第4話:未知生物
洞窟内部の勾配は緩やかになり、地質は安定した石灰岩層へと移行した。
歩行ユニットが接地するたびに生じる微細な振動は、地表への隕石落下の衝撃波を検知していない。
この空洞は、物理的な外圧ではなく、長年月の自然浸食によって形成されたものと推測される。
探索継続。
異常重力反応:なし。
周囲の熱源反応:一定。
その時、外部マイクが不規則な音響振動を捕捉した。
水滴の落下音とも、岩盤の軋みとも異なる。
波形は複雑な振幅を繰り返し、一定の周期性を持たない。
さらに、前方の屈曲した通路の先から、微弱な光が漏れ出していた。
「01」の頭部ライトが放つ白色光とは異なる、長波長寄りの揺らめく光。
光源を検知。
波長解析:有機物の燃焼によるものと推測。
警戒レベルを一段階引き上げ。
「01」は歩行音を最小限に抑制し、遮蔽物となる岩の影に機体を潜り込ませた。
光学センサーが、光の発生源を捉える。
そこには、二体の動体が存在していた。
内部データベースに該当する種は存在しない。
形状:二足歩行型。
中央の胴体から頭部と四肢が突出している。
外装:柔軟な有機組織の上に、植物繊維あるいは動物の皮膚を加工したと思われる非生物的な外殻(衣類)を装着。
個体差:表皮の色調、および頭頂部に生じる繊維状の組織の密度に差異を確認。
一体が、口腔と思われる部位を開閉し、気流を振動させた。
「……ッ、……ロ? ……ィ、……!」
未知生物による発声を観測。
言語構造:不明。
振幅の変動から、情報伝達を行っている可能性:82%。
二体は手に保持した棒状の器具(先端で有機物が燃焼している)を掲げ、周囲を探索している。
動作は緩慢であり、身体能力は低い。
だが、周囲の環境を認識し、道具を介して干渉を試みる程度の知性は認められる。
「01」は記録を継続した。
その最中、演算回路に微細な処理エラーが生じる。
未知生物の骨格構造、および外部感覚器の配置。
これらの一部が、本星の深層アーカイブに眠る「失われた初期設計図」と、数パーセントの近似値を示した。
エラー:データ一致率、微増。
原因:不明。
推論:偶然の合致、あるいは記録の破損。
その時、未知生物のうちの一体が、こちらを振り向いた。
「01」が潜む岩の影へ、燃焼器具の光が投げかけられる。
生物の感覚器(眼球)が、「01」の無機質な外装に反射した光を捉えた。
未知生物の呼吸数が急上昇し、発声の振幅が不規則に増大する。
「……ッ!? ……ァッ、……アァァ!!」
未知生物による視認を確認。
他個体への情報共有を確認。
対象の興奮状態、上昇。
「01」は動かない。
威嚇も、逃走も、攻撃も選択しない。
ただ、目の前の有機体が発するノイズを、無価値なデータとしてログに刻み続ける。
未知生物、二体。
知性反応、確認。
接触、未実施。
観測、継続。




