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第壱話 出会い


突然目の前に現れた女。

空中で光に包まれている、というかなり派手な登場だったが、生憎女は意識を失っているようだった。どさっと重力に従って地に落ちる。この衝撃で目を覚ましても良さそうだが、女は目を覚まさない。相当図太い神経を持っているのだろう。

ラウがおれたちの前に出て威嚇するようにナイフを構えた。


「大丈夫だ。この女、どんな使い方したらこうなるのか、魔力がからっぽになってる。」

「・・・でも。」

「あさちゃんのいうことはきかないとだめだお!」


フェンが右手を高らかと挙げてそう叫んだ。

もうマジ可愛いこいつっ!

うりゃっとさらさらの髪の毛をかき混ぜるようにして頭を撫でる。それに対してフェンは特に嫌がらずにきゃっきゃ騒いでいる。

嫌がらないから調子に乗って毎回やってしまうという中毒性が半端ない。寧ろ喜んでくれてるし、こっちも楽しいしで一石二鳥?これは言い訳じゃない。立派な正当な理由だ。


「あんまりやるとフェンの髪がぐしゃぐしゃになるよ。だから・・・」

「そうだね。はい終わりっと。」


ラウがこうして注意をしてくれるおかげで、なんとか衝動を抑えることが出来ているのが現状である。因みにおれはロリコンではないと敢えて此処に追記しておく。


「むうー、かみのけぐしゃぐしゃになってもいいもん!らうちゃんのいじわる!!」

「こらこら、ラウはフェンのことを思って言ってるんだよ。いじわるじゃないよ。」

「でもふぇんはもっとなでなでしてもらいたいもん!だかららうちゃんいじわるだもん!」


とうとう涙目になってしまったフェンを見て、焦ったラウはなんとかしてフェンを泣き止ませようと必死に変顔オンパレードをしている。なかなかの見物。ラウの変顔なんてそうそう見れるものではない。ラウは見た目どおり、超プライドが高い上に性格が悪い。でもそのくせフェンには弱い。まったく見てて飽きない。


どうにかして涙を引っ込ませることに成功したようだ。

息切れしながらしゃがみ込んで自己嫌悪している奴は置いておいて。


地面に倒れている女を観察する。

前髪ぱっつん。後ろ髪は肩甲骨辺りまでありそう。結構綺麗な顔してる。頭の上にちょこんと存在を主張している真っ白な布で作られたフリル調のカチューシャ。黒の生地の上にふんわりと乗っている清潔感溢れる白いエプロン。全体的にボロボロになっているため清潔感とは無縁のものとなってはいるが、これは間違いなくメイドと呼ばれる家政婦の格好だった。


「ふぇん、このふくどこかでみたことある!!」

「そりゃあ一度フェンに着させ・・・・コホン。どこかお偉いさんのお屋敷に行ったときにでも見たんじゃない?」


ラウの軽蔑の眼差しがつらい。


「はぁ。アサ、もうそろそろこの女、目覚ますよ?」


三人の視線が一気に女に向かう。

ラウの言うとおり、もう少しで目が覚めそうだ。さて、どうするか。


「やっぱ殺しておこうよ。その方が一気に面倒ごとが片付くから。」

「もう既にナイフが首に食い込んでるんだけど、それ態と?」


首が縦に振られる。最早取り繕う気もないようだ。聞く前からこいつ、殺す気満々だよ。

とりあえず用心するに越したことはないから止めはしないが。


「・・・んぅ・・・。」


ぱちりと目蓋が持ち上がる。どうやらお目覚めのようだ。

まだ自分の置かれている状況を把握できていないようで、目がうろうろと彷徨っている。そしておれと目が合った瞬間、女は怯えて肩を震わせた。

・・・おれの顔ってそんな怖いの?思いっきり目を逸らされた感が否めない。


「アサ、こいつ殺してもいい?」


そんな殺気をぶつけたらもっと怯えちゃうってば。それもなかなかそそるけど。


「駄目に決まってるでしょ。ちゃんと目的聞いてから殺さないと、ね?」


でももっと怯えてくれたほうがおれ的には好みなんだ。

一応そんな意図もあって半分は冗談。だけど半分は本気。おれの目の前に態々現れたってことは、何かしらの意図があってのことだろう。そんじゃなきゃ、おれの前に無防備で現れるような物好き、いないだろうし。

