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セルの言葉は、生徒である貴族子息令嬢達を小馬鹿にしたようにも聞こえるが、殆どは耳に入っていないだろうし、耳に入っているケルナーにしても、否定要素が見つけられないので、その点に関しては無言を決めたようだ。
だが、ここでもデービーは反応した。
つい今しがたまで、床…剝き出しになった地面に身を縮めて、戦意も何もかも失ったように見えていたのに、のたりと上体を起こしたデービーの目は血走っている。
「……違う…。
わたし達…いや、わたしはお前に…お前達等に馬鹿にされるような存在ではないッ……!!
平民なんて惨めに地面を這いまわるだけのくせに、貴族であるわたしの前に立つなぁぁ!!!」
デービーは立ち上がると、すぐさま手に魔力を集め、幾つもの火球を作り出し、闇雲にフィーとセルに打ち込む。
フィーやセルからみると、大した威力もない、へなちょこな火球が幾つ撃ち込まれようと問題にならないが、生徒達からするとそうではない。
訓練場と観覧席との間には障壁魔法が置かれていて、実際に生徒達の身が危険な訳ではない。
セルが管理すると言っていたし、万が一にも破られると言う事はない。
しかし、一応平穏を保っているボーカイネン王国で、魔法士や魔法騎士でもない限り、こんな状況を目にする事はなく、生徒体が怯えてしまうのも無理はなかった。
フィーは右手の指先に圧縮した魔力塊を保持したまま、左手をさっと一薙ぎする。
途端にかなりの速度で接近していた火球は、全て掻き消えた。
それはもう、あっけなく……術者のデービーもポカンと呆けてしまう程……例えるなら、儚虹玉が割れ消える様にも似ていた。
「大人しく、打ちのめされたままでいれば良いものを…」
フィーが溜息交じりに愚痴る。
不穏なものを感じたのか、セルが少し目を見開いた。
「フィー……いや、もう彼の魔法力の底は見えたし、何もせずとも…」
大人な対応で済ませようとしているセルを振り返り、フィーは淡々と話す。
「手を振り上げたという事は、手を振り上げられる覚悟もあると言う事ではありませんか?
彼だって、まさか反撃される事はないなんて、甘っちょろい考えで仕掛けた訳ではないでしょう。
そんな夢の世界の住人の様な、阿呆だとは思いたくありませんし…。
ならば、反撃と言う名の御相手をする事は、最低限の礼儀だと思うのですが?」
いけしゃぁしゃぁと言い放つフィーの言葉に、セルも苦笑いしかない。
フィーの声が聞こえたのか、呆けていたデービーが、今にも卒倒するんじゃないかと心配になるくらいに顔を赤くして、懲りずに火球を作り出しては投げてくる。
ザリ…と、フィーが地面を踏みしめながら、一歩進み出た。
「密度はスカスカ、投速も遅い。
それでは足止めにもなりませんよ?
よく3年に至るまで、落第点にならなかったものですね。
とてもではありませんが、合格点には程遠い…。
前任の魔法…講師ではなく教師なのでしょうか? 調べておくとしましょう。
あまりにお粗末です。
では、そろそろ私の方から…宜しいですか?」
フィーが無表情のまま声に出すが、言い終るや否や、デービー達の視界からフィーの姿が消えた。
セルも目を瞠って固まっている。
「何処を見ています?
上ですよ?」
右の指先に圧縮したままの魔法塊を、まるで剣のように細長く引き伸ばし、それを構えた状態で、デービーの脳天を狙う。
「うぁ、あああぁぁぁ!!!」
根性だけは及第点だろうか…。
コントロールも何もないが、デービーはそれでも火球を繰り出し続ける。
フィーも本気で貫くつもりはなく、寸止めする気ではあったのだが…魔力塊の剣を構え、いざ下降に転じて直ぐ、矢継ぎ早に投げ出されていた火球がピタリと止んだ。
魔力塊剣の切っ先が、まだそれほど迫ってもいないのに、デービーは上を見上げたまま微動だにしなくなっていた。
スッと、音もなく地面に降り立ったフィーが、近付いて確認する。
デービーは、立ったまま白目を剥いて泡を噴いていた。
これぞ立ち往生と言う奴だろう……初めて見たフィーは、思わず感動していた。
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