第1話:起動確認
人間を理解しようとするロボットに飽きた方へ。
これは、人類を『理解』ではなく『排除すべきノイズ』として処理し続ける。
ある作業ユニットの記録です。
恒星からの光が、均一に分割された地表を照らしている。
大地は鏡面に近い平滑度を持ち、幾何学的な直線の溝が地平線の彼方まで伸びている。
緑はない。
海はない。
揺らぎはない。
ただ、一秒の狂いもなく回転を続ける歯車のような静寂だけが、その惑星を支配していた。
都市区画、第082エリア。
垂直に切り立った構造体の内部、三メートル四方の空間。
起動確認。
システムチェック:正常。
動力源:安定。
外部センサー、オンライン。
待機状態、解除。
視界が確保される。
壁面に設置された充電端子からプラグを抜き、個体識別番号「01」は立ち上がった。
部屋には、必要最小限の機能以外、何もない。
扉が開く。
通路を歩く「01」の足音は、硬い床に吸収され、反響を残さない。
同じ形状、同じ歩幅、同じ速度。無数の同型機が、それぞれの座標へと移動を開始している。
情報の交換は無線信号のみで行われ、発声器官を用いる個体は存在しない。
都市の交通システムは、滞りなく循環している。
「01」は割り当てられた浮揚移動体へ搭乗した。
目的地は、北極圏に位置する「深宇宙探査部門」。
構造体「センター・ハブ」。
管理ユニットの前に立ち、有線接続による情報の同期を行う。
接続完了。
探査命令、受信。
対象:座標33-02、小惑星帯内。
事象:特異な重力異常の検出。
任務:現地へ急行し、事象の原因を調査、記録せよ。
「01」は無言で接続を解除した。
理解や疑問のプロセスは必要ない。
演算は「受諾」という一点に収束する。
第七発射場。
既に起動している探査船のハッチが、音もなく開く。
内部は気圧・気温ともに外部と同一。
生命維持装置という概念は、この船の設計図には存在しない。
「01」は操縦席に固定され、意識を船体制御システムへと同期させた。
推力偏向、最大。
惑星の引力を振り切り、視界が漆黒の宇宙へと切り替わる。
数時間の航行。
目標の小惑星が、光学センサーに捉えられた。
それは、歪な岩塊だった。
周囲の物理法則を無視するように、空間が微かに歪んでいる。
対象に接近。
重力干渉を確認。
機体制御、手動モードへ移行。
小惑星の影から、かつてこの星を統治していたであろう文明の、朽ち果てた残骸が剥き出しの地表と共に姿を現す。
だが、「01」の記録領域に「郷愁」という文字はない。
高度、低下。
着陸シーケンス、開始。




