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過日、拘束された記憶は…。
『接近戦だったから、不意を突かれたから…』等と都合の良い理由付けでもして、怖気を抑え込んでいるのだろう。
踏ん反り返って腕組みをしているくらいだ。
しかし声には若干の震えが残っていて、自分の勝利を疑わないように必死に取り繕っているのが、アリアリと見て取れた。
だがまぁ、デービーが内心怯えていようが何だろうが、どうでも良い。
少なくとも彼から言い出した結果が今なのだ。
「では始めるとしようか。
待機席の障壁は、私が管理するから気にしなくて良いよ」
セルがフィーを見てそう言うと、更に付け加えた。
「ただ……念の為にもう一度言うけど、ほどほどに……ね?
間違っても息の根を止める様な事だけは、避けてくれると助かるよ」
デービーがセルの言葉に激高する。
顔を真っ赤にして、ブルブルと戦慄きながら怒号をあげた。
「大概にしろよ!
わたしに対する無礼、その命を以て贖え!!」
やや肩を落として身構えたデービーの手の中に、魔力が急激に集められる。
開始の合図を待つ事なく、済し崩しに対戦の幕は切って落とされた。
待機席に座って開始を待っていた生徒達も、一斉に蒼褪め、ある者は仰け反って腰を浮かし、ある者は頭を抱えて悲鳴を上げた。
「うわっ!」
「ちょ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!}
間髪入れずにデービーが、炎を纏い圧縮された魔力塊を、フィーとセル目掛けて投げつける。
誰もが息を呑んで身を屈めている中、待機席…もう観客席と言っても良いだろう場所で、周囲より比較的落ち着いて観覧していたケルナーは見てしまった。
……フィーと講師が半眼になって、一瞬呆れたような顔になったのを…。
「燃えろ!!
本当はわたしが殿下の魔法護衛になるはずだったんだ!
それをケルナーがッ!!!
ハハ!!! お前等なんか燃えてしまえ!!!」
何だか色々と漏れているデービーに、思わず憐憫の視線を向けるが、とりあえず間近に迫る魔力塊を処理しなければならない。
……正直に言うと、処理しなくても問題ないのだが、これは今後フィーが侮られない為の、必要なパフォーマンスだ。
まだ開始合図前だったので、セルが処理しようと手を伸ばすが、それに先んじてフィーがあっさりと魔力塊を捕らえ、更に握り潰してしまう。
「「「………………」」」
場内が一瞬、耳に痛い程の静寂に包まれる。
誰が想像出来ただろう…片手で勢いよく飛んでくる魔力塊を受け止め、そのまま消し去ってしまうなんて…。
セルでさえ、その表情に微かな驚愕を滲ませていた。
「………ぇ…」
「……う、そ…」
静寂の後、色々な感情が生徒達の口から洩れ、騒つきだす。
「信じられない……」
「嘘でしょう!?
だってあの人…平民、だって……」
「あんなの、俺だって無理だよ!!」
デービーも驚愕に目を見開いたまま、石化している。
そんな状況をまるっと無視して、フィーが一歩進み出た。
「なっていません。
なんですか、この貧弱な魔力は……。
良いですか?
魔力塊と言うのは、最低限、この程度まで圧縮したモノを言います」
淡々と言いながら、フィーはだらりと下ろした右手の指先に魔力を集め始める。
ゆっくりと右手を肘から上げて、指先が丁度顔の横に来た時、フィーは呆れを滲ませた表情で薄く笑った。
途端にフィーの指先の魔力塊に、ゴゥッと音を立てて、周囲の空気が引き寄せられる。
まるで台風だ。
観客席の生徒達は、さっきとは別の意味で身を縮めて防御態勢をとっている。
「……ん~…学院の建造物は少々強度が足りないようですね。
セ……ブ先生、見直しが必要ではないでしょうか?」
ガタガタと揺れる訓練場内を見回し、平常運転で問うフィーに、セルは苦笑を浮かべた。
「まぁ、そうだね…。
でも生徒達がそこまで出来るとは思えないから、大丈夫じゃない?」
セルの髪が台風の如き風で舞い上がっているが、彼も至って落ち着いている。
しかし、デービーの方はそうはいかない。
あまりの光景に腰が抜け、地面にへたり込んでいるが、強烈な風に怯えて、とうとう地面に平伏してしまった。
最早戦意は欠片も残っていないように見える。
観客席では、一人落ち着いていたケルナーが、場内のフィーと講師の和やかな様子に、ムッと口を歪めていた。
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