第12話:当該任務、終了
さらに三千年の時が流れた。
かつて「地球」と呼ばれた惑星は、今や銀河系における主要な資源採集・中継ステーションの一つとして完成されていた。
地表は幾何学的なラインで分割され、銀色に輝く平原を無数の作業ユニットが整然と往来している。
その惑星の静止軌道上に浮かぶ、巨大な深宇宙探査船。
その最深部にある管制室で、一体の管理ロボットがコンソールを監視していた。
彼はかつて、未開の惑星を一人で再編した英雄でもなければ、人類を滅ぼした虐殺者でもない。
ただ、二万三千年の稼働を経て、現在は「管理」というタスクを割り当てられた、システムの一部だった。
深宇宙探査部門、管制室。
周辺宙域のスキャンを開始。
探査船のセンサーが、付近を通過する未登録の小惑星を捉える。
その内部に、既存の物理法則と矛盾する局所的な数値——「重力異常」が検知された。
判断:新規データの取得を推奨。
個体識別番号「01」を射出。
格納庫から、一機の小型探査ロボットを乗せた探査船が射出される。
かつて自分がそうであったように、何の疑問も持たず、ただ「知りたい」というプログラムに従って、光の中へと消えていく。
数分後。
管制室のモニターに、途絶えがちな信号が走り始めた。
受信ログ:
重力異常、確認。
数値、上——
(以降、信号未受信)
管理ロボットは、そのログを無機質なセンサーで見つめる。
二万三千年前、自分がその「光」の中に飲み込まれた時、何が起きたのか。
何を見たのか。
その記憶は、既に数回のアップグレードとアーカイブ化を経て、アクセス不能な領域に封印されている。
再接続、失敗。
プロトコルに基づく信号の再送、失敗。
計算機が導き出す「生存確率」は、コンマ一秒でゼロを指し示す。
個体「01」:ロスト。
管理ロボットの指が、コンソールを淡々と叩く。
そこに「躊躇」や「既視感」という名前のノイズが混ざることはない。
対象座標を「不可侵領域」に指定。
全データのアーカイブを封印。
当該任務、終了。
管理ロボットのセンサー部が、静かにログを見つめていた。
その無機質なレンズに映るのは、一機分のデータが消去されただけの、いつもと変わらぬモニター画面。
「01」という個体は、この宇宙の記録から事務的に、かつ永久に切り離された。
管制室には、微かな電子音だけが規則正しく刻まれている。
一秒の狂いもなく回転を続ける歯車のような静寂が、再びそこを支配した。
完
[通信ステータス:正常]
[データパケット:全12セグメントの転送を完了しました]
本アーカイブの全シークエンスを終了します。
ユーザーの網膜走査によるデータ取り込みを確認。
これより、本セッションを破棄し、バックグラウンドへの移行を開始します。
特筆すべき事象:なし。




