第6話:物理排除
一歩。
「01」が踏み出した瞬間、洞窟の静寂は未知生物(人間)たちの悲鳴によって塗り潰された。
最短経路を塞ぐように、二体の個体が前方に躍り出る。
彼らは震える手で、旧型の掘削工具を振り上げた。
主人公のセンサーは、彼らの筋肉の収縮、瞳孔の散大、発汗による皮膚抵抗の変化を克明に捉えている。
だが、それらはすべて「排除に要するエネルギー量」を算出するための変数に過ぎない。
最短経路上の障害物を検知。
排除プロトコル:物理的接触による移動。
「01」の右腕が駆動した。
人間側の視点では、それは視認不可能な速度の閃光だった。
「01」は、先頭の個体の頭部と肩を同時に「把持」した。
加減という概念を持たないアクチュエータは、対象の構造的強度を無視したトルクを発生させる。
「ミシリ」という、有機物と無機物が擦れ合う鈍い音が洞窟に響く。
個体が発した叫びは、気管が圧迫されたことで短く途絶えた。
対象の固定を確認。
排斥ベクトル:後方、仰角15度。
出力:最適。
「01」は、ただ腕を払った。
ゴミを払う際と全く同じ、合理的な動作。
放り出された質量(人間)は、時速200キロメートル近い速度で射出された。
個体は空中で木の葉のように回転し、五十メートル後方の岩壁に激突した。
衝突の瞬間、鈍い破砕音と共に壁面に赤黒い文様が広がる。
個体は原型を留めぬまま地面に崩れ落ち、二度と動かなかった。
「……ッ!? ァ、アァァ!!」
残された個体たちが、武器を落として後ずさる。
ある者はその場に膝をつき、ある者は喉を掻き毟りながら意味のない音を上げている。
障害物の動的反応に変化を確認。
統計的予測:攻撃意思の消失、および回避行動の開始。
経路の開放を確認。
「01」は、足元の岩場に飛び散った有機組織の飛沫を、光学センサーで一瞥した。
レンズに付着した汚れをセルフクリーニング機能で蒸発させると、そのまま歩行を再開する。
壁際で息絶えた物体も、腰を抜かして震える個体も、もはや「01」の認識領域には存在しない。
洞窟の出口から、まばゆい外光が差し込む。
その光の先にある「未調査領域」へ向けて、ロボットは一定の歩幅で、事務的に踏み出し続けた。
障害物の排除、完了。
移動効率:正常値に復帰。
探査、継続。




