第7話:文明接触
洞窟を抜け、舗装された黒い地表――アスファルトの上へ足を踏み出した。
視界の先には、無秩序なまでに密集した高層構造体と、極彩色の発光広告が明滅する都市が広がっている。
環境認識:高密度文明圏に到達。
大気汚染物質、微増。
電磁波ノイズ、多重重畳を確認。
車道を走行していた内燃機関車が、「01」を視認し急制動をかける。
鼓膜を刺すタイヤの摩擦音と金属の衝突音。
後続車が次々と追突し、爆発的なエネルギーが散る。
事象:物理衝突事故。
生存可能性:考慮外。
進行ルートへの影響:軽微。
無視。
歩道にいた群衆が、足を止めて「01」を注視する。
恐怖よりも先に、彼らの指はポケットから通信端末を抜き出した。
数千のレンズが、無機質な「01」の筐体に向けられる。
「マジで!? 新型のプロモーションかこれ?」
「質感がヤバい、本物だろ」
一人の若者が、仲間との笑い声を上げながら「01」の進路を遮った。
彼は馴れ馴れしく「01」の金属の肩に腕を回し、端末のレンズを自分たちに向けた。
最短経路を遮断する動的障害物を検知。
排除プロトコル:即時。
「01」の左腕が、最短距離で駆動した。
「殴る」という予備動作すらない、ただの水平移動。
若者の頭部が、金属の拳によって圧縮される。
その直後、彼の肉体は原形を留めぬ速度で弾け飛び、数メートル先のガードレールを飴細工のようにひしゃげさせて停止した。
スマホだけが宙を舞い、アスファルトの上で粉砕される。
数秒の真空のような静寂。
直後、街は悲鳴という名の飽和したノイズに包まれた。
「……ッ、殺した!? ロボットが人を殺したぞ!」
周囲の音響エネルギー、急上昇。
個体群の回避行動を確認。
経路の開放率、改善。
「01」は、血糊が付着した拳を無造作に振り切り、歩行を再開した。
背後から、サイレンの咆哮と共に数台の車両が接近し、進路を塞ぐ。
青い制服を纏った個体(警察官)が、震える手で筒状の火器を構えた。
「止まれ! 止まらないと発砲するぞ! 動くな!」
警告音を受信。
言語:未解析。
優先度:最低。
無視。
乾いた銃声が響く。
放たれた鉛の弾丸は、「01」の特殊合金装甲に接触した瞬間、火花すら上げずに平たく潰れて落下した。
塗装に傷一つつかない。
「化け物め……!」
警察官が連射を開始する。
「01」の演算は、これを「継続的な物理干渉」と定義した。
歩行の安定性を損なうノイズを排除するため、右腕が最も近くにあった「遮蔽物(放置された車両)」を掴む。
数トンの質量を、小石を拾うような動作で持ち上げると、そのまま火器の発生源
(パトカー)へと投擲した。
爆鳴。
電柱をなぎ倒し、火炎を上げながら車両が積み重なる。
「01」は爆発の熱風を背に、ひび割れたアスファルトを規則正しく踏みしめていく。
周辺の脅威判定:無。
目標座標までの距離、減少。
探査、継続。




