じさせた。

 俺はこいつらに支えられてきたのだと、それだけで実感させられる。

 だから、俺は深くうなずいた。


「ああ。分かってる。リンゴたちが助けてくれたから、俺はここまで来れた」


 俺は、全部をなくした訳じゃない。

 むしろ、そうならないために、今は歯を食いしばって頑張るべき時だ。


「……そう、だよな。

 気落ちなんてしてる時間はない。

 こんな時だからこそ、俺がしっかりしないとな」


 だがそれを聞いて、リンゴは困ったように口元をもぞもぞとさせた。

 そして、


「…やっぱり、もういっかい」


 ふたたび俺のほおに伸ばしてくる手を、俺はやんわりとつかんで止めた。


「さ、あんまり遊んでる時間はないぞ。

 そろそろ出発しないとな」


 俺は問答無用とばかりにその手を引いて、デウス平原のある南門に向かって歩き出す。

 俺に無理矢理手を引かれたリンゴが、


「…ソーマの、バカ」


 小さくつぶやいた声が、かすかに耳に届いた。





猫耳「しんぱい 入りません」

ソーマ「道場連打でてんかいちになる!」

魔王「よぞらの~♪(女声)」


みたいなネタを書きかけて、流石に自重

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この時のためだけにわざわざ一年前に連載を始め、この一週間で何とか二十三話まででっちあげた渾身作です!
二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~
ネタで始めたのになぜかその後も連載継続してもう六十話超えました
― 新着の感想 ―
[一言] 『大冒険 セントエル○スの奇跡』とか『里見の○』とか解る人はもう少ないでしょうなぁ…実況プレイ動画とかおそらくほとんどないでしょうし(笑)
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