転移魔術がまだ発見されていないのに、どうやって突然宙に現れたのか知らないが、意図的でないのなら単なる偶然か。どちらにせよ、この女が怪しいことに変わりはない。

少しでも変な真似でもしたら首、切り落とすか。幸いラウがナイフを女の首に宛がっているのですぐにでも切り落とすことは可能だ。


ラウが感心してうんうんと頷いている横で、女は妙な顔をしていた。

アテレコしてみれば「何よこいつら!本人の前でそんな会話して!」みたいな。


「あさちゃんあさちゃん、このひと目がさめたよ?なにかするまえにおめめ、つぶしておく?」


裾を引っ張られたほうを見ると、フェンが小首を傾げてなんだか目茶苦茶可愛いポーズをしていた。え、それはおねだりのポーズだよね?頭撫でていいってこと?だがしかし、見知らぬ淑女の前でそんな醜態は晒さない。今にも勝手に動き出しそうな手を押さえつけて笑顔を浮かべる。


「駄目だよ、フェン。目を潰したらこの女がどれくらい怯えてるのかがよく分からなくなるから、ね?(本気)」

「おー!あさちゃんすごーい!」


きらきらと瞳を輝かせて今か今かと待ちわびるフェンがそこにいた。

駄目っ、そんな目でおれを見ないでっ!そんな潤んだ瞳で見つめられたら、おれ・・・おれ・・・我慢出来なくなるよーうっ!!


「おりゃぁぁあああ!うりうり、もう可愛すぎておれ死んじゃうっ。」

「きゃーっ、もっともっとー!!」


もう人の目なんて気にしない、おれはフリーダム!溜め込んだ分、いつもより幾分多めに、思いっきりわしゃわしゃと撫でています。つっても溜め込んだのはわずか15分程度だけど。

あ、でもラウ、そんな蔑むような目でみないでよ。分かったってば、もうやめるさ。おれだって自制心くらいあるんだよ。


自ら頭を摺り寄せてくるフェンをなんとか引き剥がして、再び女を観察し始める。

黒髪、か。おれと同じ。もしかしたら、この女は    かもしれない。

もしそうならこいつに聞けばあるいは・・・。しかしそうではなかった場合を考えればリスクが大きすぎる、か?いや、死人に口なし、っていうしもし違うんだったら殺せばいいか。もしそうだったらそっちからアクション起こしてくるだろうしね。


「さて。あ、ラウ、ナイフ退けて。どうせこの女に如何こうできる魔力は残ってないから。」


さっきも言ったけれど。

二度目だからか、ラウはすんなりとナイフを仕舞う。こちらとしてはありがたい。ことが迅速に進むのはいい事だ。


「君の名前は?」

「・・・・・。」


やっぱそう簡単には答えないか。名前のかんじで判断できると思ったんだが、まぁいい。


「・・・言いたくないのなら無理には聞かないから。じゃあ何処から来たの?」

「・・・・・。」

「これも言いたくない、か。まぁいいけど。」


だんまりかぁ。

まぁ普通言わないよな。でも“最初”の頃だったら警戒心がなくてぽろっと言ってしまいそうな気はするんだけどなあ。これも保留、っと。


「じゃあ最後の質問ね。答えるか答えないかは自由だから。でも沈黙は肯定と受け取るから。」


これで答えがなければ“違う”と見なして殺す。


「君はここで死にたい?」


一瞬間があった。

でもたしかに女は小さなかすれる声で「いいえ」と言った。少しだけ安心する。これで返事がなかったらまた手がかりを失ってしまうところだった。


とりあえず女をいつまでも地面に座らせておくのは忍びないと思い、手をゆっくり差し出す。

警戒して手を出してくれないのなら分かる。けれど、何故かこの女は目をぎゅっと瞑ってそれ以上動かなくなってしまった。

一体何をしているのか。


たっぷり数分経った頃だろうか。女は目を開けた。そして一瞬固まる。

ほんと、何をしたいのか。


「・・・何やってるの?」


いつまでも動こうとしない女に呆れて、ため息混じりに口を開く。そしたら女はこう口走った。


「・・・へ?私、殺されるんじゃ・・・」

「ぶはっ。」


もうダムが決壊しそうだった。つかもう決壊した。

笑いが止まらない。


「ぷぷっ・・・こ、殺される、だって・・・この女っ!くぷっ、だめだ、もう、ふふっ、笑いが収まらないっ!!あはははははははははははっ!!」


ただ片手差し出しただけで殺されるってどれだけ被害妄想激しいんだって!さらに微妙に涙目になってるところがまた笑いのツボを刺激する。しかもメイドさん。なんかこう色々と萌えるものがあるというものだ。苛めがいがある。むふふ。


