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フィーは収納に入れていたアンネッタの鞄を取り出すと、使用人控室へ向かう事にする。
近道の方へ進み、式典会場とは反対の方向へ曲がった場所にある建物に入った。
廊下を進むと、学院の警備兵だろうか…職員や学生と差をつける為だろうが、装備が赤色で纏められていて、とても目立つ。
そんな彼等の脇を抜けて控室に入る。
主人である公爵夫妻とケルナーに同行した誰かが居るはずだ。
きょろきょろと見回していると、視界の端にひらひらと揺れ動く何かを捕らえる。
「こっちこっち」
手招きをしていたのは、フィーと時期を同じくして公爵家で働きだしたイメネア・アゴンゾ。
フィーと違って、子爵家のれっきとした貴族令嬢だ。
尤も、貧乏過ぎて平民と変わらない生活をしており、爵位返上も近いだろうと、常々言っている。
静かに近づき隣の空いた席に座ると、イメネアが微かに眉根を寄せながら口を開いた。
「どこに行ってたの?
先に出た筈なのに居ないんだもの、心配したわよ。
若様なんて探すとか言い出すし……」
「え? まさかお嬢様に何かあったの!?」
「違うってば。
フィーを探しに行くって言い出したのよ」
「……はぁぁぁぁ!!??……お嬢様の入学式典で寝言なんて…許し難いわね」
半眼になったフィーに、イメネアは一瞬ヒクっと顔を引き攣らせた。
「ま、まぁそのぉ……お手柔らかに、ね?」
「イメネアは若様に甘いんだから……将来公爵家を背負う方なのよ?
ビシッとして頂かないと、私達が食うに困る事になるのに……まぁ良いわ。
それはそうと、ちょっと学院内の要注意人物の事って、何処に聞きに行けば教えて貰えるかしら…警備兵詰所?」
「急にどうしたの?
それに要注意人物…って…。
下位貴族の令息令嬢もいるとは言え、流石に危ない人物は入学出来ないんじゃない?」
フィーはすっと目を細め、視線を遠くに投げる。
「だったら良かったのだけど…ね」
「……どう言う事?」
「全身ガッツリメイドな私を見て、あろう事か『令嬢』って言うのよ。
しかも『悪役』とか言い出すし……これが要注意人物でなくて何だと言うのよ…」
イメネアもドン引きして、顔を引き攣らせている。
「うっわぁぁ……それは重症ね。
でも……うん、悪役って言うのは、理解出来なくはな……」
イメネアがフィーの冷たい視線で固まった。
「ご、ごめん!!
フィーってば品のある顔立ちだけど、目つきが…その……うぅ」
「あ~はいはい、悪人顔なのは自覚してるわ。
って、それはそうと…イメネアから見て、危険個所とかに心当たりがあれば教えて頂戴」
途端にイメネアが、ムムッと口をへの字に曲げる。
「若様にとっての危険個所と、お嬢様にとっての危険個所はイコールではないと思うわよ?」
「それでも構わない。
私よりイメネアの方が、学院の様子には詳しい筈なんだから、何でも教えてくれれば助かるわ」
「わかったわ。
ほんと職務に全力ね」
「当たり前でしょ。
お嬢様や若様、公爵家に何かあれば、全部私達にダイレクトアタックしてくるのよ。
給料未払いとか、絶対に御免被るわ!」
校舎内で人気の少ない場所、死角になる場所等を教えて貰っていると、人が近づいてくる気配に気付いて顔を上げる。
「あら、新顔さんね」
服装で同じメイドだと分かるが、フィーは知らない顔だ。
すかさずイメネアが紹介する。
「あぁ、彼女はマフルース侯爵家のメイドをしてる人よ」
フィーは立ち上がり、一礼する。
「初めまして。
フィーと申します」
「初めまして。
マフルース侯爵家に仕えてて、ミリリカ様付きになったニミーよ。宜しくね」
話を聞くと、イメネアとニミーは、商店街で何度か顔を合わせているうちに仲良くなったらしい。
使用人同士の情報網は、かなり有用そうだ。
噂話等は仕入れやすくなるだろうし、逆に広める時にも使えるだろう。
いずれ情報網を広げていこうとは考えるが、折角紹介して貰ったのだ。まずはニミーと仲良くなっていくのが良いだろう。
色々と雑談をしているうちに、式典の終了時間が近づいてきた。
控室で待機していた使用人達も慌ただしくなる。
ニミーと『また』と挨拶を交わして、フィーはイメネアと共に式典会場近くに向かう為に立ち上がった。
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