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プロローグ 過去への出向

 僕の名前は吉北よしきた あつし、26歳、職業はシステムエンジニアだ。

 情報系の大学を卒業して、まず成りたかったのがゲームのプログラマーだったのだが、どこも入社試験に落ちまくって、しかたなしに入ったのが今の会社、iPhoneやAndoroidのアプリを製作している会社だった。

 といってもこの会社だって学校の紹介があったからお情けで入れたってだけで、まともに試験受けていたら入れなかっただろう。

 

 とにかくゲームが好きだからゲーム会社って希望しただけで、それが駄目だったから似たようなITの会社っていう安易な気持ちで入社したんだけど、結構今の仕事はこれはこれで楽しめている。


 入社して3年、他人の企画のiPhoneアプリをいくつか作ってきた。しかし、どれもつまらないアプリでApp Storeのランキング100位にも入らない駄作ばかりだった。

 事件はとある飲み会で、酒に酔って、つい「俺ならもっと面白いアプリを企画出来る!」と口を滑らしたところから始まった。そういう意見を汲んでくれちゃう会社なのだ。


 翌日、部長に呼ばれて

 

 「君は見どころがありそうだ。君に企画を任せようと思う。ただし、経費は抑えろ。だから我が社がオフショア契約している中国の会社にプログラムを作ってもらう。だから君はしばらく中国へ出向したまえ。良い企画を期待しているぞ。」


 といきなり抜擢されてしまった。


 気の弱いと自分でも自覚している僕にとっては、これは抜擢ではなく拷問でしかない。企画なんて思いつかないし、そもそも中国に一人で行って暮らすなんて、ぜったい、ぜーったい無理!!


 しかし、上司の命令に逆らうことは出来ない。これがサラリーマンの悲しい定め。そんなわけで、僕は今、中国は北京空港へ向かう飛行機の機内にいるのだった。

 

 成田を離陸して、もうどのぐらいたったのだろうか?腕時計はしない主義だから時間が分からない。「機内では携帯電話の電源を落としてください。」とアナウンスされていたから、iPhoneの電源入れて確認する勇気もないし。まあ時間はいいさ。そのうち必ず着くのだから。さっきちょっと雲の合間から青いのが見えたから、まだ海の上かな。


 飛行機に乗るのは、これが人生で初めてだから、何か落ち着かない。隣の席の人は食後にワインをしこたま飲んで、今はいびきをかいて寝ている。機体が時折揺れたりしているのに、よく寝れるもんだ。


 僕は音楽でも聞いたら寝れるかと思い、座席に置かれているヘッドフォンを手に取り、それを肘掛の下のジャックに差して機内放送でも楽しもうとした。

 

 「ジージジー、ジージジー……。」


 「なんだ、これ良く聞こえないな。」


 操作説明書を見ながら、チャンネルを変えるのだが、良く聞こえない。

 

 「壊れてるのか?」


 僕は、ちょっとむきになって、思いっきり強くダイヤルを捻った。人には弱い分、物には当たってしまうのかもしれない。良い性格じゃないよな、やっぱ。女日照りが続くのも納得できる。これって職業のせいだけじゃないよな。


 あー、やっぱり嫌になってきた。中国行きたくない!!別の所に、いや、悪天候のため着陸できないから引き返す、とかないかな。神様お願い!!


 とその時、突然機内の照明が全て消えた。


 「え、なに?嘘?!いや、神様、今の嘘ですよ。」


 「ジージジー、ジージジー……、您叫我嗎ニィンジャォウォマ?」


 今何か聞こえた?機内放送入ったのか?そうだ、この事態を説明しているのかもしれない。


 僕はそう思って、さらにチャンネルを捻った。


 「ゴォーーーーー、ゴォーーーーー、ドォーーーーーン!!」


 もの凄い音を立てて、機体激しく揺れる。まさか、墜落するの?!嘘だろ。僕の人生、これで終わるの?そんなの嫌だーーーーー。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「兄者、こいつ目を覚ましたぞ。」


