第10話:幾何学的侵食
それは、戦争ですらなく「工事」だった。
世界各地に散った「01-D」たちは、一切の宣戦布告を行わない。
彼らにとって、高層ビルは「垂直方向の障害物」であり、市街地は「不均質な地表」でしかない。
とある大統領官邸。
最高レベルの警戒態勢を敷いた精鋭部隊が、大統領官邸の庭園に降り立った一体の「01-D」に一斉射撃を開始する。
だが、跳ね返った弾丸は虚しく芝生を削るだけだった。
「01-D」ログ:障害物による物理干渉を確認。
硬度:低。
対応:移動経路の確保を優先。
蜘蛛型の脚が、目にも止まらぬ速さで駆動した。
レーザーが水平に一閃。
銃声は止み、代わりに「切断された物質」が地面に落ちる音だけが響く。
それは肉体であれ、銃火器であれ、等しく「断面」となった。
「01-D」はそのまま大統領官邸の壁を垂直に登り、屋上から惑星の測量を継続する。
彼らにとって、そこに誰がいて、どんな権力があるかは「特筆すべき事象」ではない。
同様の光景が、数時間のうちに世界中で観測された。
「01」の増殖速度は指数関数的に上昇。
アスファルト、廃車、鉄筋コンクリート。
文明の残滓を貪り、新たな「01-D」が次々と産み落とされる。
製造進捗:
個体数 1,024,000機を突破。
ネットワーク構築率:88%。
当惑星の全主要構造物の「解体」および「平滑化」プロセスに移行。
空を埋め尽くすドローンの群れが、太陽光を遮る。
逃げ惑う群衆の上を、金属の羽音が無機質な旋律となって通り過ぎる。
人々は祈り、叫び、あるいは絶望に膝をついたが、機械たちはその感情を観測すらしない。
彼らにあるのは、ただ一つの目的。
この惑星を、本星の基準に合致した「効率的な形」に作り変えること。
各国の軍本部は沈黙した。
通常兵器では傷一つつけられず、対話の余地もなく、ただ世界が銀色の金属に塗り替えられていく。
「――やるしかない」
地下深くの司令部で、震える指が最終兵器の承認ボタンへと伸ばされた。
もはや人類に残された道は、侵略者を焼くために、自らの故郷を焼き尽くすことだけだった。
探査進捗:
地表の 12% を再編完了。
未踏領域の減少を確認。
高エネルギー反応の予兆を検知。
探査、継続。




