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第弐話 衣食住

魔術都市【ツィリアータ】。

総人口五千人の学術都市である。住人は半分以上が学生で、都市が経営している中央魔術学園には毎年数千人の生徒が入学するとか。魔術の研究は世界で一番進んでいるらしい。


「だからこんなに白衣着ている人が目立つのね。」

「そゆこと。因みにもう一度念のために聞いておくけど、本当に分からないんだよね?」

「何回もそう言ってるじゃない。気がついたらもうアサたちの前にいたんだってば。」


どうやっておれたちの前に現れたのか。簡単に言えば質問の内容はこれだ。

もし彼女に転移魔術を使えていたとしたのなら、下手したら世界がひっくり返る大発見だ。

転移魔術を使える人はこの世界で一人もいない。転移魔術を施行するには大量の魔力と時間、それから繊細な、それこそ神経単位で操るくらいの技術が必要になるとされているからだ。

もし仮に使えたとしたら軽く国際問題に発展するくらいに、大事であることは間違いない。転移魔術が使えてしまえば何処に行くのも自由だ。つまり各国に出入りするのも、大げさに言ってしまえば国の中枢に入ることさえ容易い。そうなれば簡単な問題では済まされないだろう。もし術者が現れれば国のとる行動は恐らく飼い殺すか、はたまた誰にも知られずに殺してしまうかのいずれかだろう。

勿論このことは彼女に言っていない。言ったらもしものときの反応がつまらないし、まだ彼女がその使い手だと決まったわけでもないからね。

そんであわよくば、ここの連中に転移魔術の情報でも売って金稼ぎしようかと思っていたんだけど。そう上手くはいかないか。


「あさちゃん、ふぇんたちはここに何しにきたのー?」


さっき屋台で買ってあげたキャンディーを口に銜えながら、こちらを見上げるフェンマジやばし。破壊力抜群。おれぐっじょぶ。

因みに物欲しそうな顔してたおれ以外の奴らにも買って与えた。ラウは最初要らないと意固地になっていたが、無理やり口に放り込んだら大人しくなった。ほんとは欲しかったくせに、まったく素直じゃないんだから。

メイは普通に御礼を言ってくるだけだった。つまらない。もっと個性的な反応、具体的には顔を赤らめて、「ありがとうございます、ご主人様////・・・っぽ。」ぐらいやってくれてもいいのに。メイドさんなんだから。まぁこれが普通の反応なんだろうけどさ。


「メイの服購入と、ちょっとした調べ物かな。学術都市とか言われてるだけあって、ここ蔵書量半端ないから。」

「得体の知れない奴に服なんて買ってやんなくたって。」

「ラウ、それ本人前にして言う言葉じゃないってば。」


そう?と首を傾げるラウ。

お前ちょっとどころかかなりずれてるよ色々と。

しかしメイは気にしていないようで、口元にあるアメを処理することで頭がいっぱいのようだ。たしかに棒キャンディーだから完食するにはある程度時間がかかりそうではある。三人がおいしそうに舐めているのを見ているとなんだかおれまで欲しくなってきてしまう。後で買おうかな。


「服は適当におれが選んでもいい?」


その場合迷わずメイド服をチョイスするけど。


「いい・・・やっぱ駄目。私が選ぶ。」

「ちっ。」

「一体何選ぶ気だったの!?どうせメイド服でも選ぶ気だったんでしょ!?」

「何故分かったし!?」


あんたの心はすけすけだから、と呆れた表情でため息をつく。メイさん、段々態度大になってません?おれの気のせいですかね?


「この服、私の好きで着ているわけじゃないんだから。役職上しょうがなく、よ。」

「メイドなんだからもう少しそれらしく振舞ってくれてもいいんじゃないかな?」

「却下。あんたは私のご主人様じゃないから。」

「ふざけて言っただけだって。そんな真面目な顔して言わないでよ。」


この反応を見るに、少なくとも今まで使えていたご主人様に不満があって逃げてきたわけではないようだ。ならば屋敷が盗賊に襲われたか?それとも何かやらかして当主自体が改易されたか。それとも・・・

フェンに裾を引っ張られて意識が戻る。


「おようふく、どこでかう?」

「適当にそこらで。あ、メイ。金は心配しなくていいから好きなの買えば?」

「いや、それは流石に厚かましいでしょ。でもまぁ、気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう。」


メイは意外といい奴。

本気で言ったつもりだったんだけど、本人が良いというならいいか。費用が浮くに越したことはないからね。







服屋にて。


「う~ん、これもいまいち。他はないの?」

「は、はい、只今お持ちします!」


・・・誰が厚かましいだって?

選んでいく洋服がどんどん金額上がっていってる気がするのはおれだけか?しかも選び始めてから何時間経った?五時間くらいか?此処も何件目だっけ。二桁いった?

