第9話:資源再編
静止。
戦車の残骸と化した鉄屑の山の上で、個体識別番号「01」は不動の彫像と化した。
周囲を取り囲む武装個体たちは、その沈黙を「機能停止」あるいは「対話への準備」と解釈し、一時的に発砲を止めた。
だが、その数秒の間、彼らの文明は物理学の数式によって解体されていた。
惑星の測量を開始。
手法:光学的視高および地平線曲率の逆算。
観測:地平線までの距離 d = 4.8km。
機体視高 h = 1.8m。
計算式:$R = \frac{d^2}{2h}$
同時に、先程排除した障害物(兵士)が地面に接触するまでの滞空時間を精密に計測。
重力加速度 g を算出。
それらの変数を組み合わせ、一瞬にしてこの世界の「全容」が弾き出された。
現在位置:当惑星。
惑星半径:約6,370km。
自転周期:約24時間。
環境評価:酸素含有大気。
重力、気圧共に「本星」の62%。
結論:単機によるクリーンアップは効率不良。
現地資源による増殖を推奨。
「01」の腹部装甲が左右に展開した。
そこには「製造機構」の不気味な暗孔が広がっている。
突如、周囲に散らばっていた戦車の破片、ひしゃげたガードレール、そしてアスファルトの礫が、強力な磁場に引かれるようにその暗孔へと吸い込まれ始めた。
ガリガリ、と物質が原子レベルで再構成される高周波の破砕音が、静まり返った街に響く。
「何をしているんだ!?」「エネルギーを補給しているのか?」と、遠巻きに見ていた科学者たちが戦慄する。
だが、その予想はあまりにも楽観的すぎた。
原材料:鉄、炭素、珪素。十分。
合金品質:低。
本星基準の12%。
判断:強度不足は数で補完。
簡易型自律端末「01-D」の製造を開始。
十秒後、背部の排熱孔から蒸気が噴き出し、最初の「それ」が産み落とされた。
それは「01」をさらに簡素化し、四本の脚と複数のセンサー、そして一本の「切断用レーザー」のみを備えた、殺意の結晶のような金属の蜘蛛。
一体、また一体。
製造機構は加速し、数分後には百体を超える「01-D」がアスファルトを埋め尽くした。
プロトコル:広域探査および障害物排除。
目標:当惑星の全主要拠点。
展開開始。
「01-D」たちが一斉に跳躍した。
あるものは音速を超えた飛行ドローンとして空へ。
あるものは垂直の壁を駆け上がり、ビルの屋上へ。
彼らは「01」と視界を共有する端末となり、世界中の座標へと散っていく。
ニューヨーク、ロンドン、北京、パリ。
それらの都市がどこにあり、何と呼ばれているかなど「01」には関係ない。
ただの「人口密集座標」として、ドローンたちが次々と空から舞い降りる。
「01」は再び一歩、歩き出した。
もはや、目の前の敵を倒す必要すらない。
彼が歩く一歩ごとに、足元のコンクリートが「原材料」として回収され、背後からは新たな増殖体が産み出され続ける。
清掃進捗率:0.0001%
推定完了時間:336時間。
探査、継続。




