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或る人生の結末

作者: 度会

どうも、こんばんは。

度会です。

久々に短編小説みたいなものを書いてみました。

まだまだ至らない点も多くあると思いますが、どうぞご覧ください。

雨だ。

体の感覚はない。

体は動かない。

俺はどうやら地面に倒れているらしい。

らしいというのは自分が自分であるという自信がないのだ。

アイデンティティの喪失。

心と体は反比例するかのようだ。

まるで、体を動かす機能までも内側に取り込まれたようだ。

あぁ、雨が冷たい。

とその時雨が止んだ。

誰かが俺の上に傘をさした。

焦点がぼやけているせいで相手の顔は判別できない。

髪の長さと制服から見て女だろう。

何をしている?

俺の横を通った他の人間のように通りすぎればいいのだ。

君子危うきに近寄らず。

相互無関心。

自分に関係ないところで何が起きても関係ないではないか。

俺はそんなことを訴えるように彼女を睨んだ。

けれども、彼女は、そんなことを関係ないかのように手を差し出す。

「こんなところじゃ寒いでしょ」

そう言って俺の手を握る。

彼女はポケットから電話を取り出すとどこかへ電話をかけた。

「………」

彼女の声がだんだん遠くなってくる。

断片的な言葉さえも聞き取れなくなった。

俺の意識は暗闇にのまれていった。

俺が目を覚ますとそこは知らない場所だった。

彼女の部屋か?

目だけ動かすと、俺がいた場所にはなかったものが沢山あった。

俺は手のひらを顔の前に持ってくる。

昔、手のひらを太陽に透かしてみればーという歌があった気がする。

試しに光に透かしてみても赤い血潮は残念ながら見えなかった。

俺をここに連れてきた彼女は今は部屋にいなかった。

流石に雨に濡れた俺を自分のベッドに寝かせるのは躊躇したのか、

俺は長椅子に寝かされていた。

体も上手く動きそうにないのでそのまま横になっていると、誰かが入ってきた。

彼女と見慣れない人がいた。

見慣れない人は、ところどころよれている白い服を着ている初老の男性だった。

一瞬医者という単語がよぎって逃げ出そうかと思ったが、

体が動かないのを思い出し観念した。

「…………」

俺は耳が悪かった記憶はないのだが、彼の発音が独特だったのか上手く聞き取れない。

俺を拾った彼女が彼と親しげに話しているのを見て俺はまさか医者ではないとあたりをつけ安堵に胸を撫で下ろすと、彼は俺に向かって何かを塗った。

塗られた部分が冷やりとした。

俺が何をしているのかとそちらを向こうとすると体を押さえつけられた。

この男性は見た目に反して力があり、身動きできなかった。

「はい。いくよ」

ブスリと俺の体に何かが刺された。

「っ!!」

俺は未知の痛みに瞬間的に身を丸くした。

実際酷く痛かったのは一瞬だけだったのだが、次に何が来るのか分からないのでそのまま身を丸くしていた。

俺は医者が嫌いだった。

実際に医者にかかるのは初めてなのだが、たまに病院から聞こえる声が嫌いだった。

皆がなんであんな辛そうな声を上げてまで病院に行くのが理解出来なかった。

怪我なんて気をつければそうそう大怪我をすることもないし、病気も余程の病気じゃなきゃ寝れば治るはずである。

まぁ、病気なんてしたことないから分からないけど。

俺に刺された何かの効果か知らないが、俺はまた意識が混濁してきていた。

意識が混濁してきているせいなのか、記憶すらも曖昧に感じる。

そもそも俺はどうしてあの雨の中倒れていたんだろう……

俺の意識は再び闇に飲みこまれた。

俺が三度目を覚ますとそこはまた知らないところだった。

さっきの場所と違い甘い匂いがする気がする。

意識して見てみると置かれているものも全然違った。

今度こそ彼女の部屋だろう。

俺が寝返りを打つと、先ほど刺された場所が熱を持っていた。

背中がピリピリしている。

彼女はいなかった。

不思議なことに体の動きは良くなっていた。

なるほど医者にかかることはそこまで悪くないかもしれない。

そんなことを考えていると彼女が部屋に入ってきた。

俺が意識を取り戻したことに気付いた彼女は二コリとこちらを見て笑った。

その顔を見て俺もあまり動かせない表情筋を使って必死に笑みを返した。

それから彼女は俺に色々話した。

自分のことや、家族のことなど他愛もない話を山ほど聞いた。

きっと彼女も話相手がいなかったのだろう。

俺がただうなずいているだけで彼女は満足そうに話していた。

けれども、彼女は俺を自分以外に紹介しなかった。

最初はそんなことを疑問に思ったがそのうちに気にしなくなった。

まだ、完治してないから家から出ないほうがいいと彼女に言われたが、

俺は、いつも窓の外から彼女のことが気になっていた。

ある日のこと俺は家を抜けだした。

玄関から出ては彼女にバレてしまう。

そう思って咄嗟に窓から外に出る。

幸い彼女の部屋はそう高くない場所にあったので、なんなく着地に成功した。

俺は彼女の後をつけた。

彼女は徒歩数分のところの高校に行っていた。

流石に学校に入ると不審に思われるので校門の周辺で待っていた。

どれくらいの時間が経ったか分からないが、気づくと彼女は友達と一緒に歩いていた。

邪魔してはいけないと後ろからひっそりと付いていった。

どこかに寄り道するのか行きに通った道と違う道を彼女は歩いていく。

やがて彼女は大通りに出た。

俺はその景色に見覚えがあった。

つい最近見たはずの景色だ。

俺が倒れていた景色だった。

俺はふと彼女を見失っていたに気付く。

慌てて彼女を探すと、交差点の方に歩いていた。

俺の中に酷く黒い感情が渦巻く。

何かが起きる。

漠然とだが、嫌な予感がした。

辺りを見回すと工事現場のクレーンが不気味に風に煽られていた。

直感的に危ないと感じた。

俺は弾丸のような速さで彼女に突撃した。

自分の何倍も大きい彼女に。

俺の頭の上でブチっと嫌な音が聞こえた。

次の瞬間、俺の視界が急激に地面に近づいた。

下半身の感覚が消えた。

ガラガラガラ!!

俺の上に建築機材が落ちてきたのだ。

恐らく俺は助からない。

それでも彼女を探すと、俺が押したことが少しは功を奏したのか、ほとんど無傷に近かった。

よかった。

あの日彼女に救ってもらった命。

彼女のために使えるなら本望だ。

彼女は俺に気付いたようで必死になにか声をかけている。

だから、俺は最後にありったけの思いを込めて、


「……ニャー」


と叫んで、俺の意識は暗転した。

最初に、ご覧になって頂きありがとうございます。

いや、正直最初から気がついていた方も結構いらっしゃったと思います。

まぁ、たまにはこんなのもいいんじゃないでしょうかね。

なにかあれば遠慮なくどうぞ。

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