 「そのようだな。」


 中国語……?僕は確かに勉強してきたけど、こんなにはっきり聞き取れたっけ?ってその前に確か飛行機乗ってて落ちたんじゃなかったか?。


 僕は今、何故か他人の家にいて、椅子に座っている。目の前にはよく中華料理屋で見るような丸テーブルがあって、両脇に二人の男性が座っていた。


 「やっぱり、生きておったか。良かった。良かった。」


 「え、僕どうなったんですか?どうしてここに。」


 まるで意味が分からない。でもどうやら助かったようだ。でもなんでこんなところに座っているんだろう?しかも……。


 「僕の服?スーツじゃなくなってる!」


 「あー、あの変な服か?随分汚れとったし、ボロボロだったから、わしの服をお前にあげたんじゃ。服は焼いて捨てた。裏の竹藪で大きな音がしたと思ったら、そんままの座った格好でお前が気を失っていたんじゃ。わしがそれを見つけてここへ運んできたんじゃ。」


 「そんな、じゃあポケットにあったiPhoneは?」


 「何言っとんじゃ。何語じゃ。」


 どうやら飛行機が落ちたのは中国で、僕は助かったらしい。それにしてもこの家、なんだか昔のカンフー映画に出ているような古臭い家だ。今でも中国にはこういう家が多いのだろうか。やっぱり急な経済成長を遂げたから格差が激しいのかもしれない。


 「わしの名は麋芳ビホウ、こっちは兄の麋竺ビジクじゃ。お前の名は?」


 そういえば、この人なんか強引な感じの人で苦手だな。でも、なんで僕はこんなに中国語理解できちゃうんだろう。頭の打ちどころ良かったのかな。別に今、頭痛くはないけど。この手のタイプの人は結構礼儀にうるさいから、ここはちゃんとお礼言わないと。サラリーマンとして培ってきた処世術ってやつだな。


 「吉北よしきた あつしです。助けてくれて、ありがとうございます。」


 「ハァ?何て?どんな字書くんや……。ああ、“敦煌トンコウ”の“トン”かい。トンさんか。」


 「ああ、まあ、そうですね。」


 「で、どこから来たん?」


 「日本です。」


 「日本?そんな国ないやろ。どの辺じゃ。」

 

 この人地理に相当疎いのかな。それとも発音悪かったかな。まあ、ここは外国、丁寧な態度で接しないと。


 「えーとですね。東の海を渡った所にある島国です。」


 「兄者、知ってるか?」


 「うーん。それは、倭の国の事を言っておるのかな。私の知り合いに昔、倭の国に行ったという者がいてな。そういえば君のように背の低い小さい者ばかりの国だと言っていたな。」


 お兄さんの方は口調は丁寧だけど、背が低いって僕がちょっと気にしていることを、よくもずけずけと。でも、ここで嫌な顔をしちゃいけないな。話を合わせないと。


 「えー、そうですか。確かに昔倭の国と言われていたようですね。随分、昔の話ですが……。」


 「今は違うのか。そうだったのか、それは失礼した。それより、お客人。もう少しお話をしたかったが、これから劉備リュウビ様の所へ行かなくてはならなくてな。めでたく徐州ジョシュウの牧に就任されたお祝いがあるのじゃ。」


 “劉備リュウビ様?”って、 


 「あの劉備リュウビ 玄徳ゲントク?!三国志の蜀の皇帝?!」


 「おい、トンさんよ。劉備様の事、呼び捨てにするのはまずいぜ。」


  そう言って麋芳ビホウがさんが、掴み掛かってくる。僕は突然のことで顔を強張らせるだけで声が出ない。


 「やめんか麋芳ビホウ!それより客人。今面白い事を言ったな。劉備様の事を知っているのか?ちょうどいい。めでたい宴の席だ。客人も連れて行こう。」


 「兄者、何を言うてるんじゃ。どこの馬の骨ともわからん奴を連れていったら関羽カンウ様に怒られるぞ。」

 

 “関羽カンウ”って、やっぱり三国志?!僕はいつの時代にいるんだ。タイムスリップしたの?

バミューダトイアングルで起こるって言うけど、東洋にもあったんだ。


 「関羽雲長カンウ ウンチョウですか?美髯公の?」


 「ほぉ。やっぱりこの客人面白そうだ。倭人にしては、なかなかの見識を持っている。そうだ、お前は私の親戚、従妹ということにしよう。お前の名は麋敦ビトンじゃ。よし、じゃあ早速支度をしろ。麋芳ビホウ!お前もだぞ。」

 

 「わかったよ兄者。麋敦ビトンかぁ、まあ確かに面白そうだな。」


 えーーーーー。麋敦ビトンって“ヴィトン”?まあ、ルイ・ヴィトンみたいで格好良いけど、僕の名前────。って喜んでる場合か!

 

 どうやら僕は古代中国、三国志の時代にタイムスリップしちゃったみたいです。

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