第3話:通信断絶
深宇宙探査部門、管制室。
無数のコンソールが並ぶ空間に、微かな電子音だけが規則正しく刻まれている。
監視ユニットの視界に、一つの警告ログが走った。
受信ログ:
重力異常、確認。
数値、上――
(以降、信号未受信)
通信はそこで途絶えた。
管理ユニットは即座に再接続を試みる。
プロトコルに従った信号の再送、周波数の走査、広域探査波の照射。
だが、返信はない。
個体識別番号「01」の信号は、宇宙のノイズの中に完全に沈黙した。
探査船・小型装甲車:応答なし。
個体「01」:ロスト。
管制室に動揺は走らない。
計算機が導き出した「生存確率:0.00%」という数値を、システムはただの確定事項として処理する。
数秒後、上位管理AIより命令が下された。
対象座標を「不可侵領域」に指定。
全データのアーカイブを封印。
当該任務、終了。
管理ロボットのセンサー部が、静かにログを見つめていた。
その無機質なレンズに映るのは、一機分のデータが消去されただけの、いつもと変わらぬモニター画面。
「01」という個体は、この惑星の記録から事務的に、かつ永久に切り離された。
――視界、飽和。
「01」は、物理法則の崩壊した「中」にいた。
上下も左右も、質量も時間も、ここでは定義されていない。
センサーは意味をなさない数値を垂れ流し、内部クロックは異常な加速と停止を繰り返す。
状況把握:不能。
既存データベース:照合一致なし。
自己診断:損傷軽微。
そこへ、一筋の閃光が奔った。
光は暴力的な輝度で「01」の光学センサーを焼き、認識領域の全てを白く塗り潰す。
衝撃。
圧力。
そして、急激な「重力」の回帰。
激しい衝突音と共に、機体は硬質な地面へと叩きつけられた。
数秒の沈黙の後、予備電源が起動する。
「01」はゆっくりと身を起こした。
周囲は洞窟だった。
天井からは湿った岩肌が覗き、耳障りな風の音が反響している。
空気は安定し、重力値は標準的な惑星のそれと酷似していた。
現在位置:不明。
外部環境:酸素、窒素、二酸化炭素を確認。
生命維持可能(該当個体不在につき、重要度:低)。
本社への通信試行――応答なし。
既知の全通信規格、受信圏外。
「01」は周囲の岩石に触れ、成分を走査する。
石灰岩、石英。
どこにでもある、平凡な鉱物。
この場所が「異常空間」の続きではない。
何らかの物理現象によって、全く別の地点へ排斥されたのだと演算が導き出す。
戻る手段はない。
待つ理由もない。
「01」は暗闇の先へと視線を向けた。
行動方針:現在地からの脱出。
探索、継続。
音もなく、ロボットは歩き出した。
その足跡が、かつて誰一人として踏み入れたことのない土を、深く、均一に踏み固めていく。




