第8話:干渉排除
都市のメインストリートは、鉄と肉の混濁した防波堤と化していた。
路面を埋め尽くす装甲車両。
上空を旋回し、執拗に赤外線照射を繰り返す飛行物体。
だが、個体識別番号「01」の演算回路は、それらを一括して「流動性の低い路面状況」と分類していた。
外部環境:騒音値120dB超。
電磁干渉:増大。
機体への直接接触:低硬度鉛(弾丸)を確認。
装甲貫通力、ゼロ。
無視。
白衣を纏った数人の個体が、車両の影から飛び出し、両手を広げて「01」の進路に立ちはだかった。
彼らは未知の言語で絶叫し、奇妙な幾何学図形が描かれた板を掲げている。
「待て! 我々は敵ではない! 知識の共有を――」
最短経路上の動的障害物、三。
排除プロトコル:物理的接触による移動。
「01」は歩行速度を緩めない。
衝突。
トラックに撥ねられたかのような衝撃が、立ちはだかった個体群を襲う。
骨の砕ける音がノイズキャンセリングの隙間から微かに漏れ、彼らは歩道の瓦礫へと「どかされた」。
「01」は、彼らが発していた言葉の周波数を解析することすらしない。
その直後、遠方に配置された巨大な筒状の火器——主力戦車の主砲が火を噴いた。
音速を超えた砲弾が、「01」の胸部装甲に直撃する。
爆炎が街を包み、アスファルトが捲れ上がった。
警告。
外部干渉により、胸部外部塗装の一部に0.02ミクロンの摩耗を確認。
機体保全限界値、低下。
干渉源を「敵対的排除対象」に再定義。
煙の中から現れた「01」の姿には、煤一つつ着いていない。
ただ、その光学センサーの輝度が、冷却色から「高出力稼働」を示す鋭い色調へと変異した。
ターゲットは、二〇〇メートル先に位置する鋼鉄の車両。
「01」の脚部が、初めて探査用ではない「戦闘機動」のためのトルクを発生させた。
踏み出した一歩がアスファルトを爆砕し、大気にソニックブームを撒き散らす。
戦車側が次弾を装填するよりも早く、「01」は既にその目の前に到達していた。
右腕を無造作に突き出す。
数層の複合装甲を誇る戦車の砲塔が、腐った果実のように容易く貫通された。
そのまま「01」が腕を横に振ると、数トンの鋼鉄が、内部の乗員ごと千切れ飛び、後方のビルへと叩きつけられた。
干渉源A、沈黙。
周辺の全武装個体へ、排除プロトコルを拡張。
上空の飛行物体が、対戦車ミサイルを連射する。
ひれを見上げることすらせず、足元に転がっていた街灯の支柱を引き抜き、砲丸投げの動作で天空へと放った。
超音速で射出された鉄柱は、ミサイルを空中で粉砕し、そのままヘリコプターのメインローターを貫通。
墜落した機体が爆発の華を咲かせる。
街は、パニックすらも通り越した、神罰を待つような静寂に包まれた。
「01」は立ち止まり、周囲の熱源を再走査する。
今や、誰一人として銃口を向ける者はいない。
震える指でカメラを構えることすら忘れた人間たちが、ただの「震える質量」としてそこにある。
周辺の能動的干渉、消失。
移動効率の阻害要因、排除完了。
目標座標までの直線ルートを再計算。
ロボットは、返り血一つ着いていない美しい装甲を輝かせ、再び「散歩」のような一定の速度で歩き始めた。
探査、継続。




