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ふらりとドニカの身体が傾ぐ。
咄嗟にフィーの手が伸びた。
とは言え、ドニカの方がフィーより身体が大きいせいで、腕を掴んだものの、そのまま引っ張られる。
必死に踏ん張って、廊下の両脇に設置されている円柱の飾りに、ドニカが後頭部を打ち付けない様にと抱え込んだ。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
突然響き渡った悲鳴に、フィーは勿論、動けなかったアンネッタも声の方へ顔を向ける。
校舎内へ通じる扉は、生徒達が次々やってくるこの時間でも、開きっ放しにされる事はないし、フィーとアンネッタもしっかりと閉じた筈だ。
にも拘らず、外へ通じる扉は大きく開かれ、あろう事かナホミが校舎内に足を踏み入れていた。
想定外も甚だしい現状に、フィーもアンネッタも固まっていると、ナホミが騒ぎ出す。
「何があったんです!?
なんでこんな状況になってるんですか!?
貴方達、何かしたんでしょう!?」
不自然な程、大声で騒ぐナホミだが、彼女の言葉の中に、ドニカを心配したり気遣ったりする言葉はない。
ただの一言も……。
仕える令嬢に駆け寄るでもなく、只管フィーとアンネッタと糾弾するばかりだ。
「どう言う事か説明してください!
ここじゃ無理だって言うんなら、他の場所でも良いですよ?
さぁほら、早く!
何とか言ってくださいってば!!」
ドニカが気絶したのは、確かにフィーに対する恐怖心なんかで、脳がパニックを起こした事が原因かもしれない。
だからと言って、ドニカを心配しないナホミの態度は異常だ。
「あ、なんでしたらそっちの御令嬢には兄君もいらっしゃいましたよね?
兄君様にも聞いて頂きましょうよ? ね?」
なるほど……と、フィーの中で繋がった気がする。
以前も自作自演覡、そして今…。
ナホミの狙いはアンネッタであり公爵家、そしてケルナーと言った所か…。
しかし『何故』には、どうしたって行き当たる。
高位貴族と縁を持ちたがるのは理解出来る。
フィー自身、引き取られたのが偶々公爵家だったと言うだけで、もし貧乏な家だったら、金策に必死になっていたかもしれない。
例えば人脈を作るとか……。
だが、今のやり方では……決してナホミが好意的に受け止められる事はない。
反感に反発、嫌悪……抱かれるとしても、そう言った感情の方だと思われる。
とは言え、今は先にやる事があった。
「貴方こそ、何方様でしょう?」
フィーはあの自作自演覡の時に、彼女の名を聞いていない。
色々と気になって、フィーが調べた事で一方的に知っているだけだ。
当然だがフィーも名乗っていない。
ナホミは途端に眉間に皺を作った。
「誰って……。
前に会った事があったでしょ?
あの時のメイドよね?」
それ自体は事実だ。
別に誤魔化す必要もない。
「そうですね。
ですが貴方の名を聞いた覚えはありませんし、私も名乗った記憶はありません」
グッと苦虫を噛み潰したように、ナホミが顔を顰めた。
「そ、そうだったっかしら……それなら、ごめんなさい。
あたしはナホミ。
ナホミ・バナカって言います。
貴方が抱え込んでる女子生徒のメイドよ」
フィーは、さっきドニカが後頭部を打ち付けそうになった円柱の飾りを、ちらりと見遣ってから、ナホミに視線を戻す。
「そうですか。
なら、まず校舎内から出なさい。
仕える令嬢を心配するでもなく、貴方は何の為に校舎内へ立ち入ったのです?
彼女を心配するなら目溢しも考えましたが、そうではなさそうですね」
フィーは呆れたとでも言いたげに、大仰に溜息を吐いて見せた。
「校舎内に使用人が立ち入る事は許可されていません。
早々に出なさい」
双眸を細めて、フィーが毅然と言い放つ。
しかしナホミの方は引き下がらない。
「え?
だって貴方もメイドじゃない。
仕える家の爵位で贔屓されてるって言うの!?
そんなの横暴よ!……あとで学院に抗議をいれてやるわ」
捨て台詞のつもりだったのか、ナホミはドニカを心配する素振りもないまま、ぷりぷりと怒って外へ出て行った。
後に残されたのは、フィーと、フィーが抱え込んだまま意識を失っているドニカ、そして表情を曇らせたアンネッタ。
「……フィー…」
困惑を滲ませたアンネッタの声に、フィーは今一度、自分が身に纏う紺色の上着と、廊下の両脇に整然と幾つも設置された円柱飾りを見てから、振り返って微笑む。
ドニカを抱えたままなので、首を巡らせる事しか出来なかったのだ。
「御安心を。
何か仕掛けてくるようなら、叩きのめすまでです」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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