「アサ、心の中がすけすけだってば。」


またもや冷たい視線をラウに向けられてしまった。それと同時に目の前の女から感じていた怯えがすぅっと消えていったような・・・あれ?なんかこの女にも冷たい視線向けられてるような?

だがおれは敢えてこの雰囲気を逆手に取る。言うなら今しかない。


「ねぇ君、おれと一緒に来な「断ります。」


あれ?まさかこの雰囲気で断ることが出来るとは、お主、なかなかやりおるな。だがしかし。おれにはまだ肉体言語が残っている。

おれの心を読んで「最悪だこのひと」、とか呟いてる奴が約一名いるが、この際それは無視無視。


「着いてこないと今ここで殺すから「一緒に行かせてくださいっ!」


ほら効果的面じゃん。

こらそこ、なにため息吐いてしょうがないなぁ的な笑みを浮かべているの!?

一応おれが君たちの保護者役だからね!?

コホンと一回息を吐く。


「よし、じゃあ行こう!おれはアサ。よろしく。」

「・・・・よろしくお願いします・・・。」


なんだか渋々といったかんじがするが、まぁよしとする。十分目の保養にもなるし。

あっちから手を握ってくることは一生なさそうだったので、こちらから多少強引に引っ張り上げた。ほっそい指。ちょっとでも力を入れたら折れてしまいそうだ。少しだけ注意して彼女を引き上げる。

ありゃまぁ、何があったかは知らんが服がすごいことになってる。


「服は次の町に着いたら買ってあげる。まぁそのままでもなかなかそそる、ゴホン。扇情的な服だからいいと思うけど。」

「言い直したみたいだけど隠しきれていませんから!?」


いかんつい本音が。

おまけに今まで黙りこくってた女に突っ込みを入れられてしまった。なんという失態。これはなんとしてでも優位を挽回しなければっ。ってことで軽い嘘をついたら簡単にひっかかった。あの驚愕に満ちた顔。必死に取り繕うとしてるけど、頬が引き攣ってるってば。それ笑顔じゃないし、フェンが怖がってるから!両方の幸せの為にもやめたげて!

またまた仕切りなおしってことで。コホン、と。


「よし、じゃあ行くか。えーっと、」


こいつの名前、どうするか。

仮にでも決めておいたほうが不便はないかな。うーん、何にしようかなー。

ちょっと内緒話でフェンに聞いてみることにした。


(ねぇフェン、あの女の名前何がいいと思う?おれ的に前髪ぱっつんだから“つん”ちゃんってのはどうかな?)

(ふぇんはボロロちゃんがいいとおもうー!!だってあのひとぼろぼろだもん!)

(おお!流石フェン。それもなかなか捨てがたい・・・。)


二人で散々悩んだ末に、フェンの推薦でおれの最高案が採用された。


「君の仮の名前はメイね。メイドのメイ。」


完っ璧。

今までで1番いい仕事したと思う、おれ。二人の脳を絞りまくって出来た素晴らしい名前だ。ラウも賛成してくれたようでグッドサインを出してくれたし。きっと女も気に入ってくれる。


「わ、わぁ、とってもいい名前だねー(棒読み)」

「やっぱそう思う?おれ的にも結構いけてると思う。」

「あさちゃんお名前つけるのじょーずだもんっ。」


ぶわーっ、もうそんな嬉しいこと言われたら抑制がっ!!

本能のままに手を動かしていると、またもやラウの視線が痛い。同じことは二度やるなって、そんな顔してる。はいはい、分かったって。


「ほんじゃ、メイ、改めてこれからよろしく。」


笑顔を浮かべたら何故か視線を逸らされた。やっぱおれがまだ怖いらしい。そのうち慣れてくれればいいけど。おれもメイの笑顔、見てみたいしね。





目指すは西。

魔術都市と呼ばれる街【ツィリアータ】。






                          第壱話 終わり


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