因みにフェンとラウには先に宿に帰っててもらった。理由はふたつ。宿を取ってもらうためと、そろそろラウの堪忍袋の尾が切れてナイフをメイに投げそうだったから。

懐中時計をポケットから取り出して見ると、針はもう少しで6にたどり着きそうだ。


「あのぅ、メイさん?もう少しで夕飯の時間なんですけど?」

「うっさい、あと少しで決まりそうだからアサは黙ってて。」

「・・・いえすまむ。」



やっぱラウたち帰すんじゃなかった。



「ねぇアサ、これどっちが似合うと思う?」


ぼうっとしていたら突然声をかけられる。目の前に出されたのは薄ピンク色のチュニックタイプのワンピースと白のキュロット。


「白。」


メイド服でないのならせめて、それに近い色合いのものを。その思いが通じたのかメイはにこっと顔を綻ばせた。あ、笑顔。


「あ、やっぱりそう思う?私もこっちのほうがいいかなって思ってたの。じゃあこれもお買い上げで。」

「まいどありっ。」


思っていたより服代が高くなったことに違いないが、メイの笑顔を見れたのでよしとする。

笑った顔はやっぱり綺麗だった。いつもそう笑っていれば男なんてイチコロだと思うんだが、仏頂面がこいつの常備表情なのだから仕方ない。


「やっと夕食にありつける・・・早く帰ろう、メイ。」

「そうね。・・・あ、服、ありがと。大事にする・・・////」


一瞬何事かと驚いて腰を抜かすところだった。顎くらいは落ちてるかもしれない。

視界の中でメイは顔を真っ赤にして一足先に店の外へ駆けていった。少し遅れて頭が現状に追いつく。

え、今の言葉言ったのメイさんだったんだ。


役得?









次の日の朝。隣の部屋からメイの叫び声が聞こえた。自然ににやりと口元が笑う。どうやらおれからのプレゼントは気に入ってくれたようだ。


―バッタンッ


「ちょっとアサ!!これ一体どういうこと!?」


メイド服着用のメイが扉を乱暴に開けて現れた。朝から元気だなぁ。つか他の人に迷惑かかるからもうちょっと声抑えようか。フェンも起きちゃうし。寝顔もっと堪能したいんだから。

つかあれ?フェンの部屋はたしかメイと一緒だったよね?いつの間にこっちに来ちゃったんだろう。


「何暢気な顔して眺めて!私の服何処へやったの!?」

「さあ。」

「返してよ!メイド服なんて恥ずかしくて街中歩けないから。」


羞恥と怒りで顔を真っ赤に染めてこちらに詰め寄ってくる。


「メイド服着てる人結構いるけどなぁ。ここは学術都市だから少ないけれど。」

「それでも!さあ早く!!」


この剣幕で迫られたら、ねぇ。もう少し困ってる姿を眺めていたかったんだけど、フェンは寝かせておいてあげたいし、しょうがないか。渋々ベットから降りて隠した服を出そうとすると蒼い影が目の前を過ぎる。ラウだ。どうやらこのうるささに目が覚めてしまったようで、ものすごく怒っていらっしゃるようだ。


「うっさい女。キイキイでかい声出して騒ぐな。殺す。」



寝起き最悪の魔王、降臨。



「へ?あ、危ない!何するの!?もう少しで首切られるところだったじゃない!!」

「反論してる暇があったら逃げてメイ!そいつに関わったら拙い!」

「・・・アサ、そこを退いて。今からその邪魔な女始末するから。」


ゆらりとナイフを構える。目が据わってるってば。

寝ぼけたラウは最悪だ。何を仕出かすか分かったもんじゃない。今回はメイだが、以前はほとんどおれが狙われていた。・・・まぁおれしかいなかったし。起こすと必ずと言っていいほどおれにとばっちりが来る。でも朝は低血圧で起きるのがつらいから起こしてくれとか無茶を言う。もうほんと勘弁して欲しい。

しかしだ。おれには切り札がある。この状況を打破するに必要不可欠なのは、フェンだ。


「フェン、悪いけど起きて!非常事態だ。ラウを止めてくれる?」


起こすのは忍びないが致し方ない。


「うぅ・・・あさちゃん?もうあさ?」

「そうだよ。起きたばっかりで悪いけど、ラウが寝ぼけてるんだ。これをどうにか出来るのはフェンしかいない。頼む!」

「ふあっ、ふぁいっ!!ふぇん、がんばる!!」


ふん、と気合を入れてフェンは立ち上がった。そしてナイフを持っているラウに突撃する。文字通り、頭から突撃していった。だからご近所に迷惑かかるからもう少し声を抑えて・・・


「らうちゃん!!あさちゃんにめいわくかけちゃだめー!!」

「ふぐあっ!!」


―パリーンッ


「「あ。」」


窓ぶち破って落ちてったぞあいつ。

あーあ、窓弁償しないと。いくらかな。


「ちょっ!!落下事故!!」

「あー、大丈夫だから。」

「何が!?」


あいつ、二階程度の高さから落ちたくらいで死にやしないから。


「平気平気。ね、フェン。」

「うん!らうちゃんつおいからしなないもん。」

「でも力加減はしないと駄目だよ?」

「うー、ごめんなさい。」

「可愛いから許す!」


五分後、ラウは傷ひとつなしで何事もなかったように帰ってきた。そのときのメイの顔といったらない。笑いを堪えていた所為で腹が目茶苦茶痛かった。


「さて、朝食食べに行こう。」


服の件は流れたみたいだし、ラウの暴走も偶には役に立つ。これからどんどんメイド服を増やしていく所存だ。


「ところで、アサ。流れたとか思ってないよね?服は何処?」


野望はあっけなく砕け散った。





                             第弐話 終わり


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